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日常116 寿司パーティー。強さの秘訣とか

 ましろんの服が破れると言う事態が発生したため、儂は大急ぎで服を調達。


 幸いなことに、儂の男時代のYシャツならば上は着ることができ、ブラジャーはさすがに儂の成長時でもきつかったために着ることが出来なかったが、パンツの方はどうにかなった。


 一応、一着程度は大人の体になった時用の下着があるが、微妙に小さかった。


 仕方がないので、ましろんは今日Yシャツとパンツ、あと男時代の短パンを穿くことになった。


 それからは、適当に雑談をしながら寿司が届くのを待つ。


「……ふふふ」

「ご機嫌じゃのう、ましろんよ」

「……ん、念願の巨乳と身長。やはり、嬉しい」

「儂が高校生以上になると、おぬしは随分と儂の胸を凝視しておったものなぁ……」

「……羨ましかった。でも、私の体は成長することがわかったから良し」

「そうか」


 ともあれ、滅多に見れないわかりやすいレベルの笑顔に、儂も自然と笑みを零す。


 ましろんは基本的に無表情故、あまり笑わんからのう……。


「くっ、まさか真白さんに、ここまでの成長の可能性があったなんてっ……!」


 と、反対に美穂は歯噛みしておったが……。


 そう言えば、美穂も小さいことを気にしておったな……別に、無いわけではなく、丁度いいサイズじゃと思うが……その辺り、女心は複雑ということじゃろうな。


 儂には未だわからん。


「さて、そろそろ来る頃だが……っと、来たみたいさね」


 婆ちゃんがそう言った直後、家のインターホンが鳴る。


「ワシが出るから、まひろたちは待ってな」

「手伝わんでもよいのか?」

「問題ないさね。ただ……さすがに量が量だろうから、置き場を作ってくれると嬉しいね」

「うむ! 任せるのじゃ!」

「じゃ、頼んだよ」


 そう言って婆ちゃんは玄関の方へ向かった。


 その間、儂らはせっせと場所づくり。


 持ってこられるだけ持ってこいと婆ちゃんが言ったため、おそらく相当量来ると予想されておる。


 故に、テーブル程度じゃ乗り切らないと判断した儂らは、リビングのソファーやらテーブルやらを一旦端に寄せて、床で食べる形式に変更。


 ちなみに、瑞姫はまだ起きない。


 相変わらず安らかな笑みを浮かべておるわい。


 儂は『獣化』を用いて手伝う。


 でなければ、まともな戦力にならんからな。


 そして、成長状態のましろんは……


「……うぅ」


 空腹状態で動けなくなっておった。


 さっきまでは会話やら成長できたことへの嬉しさから気付いてはおらんかったようじゃが、実際には相当な飢餓感が襲っておったらしく、今は床に倒れ伏していた。


 顔は青く、心なしかげっそりしているように見える辺り、重症じゃろう。


「……ご、ご飯……まだ……?」

「今婆ちゃんが受け取っておるよ」

「……く、空腹が、す、凄まじい……」

「じゃから言うたのにのう……」

「真白さん、どれくらいお腹が空くの? その状態って」


 ふと、成長における代償である飢餓感がどの程度なのか気になったアリアが、倒れているましろんに向かって質問を投げかける。


 瀕死の者に容赦なく質問する辺り、何気に酷い。


「……わ、私がたらい回しにされていた頃の、あまりご飯をくれなかった家にいた時、と、同じくらい、の飢餓感……」


(((((お、重い……)))))


