日常55 過去の約束。死ぬかもしれないまひろ
翌朝。
「―――さ~い~」
……むぅ、なんじゃぁ?
なんだか、誰かに揺さぶられたり、声をかけられたりしておるような……。
……気のせいか。儂は眠い。もっと寝ていたいのじゃ。邪魔するでない……。
「――ださ~い~」
うぅぅ、誰じゃ、儂の眠りを妨げようとするのは……。
儂は起きぬ。起きぬぞぉ……。
「起きてくださ~い~」
……し、しつこい。
くそぅ、なんだか意識が戻って来たではないか。
何度も何度も揺すられ、耳元でやかましいとはいかなくとも、眠りを妨げる声が原因で、儂の意識が急速に浮上。
それと同時に、妙な寒さを感じた。
「くちゅんっ! う、うぅ、寒い……」
いくら五月近いとはいえ、朝は冷える……。
…………む? 寒い?
今の儂は兎の姿になっているはずなので、儂の体毛によりガードされているはずじゃが……って、そう言えばこの肌が感じる感触は……布団か?
兎状態では、体毛のおかげであまり布団を堪能できなかったのじゃが、今は余すことなく堪能できておる。
「……はっ!」
「あ、起きましたか~?」
「うむ。……って、しゃ、喋れてる!?」
バッ! と勢いよく上半身を起こすと、横にいた例の『ゆい』と呼ばれた女が話しかけてくる。
挨拶やらなんやらをする前に、儂は今、自分自身の口から声が出ていたことに驚く。
「?」
一方で、女の方はきょとんとハテナを浮かべておるが。
「の、のう、今は儂、声を出した、よな? な!?」
「あ、は、はい~。そうですね~。ですが、それは当たり前のことでは~?」
「普通ならそうじゃが、昨日の儂は当たり前ではなかったのじゃよ。おー、素晴らしい。自分の意思や考えを伝えられるというのは! 生まれて初めて、喋れることが素晴らしいと思ったぞ」
いやぁ、よかったよかった。
しかし、一体なぜ元の姿に戻ったのじゃろうか? そこがわからぬ。
昨夜、飯を食ってうとうとして、最終的に眠ってしまったところまでは覚えておるのじゃが……。その後に、何かあったのか? それとも、睡眠を取れば戻る、とかかのう?
うむぅ……わからぬ。
「あ、あの~」
「おっと、すまぬ。ちと、取り乱してしもうた」
「いえ、それは問題ないのだけど~……えっと、あなたはどなた~? それに、私の横で眠っていた兎ちゃんがいないのだけど~」
「あー、そのことか……。まあ、なんじゃ。突然おかしなことを言っているように思うかもしれぬが、昨日の兎は、儂なんじゃ」
「…………ふぇ?」
「じゃから、昨日の桜色でもふもふしていた兎は、儂なんじゃ」
「……」
ポカーンとした表情を浮かべられた。
……まあ、そうなるわな。
そもそも、そんな突拍子もない話をいきなり話されたところで、信用できるかどうかはまた別じゃからのう。
ふぅむ、どう証明したものか。
説明の仕方を思案していると、ポカーンとした表情から一転し、女が何かを考え込み始めた。
と思ったら、恐る恐ると言ったような表情に変化。
む? なんじゃ、随分ところころ表情が変わるのう。
「あ、あの~、変なことを訊いてもいいかしら~?」
「うむ、大丈夫じゃ」
「もしかしてなんだけど~……ひろ君のお知り合いとか、親戚の方なのかな~?」
などと、そのようなことを尋ねて来た。
……ひろ君? その呼び方をする人間は一人しかおらぬ。
「……そう言うおぬしは、結衣姉、か?」
「その呼び方……もしかして、ひろ君なの~!?」
「うむ。どうやら、本当に結衣姉のようじゃな。久し振りじゃな、結衣姉。最後に会ったのが、儂が小四の時か。随分と、綺麗になったのう」
「そう言うひろ君は、随分と可愛らしくなったわね~」
「いや、それで済まされるような姿ではない気がするのじゃが」
どうにも、儂の身内の大半は、この姿を見ても本当に簡単な言葉で済ませるのう。
あっさりしすぎではなかろうか。
「しかし、よく儂とわかったな。しかも、さほど話したわけでもあるまいに。というか、儂が兎だったというカミングアウトをした直後に特定するとか、どうかしておるぞ」
「うふふ~。その話し方と仕草がね~。でも、お姉ちゃんびっくり~。まさか、可愛かったひろ君が、こんなに可愛らしい女の子になっちゃうなんて~。もしかして『TSF症候群』なのかしら~?」
