日常49 引っ越し。屋敷な新居
「こちらが、わたしたちの新たなお家です!」
「「「「……」」」」
翌日。
この日は、平日なので普通に学園なのじゃが……まあ、引っ越しなどをするため、学園は欠席。と言うより、公欠みたいな扱いになった。一応家庭の事情(?)じゃからなぁ。
ちなみに、今日の分は今週の土曜日に補習をすることになっているので、実質的なことを言えば、土曜日と水曜日を入れ替えたようなものじゃ。
で、瑞姫の家の車……というかまあ、リムジンなんじゃが、朝になるとそれが儂の家の前に止まっておった。
その中にはすでに、儂以外の面子、美穂、瑞姫、アリア、ましろんの四人が乗車しており、思い思いに寛いでおった。
儂もそのリムジンに乗り込み、走り出すこと約八分。
到着した新居の前に立ち、意気揚々と紹介する瑞姫をよそに、儂らは……固まった。
新居は家……と言うより、
「これ屋敷じゃろ!?」
どっからどう見ても屋敷じゃった。
しかもバカ広い。
二次元でよく見るようなでかい屋敷で、正直五人で住むには圧倒的に広い。むしろ、広すぎる。
現実にこんなでかい屋敷があるとは思わんかったぞ儂。
「……ねえ、私の記憶が正しければ、この辺りって普通に住宅街じゃなかったかしら?」
「そうだったと思うなー……」
「……大き目の住宅街だったはず」
三人が言うように、新居が建つ土地一帯は住宅街があったはずなんじゃが……一体、どこへ消えたと言うのじゃろうか。
「……そう言えば、住所が変わった生徒がそこそこ出ていたと聞いた」
「なんじゃと? ということはまさか……。瑞姫、この辺りの住人はどこへ行ったのじゃ?」
「平和的に話し合い、快く引き払ってもらいました」
にっこりと、そう告げた。
……なるほど。金やらなんやらを用いて立ち退かせたわけか。
やり方が金持ち過ぎる。
「ちなみに、屋敷を建てるにあたって、この辺りの道路も買い取らせていただきました」
「……なんか、頭痛いんだけど」
「言うな瑞姫。儂もじゃ」
「あ、あはははー……さすがに、あたしもちょっとこれは気後れしちゃうかなぁ……今まで貧乏だったから……」
「……すごい。それしか言えない」
目の前にある屋敷を前に、儂らは苦い表情を浮かべた。
どうなっとんのじゃ、マジで。
……外観だけで終わるわけはない、ということを屋敷の中に入って身に染みて理解した。
『『『おかえりなさいませ、お嬢様方』』』
リアルメイド、いた。
「「こ、こう来たかぁ……」」
「おー、本物のメイドさんだー」
「……驚き」
儂と美穂は目の前の光景に呆れかえり、アリアは興味深そうにし、ましろんはその光景を見て僅かに驚愕が籠った表情を浮かべていた。
……メイドがいるのではないか、などと冗談半分で予想したが……マジでおったとは。
「さすがにこの大きさのお家をわたしたちで維持するのは不可能ですので、こうしてメイドの方々を雇うことになりました。と言っても、お父様が『これくらいのオプションはありだろう!』と言っていましたので、実質お父様からのプレゼントのようなものです」
「……プレゼント、やばすぎじゃね?」
そもそもの話、メイドを雇わなければ維持できないような家を建てるのではなく、ちょっと広めのごく普通の一軒家を建てればよかったと思うのは儂だけじゃろうか。
いや、絶対に美穂は思っておるはず。
「では、メイド長さん、代表して挨拶をお願いできますか?」
「かしこまりました。お初にお目にかかります、この度お嬢様方の身の回りのお世話をさせて頂くことになりました、メイド長の柊と申します。以後、お見知りおきを」
そう自己紹介したのは、二十代前半くらいに捉えることができる女性じゃった。
なんと言うか……こう、キリッとした目元が凛々しい、美人さんじゃな。
…………なんじゃろう。儂、普通にこう、ゴロゴロだらだらとした自堕落な生活がしたいだけだったのじゃが、なんか……違くね? どんどんその理想からかけ離れてね?
と言うか、家、でかいんじゃけど。セレブな家になっておるのじゃが。
……まあ、金持ちのお嬢と結婚した結果とも言えるが、だとしてもこれは……やりすぎな気がしてならぬ。
メイド……メイドかぁ……。
…………ん? メイド? それはもしや……
「の、のう、柊さんとやら」
「はい、何でしょうか、まひろ様」
さ、様付けはなんかむず痒いが……まあよい。
「これはもしや、あれか? おぬしらメイドたちがその……掃除洗濯だけでなく、炊事もしてもらえる、ということかの?」
「その通りでございます」
……ということは、
「となると、こう、休日に部屋で一日中ゴロゴロしても……?」
「はい、もちろんでございます」
にっこりと微笑みながら肯定した。
……ま、マジか!