 例えがものすごく重かったために、儂らの間に流れる空気も必然的に重くなった。


 ましろんおぬし……本当に過去が悲惨じゃな……。


「……しんどい」

「じゃろうな。婆ちゃーん、まだかのー?」

「あぁ、もう受け取ったから、すぐそっちへ行くよー!」

「らしいぞ。ほれ、起きた起きた」

「……お寿司!」

「うぉっ!? 空腹でもそれほどの動きが出来るんかい」


 さすが食に対する執念が違うわい……。


 さて、そんなこんなで婆ちゃんが寿司桶を大量に持ってリビングへ戻って来た。


「とりあえず、まずは第一陣さね。第二陣以降は、リビングの入り口近くに置いとくよ」

「「「「「お、多い……」」」」」

「……こ、ここがアヴァロンか!」


 婆ちゃんが持って来た寿司桶は、ざっと十段くらいあった……しかも、それが両手に。


 つまり、現在儂らの前には二十個分。


 しかもこれが全てではなく、第一陣……まだまだあるということじゃな。


 そのとてつもない量に、儂を含むましろん以外の面々が戦慄するが、ましろんだけは目を爛々と輝かせておった。


 これを見てもそう言えるましろんはすごい。


「……っと。とりあえず、これで全部さね。ざっと数十人前はあるが……真白嬢ちゃんは食えるかい?」

「……余裕! 今ならいくらでも行ける!」

「ははははっ! 頼もしい嬢ちゃんだねェ。よし、じゃあ早速食べるとしようか!」

「うむ! ……っと、その前に瑞姫を起こすか」

「あ、すっかり忘れてたわ」

「あ、あたしも」

「……早く食べたい」

「ダメよ~。みんな揃ってからじゃないと~」

「ふむ、どうやって起こすんだい? この瑞姫君を」

「うぅむ……ま、仕方あるまい。ここは儂が起こそう」


 正直、この状態の瑞姫を起こすのに最も効率が良いのは、儂じゃろうからな。


 儂は未だ眠り呆けている瑞姫の元へ向かい、耳元に口元を寄せ……


「……おねーちゃん♥」


 美穂たちには聞こえないように、小さな、それでいて甘い声で囁く。


 すると、


「――ハッ! おロリ様の声がしましたっ! 可愛らしいおロリ様はどこですかッ!」


 カッ! と目をかっぴらいたかと思えば、辺りをものすごい勢いできょろきょろと見回し始め、ロリを探し始めた。


 ほらな、一発。


「あー、婆ちゃん。とりあえず、これが気絶しておった旦那、瑞姫じゃ。羽衣梓グループのお嬢様で、ロリコンで、変態の旦那じゃな」

「なんだい、随分と個性の強い嬢ちゃんだねェ。面白い」

「……あ! お、お婆様!? これは大変失礼いたしました。羽衣梓瑞姫です! まひろちゃんの旦那さんをしております! よろしくお願いいたします!」


 婆ちゃんが目の前にいると気づいた瑞姫は、慌てて挨拶をすると、婆ちゃんはそれを微笑ましそうに見つめる。


「うんうん、元気のいい嬢ちゃんだ。……さ、瑞姫嬢ちゃんもこっちに来な。ワシの奢りの寿司だ」

「あ、これはどうも……って、あら? なんだか見知らぬ女性が……ナイアガラの如き涎を流していますが……」

「あぁ、とりあえず、それはあとじゃあと。さっさと頂くとしよう」

「あ、はい」

「じゃ、手を合わせて――」

「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」


 全員そろっていただきますをして、各々が好きな寿司を食べ始める。


 寿司の味は、それはもう絶品じゃった。


 どれもこれも脂が乗っており、さらには新鮮なのか、臭みが何一つない。


 シャリも素晴らしい塩梅であり、ネタとの相性が最高じゃった。


 思わず無言で食べまくってしまうくらいに。


 それは他の面々も同様であり、全員がパクパクと寿司を口の中に入れては嚥下し、再び別の寿司を口に入れていく。


 その中でもましろんの食べる速度は群を抜いておるな。


 一個食べたと思ったら、次の瞬間には既に別の寿司が口の中へ移動していたからのう。


