日常120 翌日。男同士での登校にて
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悪夢のような夜から一夜明け、翌日の朝。
儂は実家であるため、一応着替え等を残しており、尚且つ学園から直で来たため、勉強道具なども問題はなく、儂はこのまま学園へ行くことに。
美穂たちは一度屋敷の方へ戻り、後から行くとのこと。
婆ちゃんの方は、例によって四葉重工の本社へ行くとかで儂らとほぼ同時に家を出た。
一人で行くのも寂しいなー、と思った儂は、久々に健吾たちと登校することに決め、LINNで誘ってみると、すぐにOKの返事が来たので、家の前で待機。
「おーっす」
「お、おはようじゃ、健吾」
「おう。……なんか、お前がこの家から出てくんの久々に見たわ」
「あー、まあ、割と新学期早い段階で引っ越したからのう」
考えてみれば、あれは四月のことじゃからなぁ……。
そう考えると、引っ越してから二ヵ月近くは経っとるのか……時間が過ぎるのは早いもんじゃ。
「おっし、んじゃ早速行こうぜ」
「うむ」
待ち合わせが済めば、さっさと登校するに限る。
二人で他愛のない話をしつつ、学園への道を歩く途中で、優弥と合流。
久しぶりに三人での登校を楽しむ。
「……あ、そういや昨日さ、なんかお前ん家からなんか、すげぇ声が聞こえてきたんだけどよ、あれってまひろか?」
優弥と合流し、三人で下らない話に花を咲かせておると、ふと健吾が思い出したかのように、そんな言葉を儂に投げかけて来た。
……あー、十中八九、あれじゃろうなぁ……。
「……おぬしら、儂の部屋にエロゲがあるのは知っとるな……?」
「おう。よく三人でプレイしたよなー。全力朗読したり、逆にどのヒロインが一番好みか、みたいな」
「今思い返してみても、あれは楽しかった物です。男子高校生のノリ、とでも言うべき物でしたしね」
「……うむ。で、じゃな、昨日儂、うちで寿司パーティー的なことをしておったんじゃ。婆ちゃんが寿司の出前を取ってくれてな。それで、まあ、たらふく美味い寿司を食ったんじゃが……」
「おう、それで?」
「その途中、爺ちゃんと話す機会があって、儂と二人だけで――」
「「ちょっと待ってや(ください)」」
健吾に話の続きを促され、爺ちゃんのことについて触れると、二人から待ったがかかる。
「なんじゃ? 突然止めて……」
本題はここからなのに、と少しだけ口を尖らせる儂に、二人はさらに言葉を投げる。
「お前の爺ちゃん、死んでるよな?」
「うむ、死んどるな」
「なのに話す機会ってどういうことですか!?」
「……あ、それか」
たしかに、突然故人の人間と話した、と言われれば、そうなるか……。
というわけで、ここから先の話をする前に、一度昨日の夜の出来事をかいつまんで二人に話す。
その最中、二人は、えぇぇ……という、なんともドン引きしたような、困惑したような、そんななんとも言えぬ表情を浮かべておったが。
「……なるほどなぁ。お前ん家、やっぱおかしいだろ……」
「ですね……まさか、死者と話せる鏡があるとか、予想できませんよ。そもそも、『氣』という概念が出ただけでも驚きですが……」
「それは儂も思う」
昨日の夜に判明したことと言えば、婆ちゃんは『氣』を操ることで、人外の身体能力と動きを得られることと、戦車や戦闘機を相手に完勝できること、それから気弾が撃てることに、死者と話せる鏡が存在し、そして死者の世界があり、お盆に爺ちゃんが返って来ること……なんか、大半が婆ちゃんのことなんじゃが。
婆ちゃん、すごいのう……。
「んで? 爺ちゃんと話せてどうだったよ?」
「そりゃぁもう最高じゃったわい! 爺ちゃんが亡くなってから早数年! 日に日にこれが当たり前と認識しておった中に、本物の爺ちゃんと話せたんじゃぞ!? これを喜ばずして、なんと言うか!」
「お、おう、お前の熱意はわかったが……それの何が問題だったんだ?」
「そうですよ。お爺さんと話せたのなら、今頃うっきうきだと思うんですが」
「…………儂、爺ちゃんとサシで話したり、婆ちゃんも交えて三人で話したりしとったんじゃが……あやつら、その間何しておったと思う?」
遠い目をしながら、儂がそんな問いを二人に投げかけると、二人はうーんと軽く考えこみ……答えに思い至ったのか、ま、まさか、とこっちを見た。
「……ははっ」
「うっわ、お前最悪じゃねーか!」
「ま、まさか本当に……?」
「……各々、お気に入りができとったわい……」
「「うわぁ……」」
儂の呟きに、二人は同情的な視線を儂に向け、同時に可哀そう、みたいな声を漏らした。
同情が、心に沁みるわい……悪い意味で……。
「お前、なんで隠しとかなかったんだよ……」
「いや想像できんよあれ!? 数ヵ月前とか、普通におぬしらとプレイしておったじゃん! 何をどうしたら、そのすぐ後に旦那が複数できて、尚且つ勝手に入ってプレイするとか想像できんのじゃ!