「うむ。三月の下旬にこうなってな。それ以降、この姿で生活しておる」
「じゃあ、昨日の兎ちゃんの姿も~……」
「あれも能力じゃな。もっとも、あれは自ら望んでなった姿、と言うわけではなく、ちょっとしたデメリットが発生した結果なんじゃが……」
まさか、本物の動物になるとは思わなかったからな。
しかし、なるほど。『獣化』とはよく言ったものじゃな。
マジもんの動物になったわけじゃからのう。名前が本当にぴったりだった、というわけか。
「まあよいか。しかし、一体い――ひくちっ! うぅ、ちと、寒いのう……」
「あ、いけないわ~。裸だと風邪を引いちゃうわね~。ちょっと待ってね~」
そう言うと、結衣姉は立ち上がって近くの箪笥を開くと、その中からパンツを一枚と、一着のワンピースを取り出し、こちらに戻って来た。
「はい、とりあえず、これを着てね~」
「すまぬな。……っしょと。ふぅ」
受け取った下着とワンピースを着る。
これで、いくらかマシじゃな。
裸と言うのも、この辺考え物じゃのう。
「あらあら~、本当に可愛らしくなったわね~」
「そうか? まあ、ほれ。この病は、理想の異性になる、というものじゃからのう。当然、可愛らしい姿になるじゃろう?」
「ということは、ひろ君はロリコンさんなのかしら~?」
「儂はロリコンではない!」
くそぅ、結衣姉までもがそう言ってくるとは……。
「うふふ~」
相変わらず、ぽわぽわとした笑顔に雰囲気じゃのう……。
まあ、らしいと言えばらしいのじゃが。
「ところで、おぬしはいつ日本に帰ってきていたのじゃ?」
「つい最近かな~? 向こうの大学に留学して、そこを卒業した後はちょっとだけ向こうで働いていたから~」
「なるほど。……しかし、突然帰って来たのう」
「うふふ~。私も日本の生活が恋しくなっちゃったのよ~。白米とかお味噌汁食べたかったしね~」
「うむうむ。米と味噌汁は最高じゃからな。やはり、日本人たるもの、主食と汁は白米と味噌汁じゃ」
朝食は米派かパン派があるが、儂はもっぱら米じゃな。
やはり、米こそ至高である。
「そうね~」
「……しかし、それだけではないのではあるまいか? おぬしは、普通に名家のお嬢様じゃからのう。おぬしの父上と母上も割と過保護な方じゃったからな」
「ひろ君の言う通り、私は元々これくらいの歳で帰る予定だったわよ~」
「なんじゃ、そうだったのか。ならば、儂に手紙で伝えてくれてもよいものを……」
月一で手紙のやり取りがあったわけじゃが、先月、そんなことを書いた文はなかった。
本当の姉弟ではないものの、お互いを姉、弟のように思いながら過ごしたというのに、ちと悲しい。
「それにも理由があるのよ~。……でも、ひろ君がこの場にいるのはちょうどいいかしら~?」
「む? それはどういう意味じゃ?」
「昔の約束を果たそうと思ったからよ~」
「……約束、じゃと?」
「そうよ~。もしかして、忘れちゃったのかしら~?」
「約束……のう、それはいつ頃のことじゃ?」
たしかに、結衣姉とは何か約束をしたような気はするのじゃが、いまいち思い出せぬ。
そこそこ前のことじゃからのう。
なので、結衣姉にそれがいつのことであるかを尋ねる。
「私が留学に行く前日かしら~?」
「前日……」
となると、儂が小四の頃か。
ふぅむ……約束……約束……。
何かあったような気はするのじゃが、なかなか思い出せぬ。
一体何をしたのじゃろうか?
腕を組んでうんうん唸っていると、結衣姉が僅かに苦笑いを浮かべた。
「まあ、小さかったものね~。憶えていなくても、仕方ないわ~。とりあえず、行きましょうか~」
「う、うむ。わかった」
申し訳ないのう……。
そんなこんなで、大広間へ移動。
その途中、なぜか手を繋ぎながらの移動となったのがなんとも言えぬ。
兎の時にも思ったのじゃが、どうにも結衣姉は、あのド変態ロリコンと同類のように思えて仕方がない。
しかも繋ぎ方が、母親と娘、みたいな状況にしか見えぬ。
ふぅむ……。
『おはようございます、結衣様。……あら? そちらの子供は……』
「憶えているかはわかりませんが、この娘、ひろ君なんですよ~」
『まさか……まひろ様ですか!?』
「さ、様? なぜ、儂は様付けで呼ばれておるのじゃ?」
儂、様付けとかされておったかのう……?