 そのせいか、ものの数分で三個の桶の寿司が消えた。


 速すぎる……。


「……美味しい。いくらでも入る……!」

「いくらでも、はさすがに無理だけど……ほんっとに美味しいわね、このお寿司」

「ですね……この街にここまで美味しいお店があったとは知りませんでした」

「はむはむっ……あたし、高いお寿司って初めて! すっごく美味しいね!」

「こんなお店、あったかしら~?」

「研究所近くの寿司屋にはよく行くが、ここまで美味しい物ではなかったな……やはり、味が良いというのは、幸せな気持ちにさせてくれる」

「はははっ! いい食いっぷりだねェ、嬢ちゃんたち。奢ったこっちも嬉しいってもんさね。特に、真白嬢ちゃんは速いのに、随分と綺麗に食べる」

「……ん! 一粒たりとて残さない。それは、食べ物と職人に対する冒涜……!」

「ほう、いいこと言うじゃないか。そうだ。世の中食えない奴らもいる。なのに、飯を残して挙句捨てる奴すら今の世の中には多い。全く嘆かわしい。もし戦争になれば、そんな贅沢できないってのにねェ」


 婆ちゃんの言う事は実際正しい。


 ファミレスなどに飯を食いに行くと、たまにかなりの量の料理が残されている時がある。


 アレを見ると、飲食店で働く身としてはものすごい腹が立つ。


 最初から食えない量を注文するんじゃない、とキレたくなるわい。


 しかし、そういった者たちに限って、売れてるからいいじゃん、という上っ面だけしか見ない者も多い。


 じゃが、それはあくまでも店であり、金を払った側じゃから怒られないわけであって、それが身内の造った料理に対してやったら、そりゃキレるというもの。


 そもそも、作った側も大変じゃと言うに、近頃の若いもんときたら……いや、儂も若いもんじゃけど。


「……ん、残すは恥」


 恥とまで言うか。


 ……ま、わからんでもないか。


「あのー……ところで、そちらの女性はもしかして……」


 と、ここで瑞姫が銀髪美女状態のましろんの姿について恐る恐る尋ねてきたので、隠すこともなくその正体を話す。


「あぁ、うむ。ましろんじゃよ」

「……えっ!? な、なぜおロリ様ではないのですか!?」


 寿司を食う手が止まり、世の損失ぅ! と言わんばかりの表情で叫ぶ瑞姫。


 うーむ、予想通り。


「あー、かくかくしかじかでな」

「これこれロリロリというわけですか? へぇ~……なるほど、まひろちゃんの能力がそういうものだった、と。……ハッ! では、わたしをおロリ様にすることも、美穂さんたちをおロリ様にすることも可能と言う事ですか!?」


 ほらな! 予想通りのことを言い出しおったわい!


 ここまで来ると怖いと言うか、普通に安心するレベルじゃが。


「まあ、可能じゃな。じゃが、おススメせんぞ?」

「どうしてですか!? おロリ様がたくさんいると言うことは、素晴らしいことではないですか! パラダイスですよ! パラダイス!」

「パラダイスて……よいか? この能力は、若返らせれば代償などないが、逆に成長させるととてつもない飢餓感が襲うんじゃぞ?」

「付け加えると、成長させた年齢分の飢餓感、かな。推測だがね」

「そのようなことはどうでもいいです! おロリ様になれることこそ重要! 空腹の辛さなど、おロリ様という至高の天使を見ることが出来れば、この羽衣梓瑞姫、悔いはありません!」

「なっ、なんという澄んだ瞳……!」


 これが変態の瞳じゃというのか!?


 どう見ても、純粋な小学生が夢を語る時と同じような瞳なのに、その内容がほんっと~~~~~に! しょうもなさすぎる!


「でも瑞姫。瑞姫が幼女化したら抱っこ出来ないんじゃないの?」

「いえ! わたしがおロリ様になることで、ロリロリな絡みができますから! 抱っこ以上のエクスタシーを得られると思うのです! やはり、百合ロリは最高!」

「おぬしもう黙れ!?」


 今飯中なんじゃが!


 というか、マジでロリが絡むと変態度が増すのなんなん!?


