日常51 メイド。やばい人種の予感
碌でもない薬を郵送するとか言った神からの電話が終わり、喫茶室へ戻る。
四人とも、仲良さそうに茶を飲んでいるようで何より。
様子を見る限り、どうやら、話は聞かれていなかったようじゃな。
……途中、ツッコミの声量がでかくなった時もあったんで、ちと心配じゃったが……杞憂だったようで何よりじゃな。
そんな薬がバレようものならば、儂は確実に……死ぬ。
バレないようにせねばな。
そんなこんなで夜。
「あぁぁぁぁ……家事がないって……楽じゃぁ……」
ボフッ! と勢いよく顔面からベッドにダイブ。
そのまま全身をだらんと弛緩させて、そう呟く。
つい先ほどまで、夕飯だったのじゃが……これが最高じゃった。
まず、儂が用意する必要がない、という時点で素晴らしい。
瑞姫と結婚したことで、まさかの屋敷生活となったが……少なくとも、その初日だけで相当な恩恵を受けておる。
炊事洗濯掃除、全てにおいてメイドがしてくれる、という状況。
基本、だらだらと過ごすことに全力を注ぐ儂じゃ。このような生活、嫌なわけがないというもの。
あと、料理が美味かった。
料理人を雇った……と言うわけではなく、こちらもメイドがしているそうじゃ。
なんでも、過去に料理の世界大会で優勝した経験があるほどの腕前らしい。
……そんな人材、どこから持ってきたのじゃろうか。
それから、今後ここに住むことになる屋敷の主的な存在が、儂、美穂、瑞姫、アリア、ましろんの計五人となるわけじゃが、全員女である関係上、この屋敷で雇ったのはもれなく女性らしい。
一応、間違いが起こらないように、とのことらしい。
徹底しておるのう……。
まあ、儂は元男であり、内面もどちらかと言えば男である以上、男がいない、と言うわけではないような気がするのじゃがな。
と言っても、見ず知らずのメイドたちに間違いを犯すことなど、儂にはないわけじゃが。
……むしろ、儂が美穂たち旦那共の間違いに引き摺り込まれそうでな……。
あの薬、何としてでも儂が回収するとしよう。
「……しかし、このベッド、ふっかふかじゃな……。マジで気持ちいい」
この材質、あのリムジンのソファーに使われていたものに近いような気がする。じゃが、あれ以上にふっかふかで、儂の体を余すことなく包み込みおる。
なんと素晴らしいベッドじゃろうか。
一応、家から持ってくるのは、私物だけでいいと言われたので、PCやらモニターやらテレビにゲーム機、それからマンガやラノベ、時代小説などのみ。
机や椅子などに関しては、こちらで用意するとのことで『まあ、儂が使用していたものと同じタイプであればよいか』などと思っておったら、それ以上の物を用意していてなんか……笑いが出た。
ガチすぎる。
儂、ただあやつと結婚しただけでここまでされるの、なんか変な気がするのじゃが、どうなっておるのかのう?
それに、たかだか普通に暮らすだけにしては、やけにぶっ飛んだ人材を雇っておるし……何か別の理由とかあったりする、のかの?
普通に考えて、今回雇った者たちの人材費を考えただけで、とんでもない大金とか動いてそうじゃし。
いくら羽衣梓グループがとんでもない大企業と言っても、限度はある。
であるならば、もっとこう……ここで働くことに対し、別の価値を見出したのではないか。
「……まさか、雇われた者たち全員、ロリコンということはないよな!」
はっはっは! と自分の発現を冗談と笑い飛ばす。
たしかに、以前見た護衛がロリコンだったのは事実かもしれぬが、さすがに今回雇われたメイドたちがロリコンである可能性は低いじゃろ。どんな確率じゃ。
ない。絶対ない!