これはあれか、夢にまで見た一日中ベッドの上生活ができるのでは!? いや、トイレは行くけども。
「もしお望みでしたら、その際はつきっきりでお世話も致しますが」
「マジで!?」
「マジでございます」
お、おぉぉ! マジでゴロゴロできると言うのか!
しかも、世話付きとな!? なんじゃその、理想的な自堕落マイライフは!
やっべ、今から休みが待ち遠しいのじゃが!
「ちなみにですが、まひろちゃんの基本的な願望は、ゴロゴロすることと自堕落な生活を送ること、ということは知っていたので、その辺りを考慮してお父様がメイドさんを雇った、と言う経緯があったりします」
「グッジョブ!」
サムズアップと共に、瑞姫のそう言うと、瑞姫の方もいつもの笑顔を浮かべながらサムズアップを返した。
「……最近こいつがツッコミばっかしてて忘れてたけど、そう言えばこいつ、本質はボケだったわー」
「儂じゃからな!」
「威張ることじゃないでしょ……」
「いいんじゃよ。元々、儂はボケじゃからな! さぁ瑞姫よ、この屋敷の中を案内してくれ!」
「了解です! では、柊さん、後はよろしくお願いします」
「はい、お任せください。では、私たちはお嬢様方の荷物をお運びしますよ」
『『『はい!』』』
お、おー、テキパキとした動きじゃ。
……リアルメイド、すごいのう。
「こちらが書斎です。基本的に、皆さんの趣味嗜好を調べ、その好みに合わせた書籍類が収められています」
最初に案内されたのは、書斎。
中は多くの本棚が立ち並んでおり、かなり広い。
しかも、地味に二階らしき場所もあるのが面白いのう。
「ということは何か? 時代小説なんかも?」
「もちろんありますよ。それだけでなく、雑誌にライトノベル、マンガ、設定資料集なども完備しています」
「……普通にすごいけど、いつ調べたのかしら」
たしかに、それは気になる。
しかしまあ、金持ちのすることなど儂ら庶民にはわからん感覚じゃからのう……。
「あ! この本、前々から読みたいと思ってたのだ! こっちにも、こっちにも! すっごーい!」
「……スティ、生き生きしてる」
ちなみに、ましろんは親しくなった相手には愛称をつける癖? があり、アリアのことはスティと呼んでおる。
なぜかは知らぬ。
ちなみに、美穂のことはみほりん、瑞姫のことはみーちゃんと呼ぶ。
たまにセンスがちと面白い。
「まあ、あやつの家庭環境を考えると、娯楽物は手に入れられなかったからな。生き生きもするじゃろうて」
ある意味、一番儂と結婚したことで恩恵を受けておる気がする。
家も貧乏から脱却できたようで何よりじゃな。
「さあ、どんどん行きましょう! まだまだありますので!」
「次はこちら、喫茶室です!」
次に案内されたのは、木製のテーブルや椅子、ソファーが部屋の中央に設置されいる部屋じゃった。
「なんじゃ喫茶室とは」
聞いたことないんじゃが。
「名前の通り、お茶をする部屋です。ちなみに、あちらに紅茶を用意する場所があり、そちらの戸棚と冷蔵庫の中にはお菓子が入っています」
「……お菓子!」
「おおぅ、ましろんが菓子に食い付いた」
お菓子があると言う説明に、ましろんが瞬時に反応。
まあ、食べることが好きじゃからな、こやつ。
しかも、こんなでかい屋敷に常備されるような菓子類となると、いい物がありそうじゃからな。尚更食い付くというもの。
「……みーちゃん、お菓子食べていいの?」
「もちろんです。遠慮なくどうぞ」
「……なら、このクッキーを一缶」
一缶は多くね?
「どうぞどうぞ。もし気に入ったお菓子があれば、そのお菓子を重点的に用意するよう伝えますので」
「……わかった。吟味しておく」
じっと獲物を狙う鷹のような目付きで戸棚と冷蔵庫を見つめるましろんじゃった。
「次はここ、トレーニングルームです」
続いて案内されたのは、縮小版ジム、みたいな場所じゃった。
「へぇ、これはいい部屋ね」
「基本的な器具を集め、その全てが最新式です。もし、ダイエットがしたい! となった場合は、こちらのお部屋で運動をすることができます」
「最近、ちょっと気になってきてたのよね。だって、まひろのご飯美味しいんだもの」
「それ、儂のせいか?」
「別に。でもあんたの料理が美味しくて、ついつい食べすぎちゃったわけだし、責任はあるわよね? お嫁さん?」
「……任せたのはおぬしらじゃろうに。……まあ、よかったではないか」
「そうね。体を動かしたくなったらここを使うわ」
一応、バランスを考えた食事にしておったんじゃがのう……。
やはり、女子は体重を気にするものなのか。
「……もぐもぐ」
ましろんだけは、その辺全然気にしてなさそうじゃな。
……そもそも、こやつが食べた分の栄養はどこへ行くのじゃろうか?
