日常58 理事長との面会。蛙の子は蛙を体現したかのような親子
「こちらです」
「ほほう、こんな場所があったのか」
「まあ、普通はここには来ませんからね」
学園に到着後、儂、瑞姫、結衣姉の三人は、学園長のさらに奥にある、理事長室の前に来ていた。
儂らが面会するにあたり、学園長は職員室に移動したとのこと。
なぜ。
「では、入りましょう」
コンコン。
『はい』
「お母様、わたしです。大丈夫でしょうか?」
『ああ、構わないよ』
「では、失礼します」
ガチャリと扉を開け、理事長へ入ると、やけに立派な机と革張りの椅子が部屋の奥にあり、その椅子には一人の女性が座っていた。
「よく来たね、瑞姫。それに……そちらの女性が桜小路の娘さん――結衣さんかな?」
「はい、お久しぶりです、京花さん~」
「あぁ、久しぶり。随分と大きくなったものだ」
「うふふ、これでも成長しましたからね~」
たゆん、と結衣姉が胸を張ると、その動きと連動して胸が大きく揺れる。
本当に、随分とでかくなったものじゃな、マジで。
しかし……ふむ。何と言うか、カッコいい、と評するのがピッタリな母親じゃな。
瑞姫は大和撫子、という言葉が似合う容姿じゃが、瑞姫の母親は何と言うか……イケメン。
やや切れ長の目をしており、凛々しく感じる。
髪は長いようじゃが、仕事をしやすくするためなのか、後ろで簡単に結わえてあるな。
服装は、男物の黒いスーツに、同じく黒いネクタイ。
普通であればそこまで似合わなそうなのじゃが、瑞姫の母親は何と言うか、雰囲気が凛々しく、知的な美人に見える。
いや、男装の麗人の方が似合うかの?
無駄にカッコいい。
……が、やはりそこは瑞姫の母親と言うべきか、胸がでかい。
なるほど、母親似なのか、あの胸は。
「そうかそうか。……それで、そっちの小さな女の子が?」
「はい、お嫁さんのまひろちゃんです」
「ふむふむ……話には聞いているよ、桜花まひろ君。君はたしか、常に無気力ながらも、やる時はやるタイプであり、世話焼きな性格だと」
「いや、儂の場合は無気力と言うか、単純に寝ていたいだけなのじゃが」
「それを無気力と言うと思うが……まあ、君がそう言うのならばそうなのだろう」
ふっと笑むと、なんかドキッとしてしまいそうになる。
イケメン女子……あ、いや、年齢的には女子ではないか。
しかし、一体いくつなのじゃ?
かなり若々しく見える……というか、実際二十代前半にしか見えないのじゃが。
これで二児の母とか、おかしくね?
「さて、アタシの所に来たのは、結衣さんの就職、でいいんだよな?」
「はい。大丈夫でしょうか?」
「ま、問題はないさ。アタシが経営しているわけだし、他の職員たちに文句は言わさないよ。まあ、うちの職員は気のいい者たちばかりだし、結衣さんは美人だから問題ないと思うよ」
「ありがとうございます~」
「繫晴の親友の娘の頼み、ひいてはアタシの娘である瑞姫と、その嫁であるまひろ君の頼みとあれば、叶えないわけにはいかないからね」
……あ、あれ? なんか、普通、じゃないか?
瑞姫の父親と瑞姫自身はロリコンなんじゃが、母親の方は普通にしか見えぬ。
これはあれか? やはり、瑞姫は圧倒的父親似なのじゃろうか?
