日常44 生活の変化。やっぱり同情されるまひろ
「こうしてみると、結構な愚痴が出るもんじゃなぁ」
儂らの間で愚痴り大会が勃発してから、一区切り着いた頃に、儂がおもむろにそう言葉を漏らす。
「ストレスって、知らない間に溜まってるものだからね」
「そうじゃな。儂も、可愛い旦那たちがおっても、やはりストレスは溜まっておるもんじゃのう……。儂は本来、ぐーたら過ごしたいタイプじゃからな」
「わかる。やっぱ、何もせずにぐーたらな生活してーよな」
「うむうむ。こう、睡眠を貪り、寝転びながらマンガを読んだり、ゲームをしたりするのが最高なんじゃよなぁ」
「すっごいわかる! 僕もそういう生活が好きだよ! 今の年齢でしかほとんどできないからこそ、ついついやっちゃうんだよねぇ」
「そうなんじゃよ。儂も、普段はそうやってぐーたらしておったんじゃが……まあ、見ての通りの姿になって以降は、忙しい生活でのう……」
結婚したり、図書委員長になったり、家事を済ませたりなど、あまりぐーたらする隙がなくてかなり困っておる。
儂と言えば、ぐーたらじゃからな。
しかし、そんな儂の代名詞であるぐーたらは最近碌にできておらん。
……これはあれじゃな。瑞姫に言って、新居にはメイドとか雇えないか訊いてみようかのう?
……あー、いや。やはりやめておくとしよう。普通にできそうで怖いし。
メイドや執事のいる生活は憧れるが……あやつの家、もしくは会社が雇うと考えると、確実にロリコンのメイドが来そうじゃからのう……。
そうなれば、余計な面倒が増えるだけで、儂の苦労は減らないような気がするしな。
うむ。そう思おう。残念じゃが。
「そう言えば、旦那さんが四人って言うのは聞いたけど、家事とかはどうしてるのー?」
「儂が基本こなしておる。嫁力、と言うのが一番高いから、だそうで」
「へぇ、ぐーたら好きと言う割には、自分でやるんだね。家事は万能なのかな?」
「うむ。自分で言うのもなんじゃが、家事は万能じゃぞ。まあ、その辺りはうちの両親が仕事で忙しくてなかなか家にいないことが原因ではあるんじゃがな。そのおかげで、炊事洗濯掃除、なんでもござれじゃが」
「ほっほー、その辺りも伊夜君に似てるねぇ」
「ふむ。そう言えば気になっておるのじゃが、その、伊夜と言う人物は、どのような者なのじゃ? 鈍感であることと、可愛い外見をしておるくらいしかわからんのじゃが」
ここで、この四人の友人である伊夜について尋ねてみる。
個人的には、結構好みな外見ではあるのじゃが、その外見と鈍感であること、それから初心であることくらいしか知らぬからのう。
「んー、天然エロ娘、かな?」
「あと、超鈍感だし、家事万能だな」
「自分よりも他人を優先するくらいの超お人好しで、ものすごく運がいいね」
「それから、身体能力がものすごく高いし、やたら特技が多いのもあるね。結構謎が多い人かなー」
「なんじゃ、その属性が半端ない存在は」
まるで、物語の主人公の如き属性の量。
しかも、中身がとんでもないのがまたなんとも。
「結構不思議な存在なんだよなぁ、伊夜って」
「身体能力が高い、ということはスキルによるものなのかの?」
「んー、多分素だね、あれ」
「素? ちなみにじゃが、伊夜と言う者の身体能力はいかほどなのじゃ?」
素で身体能力が高いということで考えるならば、まだ現実的に考えることはできるのではなかろうか。
「本人が言うには『えーっと、ボルトよりも十倍以上速く走れる、かな?』だそうじゃ」
「どこの化け物じゃ」
「いやマジでそうなんだって。俺たち、たまーに会って遊んだり、出かけたりするんだけどさ、クッソ足速いんだよ」
「それに、力も強いしねぇ。この前なんて、僕がナンパされて、無理矢理連れて行こうとして来たんだけどさ、その相手をいとも簡単に投げ飛ばしちゃったんだよ」
「他にも、屋根の上を走ったりもしてたかな」
「……のう、そやつは本当に人間なんじゃよな?」
「「「「多分……?」」」」
友人たちですら多分と思うレベル……。
なんじゃろうか。会ってみたいとは思ったが、ちと会うのが怖くなってきたのう……。
しかし、なぜかはわからぬが、とてもよい友人になれる気がしておるのも事実。
