日常47 談笑。伊夜の悩みとかもろもろ
「ふぃー。遊んだのう」
「あはは、そうだね」
カラオケを終え、ラウンドツーからも出た儂らは、休憩がてらラウンドツーに行く前に寄ったカフェに来ていた。
「久しぶりのカラオケだった上に、歌いすぎたりだなんだで、ちと喉が痛い……」
二時間ぶっ通しで歌ったようなものじゃから、結構喉に来ておるな、これは。
「大丈夫?」
「うむぅ……もしかすると、明日は枯れておるかもしれぬ」
こうなると、次の日の声は若干ガラガラになると相場が決まっておる(どこの相場かは知らぬ)。
まあ、楽しいということへの代償、と言うところじゃな。
「じゃあこれ、どうぞ」
ふと、伊夜がカバンの中から紙に包まれたビー玉サイズくらいのものを取り出し、それをほんわか笑顔で儂に差し出してきた。
「これはなんじゃ?」
「喉に効く飴だよ。甘い飴は好きかな?」
「うむ、大好きじゃ。しかし、よいのか?」
「もちろん。食べて食べて」
「ではいただくとしよう」
伊夜が差し出した紙に包まれた飴を受け取り、紙から取り出して口に放り込む。
コロコロと口の中で転がし、味わってみると……
「おぉ、これは美味いのう。食べたことのない不思議な味じゃが、これはいい」
「それはよかった」
「……して、これはどこのメーカーなのじゃ? 買いたいのじゃが」
のど飴にしては、やけに甘みが強く、ミントのような風味が爽やかでよいのう。
飴は割と好物じゃが、これはその中でもかなり好きな部類の味じゃな。
であれば、是非とも買いだめしておきたいところなのじゃが……。
「これ、ボクの手作りなんだよ」
「なぬ。ほんとか?」
「うん。ボク、料理が得意でね。最近は、お菓子作りもよくするの。それで、ボクと一緒にお仕事をしている人は、声――喉が大事でね。その娘に合わせてボクが作ってみたというわけです」
「なるほどのう。……しかし、おぬしも料理をするのか」
「おぬしも、ということは、まひろも料理をするの?」
「うむ。儂の両親は家にいないことが多くてな。それ故、小学生時代からそこそこ家事はしておったから、基本的には得意なんじゃよ。ちなみに、料理が家事で最も得意じゃ」
と言っても、料理自体は好きではあるが、料理上手と言われると……儂は、家庭料理程度しか作れんがな。
家事の中で最も得意なのは、単純にあまり妥協しないから、じゃな。
「おー! 同年代で料理を普段からする人っていなかったから、ちょっと嬉しいかも。こう、料理のお話をする人ってあんまりいなくて」
心底嬉しそうにそう話す伊夜。
うむうむ。儂としても、同年代で料理をする者と知り合えたのは、地味に嬉しい。
「まあ、普段から料理をするなど、まずおらんからのう」
「そうなんだよねぇ。一度作ってみると結構楽しくて、それで新しいレシピを探したり、自分で作ったりするのがいいんだよね、料理って」
「それはわかるぞ。儂も、ネットやテレビ、雑誌などで見つけたレシピを、儂なりにアレンジすることとか好きじゃなぁ」
「わかるわかる! あれだよね、『改良すれば、もっと美味しくなるかも!』って思っちゃって、それでしばらくいい改良方法を探しちゃうよね」
「うむうむ! なんじゃ、料理の話も合うではないか」
「みたいだね。わぁ、嬉しいなぁ。こうして、料理のお話ができるの。もっとお話ししたいけど、まひろも旦那さんがいるし……」
「あー……そうじゃのう。儂としても、もっとおぬしと遊んだり、話したりしたいところじゃが、これ以上あやつらを待たせると、儂が何をされるかわかったもんじゃない……」
十中八九、襲われることじゃろう。
何せ、結婚した日に襲ったり、ましろんを旦那にした日にも襲うくらいじゃからのう……。
一応、今はまだ二回程しか襲われてはおらぬが、それでも嫌と言うほど体に教え込まれておるわけで……正直、怖い。
これ以上襲われようものなら、儂は本当に女になってしまいかねん。
いや、実際二度と戻れないので、別にそれでも問題ないと言えば問題ないが……こう、儂にも男としてのプライド的なものが、ほんの僅かでも存在しておるわけで……。
これ以上されれば、儂は二度と引き返せないほどの何かになりかねないわけじゃ。
となると、しんどい。クッソしんどい。
新学期始まって、まだ一ヶ月も経過しておらんと言うのに、この始末。
できることならば、あれは勘弁してほしいが、一緒に住むとなった以上、それは難しいじゃろう。となれば、レベルを下げてもらいたいわけで。
となると、これ以上外出すると言うのは、あやつらを暴走させかねず、結果的に儂の死期(男としての)が近づくわけじゃ。
「うむぅ……伊夜は仕事が忙しいようじゃから、頻繁には会えなさそうじゃからのう」
「そうだね……。今は多少落ち着いてはいるんだけど、今後お仕事が増えそうで……」
あはは、と苦笑いを浮かべながら乾いた笑いを零す。
「む、そうなのか?」
「そうなの。色々あって、お仕事を二種類やっている状態でね。体力的には全然余裕なんだけど、スケジュールが……」
「やはり、大変なのか?」
「大変も大変。今なんて、三人目を探そうかなーって一緒にお仕事をしている人と話しているくらいで」
そう語る伊夜の表情は、大変という言葉がハッキリと浮かんでいそうなほど。
