日常36 転校生(見知った顔)。事の顛末と、フラグ建築
それから約一週間ほど経過した頃。
「おーし、お前らー、今日は転校生を紹介するぞー」
朝のHRの時間、担任の四方木教諭が教室に入ってくるなり爆弾を投下。
『『『マジで!?』』』
「マジマジ。とんでもなく奇妙な時期だが、マジもんの転校生だ! あと、ついでに言えば美少女な」
『『『おおおおお!』』』
ニヤリとした笑みを浮かべながら告げた事実に、クラス内の男子たちが期待度MAXで声を上げる。
ふむ。転校生、のう。
まあ、儂は誰か知っておるのでな。既存生徒が感じるドキドキ感などとは無縁じゃな。
より正確に言えば、儂だけではなく美穂と瑞姫も、なんじゃがな。
「おーし、入ってきていいぞー」
「はーい!」
四方木教諭が呼ぶと、扉の向こうから元気な返事が聞こえてきた。
それと同時に、ガラッと音を立てて扉が開き、その先から一人の女子生徒が入ってきて、黒板の前に立つとにこっと笑う。
「はじめまして! 翁里高校から来ました、時乃=C=アリスティアです! これからよろしくお願いします!」
いつも目にするような元気溌剌とした様子で自己紹介をするアリアは、儂が普段バイトで見かける時よりも生き生きとしておるように見えた。
さて、ハーフ美少女が転校してきたとなれば、当然、
『『『うおぉぉぉぉぉぉぉ!』』』
『やっべ、マジで美少女が転校してきた!』
『ハーフか! 可愛いな!』
『マジでラッキーだな!』
などなど、概ね男子からの反応は良好。
そして女子の方はと言えば、
『うわー、胸おっきー』
『ハーフだからかな』
『男子が騒ぐのわかるわー。露骨すぎてイラっと来るけど』
『『『それな』』』
おー、女子は男子にイラッとしているようじゃな。
まあ、可愛い転校生が来たとなれば、男子高校生などこんなもんじゃからな。まあ、いささか露骨じゃと思うがの。
「さて、正直お前たちがうるさいので、黙らせてやろう」
不意に四方木教諭がそう言うと、なぜか一瞬儂の方に視線を向ける。しかし、それは本当に一瞬のことであり、すぐさま視線を外すとニヤッとした悪い笑みを浮かべ、
「この時乃だが……生憎と、桜花の旦那らしいんで、お前ら絶対手ー出すなよー」
事実を言った。
『『『な、何だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!?』』』
いずれは知られることだったわけじゃが……これでは、もうちと先のほうがよかったのう……。
「あぁぁぁぁ……疲れたのじゃぁ……」
「お疲れ、まひろ君!」
「……おぬしは元気じゃな。あれだけ質問攻めに遭ったと言うのに……」
昼休み。
儂、美穂、瑞姫、アリアの四人は屋上にて昼食を摂っておった。
教室で食べてもよかったんじゃが、さすがに周囲の眼が酷くてのう。
あと、ハーフ美少女転校生が来た上に、それが学園で話題(美穂たちが言うには)の儂の旦那ということで、それがさらに余計な拍車をかけておったんじゃがな。
酷いものじゃ。
あと、儂が嫁と言うのは、アリアの中でも確定事項らしい。
「男子の方はいつも通りとして、女子の方もすごかったわね」
「ですね。翁里高校と言えば、この街にあるもう一つの高校ですからね。近くにある高校からここに転校してくる、というのも不思議がるのも当然です。もっとも、まひろちゃんの旦那さんだと知ってからは、理解している方もちらほらといましたが」
「そうじゃろうなぁ……。何せ、理由もなく近隣の高校から転校してくるなど、普通はあり得ない話じゃからな。まあ、それもこれも、瑞姫のおかげなんじゃがな」
「その節は、本当にありがとうございました」
「いえいえ。正確に言えば、お父様がしてくださったことなので、わたしにお礼を言う必要はないですよ」
「でもでも、瑞姫ちゃんのおかげでこうなれたんだし、お礼は言わせて! それから、美穂ちゃんにまひろ君もね」
「それこそ、私は何もしてないわよ」
「儂もじゃな。瑞姫だけでよい」
とびきりの笑顔でお礼を言ってくるアリアじゃが、儂と美穂は苦笑い気味にそう答える。
「……して、この一週間はどうじゃった? 何やら、テレビやネットニュースでも結構な話題になっておった気がするのじゃが」
「あ、うん。実はね――」
と、この一週間にあった出来事を、アリアは語りだす。
その内容は、いくらかニュース等で知っておるとはいえ、なかなかに濃いものじゃった。
まず、アリアの父親が勤めておった会社はやはり不正を働いておった。
