日常42 まひろの愚痴。やべー新入りと思われる
「うぅむ、これまた何とも……カオスじゃな」
見るからに魔窟としか言い表しようのない会場内へ入ると、そこはまあ……カオスじゃった。
先ほど儂が言ったように、ヤベー奴らしかいない。
とはいえ、それをよくよく見ると、能力等はしっかりと制御されておるらしく、みながみな盛り上がっておった。
ふぅむ……強い。
「おぉ? おーおー! 君が、新しい発症者か?」
会場に入り、入口付近で周囲を見ておると、不意に声をかけられた。
そちらの方を見れば、そこには大和撫子と形容する外ない、黒髪ロングの美少女が立っておった。
「うむ。桜花まひろじゃ」
「椎崎未久斗だ。よろしくな!」
「こちらこそ、よろしくのう。……して、この状況はどういうことなのじゃ?」
「んー、まあ、宴会芸みたいなもんだ」
「宴会芸と言うには、いささか強引すぎやしないかのう?」
「そりゃ当然、能力使ってるからな! あと、あー……なんて呼べばいいよ?」
「桜花でも、まひろでも構わぬ。儂は、未久斗と呼ばせてもらってもよいか?」
「大歓迎だぜ! んじゃ、俺の方もまひろと呼ばせてもらおう」
「了解じゃ」
早速友達ゲットじゃな。
なるほど、外見は美少女じゃが、中身は男というのは、傍から見るとギャップが半端ないな。何せこやつ、外見が清楚な大和撫子と言った感じで、こうやってテンションが高い男の口調で話されると、のう。
もしや、儂の方もこんなギャップを感じられておるのじゃろうか?
「よっし。まひろ、とりあえずあっち行こうぜ! みんな、お前を待ってたんだよ!」
「らしいのう。では、行くとするか」
「おうよ! ってか、なかなかに個性の強い新入りが来たなー。のじゃロリとか」
「この口調は気にするでない。幼稚園の頃からのものなのでな」
「それはもっとつえーや」
ふむ。やはり、この口調は変なのじゃな。
まあ、少なくとも儂以外でこんな口調なのは、それこそ年寄りくらいものじゃからな。
「んじゃ、前の方へ行こーぜ」
「うむ」
未久斗が先行し、儂はそれに付いて行く。
身長差的には、高校生と小学生と言った感じなので、どうも姉の後を追いかける妹のようじゃな。
もっとも、儂より背の低いものなど、それこそ小学二年生よりも下くらいじゃが。
……まあ、世の中には年上よりも背の高い者がおるので、最悪小学一年生とかに負ける恐れがあるんじゃがな。
「おーい、例の新入りが来たぞー!」
と、未久斗が周囲の者たちに聞こえるように声を張り上げると、騒がしかった喧騒が一瞬でピタリと止んだ。
すると、周囲の者たちはまるで品定めでもするかのように、じーっと儂を凝視してきた。
……むぅ、儂は注目されるのはあまり得意ではないのじゃが。
ともあれ、これは、あれじゃな。
自己紹介とかした方が良いかもしれぬな。
「桜花まひろじゃ。儂はまだ発症して間もないので、色々教えてもらえると助かる。これから、よろしく頼む」
簡単な自己紹介をすると、
『『『おおおお―――――――――――!』』』
という感嘆の声と共に、拍手が巻き起こった。
『久しぶりの同胞はこんな感じかー!』
『なるほど、のじゃロリ……』
『これまた、個性が強そうだ』
『歳はいくつなんだろう?』
『今回は可愛い系か』
見たところ、かなり歓迎されておるようじゃな。
これでもし、歓迎されないなんてことがあれば、儂は辛かったぞ。
ともあれ、上手く馴染めそうじゃな。
集まって来た発症者たちに色々と質問されながらも、自由気ままに会場内をうろつく。
正直、全員と挨拶しきるのはなかなかに骨が折れる事なので、まあ、適当に。
「ふぅ、テンションが高い者が多いのう」
「そりゃ、ストレスが溜まるからな」
「未久斗か。おぬしは、愚痴り大会に混ざらなくてよいのか?」
「いやほれ、新入りに色々教えるのも、先輩の務めだろ?」
「ふむ。なるほどな。おぬしはいい奴じゃな」
「はは、よく言われるぜ」
外見に似合わぬ快活な笑いに口調。
不思議なもんじゃな。
「よーっす、未久斗君! お久ー」
「おう、敏男。一ヶ月ぶり」
未久斗に話しかけてきたのは、黒目にオレンジ髪の高校生くらいの美少女じゃった。
なんと言うか、胸部がでかい。
瑞姫と同じくらいかのう?
