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日常123 結婚式前夜。個別の語らい:中

 瑞姫が退出し、再度一人になる。


 なんか、この調子じゃと他の面々も来るのではないか? となんと無しに勘ぐってしまう。まあ、結婚式前日の夜であると考えると、むしろそれが当たり前のような気もするが……。


 仮に人が来るとするれば……そうじゃな、多分次はアリア辺りか?


 次に来る人物の予想をしたタイミングで、再びドアがノックされた。


 よし来た!


「開いとるぞー」

「まひろ君、ちょっといいかな?」


 よっしゃ当たり!


「あれれ? なんだか嬉しそうだけど、何かあったの?」

「ん、ああいや、気にするでない、こっちのことじゃ」


 いかんいかん、予想が当たってちょっと嬉しくなり表情に出ておったようじゃ。


 どう見ても、アリアも真剣な感じじゃし、真面目に真面目に……。


「どうせおぬしも明日の結婚式が不安で儂と話したくなったんじゃろ? ほれ、儂の隣に座れ」

「あ、うん、ありがとう、まひろ君。……でも、おぬしも?」

「うむ。ついさっき美穂と瑞姫が来たからな。というか、この調子じゃ全員来る気がしとるよ」

「あ、あはは、考えることは同じなんだね」

「おぬしらは、なんだかんだ似た者同士じゃからのう」


 でなければ、仲良くなどできんじゃろうに。


「そっかー、うん、そうかもねー」

「……ふむ、いつものような元気はどうした? どこかへ置いてきてしまったか?」

「あー、やっぱり気づいちゃった?」

「当り前じゃ。おぬしとは、去年の春からの付き合いじゃ。下手したら、旦那共の中で一番付き合いが長いかもしれんのじゃぞ? それに、言葉を教えるのにも付き合ったんじゃ。おぬしの癖くらい、ある程度把握しとるわい」

「……おー、さすがまひろ君。お嫁さん力が高いね!」

「なぁ、それおぬしらの中で流行っとるの?」


 ましろん辺りも言っておったんじゃが。


 うぅむ、そんなに儂、嫁力高いのかのう?


「んーと、多分?」

「多分て」


 曖昧な返事じゃのう……。


「で? おぬしの不安とはなんじゃ? 言ってみぃ」

「あー、うん、えっとね、その……あ、あたしって、迷惑じゃないかなぁって思っちゃって……」

「んむ? 突然何を意味不明なことを言っとるんじゃ?」

「ほ、ほら、あたしって最初は家が貧乏だったでしょ? それで、瑞姫ちゃんのお家にどうにかしてもらって、今はこうして幸せに暮らせてるよね?」

「まあ、そうじゃな」


 実際、儂と結婚する前のアリアとか、こう言ってはなんじゃが……その、すごく貧乏、って感じがあったからのう。


 出会ったばかりの頃とか、マジもんの日の丸弁当じゃったし、あまりにもそれが可哀そうだったので、儂が家からおかずを作って来て渡したり、その弁当の量がさらに減った時なんかは、自分の弁当を七割方分け与えたりもした。


 他にも色々あったが……正直、迷惑と思ったことは一度もない。


 そんなアリアは、今は人並み以上の生活が出来ておる。


 高水準な生活になったと言うのに、何気に歪んでおらんのがすごいのう。


「でも、あたしは貰ってばかりで、何もしてあげられていないから……その、もしかしたら迷惑になっちゃってるのかなぁ、って思っちゃって……それで、その、まひろ君に良く思われてなかったらどうしようって……」

「ふぅむ、なるほどのう」


 まあ、その気持ちは理解できなくはないな。


 実際、アリアは傍から見ると貰ってばかり、という風に見えないこともない。いや、普通にそう見えてしまっている。人によっては、それをずるいとか、卑怯だなどと言うかもしれんが……。


「そうは言うがな、おぬしはあれじゃぞ? むしろ、今までが不運すぎた。その幸運がここに来てようやくしわ寄せのような形で来たんじゃよ。いや、この場合しわ寄せというより、幸せ寄せかのう?」

「まひろ君……ちょっと寒いよ?」

「ぐふっ……」


 くそぅ、儂的には割と上手いこと言ったと思ったのに……。


 やはり、儂にセンスはないのか。


「と、ともかくじゃ。おぬしはそんなことを気にする必要はない。そもそも、運も実力のうちとも言う。儂なんか、この姿になった挙句、金持ちのお嬢と結婚して、更には他にも儂にはもったいないくらいの美女や美少女と結婚しとるんじゃぞ? ある意味、おぬし以上に貰っておる。当然、その中にはアリアも含まれておるよ」

「まひろ君……」

「というかじゃな、貰ってばかりで迷惑をかけてるかも、などと言っとるが、儂がいつ迷惑などと言うた? 正直、去年とかな、おぬしのひたむきで前向きな所に何度も救われておったよ、儂は」