ふぅむ……。
「他に、何か情報はないのかのう?」
「いや、ないな。結構隠し事が多いタイプだし」
「ふむ。それは大丈夫なのか? こう、信用的な」
「もちろん。伊夜君はね、どっちかと言えば自分に関することを隠すだけで、他のことはあまり隠したりしないんだよ。まあ、目立つのは苦手だから、何かと目立たないようにって言う配慮だとは思うけど」
「なるほどのう。なんだか、ますます会ってみたくなってきたのう」
相手がどんな化け物でも、ちと会ってみたい。
伊夜なる存在が、どのような者なのか気になるからのう。
「んじゃ、その内会えるように調整してやろうか?」
「よいのか?」
「もちろんだ。あいつ、普段から何かと苦労してるから、愚痴の相手になってやってくれよ。俺達は変に仲良くなっちまったから、話し難いだろうしな」
「その点、まひろならほとんど初対面だし、逆に話しやすいんじゃないかなー。伊夜はそんな感じだし」
「ふむ、それはありがたい。では、会いたいと言う旨を伝えておいてはくれぬか?」
「OK! んじゃ、連絡先交換しようぜ」
「うむ。あ、おぬしらもどうじゃ?」
「「「当然!」」」
「では、交換するとしよう」
そんなわけで、四人とLINNを交換。
うむ、初めて他校の人間と連絡先を交換したのう。
こう、連絡先が増えていくのは、謎の嬉しさがあるもんじゃな。
「今思ったんだが、これって、まひろが会いたいと言うことを伝えた後、俺が伊夜かまひろの連絡先をどちらかに教えれば早くね?」
「たしかに。ならば未久斗よ、それで頼めるか?」
「了解。んじゃ、送るかね」
スマホを操作し、LINNにて未久斗が伊夜に連絡を取ると……
「うおっ、もう返って来た」
「早いな。して、なんと?」
「えーっとだな。『うん、もちろんいいよ! じゃあ、ボクの連絡先を送ってあげて』だそうだ」
「さすが伊夜君。返信は早いし、来るもの拒まずだね!」
「じゃあまひろ、伊夜の連絡先を送るから、そっちで連絡してくれ」
「うむ。助かる」
その直後、未久斗とのチャットにて、一つの連絡先が送られてきた。
そこを開き、
『初めまして。先ほど未久斗が言っておった、桜花まひろじゃ。よろしくのう』
軽く自己紹介を送る。
すると、そこまで間を置かずに返信が来た。
『初めまして。男女伊夜です。こちらこそよろしくお願いします』
ぺこり、とお辞儀する猫のスタンプと一緒に、そんなメッセージが送られてくる。
ふむ、なかなかに話しやすそうな気がする。
『して、おぬしと会って話がしてみたいのじゃが……』
『うん、もちろんいいよ』
『では、いつ頃なら大丈夫かのう? 聞けば、おぬしは何やら仕事が忙しいと聞く。であれば、おぬしの都合が付く日でよいのじゃが』
『ありがとう。それじゃあ……明日はどうかな? 交流会の次の日、って言うことにはなっちゃうんだけど……。もちろん、嫌であれば別の日でも大丈夫だからね』
『いや、明日で構わぬぞ』
個人的に、明日はそのまま帰る予定ではあったからのう。
であれば、外に出たついでに会って行くのもよいじゃろう。
『ありがとう。それじゃあ待ち合わせ場所だけど……どうせなら、交流会で使われてるホテルでどうかな? そこなら、桜花君も楽できると思うし、ボクも今のお仕事の関係ですぐに行けるしね』
『おぉ、そうなのか。では、ホテルに集合ということにしよう』
それは願ってもない事じゃな。
儂が会いたいと言い出したこととはいえ、できることならば遠くには行きたくないと思ってしまうもの。
まあ、仮に遠くなったとしても、儂に行ける範囲であれば、普通に行ったがな。
『それなら、朝の十時でどうかな?』
『うむ。それくらいで問題はない。では明日、待っておるぞ』
『ボクも楽しみにしてるね!』
最後にバイバイと言う文字が書かれたプラカードを持った猫のスタンプが送られてきて、会話が終了となった。
うむ、楽しみじゃな。
「どうだった?」
「問題なしじゃ。明日の朝十時に、このホテルで会うことになったぞ」
「そうかそうか。それはよかった。普通にいい奴だから、安心していいぜ」
