日常149 添い寝。大人組はすんごい
「ん、んん……んぁ……?」
頭に感じる柔らかい感触と、優しく撫でる何者かの手に気が付いて、意識が覚醒する。
んん、この柔らかさに、撫でる手つきは……
「結衣お姉様……?」
「あら~、よくわかったわね~」
膝枕をしている人物を当てると、結衣姉は少しだけ驚いたような表情を浮かべた後、嬉しそうに微笑んだ。
「……んぅ、旦那様の太腿の感触と、手つきでわかるのです……」
「あらあら~、可愛らしいことを言ってくれるのね~。よっぽど、私たちのことが好きなのね~?」
「……旦那様たちのことは、世界で一番愛しているのです……」
結衣姉にそう訊かれて、儂の口からはするりと、愛しているという言葉が飛び出した。
「――っ。す、すごい破壊力ね~……」
誤魔化すことすらできないので、儂の口からは正直な言葉しか飛び出てこない。
なので、当然これも本心というわけで……それを知る結衣姉は、かなり顔を真っ赤にしておった。
いやまぁ、結婚式も挙げたし、今後はこういう部分に関しては素直に言おうとは思っておったからいいんじゃけども。
うむ、目が覚めて来た。
「……ともあれ、膝枕、ありがとうなのです、結衣お姉様」
一言礼を言ってから、儂はむくりと起き上がる。
寝ている状態はともかくとして、起きたままの膝枕というのは、申し訳なく感じる……。
尚、長距離移動時については、結衣姉が意地でも甘やかそうとするので、妥協案として座ったまま結衣姉の体に預けて寝る、という方法になっておる。
その場合、儂の後頭部どころか側頭部まで埋まるくらいのでかいおっぱい枕になるが……まあ、あれはあれでとても寝心地が良いので、若干嬉しい部分はある。
「遠慮しないでもいいのよ~?」
「ですけど、結衣お姉様の足が疲れてしまうのです」
いくら今の儂の体が小さく軽いとはいえ、ずっと膝枕というのも足が痺れて来ると言うものだろう。
もちろん、儂的には膝枕は嬉しいが……旦那共に少しでも辛い思いをしてまでやってほしいとは思わんからな、儂。
「大丈夫よ、ひろ君~」
「なにがなのです?」
「私はひろ君と結婚の約束をした日から、二十四時間でも膝枕が出来るよう、鍛えたからね~」
「何をどうしたらそうなるのです!?」
「正座したまま、少しずつ重い物を乗せて行って、長時間耐えられるようにしたのよ~」
「それ拷問だと思うのです!」
日本に昔あったあれじゃよね、それ!
というか、一人の女性がそんなことをしとったら、普通に怖いわ!
「うふふ、ひろ君と結婚出来て、甘やかすことが出来るのであれば、辛くもなんともなかったわ~」
「……結衣お姉様の愛が重いのです」
「私は重い女よ~?」
「理解しているのです……」
というか、愛する儂の旦那共は軒並み愛が重いので。
重い順に並べると……おそらく、結衣姉→ましろん→瑞姫→アリア→美穂→祥子姉になると思われる。
ましろんに関しては、過去が過去じゃからな。
そのせいかはあれじゃが、思い返してみれば、儂に対して妙に執着心を見せておった気がする……。
それに、家族と言うものに対して、並々ならぬ思いがあるのも事実じゃしな。
その辺りは、結婚式の前日に色々聞いたが。
瑞姫は変態なので重いだけ、以上。
アリアは軽い感じに見えて、実は少し重めである。
が、考えてみれば割と当然というべきか……そもそもアリアは、日本語が不十分な状態で日本に帰国し、慣れない環境にアルバイトとしては言ったわけじゃ。そこで色々と助けになったのが儂というわけで……まあ、結衣姉やましろんたちほどではないが、実は重い。
それに、儂が直接、というわけではないが、家が貧乏ではなくなったことも大きく関係しておるじゃろう。
普段でこそ、
『まひろくん大好き!』
みたいな感じのアリアじゃが、仮に儂が浮気したい、などと言おうものなら(もちろん言わんけども)、
『まひろくん、浮気? 浮気するの? どうして? あたしたちがいるでしょ?』
みたいな感じで、おそらく目が笑っていない状態で、いつもの天真爛漫な笑顔を浮かべながら問い詰めてくることじゃろう。
……尚、これはマジである。
情報ソースは儂。
美穂は正直重くないし、というか、人並み程度じゃろう。
祥子姉は……あれは別ベクトルの重さじゃな。愛情的というより、研究的な重さと言うか……いやまあ、あやつが儂を好いてくれておることは理解しておるが。
じゃが、考えてみればあやつって重くなるのか……?