「それで、免許は?」
「英語と数学です~」
「ふむ……では、英語教師として雇おう。不足しているからな、英語教師は。それで問題ないかな?」
「はい、大丈夫ですよ~。この学園で働けるだけで十分ですので~。精一杯、働かせてもらいますね~」
「あぁ、頼むよ。……さて、まひろ君」
あ、なんかこっちに話しかけて来た。
「うむ、なんじゃろうか」
「娘を頼むよ。見ての通り、目に入れても痛くない娘ではあるが、たまに暴走するからね。面倒になる時もあるかもしれないが、仲良くしてやって欲しい」
「……(涙)」
「え、なんで泣いてるのですか!?」
「い、いや……瑞姫ファミリーに、こんな常識人がいたんだなとわかって、つい涙が……そうか……変態は、瑞姫と瑞姫の父だけなのか……そうかそうか……」
「……まひろちゃんって、本当にわたしのこと好きなのですか?」
少し拗ねながら、儂にそう尋ねてくる。
そんなもん、
「好きじゃ(迫真)」
それ以外あるまい。
「そ、そうですか……えへへ」
……そう言う反応だけならば、可愛いのじゃが……。
夜とかあれじゃからな。
「どうやら、アタシが言わなくても問題は無かったようだ。ともあれ、今後とも、よろしく頼むよ」
「うむ」
まあ、よろしく頼まれるのはどちらかと言えば、瑞姫の方だとは思うのじゃがな。
何せ儂、嫁扱いじゃから。
……そこに対して、あまり違和感がなくなったのが何とも言えぬのう……。
「返事が聞けて嬉しいよ。……さて、アタシは少し瑞姫と話すことがある。結衣さんはこの書類を持って、学園長の所へ行ってくれ。職員室にいるはずだから」
「わかりました~」
「まひろ君は……クラスへ戻るといい。授業の途中で行くのが恥ずかしいのならば、今の授業が終わるまで、適当にふらふらしていてもいいから」
「それ、学園で一番偉い者が言うことではない気がするのじゃが」
「ハハ、別にいいんだよ。トップであるアタシがいいと言えば、いいんだ」
「そう言うものか」
「そう言うものだ」
「……ま、それは儂としてもありがたい。どれ、屋上で日向ぼっこでもしてるかのう」
今日は快晴で、尚且つ気温もちょうどいい。
ならば、屋上で日向ぼっこは最高じゃろう。
しかも、それが理事長公認で、授業をサボれる、と言うのもポイントが高い。
「では、儂はそろそろ行くぞ」
「私も失礼しますね~」
「あぁ、それぞれ頑張ってくれ」
「うむ」
「は~い~」
理事長との邂逅は割と緩やかに終わった。
さて、まひろたちがいなくなった理事長室では。
「……行ったか?」
「はい、行きましたよ、お母様」
神妙な面持ちだった、瑞姫の母――京花は、瑞姫に二人がいなくなったかどうかを確認する。
それに対し、瑞姫がいなくなったことを告げると、神妙な面持ちからは一転。
「はぁぁ~~~~~~~~~! 何あれ何あれ!? 何なのあれ!?」
両手で顔を覆い、大きく体をのけぞらせると、いきなり大声でそんなことを言いだす。
瑞姫は、『やっぱり』という言葉が浮かんでいそうな苦笑いである。
「うちの学園から発症者が出たとは聞いていたし、その上瑞姫から写真で見せてもらっていたけど、あれは反則だ! 可愛い、可愛すぎるッ! 写真で見た時も可愛いとは思ったけど、リアルはダメ! 無理無理! 緩みそうになる表情を押し殺すのが本気で辛い!」
心からの叫び。
先ほどまでの、イケメンなあれはどこへ行ったのかと言わんばかりの心からの叫び。
「お母様も好きですからね、小さい女の子」
「幼女! ロリ! この二つは最高に決まっている! まさか、リアルであんな萌え萌えな幼女がいるとは思わなかったぞ!」
「萌え萌えって……今時、そう言う人はあまりいないと思うのですが。第一、古いと思いますし」
「関係ない。可愛さを表現するための言葉に、古いも新しいもないに決まっている。自分の思う通りの表現で表すことさえできれば、それで十分だ。そうだろう? 娘よ」
「そうですね。幼く可愛らしい女の子は、正義です」
「わかっているじゃないか、娘」
この娘にして、この親あり、と言う言葉がピッタリな会話である。
あと、決め顔で言うことでもない。
「しかも、のじゃろり! 狙いすましたかのような属性を持っているとか、まひろ君ヤバくないか?」
「そうですね。まさか、現実にお爺さん口調の高校生がいるとは思いませんでしたし、そのような方が『TSF症候群』を発症させ、可愛らしい女の子になるとは思いませんでしたよ、わたしも」
「だよなだよな!? アタシ、この学園を経営し始めてから十年以上は経つが、あそこまで可愛らしい生徒に会ったことはない! 可愛すぎて、アタシの心臓消し飛ぶかと思ったぞ!」
「お母様は、人前だと完璧ですが、こうして家族だけになると、本性を現しますよね」
「隠す必要がないからな」
キリッとした表情を浮かべる京花。
ロリコンの親はロリコン。