「うむ。もちろんじゃ。おぬしらの友人と言うのであれば、性格に問題はなさそうじゃからのう」
それに、先ほど聞いた情報からも、いい奴じゃと判断できるからのう。
よい友人になれるとよいな。
「あ、先に言っておくんだけど、伊夜には性に関係することを言わないでね。あの娘、そう言う話を聞くだけで赤面して倒れるから」
「そ、そこまで初心なのか」
「初心なんだよー。女の子同士でも、裸になることに恥ずかしさを覚えてるみたいだしねー」
「ふむ。普通はそうではないのか? 未久斗と敏男はどうだったのじゃ?」
儂は別段そこまで気にはしなかったが、普通であれば恥ずかしがりそうではあるが。
「まあ、最初はなー。だって、今まで見たことなかった女子の裸だぜ? さすがに、な?」
「僕はむしろ『よっしゃ! 同人誌の参考になる! ラッキー!』って思ってたから、そうでもなかったかな? おかげで、捗ってしかたなかったよ」
未久斗の方は、その時のことを思い出したのか、僅かに頬を赤くさせ、照れながら話し、反対に敏男の方は同人誌の方で頭がいっぱいだったのか、それとも単純に元があれだったのかはわからぬが、喜んでおったらしい。
ふむ、男から女だとこう、か。
「では、反対に、翔と態音はどうだったのじゃ? 普通に考えれば、女から男に、と言う場合はどう見えるのか気になるしのう」
「うーん……やっぱり、今までなかったものが付いたわけで、最初はかなり混乱したし、恥ずかしかった、かな。今でこそある程度慣れたけど、最初の内はもう顔を真っ赤にさせたものだよ」
「わたしも赤面はしまくったかなー。まあ、すぐに順応したけどねー」
「なるほどのう」
ある意味、男から女へ、というパターンよりも、女から男へ、のパターンの方が何かと大変なのやもしれぬな。
「……あとはほら、朝起きると、下が、ね?」
「テントを張っちゃうんだよねー」
「あー……その生理現象は、まあ、仕方ない、のう。男ならば、な」
赤面しながら、朝起きた直後の男の生理現象について口にする二人。
儂は女になったことでそれらがなくなった。
最初の頃は、それらがなくてちと違和感があったが、今ではない方が楽ということに気が付いたのでよしとしておる。
「その辺の違いとか、発症すると一番苦労するんだよなー。最初の頃とか、ブラの付け方がまったくわからなかったし、着る服によってはそっちも構造がいまいちわかんなくて大変だったからな」
「僕は同人誌を書いている関係上、服の構造とかは知ってたから何とかなったかな」
「私は面倒な構造の服を着なくなったから楽だったよ」
「同じく」
「儂は、男時代に女装させられておった名残で、全然問題はなかったのう。強いて言えば、ブラくらいかのう?」
と、儂が他の者に続く形で服に関係することを口にしたら、
「「「「女装趣味……?」」」」
怪訝そうな表情を浮かべながら、そんなことを言われた。
「違うぞ。儂とて、好きで女装していたわけではない。儂の母上の頭がぶっ飛んでおって、それで女装させられておったんじゃよ」
「「「「……なるほど、伊夜と同類か」」」」
そのセリフから、伊夜が儂と同じ境遇であることを悟った。
……あれじゃな。明日会った時、その辺りも話してみるとしようかのう。
「まあ……なんだ。まひろの過去の愚痴聞かせてくれよ。話聞くぜ?」
「そうか? では、再び過去話でもするかのう」
そう言って始まった儂の愚痴じゃったが……四人とも、話を聞くなり、慈愛に満ちた表情で肩をポンポンされた。
……なんでじゃ。
どうも、九十九一です。
久しぶりに、二作品同時に書いたものだから、結構疲れてます。一時期とはいえ、よくできてたな、私。正直、自分を褒めたいです。
えー、ちょっとした補足。今回の話に『男女伊夜』なるキャラが出たと思いますが、このキャラは私がメインで書いている小説の主人公です。まあ、正確に言えばこっちの世界バージョンの主人公なんで、別人ではあるんですけどね。パラレルワールドの主人公的な? 一応繋がりがないわけではないのです、別段メインを読まなくても大丈夫です。というか、そう言う風に作ってるしね!
明日も10時だと思いますので、よろしくお願いします。
では。