旦那共の中で、最も感情の発露が少ないのは、何気に祥子姉な気がしてならんからのう……。
ましろんは出会った頃より、格段に今は感情が表に出とるからな。
その反面、祥子姉は普段は常に大人の余裕とでも言うべき冷静さを持っておるので、あまり感情が出ていないように思える。
研究に関連することであれば、無邪気な笑いもするんじゃが……それ以外の方面は、割と軽いというか……。
よくわからん。
祥子姉が今この場におったら、ついつい訊いてしまいそうじゃが……。
「おや、結衣君も来ていたのかい?」
と思ったら祥子姉が入ってきた。
まるで狙いすましたかのようなタイミングじゃのう……。
「こっそり来ました~」
「そうか。それなら、私も居座らせてもらおうかな」
「うふふ、大人組だけで独占ですね~」
「そう言えばそうだね。ま、我々は学生組の四人とは違って、なかなか触れ合う時間を得られないからね。たまにはこうしても許されるだろう」
「そうですね~」
考えてみればそうか……。
儂らは学生じゃから、学園内でもよく一緒におるが、結衣姉は教師の仕事であまり一緒におれんし。
大体一緒にいるのは、美穂や瑞姫、アリア、ましろんと言った、二人が言うような学生組じゃな。
うぅむ、そう考えると、この夏休みはある意味、大人組であるこの二人と触れ合う時間も増やせるというわけで……うむ、そうじゃな。
この夏休み、一人一人とデートをする、というのも、よいかもしれんな。
が、個人的にはあまり一人一人に偏らせたくないが……うぅむ、正直結衣姉と祥子姉は、あまりこう、仕事的なアレこれがあるし……夏休みは、できるだけ多く触れ合いでもするか。
その方がいいが……じゃが、自分で言うの、恥ずかしいのう……。
……うむ、これは後日、それとなく伝えよう。
「あら~? ひろ君、どうしたの~? 考え事~?」
「んと、二人との触れ合いが少ないと思いましたので、夏休みはできるだけ触れ合う時間を増やしたいと思っていたのです」
……あ。
ちくしょーめ! 訊かれたから普通に話してしまった!
くっ、質問という形はやはりアウトかっ……!
「あらあらあらぁ~! ひろ君、そんなことを考えていくれてたの~?」
「おや、私もかい?」
「は、はいなのです……その、二人とは平日はお屋敷でしか一緒にいられないですから……えと、嫌、ですか?」
ぬぉぉぉぉっ、恥じらいがっ、なぜか恥じらいが儂を邪魔するぅっ!
いつもはここまでではないのに!
「全然嫌じゃないわ~!」
「あぁ、むしろ嬉しいくらいだね。我々は、同じ敷地内にいても、同じ場所にいるわけではないからね」
「それなら、今日は一緒にいましょうか~」
「そうとなれば、軽くLINNに連絡でも入れておこう。瑞姫君辺りは羨ましがるかもしれないが……まあ、我々の事情を話せばすんなり受け入れてくれるだろうしね」
「そうですね~」
トトト、と話しながらLINNで連絡をする祥子姉。
おそらく、旦那共だけで構成されたグループに連絡でもしておるんじゃろう。
……ちなみにじゃが、そのグループで話される内容と言うのは……まあ、うむ、なんじゃ……儂に対する欲望と言えばよいか……場合によってはドギツイ内容の話がされておると思えばよいじゃろう。
儂はちらっと見たことがあるが……正直、戦慄したし。
というか、あやつらの性欲、強すぎじゃね……?
大人になったらとんでもないことになりそうじゃなぁ……。
「というわけで、連絡してみたところ、問題はないらしい。『ごゆっくり』だそうだ」
「それ、意味合いが何か違うと思うのです!?」
あやつらがごゆっくりって言う時点で、確実にそういうことじゃよな!?
「まあ、安心するといいよ。ただ三人でイチャイチャしよう、という話だから」
「……ほ、本当なのです?」
「本当よ~。そういうこともいいけど、普通にイチャイチャするのもいいものだからね~」
「……そ、そうなのですか」
なんか、安心した……。
正直、この状態で襲われようものなら、儂、マジで誤魔化しが効かなくて、とんでもないことになる未来しか見えんかったからな……。
「んん~? どうしたんだい? 少し残念そうだけど?」
「ふぇ!? な、なってないのです!」
「ふむ……これは嘘じゃないのか……」
よ、よかったっ……幸い、ここは本心じゃなかったっ……!