「そうなの?」


 ド直球に当時のことを話すと、アリアは驚いたような顔になる。


「うむ。初めてのバイトで、知らないことばかりでな、ミスも多くあった。おぬしの前とか、絶対に心配はかけまいと、必死になっておったんじゃぞ、儂」

「なにそれ、初耳!」

「そりゃあ、言っとらんかったからな」


 むしろ、恥ずかしくて言えんじゃろ、そんなこと。


 情けなさすぎね? とか思うわけで。


「じゃからまあ、ミスをしても真っ直ぐ頑張る姿に、儂は救われておったし、そう言う部分が好ましいとも思ったわい」

「……そっかー。まひろ君はあたしの中身で好きになってくれたんだね?」

「そりゃそうじゃろ。もちろん、容姿もかなり整っておるとは思うが、それで好きになるにはなんかこう、軽薄に思えてなぁ。別に一目惚れを否定する気はないがな。儂はそうなだけじゃ。……その点、おぬしは性格が明るく、周りにその明るさを伝播させる。そうそうできることではない」

「あ、あはは、真っ直ぐ言われると照れちゃうね……」

「んなもん、儂も照れるわい」


 何故儂、美穂と瑞姫、アリアと、現在部屋を訪ねて来た者たちに、こんな恥ずかしいことを言わなければならんのか。


 ……まあ、不安を取り除いてあげたい、そんな気持ちがあるからなんじゃがな。


「じゃからまぁ、おぬしは別に自身を卑下する必要などない。それに、何も与えられていないと思うのならば、これからそうすればよいではないか」

「……あ、そっか! そういうことだね!」

「うむうむ、理解したようで――」

「つまり、すぐにでもあたしとの子供が欲しいと言うことだね!」

「いやそれなんか違う!? いや、将来的には違くないけど!」


 少なくとも、すぐに作るとか無理!


 というか、なんで瑞姫と同じ発想しとるのこやつら!?


 美穂なんか、すんごい真面目な雰囲気で終わったぞ!?


 ……そう考えたら、美穂ってこう、本当に普通枠と言えるんじゃなぁ……襲いはしてくるけど。


「えー、だってこれからすればいいって」

「そう言ったけど! 別にそれは、子供だけじゃないじゃろ!? 例えばこう……儂を幸せにするとか! そんな感じでいいんじゃって!」

「んーと、じゃあ今は幸せじゃないのかな?」

「んなわけあるかい。今でも幸せじゃよ」


 こちとら、好きで結婚しとるんじゃぞ、幸せじゃないわけがない。


「そっかそっか! うん、なんだか安心した!」

「じゃろ? 別に今が申し訳ないと思うのならば、未来の方で頑張ればよいわけじゃからな。ある意味、下らん悩みじゃろ?」

「うん、そうだね。まひろ君の言う通りだったよ! ありがとう!」

「ははっ、いいってことよ」

「じゃあ、あたしはそろそろ――」

「おっと、アリア。ちっとこっち向け」

「うん? なにかんむっ?」

「ん……」


 部屋から出て行こうとするアリアを引き留め、こちらを向かせるなり不意打ちキス!


 どうせじゃ、尋ねてきた者たち相手には、自分からキスをしようと思う。


 ま、ある意味ケジメって奴じゃな。


 今までは受け身でいたが、結婚式というちゃんとした物をする以上、今後は旦那共から愛されるのではなく、儂自身も愛して行こうかな、と。


 なんとなくそう思った。


 ……まあ、それ以上に旦那共の攻勢が激しくなりそうじゃが……。


「よし、不意打ちじゃ。いつもの仕返しじゃな」

「……ま、まひろ君、その、すっごく可愛いです……」

「ふふふー、儂とて進化しとるんじゃよ!」

「あははっ、そうだねっ。じゃあ、今度こそあたしは行くね!」

「うむ、おやすみじゃ」

「うんっ! おやすみなさい! 明日、楽しみにしてるね!」


 最後はアリアらしい言葉を言い放って、アリアは部屋を出て行った。


 さて、美穂、アリア、瑞姫の順番で来たと言うことは、次はましろんじゃろうな。


 ふふ、予想は外さんぞ!


 内心意気込んでおると、予想通りにドアがノックされ、入っていいと告げると、


「ひろ君、入るわよ~」


 結衣姉が入って来た。


 なにぃ!? 予想が外れたじゃとぉ!?


 くっ、こういうところは普通、儂の旦那になった順番で来ると思っておったのに……!


 まさか、ここで定石を外して結衣姉が来るとは……まあよいか。


「結衣姉も話に来たのか? 美穂たちみたいに」

「あら~、もしかして私よりも先に美穂ちゃんたちが来たの~?」

「うむ。全員、不安があるとかで儂に話をしにな」

「そっか~、じゃあ、私もお話いいかな~?」

「もちろんじゃ。横に座るか? それとも、儂を膝に乗せるか?」

「ん~……今日はとりあえず、隣でいいかな~」

「そうか。ほれ、こっちへ座るといいぞ」

「ありがと~」


 うぅむ、これで既に四度目か……果たして、結衣姉の不安とはなんじゃろうか?