「む? 未久斗よ、こやつは?」
「おっとっと、初めましてだね、桜花まひろ君! 僕は腐島敏男! 高校二年生で、同人作家をやってるんだ! よっろしくぅ!」
「うむ、よろしくじゃ。敏男、でよいか?」
「OKOK! じゃあ、まひろ君と呼ばせてもらうねー」
「うむ、よろしくな」
なかなかにテンションが高いが、まあ悪い奴ではなさそうじゃ。というか、楽しそうな奴じゃな。
「敏男、他の二人はどうした?」
「あ、翔ちゃんと態音ちゃん? もうそろ来ると思うぜー」
「む? まだ二人おるのか?」
「おうよ。本当は、もう一人俺らの友人がいたんだけどよ、そいつ、今日は急用があって来れないんだと。まあ、何かと忙しい奴だからなー」
「うんうん。伊夜君仕事が多いしね。まだ学生なのに、大変だよね」
「学生なのに仕事? なんじゃ、その伊夜と言う奴は、アイドルか何かなのか?」
学生で仕事が忙しいとなると、普通のアルバイトをしているわけではなさそうじゃな。
となれば、芸能関係の仕事をしていそうじゃ。
「惜しい。あいつはなんつーか……有名人、に近いのかもな」
「ほほう」
「能力がね、ちょーっと特殊な人で、まあ、外見も中身もものっそい可愛い女の子なんだけど、同時にものすごい初心。性知識のせの字もないからね」
「そのような物が、現実におるのか」
「「いるんだよ」」
「ほほう」
儂とは対極にいそうな奴じゃな。
ちと気になる。
「あ、ちなみにこれがその娘の写真」
そう言って差し出された写真に写っておったのは、ほんわかとした笑みを浮かべた、銀髪碧眼の美少女じゃった。
誰にでも優しそうな印象を受けるな。
ついでに言えば……ふむ。でかい、か。と言うかこれ、瑞姫よりもでかくないかの?
しかし……
「……ふむ。銀髪碧眼、か。結構好みじゃな」
割と好みな外見じゃな。
やはり、銀髪はよいのう。
「お、まひろも伊夜が気になる? こいつ、超鈍感だぞ」
「ほう、鈍感とな。儂は別段認めてはおらんのじゃが、よく鈍感と言われるぞ、儂」
「へぇ~。じゃあ、意外と気が合うかもな」
「なぜに」
「いやー、伊夜君に鈍感って言うとね『鈍感じゃないよ。ボクは結構鋭い方だよ?』って言われるんだよね」
……むぅ。儂と同じようなことを言っておる。
ふぅむ、ますます会ってみたくなってきたのう。
もしかすると、よい友人になれるかもしれぬな。
「ごめんごめん遅れた~」
「ごめーん、普通に遅れたよー」
「お、来たな。まひろ、この二人がさっき話してた翔と態音だ」
そう紹介されたのは、モデルのようなスラッとした体躯で金髪碧眼のイケメンと、焦げ茶色の髪に男の娘と呼ばれるようなタイプの中性的な顔立ちの美少年じゃった。
ふぅむ。やはり、この病を発症すると、美男美女になるんじゃのう。
実際、会場内におる者たちは、誰もかれもが美形揃い。
不思議なもんじゃ。
「初めまして、小斯波翔です。気軽に翔って呼んでくれていいから」
「わたしは変之態音。態音でもなんでもいいよー」
「桜花まひろじゃ。儂のことは、まひろで構わぬ。よろしくのう」
元女の発症者の場合、こうなるのか。
正直、初めて見た。
まあ、そもそも儂以外の発症者を見ること自体、初めてなわけじゃが。
「今度の新入りがのじゃロリというのは、面白いね」
「だねー。同い年の高校生が来るって聞いてはいたけどさ、普通にびっくりー」