「もしそうであれば、あの羽衣梓グループ内の全ての会社の入社条件の一つはほぼ確実に『ロリコンであること』とかありそうじゃからな!」
グループのトップとその娘がロリコンである時点で、色々と大問題な気はするが、まあさすがにそこまでにはなっておらぬじゃろう。
と言うか、そうであって欲しい。
儂の周囲にロリコンはもういらん。
最悪の場合は、成長することも視野に入れねばならぬからな。
腹がものすごい空くので、極力したくはないが。
「……そう言えば、まだ風呂に入ってなかったのう」
ごろんと仰向けになり、ぼんやりと天井を見ながら呟く。
引っ越しのごたごた自体はなく、全てにおいてメイドがしてくれたものの、このバカみたいに広い屋敷の中を歩き回るのは、そこそこの運動となった。その結果、汗を掻いたというわけじゃ。
あと、今日は暖かくもあり、敷地内の庭も歩いていた、というのもあるがな。
屋敷自体もの広いのじゃが、なんか敷地も広くてな。ちょっとした庭園がある始末。どうなっとんのじゃ。
最早別世界のレベル。
これが、金持ちの世界というのか。
……なんて思ってみるが、おそらくこれは、羽衣梓グループの会長だからできることじゃろう。他の会社の社長でも、さすがにここまでは……無理な気がする。
しかも瑞姫曰く、
『このお家って、隠し部屋とか隠し機能などもあるみたいですよ』
らしい。
ただ……あれじゃな。隠し部屋とか隠し機能という素敵ワード。体は幼女になってしまったとしても、男の子的な心は失われてはおらず、この二つにはかなり興味を惹かれたな。
やはりこう、男心的には、な? 胸躍るものじゃろう。
その内、探してみようかの。
コンコン
その内屋敷の探索でもしようと思い立つと、不意に儂の部屋の扉がノックされる。
「なんじゃ?」
『まひろお嬢様、お風呂の準備が整いました』
「おぉ、風呂か。うむ、ではすぐに行くとしよう!」
『かしこまりました。では、お部屋の前で待機しておりますので、準備が出来次第お声がけください』
「了解じゃ」
ともかく、風呂じゃ風呂。
たしか、檜風呂じゃったな。
儂は和風なものを好む。当然檜風呂なんかも好きじゃな。あの檜の香りが大好きじゃ。
……まあ、この屋敷って、どちらかと言えば洋風な造りをしておるので、ミスマッチ感が半端ないと思うがな。
「いやいや、それはそれ。やはり、風呂じゃ風呂!」
楽しみじゃのう。
「ふぅぅぅ~~~……極楽じゃぁ……」
数分後、メイドに案内されてやってきた浴場にて、儂は体を湯船に沈めて口から蕩けたような声を漏らした。
「自宅がでかい檜風呂付きになるとは……」
正確に言えば、儂の自宅は父上と母上が建てたの方の家ではあるがな。
しかし、一応ここの家が今日からの儂の家ともなるし、住所もここになるので、間違いではないがな。
それにしても、のんびりと体を投げだして浸かる風呂と言うのは、素晴らしいのう……。
もっとも、
『まひろお嬢様、お背中をお流しします』
『いえ、ここはまひろお嬢様の綺麗な桜色の御髪が先だと思われます』
メイドたち(まさかの裸)がいなければ、なんじゃがな。
その数、まさかの十人。
その誰もが整った容姿をしておる上に、こう……裸であるため、かなり目のやり場に困る。なにせ、生乳が十人分目の前にあるわけじゃからな。美穂たちとのあれこれと、自身の体で慣れたとはいえ、さすがに、な?
ちなみにじゃが、この屋敷に努めるメイドの数は、広さの関係上やや多い。
それ以外に専門的な分野に勤める者たちを含めると、マジで百人はいる。
アニメとかでしか見たことないのじゃが、その人数。
で、その内の一割がなぜか、儂と一緒に風呂に入ってきた。
それって、メイドとしてどうなん? と思い、それを口にしたら、
『『『メイドたるもの、常にお仕えする方の身の回りのお世話をするもの。たとえ、入浴時でもご奉仕致します』』』
とのことじゃった。
果たして、それは本心なのじゃろうか……?