「はっはっは! 瑞姫嬢ちゃんは随分と面白い子だねェ……なるほど、本当にまひろは面白い子たちを旦那にしたもんだ。これも、まひろの人徳かね?」

「これがもし人徳であると言うならば、儂は前世で相当な業を背負ってはおらんか? 婆ちゃん」

「ま、そういうもんさね。こういうのは運命ってもんさ。ワシが源十郎と出会ったようにね」


 まあ、たしかに爺ちゃんと婆ちゃんが結婚していなければ、儂は生まれとらんし……たしかに、運命なのやもしれぬ。


「あ、そうだ。まひろ君のお婆ちゃんに聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「あぁ、構わないさね。なんだい? アリス嬢ちゃん」

「んっと、お婆ちゃんってなんでそんなに強いんですか?」


 ふと、この場にいる全員が気になっておったことを、アリアが尋ねる。


「ワシかい? あー、そうさね……最初の頃は、身体的技術や実践を積むことで強くなっていたんだけどねェ」


 その時点で何かおかしいような……。


「けど、それじゃあ人を助けられない、なんて事柄によく出会っちまって、力不足で助けられんかったのさ」

「いやあの、具体的にはどんな……?」

「建物が崩れて、その下敷きになっちまった人を助ける時だね。あの時は悔しかったねェ……」

「普通、一人で助けようとはしないと思うのですけど……」

「生憎と、そん時動けるのワシしかいなくてね。ま、なんとか助けられた命もあったが……無理な命もあった。だからワシは考えた。『そうだ、肉体的にこれ以上の成長が望めないのならば、それ以外の方法を探ればいい』と」

「お、おう。それでどうしたのじゃ?」

「まず、中国へ渡った」

「「「「「「「なんで!?」」」」」」」


 なぜわざわざ中国へ渡ったのか!


 すんごい気になる!


「中国武術って奴さね。ほら、あるだろう? 『氣』って奴さ」

「……まひろ、なんか空想上の単語が出てきた気がするんだけど、気のせい?」

「いや、気のせいじゃないじゃろ? 儂も聞こえたし」


 美穂が怪訝そうな顔で気のせいかと言ってきたが、儂も聞こえてたので、気のせいじゃないと言葉を返す。


「で、秘境と呼ばれる場所へ赴き、ひたすら鍛えていたら……遂に、氣を扱えるようになってね。それのおかげで、肉体は老化しにくくなったし、何より体が頑強になり、さらには身体能力も大幅に向上したのさ」

「お、おぉ……! 婆ちゃん、すごいのう! そんなことができるのか!」

「相当苦労はしたがね。けど、この力のおかげで出来る幅が広がったもんさ」


 はっはっは! と豪快に笑う婆ちゃんじゃが、儂を除いた面々が『ええぇぇぇ……』という若干引いたような表情を見せた。


「ま、まひろはワシとあいつの孫だ。才能を引き継いでいそうだがね」

「マジか! もしや儂も同じことが!?」


 もしそうならば、婆ちゃんと一緒のことが出来ると言う事か……!


 すごく嬉しいが、婆ちゃんは苦笑しながら言葉を続ける。


「できるとは思うよ。おススメしないが」

「そうなのか?」

「まあね。扱いが面倒だし、何より体の問題もある。あれは、いくらか成長してないと扱いきれないのさ」

「つまり、大人にならなければ難しいと?」

「そういうことさね。ちなみにだが、嬢ちゃんらの屋敷のメイドたちには、この『氣』の技術を仕込むつもりさ」

「「「「「「え!?」」」」」」


 婆ちゃんのとんでも発言に、儂を除いた旦那共が驚きに目を見開いて婆ちゃんを見た。


「当然さね。大事な孫と、孫の旦那たちを楽々と守り抜ける力がなければ、安心できないもんさ。それに、メイドたちも強くなりたいとワシに願い出た以上、それに応えないわけにはいかんよ。特に、あの柊という嬢ちゃんはなかなかの逸材。ワシの手にかかれば、一ヶ月程度で今の倍以上の強さを仕込めるよ」

「さすが婆ちゃんじゃな! 頼もしいのう!」

「ははは! そう言われると、ワシとしても嬉しいもんさ。ありがとうよ、まひろ」

「うむぅ!」


 いやー、強くするとは言っておったが、まさかそんなすごい方法じゃったとはのう……。


 予想外も予想外じゃが、婆ちゃんなら不思議じゃないな!