翔と態音の二人が、儂を興味深そうに見ながらそう言う。
「なんじゃ、おぬしらも高校二年生なのか?」
「そうだぜ。俺たちみんな、高校二年生。つっても、この会場にいる高校って言ったら、他に九人程度しかいないけどな」
「む、少ないのか?」
「少ないねぇ。まあ、正確に言えば交流会に来ていないからっていうだけで、実際はもう少しいるみたいだけどね!」
「そうなのか? して、日本はどのくらいの発症者がおるのじゃ? その辺、知らなくてのう」
見た限りであれば、この会場内におる人数と言うのは、百人は超えておるな。
発症者は世界で約千人程度。その辺りは前後しておるのじゃろうが、まあ、それくらいのはず。
しかし、その内訳を儂は知らぬ。
一体、日本にはどれくらいいるのじゃろうか。
「百五十人って聞いてるぜ」
「ふむ、総数の一割五分か。意外と多いのじゃな」
「ま、世界で一番発症者が多い国だしね! その辺りは、研究者の間で不思議だって言われてるしね」
「そうなのじゃな」
訊けば、二番目に多いのはカナダなのだそう。その数は、大体四十人ほど。
日本とは約三倍ほどかけ離れておるが、これでも多い方で、むしろ日本がおかしいそうじゃ。
儂としては、アメリカやロシア、中国のような大きな国の方が多いのかと思っておったのじゃが……大きさは関係ない、ということかのう?
「さ、堅い話はここまでにして、私、まひろの話が訊きたいな」
「儂のか? 話と言っても、何を話せばよいのじゃ?」
「そりゃお前、愚痴だよ愚痴」
「ふむ、愚痴か」
そう言えば、ここは愚痴り大会の場じゃったな。
となれば、儂も愚痴ってみるか。
「うむ、では話すとしよう」
正直、儂の話を聞いても面白くはないと思うが、訊きたいと言うのならば聞かせよう。
というか、儂も愚痴りたいのでな。
……天国と地獄が一緒くたになったような生活じゃからな。
普段はあまり愚痴を言うことはないのじゃが、この時ばかりはタガが外れておったのか、やけにすらすらペラペラと言葉が出てきた。
まあ、全部が現状の不満……というか、儂の旦那たちへの愚痴なんじゃが。
「――というわけでな。儂はまあ……ある意味、クッソ辛い生活を送っておるのじゃよ」
最後にそう締め括り、儂は話を終えた。
結構集中して話しておったせいか、周囲を見れば、何やら大勢の……というか、この会場内におる発症者たちが全員聞き耳を立てておった。
「……まひろ、その話、マジ?」
「マジじゃ」
「……旦那さんって、男なのかな?」
「女じゃな。四人とも」
「……つまり、発症して約一ヶ月程度で四人もお嫁さんを貰ったってこと?」
「そうなる。おかげで大変じゃよ。四人とも、個性が強くてのう……って、む? どうしたのじゃ? 全員呆然としておるが……」
『『『いやいやいやいや! 一ヶ月でそれは強すぎるって!』』』
「む、そうなのか? てっきり、これは割と普通なのかと……」
『『『絶対ない!』』』
声を大にして否定された。
……どうやら、儂の置かれている状況と言うのは、普通におかしいらしい。
『マジか、今回の新入りやべーな』
『……まさか、四人の女とすでに結婚していたとは』
『はい! 桜花さんに質問!』
「うむ、なんじゃ?」
『そのお嫁さんたちって、可愛いんですか!』
「可愛い、な。うむ。可愛い。一応、昨日全員で撮った写真があるが……」