一部の社員の給料が本来の額よりも少ないところから始まり、横領やら、大事な書類の偽造。さらには、社長は本来ならば運営に許可が必要な事業も裏で行っておったらしく、その件についても言及。しかもそれが、羽衣梓グループライバル企業と繋がっていたことが発覚。内側からじわじわと攻めて行き、いずれはライバル企業が乗っ取ろうと画策しておったらしい。
とんでもない企業じゃな。
で、当然それを知った瑞姫の父上は大激怒。それどころか、本社の幹部たちもこの件に関しては相当に頭に来たらしく、かなり重い制裁が下ったそうじゃ。
安い賃金で働かされておった社員たちは、本社や本社に近いグループ傘下の会社に異動となったりと、かなり地位が向上したらしい。
そこで疑問なのは、その中にあまり仕事ができないものがおるのではないか、ということじゃが、これに関しては心配はいらなかった。
と言うのも、安い賃金で働かされていた社員と言うのは、誰もかれもが優秀な者たちであったからじゃ。
逆に不正に関わっておった者たちと言うのが、仕事がほとんどできなかったり、私利私欲でしか動かないようなどうしようもない者たちだったらしい。
何せ、絶対に本社に報告させないように脅しなどもしていたそうじゃからな。
そして、会社内ではかなりの不正が横行していたこともあり、その会社は傘下ではなくなり、社長の逮捕で倒産。不正に関わった者たち全員、どこにも雇われることなく無職となったらしい。
未払いの賃金等に関しては、社長や幹部に支払い義務が発生し、更には不当に働かせていたということもあり、安い賃金で働かされておった社員たちが一斉に訴えることとなり、多額の借金を背負うことになったそうじゃ。
ちなみに、その中には当然アリアの父上もおる。
当然の権利じゃな。
不正を働いた者たちの中には、図々しくも他の傘下の企業に入社しようとした者もおるそうじゃが、当然そこに関わっていた者たちは軒並み周知されており、門前払い。それ以外の会社で働こうにも、この件は広く知られることとなり、やはりどこも雇っては貰えていないらしい。
まだ一週間でこれと考えると、この先はかなり大変じゃな。
自業自得なので、同情などできん。
で、ここからはアリアの家やそのほかの低賃金で働かされておった者たちの話。
まず、生活が安定したことが一番じゃな。
この辺りは、瑞姫の父上が動いてくれたようで、それぞれに支援をした。
少なくとも、今月全く問題ないレベルで不自由なく暮らせる額を支払ったそうじゃ。
この時点で相当すごいのじゃが、なんと住居に関しても支援をしてくれたらしい。
中には、結構生活環境がよろしくない場所で暮らす者もおったそうで、それでは仕事に支障が出ると社宅を用意したらしい。
本気度がパない。
この辺りは、アリアの方もその恩恵を受けており、今は今まで暮らしていた場所よりもずっと広い場所で暮らしているとのこと。
「――っていう感じだね。パパとママが本気で感謝してたよ」
「それはよかったです。お父様に伝えておきますね」
「うん、お願い!」
ふーむ、さすがお嬢……。
たまに『持つべきものは金持ちの友人』などと言う奴がおったが……なるほど。こういう状況になると、そう思ってしまうのも納得じゃな。
正直、瑞姫がおらなかったらどうなっていたことか。
最悪の事態、というものがあったやもしれぬな。
瑞姫には頭が上がらぬな。
……まあ、とんでもないロリコンではあるが。
「でも、結構な騒動よねぇ。瑞姫のお父さんは何か言ってた?」
「この件に関しては、かなり反省していましたね。もう少し、しっかりと見ていれば不当な扱いを受ける社員はいなかったのに、と。それと同時に、まひろちゃんとアリスティアさんに感謝していましたよ」
「む、儂か?」
「あたしも?」
アリアはともかくとして、儂が礼を言われると言うのは変な話なのじゃがな。
「えーっと、アリスティアさんの方は、単純にこの件を知るきっかけになってくれたことですね」
「でも、あたしは特に会社の不正につながるようなことを言った記憶はないんだけど……」
「あ、いえ。どことなくウィリアムさんに似ていましたので、もしかしたら、と。あとは、駆け落ちの部分ですね」
「どうして知ってたのかな?」
言われてみれば確かにそうじゃな。
かなりプライベートなはずじゃと言うのに、なぜそのようなことを知っておったのか。
美穂も疑問顔。
「それはですね、お父様が正体を隠して視察に行った際に偶然聞いたそうですよ」
「あ、そうだったんだ。なるほど、そこから……。瑞姫ちゃん、頭いいね。たったあれだけのことで理解するなんて」
「ふふ、たまたまですよ、たまたま」
にこにこと微笑みながらたまたまであると主張する瑞姫。