ある意味、謎。
それから、食堂やそれぞれの部屋の案内と、特に目立ったようなものは無く順調に進み、次に紹介されたのは、
「ここが室内プールです」
「へぇ、結構いい場所じゃない」
「うんうん、お昼とかちょうどよさそう!」
「……気に入った」
と、女子陣からの反応は重畳。
じゃが……
「…………」
「どうしたのよ、まひろ。そんな微妙そうな表情を浮かべて」
儂だけは、何とも言えない微妙な表情を浮かべて室内を眺めていた。
「…………あー、いや。何と言うか……この部屋の構造……というか、形状が、な。ちと……」
「どこか気になるところがあるの?」
「気になる……まあ、気になる、かのう……。こう、男にはわかるようなあれが……」
「……?」
「あー……なんでもない。瑞姫、次の部屋へ行こう」
「そうですか? では、次に行きましょう」
……言えぬ。この部屋の形状が、何と言うか……アニマルビデオに出て来るような室内プールと同じ形状だったなんて。
それを見て、儂がその内襲われる未来が見えた、とも言えん……。
「ここは遊戯室です」
「「「「おー!」」」」
次に案内されたのは、遊戯室。
中は割と広々としており、見える限りではビリヤードやダーツ、カジノでよく見かけるようなトランプをするための台なんかもある。
それ以外には、テレビゲームや人生ゲームなんかもあるな。
「ここはすごいのう。面白そうなゲームもあるし」
「あれって、結構古めのゲームよね? よく手に入れたわね」
「大人の人がやるゲームがいっぱいだね! ビリヤードって面白いのかな?」
「……身内で賭けとかできそう」
「やらんぞ?」
「……ケチ」
その賭け、絶対にろくなことにならんじゃろ。
絶対、全員が結託して儂を負かそうとするに決まっておる。
「その内、ゲーム大会とかしましょうね」
「いいなそれ。その時は、友人でも呼ぶか」
「そうね。大勢の方が楽しそうだし」
うむうむ。その時は、健吾と優弥でも呼ぶか。
それからは、PCルーム(パソコンが置いてあり、ネット環境がバカ整っておる部屋で、さらに言えばエイリアンPCが全員分用意されておった)や、浴場(三十人以上で入っても余裕なレベル。ちなみに、なぜか檜)や、ドレスルームなんかもあった。
そうして、儂らで屋敷内を歩き、
「む? のう、瑞姫よ。この部屋はなんじゃ?」
途中にあった謎の扉が気になり、その前に足を止めると瑞姫に尋ねた。
気になった扉と言うのは、今までの部屋の扉(木製)とは違い、やけに重厚な感じの扉じゃった。鉄……ではないな。しかし、なんじゃろうか、この扉は。
「あ、そちらは気にしなくていいですよ」
「そうなのか?」
「はい。まだ、使いませんから」
「そうか。しかし、中が気になるのじゃが……」
コンコンとドアをノックしても、あまり音が響かない。
これはもしや、中は防音なのかの?
「そうですね……では美穂さん、アリスティアさん、真白さんちょっと中を見てきてください。あ、中を見ても、まひろちゃんには言っちゃダメですよ?」
「どういうことじゃ」
「お気になさらず」
三人は小首を傾げながらも、中へと入る。
そして数秒後。
「「「……理解」」」
なぜか顔を赤くした三人が出てきた。
ちょっと待て。
「おぬしら、一体何を見てきたのじゃ?」
「なんと言うか……まあ、まひろが悦ぶような部屋……かしら?」
「ほほう、となるとあれか? ものすごい寝やすいベッドがある、的な?」
「う、うん。ベッドはあった、よ? ふかふかだったし、寝やすそう、ではあった、ね」
「なんと。それは楽しみじゃのう……」
「……私たちも、楽しみ」
三人がそう言うということは、さぞかし快眠ができるような部屋なのじゃろうな。
「使えるようになる日が楽しみじゃな!」
「「「……あー、うん。そうだね」」」
「なんじゃなんじゃ。なぜそんなに微妙な反応なのじゃ? 快眠できるようなベッドぞ? であるならば、喜ぶものじゃろ」
「そう、ね。うん、そうね。その内、使おうね」
「うむ!」
どのようなベッドがあるのかのう……。
ふふ、楽しみじゃ。
「ふふふ……あの嬉々とした表情が、別の表情に変わると思うと……楽しみです」
む? 今一瞬、不穏なことを瑞姫が呟いたような……気のせいか。
「瑞姫よ、他にはあるか?」
「はい、では次に行きましょうか」
まだあるのか。
本当に、広い屋敷じゃのう。
どうも、九十九一です。
何かとギリギリな屋敷ですが、気にしないでください。終盤の部屋に関してはまあ……ちょっとあれかもしれないけどね!
明日も17時か19時だと思いますのでよろしくお願いします。
では。