これがもし本心だったら、間違いなく今の儂は……喰われている!
危ない危ない……。
「まあいい。それで、イチャイチャする、とは言ったものの……実際にはどうしようか」
「そうですね~……ひろ君、何がしたい~?」
「えっと…………そ、添い寝?」
何がしたいかと問われて出て来た答えは、添い寝じゃった。
実際に言ってみて思ったが、普通の添い寝はしてもらったことがないな、儂……。
基本的に、その……事後だし……所謂、朝チュンというあれなので、純粋な添い寝と言うのはしてもらったことがなくね? 儂。
恋人ならば、誰もがするであろう添い寝……相手は大人の女性で、どちらともに包容力抜群の二人じゃから……あれ? マジでよくね?
二人に添い寝してもらうとか、最高じゃね?
うむ、良いな、添い寝。
「いいわよ~。それじゃあ、ひろ君はどっちがいい~?」
「なにがなのです?」
突然どっちがいいかと訊かれ、儂は首を傾げて聞き返した。
このタイミングで選択肢が出て来るって……一体どんな?
「ひろ君は、基本的に裸族なのよね~?」
「はいなのです」
結衣姉のその質問に対し、儂に恥じらいというものが出ることはなかった。
まあ、この辺は今更恥じらうようなものじゃないからのう。
というか、周知の事実じゃし。
「じゃあ、ひろ君としては、添い寝は裸とこのまま、どっちがいいのかな~?」
「……」
まさか過ぎる質問に、一瞬思考が止まった。
……そ、そう言う意味かぁ~~~っ!
な、なるほど……つまり結衣姉は、儂がどっちで寝たいか、と言って来とるわけか……。
……う、うーん……。
まあ儂、基本的に裸じゃし……。
「……は、裸なのです」
実際、これ以外なくね?
いやまぁ、今は普通に浴衣着とるけど。
しかし、なぜそんなことを訊いたんじゃろうか?
「あらあら、そうなのね~。それじゃあ……」
「では、私も」
「ふぇ?」
ごそごそ、となぜか二人が服を脱ぎ始め……ってぇ!
「な、なななななっ、何をしているのです!?」
突然服を脱ぎ始めた二人に、儂は顔を赤くしながら狼狽える。
え、何してんのこやつら!?
「だって、裸で寝るのよね~?」
「それ、二人も含まれていたのですか!?」
「当然だろう? 君だけ、というのも変な話だろうに」
「い、いやいやいやいや! あ、あの! さすがに、気恥ずかしいのですっ! ひ、一人で寝るならまだしも、その……ふ、二人も裸、というのは……はぅぅぅぅ~~~っ!」
((なにこの可愛い生き物……))
いきなり服を脱ぎ始めた二人に、儂は顔を真っ赤にしながら、顔を両手で覆った。
くっ、美穂たちはまぁ、なんかもう、同年代だから、で済ませることもできるんじゃが、この二人は大人の色気が半端なさすぎて、すんごいドギマギしてしまう。
というか、この二人のスタイルがすんごいんじゃもん!
胸がでかすぎるんじゃよ! マジで!
あと、どうでもいい情報じゃが、儂らの胸のサイズを順番に並べると、祥子姉=結衣姉→瑞姫→アリア→美穂→ましろん、儂、みたいな順番。
しかし、これは将来的には変動することが分かり切っており、結衣姉と瑞姫の間にましろんが入り、儂はアリアと同じか、少し小さいくらいなので、結果的に一番小さいのは美穂ということになる……って、儂は一体何を言っているんじゃ。
「ともあれ……だ」
「え、ふ、二人とも……?」
「は~い、脱ぎ脱ぎしましょうね~」
「子ども扱いなのです!? あ、や、やめっ――ひゃぁあ!?」
にこにことした笑みでにじり寄って来る結衣姉から逃げようと、後ずさるも、ガバッ! と勢いよく覆いかぶさられ、瞬く間に浴衣を脱がされた。
「はぅぅ、もうお嫁に行けないのですぅぅ……」
「いや君、既にお嫁に行っているよね? 主に私たちに」
「永久就職したもんね~」
……そうじゃけどね。
じゃが、なんか今のフレーズが口から出てしまったんじゃから仕方ない……。
「さて、と……では、私は左側にしよう」
「それじゃあ、私は右側を~」
一体何の話を? と思ったら、祥子姉が布団から出ておった儂を抱き上げ、布団に寝かせ、その両サイドに二人が横になった。
……す、すごい状況じゃな、これ。
全裸の幼女と全裸の美女×2の添い寝……エロゲとか、そういうビデオでしか見ないような光景なんですが。
しかし……な、なんじゃろう、このドキドキ感……。
普段、旦那共の前で全裸になる状況と言えば、風呂に入っとる時か、もしくは襲われとる時なわけで……特に後者に至っては、こんな風に甘い感じではなく、なんかもう……刺激的と言うべきか、まあとんでもない状況なわけじゃな。
……ちらり、と右を見ればそれはもう豊かな双丘を惜しげもなくさらしながらいつものほんわかとした笑みで儂を見つめる結衣姉がおり、左を見れば、そこには結衣姉と同レベルの胸を持った祥子姉が、やたらと優し気な笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。
……ど、ドキドキする!