『その口調……間違いありません。となると、『TSF症候群』ですか』
「みたいよ~」
口調で判断させられるとは……それでよいのか? というか、軽すぎじゃなかろうか? 口調のみを判断材料にするのは、問題があるような気がするのじゃが。
儂を騙った偽物、と言う可能性もあるわけじゃし……。
『では、朝食はまひろ様の分もご用意いたしますね』
「お願いね~」
結衣姉がそう言うと、女中さんは去って行った。
「の、のう、結衣姉よ。何故儂は、この家の者に様付けをされておるのじゃ? 儂のこの家での立場とは……?」
様付けをされるということはつまり、何かとんでもないことが儂を待ち受けているのではないか。そんな気がしてならぬ。
それを証明するかのように、儂の第六感が何らかの危険を察しているみたいじゃからな! なんか、警鐘を鳴らされている気がするからのう!
「私と同じくらいかしら~?」
「なぜに!? 儂、この家の者ではないのじゃが!?」
「今はそうですね~」
「今『は』? 『は』ってなんじゃ『は』って」
「うふふ~」
「なんか怖いんじゃが!?」
やばい。この先に行きたくなくなってきたぞ、儂。
というかこのパターン、どことなく見覚えがあると言うか……え、なんじゃこれ。まさかとは思うが、昔の約束って……いやないない。
し、しかし、儂の旦那たち四人、知らず知らずのうちにフラグが建っていたと聞く。
まさか、結衣姉もそうだと言うのか……?
なんてな。はは、さすがにないじゃろ。
結衣姉と言えば、昔から謎の母性がある存在で、尚且つ、儂のことは弟のようにしか思っていなかったからのう。いや、弟と言うより、子供? まあよいか。
そんな相手が、いつものあのパターンをしてくるとは思えぬ。
ちと怖くはあるが、ま、大丈夫じゃろ。
「この先で待っているみたいよ~」
「そうなのか。……誰が?」
「私の、お父さんとお母さんね~」
「ほほう。そう言えば、久しぶりじゃのう。それも、小四の時が最後じゃったしな。しかし、いつ儂のことを?」
「ついさっき、ひろ君の着替えを渡すときにメールしておいたのよ~」
「なるほど。あの一瞬でか」
文字を打つ速度が速いのじゃろうか?
「お父さん、お母さん、入っても大丈夫~?」
『あぁ、大丈夫だ』
『どうぞ』
「だそうよ~。じゃあ、入りましょ~」
「うむ」
……微笑みながら言うのはいいんじゃが、手を繋いだまま入るのか?
しかも、なんか離す気なさそうなんじゃが。
手を繋ぐのが好きなのかの?
「来たか。……って、おや? そちらの少女は……」
「まひろさんが来ると聞いていたけど、どういうこと?」
広間の奥には、結衣姉の父上と母上が座って待っておった。
父上の方は、優男と言えばよいのか。顔立ちは整っており、無害そうな顔で、甚平を着ておる。
母上の方は、髪をアップにまとめた、綺麗な女性じゃ。あれかの。和風美人というタイプじゃな。
この二人の名前は、苗字が桜小路で、父が冬治、母が小百合と言う。
ふむ……しかしこの二人、以前とあまり姿が変わらんのう。
強いて言えば、少しだけ歳を取ったように見えるが、それでもあまり以前と遜色無い気がする。
そういう体質なのかの?