 ある意味、一番悩みとは無縁そうな感じじゃからのう、結衣姉は。


 普段からずっと、あらあらうふふ~、みたいなほんわか笑顔を浮かべとるわけで、あまり悩みがあるようには思えんからのう……。


「で? 結衣姉の不安はなんじゃ?」

「ん~、そうね~……なんと言うか~、私と祥子さんは大人でしょ~?」

「いやまあ、そうじゃな。二人は成人しとるな」

「だからこそというか、ほら、少し場違いなのかな~? と思っちゃって~……」

「あぁ、なるほどのう」

「みんなは高校生でしょ~? だから、その、私と祥子さんはあまり一緒にいられないな~、と思って~……」

「そうじゃのう……しかし、別にどうでもよくないか? 歳とか」

「そう~?」

「うむ。ってか、んなことを言えば祥子姉の方が年上じゃぞ? それに、結衣姉は学園の教師じゃろ? 普通に顔合わせもできるし」

「……でも~、ひろ君と結婚するのって、世間的に見たらその~……少しあれじゃない~?」

「んまぁ、教師と生徒、という関係性じゃからのう」


 そりゃぁ、一般的に見ればあまり良く思われることはないじゃろうな。


 実際あれ、学生よりも教師の方が色々と重いからのう……こう、偏見とかその他諸々が。


 しかしまぁ……。


「別に、今更じゃね?」

「そ、そうかな~?」

「そうじゃろ。というか、おぬしの場合、儂が小学生の頃から既に好きだったと言うではないか。儂からすれば、何を今さらと呆れるんじゃが?」

「……確かに~」

「じゃろ? ってか、んなもんあれじゃろ? そもそも結婚できないことや、学生側に所謂財力やら責任能力というものがないからこそ問題なわけで、儂らはほら、なんかもう例外じゃろ? 瑞姫とおぬし、それから祥子姉とか。全員が財力という点ではかなりあるしのう」

「それ、ひろ君もじゃないかしら~?」

「……否定はできんなぁ」


 両親もそうじゃが、婆ちゃんの財力も頭がおかしいことが発覚したしな。


 ちなみに、その婆ちゃんはこのホテルにて宿泊しておる。


 婆ちゃんがここで宿泊しているとわかった大人たち(主に会社を経営する者たちなど)は婆ちゃんにやたら挨拶したがっており、色々とやばかった。あと、何気に両親も。挨拶される側じゃった。


 うちの家、どうなっとんの? と思ってしまったものじゃが、なんかもう今更なので気にしないことにした。


「というわけじゃ。まあ、気にする必要などあるまい。そもそも、誰かに言われたわけでもないんじゃろ? ならば尚更じゃな!」

「……でも~」

「じゃあ、言い方を変えよう。その者が本気で好きかどうか、でいいのではないか?」

「……確かに~!」

「じゃろ? 儂はおぬしが好き、おぬしも儂を好き。これに何の問題がある?」

「ないわね~」

「そういうことじゃ。というか、儂らの場合、教師と生徒云々以前に、複数人と結婚し、尚且つ全員が同性なんじゃぞ? ある意味、倫理観アウトがトリプル役満みたいなもんじゃろ」


 麻雀しらんから、役満の使い方合ってるかはともかく。


「……とはいえ、おぬしは大人じゃからのう。一応歳はさほど離れてはおらんとは言え、色々と思うところはあるんじゃろう。儂らにはわからない悩みや不安なんかもあることじゃろう。しかし、んなもんは儂らが卒業すればお構いなしになる。ま、今は今で楽しめばいいじゃろ。ほれ、今度ある学園祭では、全員で何かしようってなったしな! ならば、今は今で楽しめば勝ちじゃ勝ち!」

「……ひろ君~」

「それに、明日は大事な結婚式じゃぞ? 前日に不安になってどうする。そもそも、儂らは既に入籍済み。今更じゃね?」

「確かにそうね~。考えすぎていたみたい~」

「うむ。そういうことじゃ。ではまぁ、元気が出るおまじないをしてやろう」

「あら~、何をしてくれるのんむっ」

「ん……」


 不意打ちキス四度目。


 膝立ちしながら隣に座る結衣姉の唇を自分の唇で塞げばOK。


 ふふふ、このまま行けば全員に不意打ちキスを達成できるな!


「ふふふー、どうじゃ? 元気出たか?」

「もちろんよ~! まさか、ひろ君からしてくれるなんて~」

「ははは、結婚式が明日あるのならば、別に恥ずかしがる必要もないなーと思ってな」

「ふふっ、なんだかお嫁さんらしくなってきたわね~」

「なんかそれ、美穂たちにも似たようなことを言われたわい」

「それくらい、板について来たっていうことじゃないかな~?」

「んー……ま、よいか」


 最近は嫌とは思わなくなってきたしな。


 元々、儂よりも旦那共の方が妙に男らしいと言うか、なんかやたらときゅんとさせる行動を取って来るし。


 突然お姫様抱っこされたり、いきなりキスされたら、思わずきゅんってなってしまうからのう。


「それじゃあ、私もそろそろ寝るわね~」

「ん、うむ。おやすみじゃ」

「おやすみなさい~」


 軽い挨拶をしてから、結衣姉が部屋を退出していった。

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