「あ、あの~……す、すごい、恥ずかしいのですけど……」
「そう~? 私はとても気分がいいわ~」
「同じく。うぅむ、いつぞやの時はこういう感じではなかったから新鮮だね。あれだね。好きな人とこうして添い寝をする、というのはとても胸が温かくなる」
「で、ですが……」
「ひろ君は嫌なの~?」
「……い、嫌っ、ではないのです……むしろ、その……う、嬉しい、のです……」
かぁっ、と顔をこれでもかと紅潮させながらそう答えると、二人はニマニマとした笑みを浮かべてぎゅっと抱き着いて来た。
すると、温かくて柔らかい大きな胸に挟まれるような形になり、その……すごく、天国じゃった。
同じ学生組の美穂たちではできないこの状況……なんじゃろうか。すんごい気分が良くなってくる。
温かくて、柔らかくて、いい匂いがして、さらには、二人から頭を優しく撫でられるというこの状況は、とても心地が良く、なんだかとろんとしてくる。
「うふふ、ひろ君は可愛いね~……」
「あぁ、こうしているだけで、私も心が癒されていくよ」
そう呟く二人の声音は、なんだかいつもよりも慈愛に満ちておった。
結衣姉ならまだしも、祥子姉もこうなるとは……シチュエーションはやはり大事なのやもしれんなぁ……。
「んぅ~~……」
撫でられるのが気持ちよくて、なんだか瞼が重くなってくる。
が、しかし、それではもったいない気がして、ぶんぶんと頭を振って眠気を飛ばす。
「あらあら~、眠たくなってきたの~?」
「は、はいなのです……で、でも、せっかく二人と一緒なので、だから……ね、眠ったらもったいなくて……」
「おやおや、随分と可愛いことを言ってくれるね。ふふふ、君は本当に可愛くて……私たちをその気にさせるね?」
「ふぇ……?」
「……今日は三人だけ。それならいっそ、一日楽しんでみないかい?」
「んひゃっ!?」
耳元でいきなり囁かれて、背筋がぞくっとして、変な悲鳴が出た。
「あらあら~、そういうつもりはなかったのでは~?」
「いやいや、こんなに可愛らしいことを言われると……ねぇ?」
「うふふ、それもそうですね~。せっかくですし、今日は私たちが~……」
あ、あれ? なんか二人がすっごい妖しい笑みと共に儂の体に手を伸ばしてくるんじゃけど……?
と言うかこの流れって、もしかして、もしかしなくとも、そう言うアレ、じゃよね?
……はっ、ヤバい!
「ふ、二人とも、な、何を……?」
「うふふ、決まっているわ~」
「そうだね」
「「据え膳だね(よね~)」」
にっこりと笑みを浮かべて、二人はそう言った。
据え膳……やはり、そう言う意味のようである。
いつもならば、さっさと逃げようとする儂じゃが……この時の儂は、例の薬により、嘘が吐けなくなっとるわけで……さらには、儂とて中身は男じゃし、既に何度かそう言う経験をしとるわけで……まあ、うむ、なんじゃ……。
「……や、優しくね……?」
恥じらった表情と言葉と共に、儂は二人にそう言い放った。
当然、そんな姿を見せてしまったため、二人はと言うと……
「「喜んで!」」
それはもう、びっくりするくらいいい笑顔で承諾するのじゃった。
尚、これだけは言える。
大人組……やーばい。
どうも、九十九一です。
まあ、お察しの通り、あっちの話の布石の回ですね。次は大人組とだよ、此畜生。まだ、次の話しかけてないのにね、あっちの。
次回も以下略です。
では。