「三人目? なんじゃ、おぬしはユニットでも組んでおるのか?」
「そうなる、かな」
ユニットとなると、動画投稿者のような感じなのか、それともアイドルなのか、歌手なのか、もしくはお笑いコンビか。
最後は絶対にないな。似合わんし。
じゃが、顔がバレれば騒ぎになると言っておるところを考えると……芸能関係の仕事である可能性は高いな。
となると、アイドルか歌手が近いか。
最初は、声優やら女優やらが思い浮かんだが、今の三人目を探す、と言う発言から考えるに、まずその二つはないじゃろうな。
訊けばわかるかもしれぬが、こやつはどうも隠しておるようじゃからのう。
であれば、少し前にも思った通り、余計な詮索はなしじゃな。
「しかし、三人目を増やすということは、二人で回すのが難しくなってきた、ということか?」
とはいえ、仕事の悩みは訊きたいところ。
できることならば、解決も手助けしたいところじゃからな。
マブダチじゃから。
「うん。最初は一緒にお仕事をしている人が一人でやっていて、その後偶然ボクも一緒に活動することになって、結果的にボクとその娘のユニットになったんだけど……何と言うか、ボクはともかく、もう一人の娘の負担がすごくね。やっぱり、二人だと厳しいなー、なんて」
「なるほどのう……。どのような仕事かはわからぬが、オーディションなどをして、探せばよいのではないか?」
「それも考えたんだけど、マネージャーさんがね『最低でも二人と同レベル。もしくは、二人以上の容姿と素質、個性を持っていなければ、採用はできないわ』って言ってて……」
「ふむ。そういうことか」
もう一人がどのような容姿であるのかはわからぬが、そのマネージャーとやらが二人と同レベル、もしくは二人以上と言っておることから、その者も結構容姿が整っておるのじゃろう。
伊夜を見る限りでは、こやつと同レベルかそれ以上の者はおらんと思うがな。
「はぁ~……。大変なお仕事だよー……」
「まあ、なんじゃ。愚痴でも悩みでもなんでも聞くぞ? 出会ったのは今日と言えど、マブダチじゃからな。おぬしの力になるのは、当然のことよ」
「まひろ……」
にこっと笑って言うと、伊夜が僅かに潤んだ瞳で儂を見てきた。
何やら頬がちと赤いが……まあ、あれじゃな。感動したんじゃろう。
知らんけど。
「もしも、ボクが最初から女の子、もしくはまひろが男のままだったら、普通に好きになってそうだよ、ボク」
いきなり、伊夜がそんなことを言いだした。
「はははは! 何を言っておるのじゃ。それではまるで、おぬしは儂のことが多少なりとも、恋愛感情を抱いておるようではないか」
「あはは、だよねぇ。ごめんね、変なこと言って」
ふふっ、と平常時と同じような笑いを零す。
「構わぬ構わぬ。マブダチたるもの。冗談も言い合わねばな。やはり、気兼ねない関係と言うのは大事じゃからのう」
「そうだね。ボク自身も、あまりそういう友達が少ないから、そう言う関係はちょっとだけ憧れを持っていたり……」
「そうなのか。おぬしならば、友人も多そうなのだがな」
「少なくとも、まひろも知ってるように、未久斗たちと一緒にお仕事をしている人くらいでね。今通ってる学園の方は……うーん、ちょっと、ね。どうにも、下心があるような気がして……」
「ふむ。やはり、有名人だからか?」
「多分……」
有名人と言うのも、やはり苦労するものなんじゃのう。
その微妙な笑みを見ればわかるというもの。
「して、伊夜。結局のところ、三人目は見つかるのか?」
「どうだろう? マネージャーさん、完璧主義とまでは行かないけど、妥協はしない人だからね……」
「厳しいのじゃな。であれば、あれか? 儂のような美少女とかか?」
「……あ」
「はははは! なんてな。ちょっとした冗談だ。……む? どうした? そんな『あ、その手があったか』みたいな顔をして」
「あ、気にしないで。ちょっと考え事。でも、まひろが入ってくれるのも結構いいかもね」
「そうか?」
「うん。まひろって発症者だから可愛いし、あと、歌も上手だったしね」
「そう正面から言われると気恥ずかしいが、褒められて悪い気はせんな」
儂はポリポリと頬を掻きながら、はにかんだ笑みを浮かべる。
あれじゃな。可愛い者から褒められると言うのは、嬉しさもひとしおじゃな。
「ともあれ、三人目に関しては色々と保留かなぁ。今のところは二人でどうにかなってはいるし、その内ね」
「そうかそうか。頑張るのじゃぞ。儂はいつでもおぬしの手助けをするので、いつでも連絡してくれてよいからな。あぁ、迷惑かもー、なんて思わなくよいぞ。マブダチに遠慮は不要」
「うん、ありがとう。その時は、遠慮なく連絡させてもらうね」
「うむうむ。それでよい。……しかし、この姿はやはり腹が空く。どれ、ここは個室であるし、戻るとするか」
儂はそう言うと立ち上がり、成長状態を解除。
急激に縮んだことにより、儂が身に付けていた衣服類が全部落ちる。
幸いなのは、Tシャツがぶっかぶかすぎて色々と隠れておるところか。
「その姿を見ていると……なんだか、まひろって妹みたいに見えるね」
微笑ましそうな眼差しで、伊夜が呟く。
「なぜそうなる」
「ちっちゃいから?」
「まあ、たしかにこの姿は小さいが」
だからと言って、妹みたいに見えるというのはおかしくね?