「お、写真あるのか。んじゃ、あそこのプロジェクターに接続してみ。映せるぜ」
「そうなのか。どれ、やってみるかのう」
周囲の関連機器を検索すれば、たしかにこの場のプロジェクターの項目が出てきた。
それをタップし、映したい写真を選択。そのまま、前の方に映すと……
『『『なるほど……美少女ハーレムか。しかも、百合』』』
全員がその写真を見てそう漏らした。
ふむ、やはりあやつらは、世間一般的に見ても、美少女に映るようじゃな。
いやまあ、普通に可愛いし、当たり前じゃな。
「まひろ君、あんなに美少女に囲まれてるのに、何が不満だって言うんだい?」
首を傾げながら、敏男がそう尋ねてくる。
その問いには、他の者たちも同意らしく、うんうんと頷いておった。
なので、溜息を一つ吐き、儂はその理由を語りだす。
「……普通に考えてもみよ。女になったことで、賢者タイムなどというものは無くなったのじゃぞ? 夜、四人から一斉に攻めを受ければそりゃ……な? しかもあやつら、儂を拘束してくるんじゃぞ? 逃げないように。そんな状態で、ぶっ通しで攻められ続ければ、普通に死ねる。と言うか、マジで辛い。それでも理解できないと言うのならば……そうじゃな。ちと想像してみよ。生々しいことを言うようであれじゃが、秘所に(ピ――――)して、(ドゴォォォン!)されたのち、(ズキューン!)を(ウリィィィ!)に入れられて、それをかなりの長時間放置されるようなものじゃぞ?」
『『『うわぁ……それは死ねる』』』
「じゃろ? ようは、そう言うことじゃ。これで愚痴るなと言う方が無理な話じゃ」
そう言うと、この場にいた者たち全員、儂を見る目がものすごく同情的なものになった。
……なんじゃろう、普通にこの同情が嬉しい。
健吾や優弥にも同情されたが、同じ性転換をした者からの同情は、心に来るのう……。
「まあ……なんだ。もっと、愚痴聞くぜ」
「……すまんな」
ポンポンと未久斗に肩を叩かれながら、優しい声音で言われると、なんだか涙が出そうになった。
生まれ始めて、慰められて泣きそうになっておる気がする……。
「……しかし、儂だけ愚痴を聞かせるのもあれじゃから、未久斗たちの愚痴も聞こうではないか。おぬしらも、何かあるのじゃろう?」
「まひろ君、いい人だねぇ」
「そうでもないぞ。さすがに、一方的に自分ばかり話すのは、あまりよくないからのう。第一、つまらんじゃろ」
(((すでに色々と面白いんだよなぁ……)))
ぶっ飛んだ状況になっておることはそこそこ自覚しておるが、それでも儂ばかり話すのはフェアではないからのう。
であれば、こやつらの愚痴を聞くのも、当たり前の話じゃ。
「ほれ、腹も空いた。適当に飯でも食いながら話すとしよう」
笑みを浮かべながらそう言うと、未久斗たちはやれやれと言うような笑みを浮かべながら、こくりと首肯した。
ふぅむ、入る前はどんな魔窟じゃと思ったが、これならば心配いらなそうじゃな。
どうも、九十九一です。
今回の回に登場した、名前ありの発症者の方たちは、まあ、ピンときた方はわかったと思います。と言っても、私のメインの小説(最近更新が止まってるけど)に登場するキャラをこっちの世界風に改変したものです。意外とめんどかった。性格とか普通に変わってるし。多分。
ともあれ、明日も10時だと思いますので、よろしくお願いします。
では。