そんな二人は、事前に儂が来ると伝えられていたものの、来たのが自身の娘と、その娘と手を繋いでいる幼女であることに、驚きを隠しきれていない様子。
まあ、そうなるじゃろうな。
「それについては、この娘から~」
いや、儂に丸投げなんかい。
別に構わぬが。
「あー、お久しぶりじゃ。桜花まひろです」
いかん。久々だから、どう話せばいいかわからなくて、いつもの口調と敬語が同時に来てしもうた。
「……うん?」
「あら?」
「二人とも、驚く気持ちはわかるけど、この娘は正真正銘、桜花まひろ君だよ~」
・・・←こんなのが空間に見えた気がした。
そして、
「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」」
ものすごく、驚かれた。
「はー、なるほど……。あのまひろ君が……。そうかそうか、なかなか大変だったようだね」
「いやなに、慣れればこの姿の方が楽だったりするのでな。と言っても、全部が全部、そうもいかんがな。まあ、睡眠時はこの姿の方が圧倒的じゃのう」
「ふふふ、相も変わらず、眠ることが大好きなようですね」
「そりゃ、儂じゃからな」
最初こそ驚かれたものの、この姿になった経緯を二人話すと、意外とあっさり受け入れてくれた。
そう言えば、こんなんじゃったな。
ちなみに、儂が普通にいつも通りの口調で話しているのは、二人がそれを許しておるからな。敬語は肩が凝っていかん。
「しかし、そうか。少女になってしまったのだな」
「まあのう。……ところで、なぜそんなに残念そうな表情をしておるのじゃ?」
「ははは、結衣の昔の約束というか、僕たちにお願い事をしてきたことが、ね」
またじゃ。また約束じゃ。
本当に過去の儂、結衣姉とどのような約束を交わしたのじゃろうか。
「でもたしか、『TSF症候群』の方は、男女どちらとも可能だったはず。あなた」
「おっと、そうだったな。結衣、それでもいいのかい?」
「問題ないわ~」
「そうかそうか。では、そう言うことにしよう」
「よかったわね、結衣」
「はい~!」
……なんか、儂の目の前で、何かとんでもないことを決定されたような気がするのじゃが……どういうことじゃ?
「す、すまぬ。話が見えぬのじゃが……」
「うん? もしやまひろ君、君は憶えていないのかな?」
「何が……?」
「結衣との約束さ」
「いや、何らかの約束をしたことは憶えているんじゃが……その内容が思い出せなくてのう……」
はて、どのような約束事じゃったか……。
うむぅ……。
「なるほど、そうでしたか。では、単刀直入に言いますね」
「う、うむ」
なんじゃ、急に佇まいを直しだしたんじゃが。
これはあれか。真面目な雰囲気か。
…………しかし、心の底から嫌な予感。
「結婚の約束です」
「………………Oh、Jesus……」
嫌な予感、的中。
というか、儂の嫌なことに対する予感の的中率、今のとこ100%なんでじゃがそれは。
ふ、ふふふ……儂、何しとんの……?
「ちなみに、結婚の約束を持ちかけたのは結衣の方なんだけどね」
「そうなのか!?」
「そうねぇ。たしか、『ひろ君とお別れするのは寂しいわ~……。だから、ひろ君が大きくなったら、私と結婚して欲しいな~』って言ったのよね」
よかった! 儂からじゃなかった!
これでもし、儂の方から言っておったら、確実に責任を取らされる羽目になっていたな!
これならば、まだ逃げる余地が――
「それにひろ君が『む? 結衣姉の気持ちがそのままで、儂の年齢が結婚できるくらいになったらよいぞ』って言ったのよね~」
……儂、逃げられないじゃん。
それダメじゃん。と言うかなんで儂、そんな大事なことを忘れとったの?
「というわけだ。僕としても、できれば結衣はまひろ君に貰って欲しいのだ。どこの馬の骨とも知らない男に渡すのは、無理。その点、君の性格はよく知っている。何せ……張り込ませていたからね」
「………………の、のう、冬治殿」
「何かな?」
「儂の聞き間違いでなければ今、張り込ませていた、とか言わんかったか……?」
「言ったね」
「……本気で?」
「本気よ。たしか、定期的に確認していて、去年の三月頭までで十分なデータが取れたから、こうして踏み切ったの。特に問題を起こすこともなく、誰にでも平等に接していたのが一番の好印象、と言ったところね」
どうやら、ギリギリで今の儂の生活は見られなかったらしい。
そこはよかったと言えるのじゃが……これ、言わなければとんでもないことになるのでは?
と言うか儂、何をさらっとラブコメ主人公バリの約束をしとんのじゃ。
普通、こんな約束しないじゃろ。
……そして、今ふと思った。約束内容を言い出したのが結衣姉の方からと言うのはまだいいのじゃが……当時を考えると、そこそこやばくなかろうか。
約束をしたのは、結衣姉が海外に行く前日。
であれば当時の年齢はと言うと……儂、十歳。結衣姉、十五歳となる。
……事案じゃね?
中学生と小学生って、結構まずくね?