「……よっこいせ。しかしおぬし、話には初心と聞いておったので、てっきり儂の裸を見て顔を赤くするかと思っておったのじゃが、意外とそうでもないのじゃな」
「うーん、さっきの姿なら顔を赤くしたと思ったけど、その姿のまひろは子供とか妹みたいに見えるから、あんまり?」
「…………」
「あの、なんでそんなに驚愕した表情を浮かべているの?」
「……あー、いや、ちと、な」
本来ならば、伊夜の感想が普通なわけじゃからな。うむ。
美穂たちがおかしい……んじゃよな。
じゃが……じゃが、伊夜のその反応自体はなぜか新鮮に感じる。
つまり、それだけ儂の周囲にはロリコンと言う名の変態が多いというわけか……。
それを思い、微妙な表情から何かを読み取ったのか、伊夜は
「なんと言うか……大変、だね」
同情の籠った視線を向けながら、そう言った。
……伊夜も、もしかすると儂と同じようなことがあったのやもなぁ……。
「では、儂はそろそろ帰るとするぞ。楽しかったぞ」
「こちらこそ、とっても楽しかったし、息抜きになったよ」
「うむ。ではな。気を付けて帰るのじゃぞ」
「うん、ありがとう。じゃあ、次のお休みが決まったら教えるね」
「うむ。その時はまた遊んだり、色々な話をしようぞ」
「もちろん。じゃあね」
「ではな」
そんなこんなで、ちょうどいい時間だと思った儂らは次会う約束を交わし、それぞれの家路に就いた。
で、家に到着する頃にはすでに夜七時となっておった。
本来であれば、昼前に帰る予定ではあったが、かなり遅くなってしまった。
しかし、遅くなることは伝えておった。
遊んでくる、と。
なんじゃが……
「おかえりなさい、まひろちゃん」
「うむ、ただいまじゃ」
「……それで、こちらの銀髪碧眼の方は……どなたでしょうか?」
にっこり笑顔でスマホの画面を儂に見せて来た。
そこには、儂と伊夜がカフェで楽しそうに話していた姿が収められていた。
「……」
な、なぜじゃろうか……。
冷や汗が。冷や汗が止まらぬ……!
「まさかとは思いますが……わたしたちを放って、逢引をしていたのですか?」
「違うぞ!? こやつは、儂と同じ発症者で、意気投合したマブダチじゃ!」
「マブダチ? なるほど……。では、可能性がある、ということですね」
「何の可能性じゃ!?」
「気のせいです。それで、本当に遊んでいただけ、なのですよね?」
「そ、そりゃそうじゃろ。というか、それ以外ないじゃろ。儂にとって、かなりよい存在じゃからな」
「そうですか。楽しみにしておきますね」
「……?」
こやつは一体何を言っておるのじゃろうか?
一体何を楽しみにしていると言うのか。
……まあ、よいか。
ともあれ、交流会も終わったし、明日からはまた普通の学園生活じゃな。
あぁ、そう言えば図書委員の仕事の当番、明日から一週間か。
ちっ、めんどくさいのう……。
どうも、九十九一です。
うん、昨日は投稿出来なかったのは本当に申し訳ない。大体のことは活動報告に書いてありますが一応。まあ、教習所の卒業検定がありました。そのほかにもいろいろと重なった結果です。
そう言えば、活動報告でも言ったのですが、この小説が四半期のランキングに載ってました。と言っても、ローファンタジーの部門ですがね。
ともあれ、明日も10時だと思いますので、よろしくお願いします。
では。