「のう、今日一日思ったのじゃが……お嬢様はやめてくれ。なんかむず痒い」
メイド喫茶ではないのに、お嬢様呼び。
元々どこにでもいる庶民だっただけに、突然のお嬢様扱いにはさすがの儂でも困惑する。
あと、元男であるという関係上、普通に……違和感。
かと言って、ぼっちゃまとか呼ばれるのも変じゃし、嫌じゃがな。
『ですが……』
儂の発言に対し、メイドたちは何やら困惑した様子。
「なんと言うかじゃな、儂はそもそも金持ちではないし、出自は至って普通の庶民じゃ。そんな儂にへりくだられてものう……」
苦笑いを浮かべながらそう伝えると、メイドたちはなぜか、不思議そうに首を傾げた。
『まひろお嬢様が、庶民……?』
『もしや、あのことをお知りでない……?』
『……そうであれば、ここは黙っておきましょう』
……え、なんじゃその反応。
ものすごく気になるのじゃが。
儂、一応庶民じゃよな? 普通に、庶民じゃよな?
まさかとは思うが、ここで隠された真実! と言わんばかりの情報が出てきたりはせんよな?
「……と、ともかくじゃ。とりあえず、お嬢様はやめてほしいのじゃが」
『そうですか……』
「なぜ残念そうにする」
『いえ、まひろお嬢様の外見が、まさにお嬢様と呼ぶに相応しい容姿をなされていましたので……』
「どんな容姿じゃ」
儂って言うほどお嬢様っぽい容姿をしているかのう?
ふぅむ……わからん。
『では無難に、まひろ様、でしょうか』
「儂的には、様付けは不要ではあるのじゃが……」
『『『それは許容できません!』』』
「じゃよなぁ……」
今日一日、メイドに世話をされて思ったことと言えば、なんかこやつら、やけに儂を敬っているような気がしてならぬ。
美穂たちにも敬ってはおるが……なんか、やけに儂だけがものすごい世話をされておる。
現に、こうして風呂にまで入ってくる始末じゃからな。
「……のう。おぬしらは、あれか? お嬢様呼びが良かったりするのか?」
『『『それはもう!』』』
どんだけじゃ。
そこまでしてお嬢様呼びするメリット、なくね? 儂に。
しかし、こやつらの目は真剣……というか、狂気に似た何かが見える。
これはあれか? 主的にメイドの望むことを叶えた方がよいのか?
……まあ、別に減るものでも無し。
「仕方あるまい……。お嬢様呼びで構わん。その方が、いいんじゃろ?」
『『『ありがとうございます!』』』
喜色満面と言った様子で、喜びを露にされた。
それでよいのか。
「さて、そろそろ体を洗うとするかのう」
儂は湯船に浸かってから身体を洗う派である。
さすがに、公共の浴場であれば先に洗うが、家などではもっぱら浸かった後じゃ。
儂が身体を洗うべく湯船から立ち上がると、
『では、私たちがお背中をお流し致します』
メイドたちがそう申し出た。
「さすがにそこまでしてもらうわけには――」
『まひろお嬢様のシミ一つない素晴らしいお身体をお流ししますよ!』
『『『はいっ!』』』
ガン無視!? 断ろうとしたら、なんか勝手なことを言いだしたのじゃが!
って!
「ちょ、な、なんじゃおぬしら!? って、おい! どこを触って――ひゃんっ!」
メイドたちの手つきがなんか怪しいんじゃが!? しかも今、とんでもないところを触られたんじゃけど!?
『な、なんと可愛らしいお声……!』
『いけませんよ! この声に惑わされておそ――こほん。手を出してしまえば、メイドとしての矜持が傷つきます! あくまで、お身体を洗うだけですよ!』
『『『はい!』』』
「今とんでもないことを言いかけ――ぁんっ! ま、待て! マジで、マジでやめ――あぅっ! や、やめてっ……む、無理だから! ほ、ほんとに勘弁し――うにゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
この後、ものっそい洗われた。
同時に、気が付いたらなんか……眠ってました。
儂、一体何されたんじゃ。
どうも、九十九一です。
昨日は出せなかった。さすがに、私用が早く終わらなかったもんで……申し訳ない。
それにしても、この作品の主人公、よく襲われますね。ある意味、ピー〇姫的な属性でも兼ね備えているのかもしれませんね。
明日も多分17時か19時だと思いますので、よろしくお願いします。
では。