というか、
「普通……そう言う約束って、こう、同じくらいの歳の人がするような気がするのじゃが……」
儂が高三の時でも、結衣姉二十三歳なんですがそれは。
その状態で付き合うって、一応犯罪になりかねないような……。
「元々、結衣は年下が好みだったらしいからなぁ」
「それと、どちらかと言えば、あまり背は高くない人が好みでもありましたし」
ちょっと待て。なんじゃその情報。
年下が好みで? 背は高くない人が好み。
…………え、じゃあ何か? 中三の時点でこやつ、小四の儂に好意を持っていたということか? 恋愛感情の?
………………同類!
「待て待て待て! 儂今高校二年生じゃぞ!? さすがに、大人と付き合うのは色々とまずい気がするのじゃが!」
「では、まひろ君は結衣が嫌いだと言うのかね?」
「そんなことはないな。そりゃ、昔とは言え、約束をするくらいじゃし、嫌いなわけがない。どちらかと言えば、好きな方ではあると思うぞ」
……儂、正直すぎない?
く、くそぅ。
どうにもこう、ある程度の交流があったり、そこそこの好意があるとそう言う質問で嘘を吐けぬ。
そもそも、今の質問で『嫌い』と堂々と言えるのは普通にヤバいと思うが。
「なら問題ないわね! それに、今のまひろ君なら、結婚年齢が十六歳になっていることですし、ぱぱっと済ませちゃいましょう」
「待て待て待て待て! え、何? 今するの!?」
「そうよ?」
それが何か問題ある? みたいな顔で言われても!
冬治殿を見ると、なんかものすごい嬉しそうな表情なんじゃが!
結衣姉は……
「うふふ~」
やばい! なんかすっごい幸せそう!
うぐぐ……どうする。すでに旦那(四人)がいることを伝えにくい雰囲気に……! こやつら、儂と結衣姉を結婚させる気満々なんじゃが!
し、しかし、ここで言わなければ、確実に修羅場ルート突入が決まってしまう!
それは何としても、回避せねば!
「す、すまぬ。一つ、大事なことを言わなければならないのじゃが……」
「うん? 何かな? もしかして、女同士だから子供ができない、ということかな?」
「いや、それは下手したら解決しそうではある……って、そうではなく!」
あ、危な! 今危うく、あれの存在を言うところだった!
……そう言えばあの薬、いつ届くのかの?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「その、じゃな。実は儂……すでに、旦那という名目の嫁が四人おってな……」
「「「四人!?」」」
「うむ、四人……」
さっきまでの幸せそうな雰囲気はいずこへ、と言わんばかりに驚かれた。
そりゃ驚くわい。
と、同時に、
「そうなのか……」
「うむぅ、心苦しくはあるのじゃが、この件は――」
なかったことに、とものすごく痛む良心を無視し、そう言おうとした直後のことじゃった。
「――断る必要はありませんよ、まひろちゃん」
不意に、ド変態ロリコンの声が聞こえた気がした。
途端に噴きだす冷や汗。
……がくぶる。
「今の声は?」
『と、冬治様、小百合様! お客様が――』
「客? 一体誰が来たんだい?」
『そ、それが……』
駆け込んできた女中さんが、焦ったような表情で告げようとする前に、この広間に入ってくるものがいた。
「おはようございます、桜小路家の皆様。そして……お迎えに来ましたよ、まひろちゃん?」
そこには、にっこりとした笑顔の裏に謎の威圧感を込めて告げる、瑞姫の姿があった。
先ほどの声は、一体どこから発されたのかはさておき……やばい、儂、死ぬかも。
儂、人生最大のピンチかもしれぬ。
どうも、九十九一です。
ものすごくとんでもないことになっていますが、私もなぜこうなったのか不明です。何がしたいんだ、私は。いやぁ……うん。展開はっやい。昔に戻った気分です。
まあ、それはさておき、一応活動報告にも書いたのですが、この作品の18禁版を書くことにしました。あ、間違っても、この作品全話をそれ仕様に書くのではなく、該当する部分を書くだけです。まあ、うん。まひろがなにされたのかを書くだけなんで、別に話に絡むことはないです。なので、こっちの更新が停止する、などと言うことはまずないので、ご安心を。細かいことは、向こうに書いてありますので、そちらを見て頂ければ幸いです。
次の投稿はいつかわかりませんがまあ、時間はいつも言っている通りですので、よろしくお願いします。
では。