よく言うわい。
「常に学年トップに君臨しておる者が、何を言っておるんだか」
「そう言うあんただって、基本上位じゃないの。しかも、ちょこちょこ一桁台にいなかった?」
「それは調子のいい時じゃ」
「あれれ、もしかして三人は結構成績が良かったりするの?」
儂と美穂のやり取りを見て、少し意外そうにアリアが尋ねて来た。
「瑞姫と美穂は文句なしにな。瑞姫は今しがた言ったように、学年トップ。美穂はいつも一桁台にはおるよ」
「へぇ~、それはすごいね。あたしもうかうかしてらんないなー」
「アリスはどうなの?」
「あたし? 翁里高校ではいつもトップだったよ」
「……あー、強い。となると、この中ではまひろが一番下、ということになるのかしら?」
「そうじゃな。儂が一桁台に入る時は、大抵調子がいい時じゃからのう。いつもならば、十位~二十位台をうろちょろしておるからな」
一応普段から予習復習はある程度しておる。
成績が良ければ、教師からの評価もそれなりじゃからな。そうすることにより、あまり目を付けられず、ある程度の融通が利くというもの。
まあ、それが理由で健吾にも教えておったりするのじゃが……。あやつは、成績がお世辞にもいいとは言えんからな。
「地味に優等生ばかりが集まったわけね。一番下のまひろでさえかなり上位だし。……どうする? これで、生徒会メンバーの誰かがまひろと結婚する、なんてことになったら。あそこは、成績優秀者しかいないようなものだし」
「あー、まひろ君だもんねー。知らない間に知り合ってそう」
美穂が言ったように、この学園の生徒会はそれなりの権限を持っている関係で、生徒会に所属するための条件がある。
と言っても、テストの成績で三十位以内に二回連続で入り続けている生徒、と言うものじゃがな。
そう言う背景もあり、生徒会は成績が良い連中ばかり。
なので、美穂が言うことにも一理ある、が……
「そうは言うがな、儂に生徒会メンバーの知り合いなど、一人しかおらんぞ。一応、他も知ってはおるが、顔見知り程度じゃしな」
「え、知り合いいるの?」
「まあ、ちと去年色々あってな」
「女の子ですか?」
「女子じゃな。あやつは」
「歳は?」
「一つ上じゃから、今は三年生じゃな」
「今いる生徒会の三年生はたしか……生徒会長と副会長じゃなかったかしら?」
「そうですね。学園のアプリで確認しましたけど、その二人だけです」
学園のアプリ、生徒会のメンバーについても書かれておるのか。
図書委員長の仕事の件で屋本司書から聞いた時も思ったのじゃが、プライバシーはないのじゃろうか。
「で、どっち?」
「どっちとは、知り合いについてか?」
「うん」
「生徒会長の方じゃな」
「あー、あっちか」
「あっち、ですか」
儂の知り合いが生徒会長であると知ると、二人はやけに微妙な表情を浮かべた。
「二人とも、どうしてちょっと困惑したような笑みを浮かべてるの?」
「いや、何て言うか……たしかにあれは、まひろと波長が合うかもしれないな、と」
「波長?」
「はい。見た目は可愛らしい女の子、という風貌なのですけど、何と言いますか……無表情、ですね」
「あ、そう言う人なんだ」
無表情……たしかに、あやつはそうかもしれぬが、よく見ると表情豊かなんじゃがのう。
わからぬのか。
「ま、あやつと何かが起こるわけあるまい。ほれ、一週間前に話した時も言ったじゃろう? ちょっとした知り合いじゃと」
「あ、あれって生徒会長のことだったのね」
「生徒会長さんですか」
「うーん……まひろ君」
「なんじゃ?」
「それって、アニメやマンガで言うところの、フラグ、っていうあれなんじゃないかな」
「フラグ? ははは! 何を言うかと思えば。それはないな。あやつとは友人みたいなものじゃが、偶然そうなっただけじゃからな。それに、あやつはちとばかし特殊じゃからのう。儂のことも、そこまで思ってはいないと思うぞ? どんなに関心があったとしても、友人程度じゃろう。……って、どうしたのじゃ?」
「「「……一級フラグ建築士」」」
「不名誉な称号を付けるでない!」
まったくもって心外じゃ。
儂は別に、フラグなど建ててはおらんと言うのに。
儂はフラグ建築士などではないと言ったのじゃが、三人は慈愛に満ちた表情で儂を見ながら、『うんうん、そうだねー』と返すだけじゃった。
儂の信用、なさすぎじゃろ。
どうも、九十九一です。
四人目は一応ある程度の設定はあります。一応。まあ、見てわかる通り、生徒会長なわけですが。
明日も10時だと思いますので、よろしくお願いします。
では。