「すっごいファンタジーなこと言ってるんだけど……まひろ、あんた、よくもまあ普通に称賛できるわね」

「まあ、婆ちゃんじゃし」

「TSF症候群というファンタジーな病気がある以上、今更ファンタジーな単語や存在が出て来ても不思議じゃありませんでしたが……まさか、『氣』とは……」

「びっくりだよね」

「……ん、だから私の成長がわかったと納得」

「そうね~。祥子さんとしては、どう思うの~?」

「是非とも研究したいが……さすがに、小夜子さんを困らせるわけにはいかないからね。いつかは、といったところだ」

「それでも研究はするんじゃな」

「当然だろう? もしかすると、TSF症候群の謎を解明する足掛かりになるかもしれないからね」

「たしかに」


 思いもよらぬファンタジーが出て来たが、祥子姉の言う通り、もしかするとこの『氣』が関わっている可能性も0ではないのか。


 特に、儂のような身体系の能力を保持している者たちが使うエネルギー的なあれが、氣である可能性もあると言う事でもあるからな。


 ま、さすがにないとは思うが……。


「そう言えば、その『氣』? どういったことができるんですか~?」

「そうさね……さっきも言っように、身体能力の向上がメインだが……扱いに慣れて来ると、遠当てというものができる。こんな風にね」


 そう言うと、婆ちゃんは遠くに置いてある空のペットボトルに手の平を向けると、そこから半透明の何かが射出され、ペットボトルにを吹っ飛ばす。


「「「「「「「うん!?」」」」」」」


 とんでもない現象が目の前で起こり、これにはさすがの儂も旦那共と一緒になって驚く。


 え、なんじゃ今の!?


「簡単に言っちまえば、氣を固めて、それを打ち出すだけの技さね。上手く氣を練り上げんと弱いし、なんだったら直接殴った方が強いまである。あくまでも、牽制用の技ってとこさね。……ま、ワシはこれを鍛え上げ、これで戦車や戦闘機とやりあえるまでにしたが」

「なんじゃそりゃ!? カッコよすぎじゃろ婆ちゃん!」

「そうかい? いやァ、初めて戦った時はなかなかにスリルがあったが……今は片手間さね。むしろ、ワシを想定してか、装甲が頑丈になって来てんだよ。それでも、大した強さじゃないがね」

「……私、人間って何だろうって思ったわ」

「……わたしもです」

「……あ、あはは、まひろ君のお婆ちゃん、すごいけど……」

「……ん、規格外」

「……そうね~。さすがに、驚くわ~……」

「……まさか、発症者じゃないにも関わらず、戦車や戦闘機をやりあえる人がいるとは。しかも、身内に。ふむ……いややはりおかしくないかい?」


 婆ちゃんの口からぽんぽん飛び出す新情報の数々に、旦那たちはもう驚き通り越して呆れつつある。


 儂の方もカッコいいとは思うが、まさかその領域に突入しておったとは……。


 まあたしかに、生身で高所から落ちても平気という時点で、何かあるとは思っておったが、まさか『氣』などという、ファンタジーの定番のようなものが理由じゃったとは……というか、現実にあったんじゃな、『氣』。


「一人だけドラゴン〇ールしてる気がするわー」

「いや、さすがにかめ〇め波は出せないさね。出来て……気弾くらいさ」

「それでもおかしくないですか!?」


 おぉ! 珍しく瑞姫がでかめの声でツッコミを! それほどのものなのか、やはり。


 いやまぁ、気弾が撃てるとか言われたら、そりゃそうなるが。


「と、それがワシの強さの秘訣ってところさね。『氣』は誰にでもあるが……扱える量のラインに到達していなければ修業したところで身に着くもんじゃない。この中じゃ……まひろくらいさね」