「「まあ……それはそう」」
「ううっ、儂の趣味がもろバレに……」
「お前、既にアレコレしてんだから、とっくにバレてんじゃねーの……?」
「……まあ、それはそうなんじゃがなぁ……」
健吾の言う通り、儂は既にあやつらに色々とバレてはおるんじゃがな……性癖とか。
いやもう、潜在的だった部分を表面に引き上げられるとは思わんかったよ、儂……。
「……ちなみに、後日屋敷で全員でプレイしよう、という話にもなった……」
「「何の拷問それ!?」」
「……儂、死ぬんじゃないかなぁ……」
そう呟き、儂は遠い目をした。
ただでさえ、色々と知られたと言うのに、後日全員でプレイするとか……いやもう、儂の精神を殺しに来ているのかと思ってしまうくらいに、なかなか酷いことだと思うんじゃよなぁ、儂……。
「ま、まあ、元気出せって、な? それに、今週はお前、結婚式があんだろ?」
「……あー、うむ。そうじゃな……ちなみに、おぬしらは来るのか?」
「そら当然だろ。幼馴染の結婚式だぜ? ってか、お前の旦那たちを抜いたら、俺らが一番仲いいじゃん」
「そうですよ。親友の結婚式に行かないわけがありませんよ」
「おぬしら……ほんとに、おぬしらといると、精神が休まるわい……」
「……まあ、なんだ。いつでも愚痴聞くからよ、元気出せって」
「遊びにも付き合いますから」
「うむ、本当にできた親友共じゃなぁ……」
二人の優しさに、儂の瞳からほろり、と涙が零れた。
「あ、そういやよ、昨日はまひろに聞き忘れてたんだが……」
「む、なんじゃ?」
二人に慰められつつ、なんとか調子を取り戻してきた儂らは、再び他愛のない話に花を咲かせる。
そんな中、先ほどと同じような話題転換の仕方をしつつ、スマホを操作しながら聞き忘れがあると言って来る。
「えーっとだな……あー、これだこれ」
そう言って健吾は自身のスマホの画面を儂に見せて来た。
そこには……いつぞやの、ナンパ男たちに説教をする儂の姿がバッチリと収められておった。
「なっ、そ、それはぁっ!」
「これ、まひろだよな?」
「あ、それ僕も聞きたかったんですよね。たしか、月曜日でしたか。まひろさんたちが学園を欠席した日、ふとSNSを覗くと『のじゃろり幼女師匠』というワードがトレンド入りしておりまして、気になって見てみると、その動画があったんですが」
「うわぁ……ちなみにこれ、クラスメートなどは……?」
「結構話題になってましたよ?」
「マジで!?」
「そりゃそうだろ。ってか、のじゃろり、って時点で俺らはなんとな~く察しがついたし、クラスの奴らなんかも、その字面からある程度予想出来てたみたいだしな」
「ま、マジかー……」
そうか、あの動画、既に広まっておったんじゃなぁ……クラスメートたちに……。
……いや待て? クラスメートの広まっとると言う事はこれ……学園側にも知られておるのでは? さらに言えば、我が瑞姫以上と思えるほどのド変態従姉こと、月奈姉にも見られた可能性が……い、いや、一応母上たちに言って、儂のことは月奈姉には言わないように言ってあるし、親戚にも同様のことはした……大丈夫、大丈夫じゃよな?
最近、SNSの通知がえらいことになった影響で、通知を切っとるからのう、あれ。
もしや、その中にあやつの者も含まれておるのでは……?
……いや、深くは考えまい。
幸いなことに、月奈姉は呼ばれとらんみたいじゃからのう。
その辺りは、儂が必死に懇願したから。
あやつがいたら、儂だけでなく、ましろんまでもが餌食になってしまいかねない……仮に、結婚式というめでたい場所でも間違いなく暴走することじゃろう。
その点、瑞姫は大事な場面……とりわけ、本当に真面目な場所では、割とまともじゃからな……一応。その頭の中はわからんが。
「ってか、この時のお前、旦那たちが侮辱されてブチギレただろ?」
「ま、まあ、な。さすがに、好いた者をバカにされるのは、腹が立つからのう……つい」
「それが原因なんでしょうが……まひろさん、知らず知らずのうちにファンクラブ、出来てますよ、学園内に」
「なんで!?」
どういうことなんじゃそれぇ!?