しかも、よりにもよって、父親と母親共にロリコンだった。
瑞姫はその二人の血筋を引いたハイブリットとも言えるが……実際本当に酷い。
「それで、瑞姫」
「はい、なんですか?」
「……写真とかないのか!? あと、恥ずかしい写真とか、お風呂の写真とか、素晴らしくエロい写真とか!」
「お母様って、こういう時の反応、思春期の男子高校生のそれですよね?」
「アタシはそれ以上だ」
「自分で言いますかー……」
同じロリコンの変態だと言うのに、瑞姫は呆れる。
お前が呆れるなよ、とまひろが見ていた場合、そう言うことだろう。
「だって、あんなに可愛い女の子のエッチな写真とか、欲しくない!?」
「それは欲しいですね」
即答である。
もっとも、欲しいという以前に瑞姫はその辺りの写真をすでに所持していたりするのだが。
「瑞姫が羨ましい……! あんなに可愛らしい女の子と結婚できたとか……」
「ふふふ、おかげで毎日が幸せですよ、お母様」
「……くっ、何と言う幸せそうな表情。まあ、瑞姫が結婚したことにより、一応は義理の娘になったわけだし、別にいいか……」
「そうですよ、お母様。会いたくなったら、今のわたしたちのお家に来れば会えますし」
「それもそうか! ……ま、アタシは仕事で忙しいから、早々会いに行くことはできないだろうがね」
「お母様、このお仕事だけじゃなくて、お父様のお仕事もお手伝いしていますからね」
「おかげで、休む暇がなくてね。……だが! 先ほどのまひろ君を見て、気力やら活力なんかが快復し、今なら何でもできそうな気さえする! いや、絶対できる! 可愛いは原動力だからな!」
「その調子ですよ、お母様」
なんとも酷い会話である。
これが、大企業のトップの妻と娘の会話。
どこを探しても、幼女の話で盛り上がれるのなんて、世界広しと言えども、この二人だけなことだろう。
「それにしても……あぁぁぁぁぁ~~~~~~~! あんなに可愛い女の子が身内とか、幸せ! それ以外なし! このアタシの体の内側から溢れ出る、抱きしめたい、可愛がりたい、と言う欲求を止めるのも一苦労だな! 正直、さっきなんてその衝動を抑えるのに、血が出るまで太腿を抓っていたからね。おかげで……見てくれ、このズボンを。血が滲んでしまっている」
そう言って立ち上がる京花のズボンの右太ももには、たしかに赤黒くなった血が滲んでいた。というか、かなりの出血量である。
さっさと処置をした方がいいレベルだ。
「お母様、だからさっきはぷるぷると震えていたんですね」
「理想以上の幼女が現れれば、こうなることは必至。むしろ、足がもぎり取れなくてよかったと思っている」
「……カッコいい顔して言うことじゃないですよね、本当に」
「理想が目の前に出現すれば、こうなる」
「……そうですか」
普段から見てきた母親のいつもの姿に、瑞姫は呆れた表情を隠そうともしない。
同時に、京花の方も、娘にそのような表情を向けられるのは慣れているため、全く気に留めていない。
「ふぅ……自分の気持ちを吐き出す行為と言うのは大事だな。おかげで、少しはすっきりした。全体量を100だとすると、今は……そうだな。97と言ったところか」
「全然減ってないじゃないですか」
「ふっ、たったの3かと思うが、それでもアタシにとっては大きな3なんだよ。ド〇え〇んだって、ネジが一本あるかないかで、全く違う性能差を見せているだろう?」
「ロボットと一緒にしないでください。あと、それは3ではなく1なので、全然違うと思うのですけど」
説得力があるのかないのか微妙なたとえ話に、瑞姫は冷静なツッコミを返す。
普段は圧倒的ボケに回る瑞姫に
「細かいことは気にしない」
「……はぁ。お母様って、意外と大雑把ですよね、性格とか」
「ま、アタシは元々孤児出身だからな。変にポジティブなんだよ。だから、いちいち細かい事なんて気にしないし、それが図太く長く生きていくコツさ」
「いえ、お母様の場合は、そこに異常なくらいの幸運が付加されていると思うのですが」
「まあ、昔から運は良い方だからな。おかげで、繫晴に会えたし、子供を二人も授かれたし……まひろ君という、超絶可愛い幼女が義理の娘になったのだからな!」
「最後で台無しですねぇ~……」
最後の一言で台無しにするのは、遺伝なのだろうか。
結局、ロリコンの父親はロリコンだし、ロリコンの母親もロリコンだった。重度の。
どうも、九十九一です。
瑞姫の母親は、普通の性格の母親氏にしようかなー、とか思ってましたが、結局ロリコンになりました。下手したら、作中トップクラスのやべーロリコンなのでは? と思っています。瑞姫の家族で出ていないのは、兄だけとなりましたが、正直、いつ出そうか迷ってます。どうしよう。
明日も投稿出来たらします。時間はまあ、いつも言っている通りですかね。もし、調子が良かったら、朝の10時と言う場合もありますんで、ご了承ください。
では。