「私たち、別にファンタジーの住人になりたいわけじゃないです……」

「そうかい? ま、普通はそうか。ワシの時代は、戦後から少しの頃だったからねェ。おかげで、荒事も自分で対処しなきゃいけない場面ってのがどうしても出て来たんだよ。こう見えてもワシは、かなりモテていたからねぇ」

「そうなんですか?」

「そうとも。ちィっとばかし待ってな。アルバムでも持ってきてやろう」


 そう言うと、婆ちゃんは立ち上がって和室の方へ向かった。


 言葉通りアルバムを探しとるらしいが……なんか、ドスン! とか、ダダダダッ! とか、ガシャンッ! みたいな音が聞こえるんじゃが、え、大丈夫なのか?


 と、心の中で心配しておると、婆ちゃんが手に分厚い本を持って戻って来た。


「ほれ、これがアルバムさ。主に、ワシと源十郎の、だがね。途中からまひろの母親の写真やら、叔父、あとはまひろの小さい頃の写真があるよ」

「「「「「「見せてください!」」」」」」

「おぬしら、今儂の小さい頃の写真に反応したな!?」

「そりゃそうでしょ! 今とは姿が違うとはいえ、小さい頃のまひろよ!? ってか、私は元々男の時に惚れてたし!」

「あたしも気になる!」

「……ん、まひろんの幼少期。興味深い」

「私は小学生の頃は一部知っているけど~、それでも気になるわね~」

「ほほう、まひろ君の幼少時代か……どれどれ、興味深い」

「一応わたしも……」


 などなど、理由を話しつつアルバムを開く。


 すると、最初に現れた写真はモノクロのものばかりであったが……そこには、一組の男女が、なぜか、ボロボロな姿で映し出されておった。


「え、なにこれ、すっごい美少年と美人な人がボロボロな状態で映ってるんだけど……あの、お婆ちゃん、これってもしかして……」

「あぁ、男は源十郎で、女はワシさね」

「えっ、マジで!? すっごい美形なんだけど!」

「うんうん! けど……あれれ?」

「……男の人、まひろんに似てる」

「あら、本当ね~」

「そりゃそうさ。源十郎もどちらかと言えば、女顔だったからねェ。その辺は、まひろに遺伝しちまったみたいだが」

「あぁ……まひろの女顔って、お爺ちゃん似だったのね」

「らしいな。儂も今日、婆ちゃんに聞いて知ったわい」


 とはいえ、大好きな爺ちゃんに似ていた、というのは普通に嬉しいことじゃがな。


 しかし……たしかに、男の頃の儂にそっくりじゃなぁ……。


「こうして見ると、まひろちゃんはかなり美形だったことがわかりますね」

「そうさねぇ。ワシも千尋から時たま写真が送られてきていたが、その度にまひろが随分と源十郎似の男になったと喜んだもんさね。生き写しのようだとも思ったもんさ」

「……なんでボロボロ?」

「あぁ、そいつァ、簡単でね。殴り合いをしたのさ」

「「「「「「なんで!?」」」」」」

「なんでだったっけか…………あー、たしかあれだ。ワシが暴行を働こうとした男をボコボコにして、たまたま通りがかった源十郎がワシが悪人か何かに見えたのか、それで殴り合いになってねェ。まあ、ワシも楽しくなってついついやりすぎちまってね。で、仲良くなった」

「へぇ、そのような経緯だったとは……その後、どうなったんです?」

「一緒に旅をするようになってね。気が付いたら子供が出来てた」

「私はその気が付いたらの部分が気になりますね~」

「ははっ! 大したこたァないよ」


 などという婆ちゃんじゃが、おそらく何かとんでもないことをしておったんじゃろうなぁ、とこの場にいる誰もが思った。


「で、色々あって最終的には源十郎の地元、翁里市に戻って来てね。結婚して、二人の子供が出来て、娘の千尋がこの家の当主のような状態になったわけさね。そして、この写真が……小さい頃のまひろだ」


 ぺらぺら、とアルバムをめくっていき、次第にモノクロからカラー写真へと変化していき、そしてとあるページに差し掛かり、にやりと笑うと幼少の頃の儂が映った写真が収められたページを開く。