優弥から放たれたとんでもねぇ言葉に、儂はびっくり仰天。
「あー、それな。まひろって、元々有名だったけどよ、これがきっかけでかなり人気でてんのよ。好きな人のためにキレる姿は普通にカッコイイし、何よりおまえは普段が普段だからなぁ」
「元々、ぐーたらで鈍感なタイプでしたので、これが新鮮に映ったんでしょうね。おかげで、人気がどっかんどっかんですよ
「えぇぇ……」
そう言えば昨日、婆ちゃんが帰って来たから一日中浮かれ気味で、周囲からやたら視線を貰うなぁ、とは思っとったが……あれ、気のせいじゃなかったんかい!
あれ、有名人を見るファンの視線じゃったのか……。
「し、しかし儂、もう旦那が六人おるんじゃよ? さすがにこれ以上――」
「……え、待って? 六人? 五人じゃなくて?」
「まひろさん、もしやまた一人増えたのですか……?」
「……あ、そういやおぬしらにはまだ言っとらんかったか。実はおぬしらと遊びに言った次の日、一人増えてなぁ……」
「お前、また女引っかけてきたのかよ……」
「今度は誰ですか?」
「……日本における、TSF症候群を研究する施設の責任者」
「「えぇぇぇぇぇ……」」
「……ちなみに、儂の親戚でもある」
「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」」
二人はそれはもうマジかよこいつ、ほんとにやべー……みたいな反応を見せた。
しかも、呆れしかない感じがして、それが胸に刺さる……。
「お前、そんな有名人とも結婚したのかよ……」
「うむぅ……って、え? 有名人? 祥子姉が?」
「はい。え、ご存知なかったのですか?」
「む、むぅ?」
祥子姉が有名人と言われ、儂は頭に疑問符を浮かべて、首を傾げる。
どういうこと?
「神祥子って言やぁ、世界的にも有名で、TSF症候群の研究を大きく勧めた天才だぜ?」
「しかも、その容姿もかなり整っており、思わず恋に落ちる人が後を絶たないと言うレベルの美人でもあります。何より、クールな美貌が魅力的だとか」
「お、おおう……」
……儂からすると、ただのワーカーホリックで、マッドサイエンティストで、ドSなただの親戚のお姉さん、って感じなんじゃが……。
いやまぁ、たしかに祥子姉は美人じゃし、何よりスタイルも抜群。
そりゃぁ人気も出るわなぁ……。
「たしか、様々な人たちから求婚されている、と聞きましたが……まさか、身近にその人と結婚した人がいたとは、驚きです」
「は、ははは……まあ、色々あって、な」
「ま、まひろのことだから、なんかもう驚かねーけどよー」
「ですね」
そうかー、祥子姉って、有名人じゃったかー……。
「して、話を戻すが……ファンクラブとか、何しとんの? それ」
「あー、別にまひろと結婚したい! なーんて思う奴は少数だぞ?」
「そうなのか?」
なんか意外。
そう言うのってこう、是非付き合いたい! みたいな感じになると思うんじゃが……。
「そりゃあな。だってお前、音田に羽衣梓、時乃に生徒会長、それから桜小路先生と、そりゃぁ個性の強い人たちばかりなんだぜ? しかも、大抵誰かがお前と一緒にいるってんで、だーれも突撃出来ないわけよ」
「なるほどのう……」
「まあ、あれだ。推しのカップルを見守るのがメイン、みたいな感じじゃね?」
「そうですね。そう言った面が強いかと」
つまり、特段害はないわけじゃな。
ならば安心、と思っておると、健吾たちの表情が途端に曇る。
「む、どうしたのじゃ? 急に曇って」
「……ちなみにさ、俺たちってファンクラブからするとどう思われてると思う?」
「なんじゃ、突然。そりゃあ……儂と仲のいい男子?」
「答えは、『百合の間に挟まる男友達』と思われてんだよ」
「……それ、絶対に許されない奴ではないか」
「そうです。そう思われていると言うことはつまり……」
「襲撃される、か?」
「「正解」」
あー、それはたしかに曇るのう……。
この反応から察するに、昨日も襲われたんじゃろうなぁ……。
「なんか、すまん……」
「いや、いいんだ。別にお前がわるいわけじゃねーし」
「はい。まあ、発症者と仲が人たちのある種宿命ですかね」
「嫌な宿命じゃなぁ……」
……ということは、あれか。あの場にいた者たちの友人たちも、健吾たちのような状況になっとるということか……怖いのう、世の中。
「ま、悪い奴らってわけじゃないみてーだし、気にしなくていいんじゃね?」
「仮に何かあっても、羽衣梓グループからの報復があると考えたら、誰もしないと思いますが」
「それはそうじゃな」
羽衣梓グループ、強いからなぁ……。
などと、なんか変な話題が出つつも、儂らは和気藹々と学園への道を歩く。
どうも、九十九一です。
この話数なのに、未だ作中時間が六月……果たして、いつになったら一年が終わるのだろうか。
次回も以下略です。
では。