「「「「「「きゃーーー!」」」」」」

「うおぉ!? な、なんじゃ一体!?」


 すると、旦那共全員が黄色い悲鳴を上げ、儂はびくっとした。


「うっわ、なにこのまひろ! 可愛い!」

「ほ、本当に男の子なのですか!? どう見ても、女の子にしか見えないくらい可愛いです……」

「くりくりっとしたおめめが可愛いね!」

「……ん、ぐっすり眠ってる姿も愛嬌ありまくり」

「あらあら~、こっちはお爺ちゃんにくっついて嬉しそうにしているわ~」

「ほうほう、この頃から寝ていることが多かったみたいだ。とても可愛らしい」

「う、うむぅ、なんだか恥ずかしいのう……」


 自身の幼少期の写真を見られる、というのは何とも言えぬ気恥ずかしさがあるのう……。


 しかし……儂、祥子姉の言う通り、小さい頃からずっと眠っておったんじゃのう……。


 じゃが、今の儂ってば、こんな生活できとらんし……主に、旦那共のせいで。


 別に楽しくはあるから問題はないんじゃが、それはそれでなぁ……。


「……あら? これは……まひろちゃん、ですか?」

「む? どれじゃ……って、うおおう!?」


 瑞姫が首を傾げた写真を確認した瞬間、儂はアルバムを慌ててかっさらった。


 こ、これは儂の黒歴史! 見せたくない!


「……まひろん、返す」

「嫌じゃ! あれはなんか嫌じゃ!」

「何が写っていたの~?」

「今の箇所は、まひろが千尋に女装させられていた時のさね」

「婆ちゃん!?」


 身内からのフレンドリーファイアに、儂はぎょっと婆ちゃんを見た。


「まひろ、どうせ結婚してんだ。その程度見せてやりな。それに、今だって女物の服を着てるだろう? 問題ないじゃないか」

「いやいやいや! さすがに、今と男の時では意味合いが全く違ってくるのじゃぞ、婆ちゃん!」

「ははっ、今更恥ずかしいあれこれをしときながら、女装写真を見られる程度大したこたァないだろう」

「じゃから! ……って、え? 婆ちゃん、今なんと?」


 楽観的な婆ちゃんに言い返そうとした瞬間、儂は婆ちゃんのセリフに違和感を覚えた。


 今、恥ずかしいあれこれ、とか言っておったよな……? え、どういうこと? まさか、バレとるの? ま、まっさかー……?


「ん? 恥ずかしいあれこれをしときながら、だが? 安心しな、源十郎の血を色濃く受け継いでんだ。性癖も同じようなもんだろう」

「婆ちゃん!?」

「え、まひろのお爺ちゃんってもしかして……」

「おそらく、嬢ちゃんらの想像通りさね。あいつは、受け身体質だったよ」

「マジで!? え、マジなのか婆ちゃん!?」

「あぁ、マジだよ。基本的に、源十郎はあの時代にしては珍しく奥手で草食だったからねェ、ワシが基本的にはリードしてたのさ」

「ま、マジかー……」


 え、てことは何か? もしや爺ちゃんってM…………い、いや、これ以上考えるのは止めよう。大好きな爺ちゃんが、まさかそんな性癖だったとか思いたくないし……。


 いやそれ以前に知りたくなかったんじゃが……。


「と、言うわけだ。見せてやんな、まひろ」

「そ、そんなに見たいか……?」

「「「「「「超見たい」」」」」」

「じゃよねー……」


 口を揃えて見たいと言われたら、こっちとしても意地でも見せたくない! とするのもなんか違う気がするしな……はぁ、仕方あるまい。


 儂は色々と諦め、アルバムを返した。


 すると、しゅばっ! とものすごい勢いでアルバムをかっさらわれ、これまたすごい勢いでアルバムを開くなり、該当ページをさっさと見つけてしまう。


 くっ、我が黒歴史が白日の下に……!


「え、これ本当に男の子なの……?」

「いくらなんでも可愛すぎませんか?」

「お~! これがまひろ君のちっちゃい頃の姿なんだね! すっごく可愛い!」

「……ゴスロリ、良き良き」

「こういう服、今でも似合いそうよね~」

「おやおや、これはこれは……随分と、可愛らしいじゃないか? まひろ君?」

「ぐぬぬぅ……その生暖かい視線をやめい! マジで恥ずかしいんじゃからなこれ!?」


 今の姿でならば女物の衣類を着たところで大した恥ずかしさはないが、さすがに男時代の物となると、ものっすごい恥ずかしい!


 くそぅ、この差は一体何じゃ……。


 あと、結衣姉だけはなんか不穏!


「……んん? ねえまひろ、この写真は何?」

「む? どれじゃ?」


 再び美穂にとある写真について尋ねられ、儂は示された写真を覗き込み、あー、と苦々しい顔を浮かべた。


 なるほど、こんな写真もあったわけか……。


 美穂が尋ねて写真に写るのは、動物がプリントされた可愛らしいシャツに、フリルがあしらわれたミニスカートを穿いた儂と、そんな儂に顔を真っ赤にしながら何かを言っている姿の男の子が写し出された写真であった。


「……これは、あれじゃな。この当時、男でも女物の服を着るのは別におかしなことではない、と母上に嘘情報を教え込まれていた時期でな? で、そんな姿で外で遊んでおったんじゃが……何を思ったのか、当時のクラスメートの男子に、告白されてのう……今にして思えば、儂が女装していなければ、あんなことにはならんかったんじゃがな」


 正直、苦い思い出なんじゃよなぁ、これ。


「何があったの?」

「んー……儂が男と明かしたんじゃが……そしたら、その男、何か目覚めてはいけない猟奇に目覚めてしまったんじゃろうなぁ……それでもいい! とか言いおってな」

「「「「「「ええぇぇ……」」」」」」

「当時小学二年生の男子の性癖を歪める結果となり、今思い返しても苦い思い出じゃわい……」


 まさかそんなことになるとは思わんかったからな……。


 ちなみに、この男は現在は男子校に通っとるそうじゃが……果たして、何をしておるのやら。


 知りたいような、知りたくないような、そんな複雑な心境じゃな……。


「あんたの過去、随分とまぁ面白いことになってるのね」

「まあ、女寄りの顔じゃからなぁ……ってか、それが理由で女子にもよく弄られたし」

「……どんな?」

「髪の毛を結われたり、なんかやたらスキンシップが多かったり、なぜか呼吸を荒くしながら触られたりと、まあ色々じゃな」

「ひろ君、何したの~……?」

「え? 何もしとらんが?」

「嘘だね。まひろ君の性格から察するに、何かしらやらかしていそうじゃないか」

「なんか酷くない? その言い方」


 まるで儂が普段からやらかしとるみたいな言い方ではないか。


 しかし、本当に何もないんじゃがな……。


「……ん、ここから先は普通。面白いことなし」

「まあ、そりゃそうじゃろうな」


 むしろ、爺ちゃんと婆ちゃんの写真の方が面白かったわ。


「よし、アルバムはそこそこに、今度は嬢ちゃんらのまひろとの話が聞きたいねェ。聞かせてくれるかい?」

「「「「「「喜んで!」」」」」」

「……変なことは話すでないぞー」


 さすがに、大好きな婆ちゃんに儂の醜態を知られるのは死ぬほど恥ずかしいので。


 緑茶を啜りながら、儂はそう言うのであった。

 どうも、九十九一です。

 なんかもう、人外っぽいですが、ちゃんと人です。婆ちゃんは人です。そもそも、TSF症候群というファンタジーがあるのなら、『氣』というものがあってもいいだろうというね。まあ、ちゃんと存在理由はあるし、そもそもの世界観の土台が代表作のあれなので……。

 次回も以下略です。

 では。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の話でお婆ちゃんの声のイメージがN沢さんになりましたw
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