日常106 結婚式の話。まひろの立場はちょっとアレ
「お、お父様!? なぜそのような日程になったのですか!?」
結婚式の日程が今週末であるという、とんでもない情報を聞かされた儂ら。
全員があまりの爆弾に、思わず叫び、硬直してしまっておったが、先に我に返った瑞姫が再び稼働すると、さすがの瑞姫もこれには声を荒げて繫晴さんに詰め寄る。
娘に詰め寄られた繫晴さんは、少し困ったような表情を浮かべて事情を語りだす。
「あー、これに関しては完全に私の不手際であるため、恥ずかしい話なんだが……君たちの結婚式の話にノリノリになってしまった部下たちがエキサイトしてね……気が付いたら、会場の手配や料理の手配、他にもカタログギフトや、招待状の作成、その他諸々終わってしまっていてな……そうしたら、後は新たに加わった祥子さんの衣装の採寸と作成だけになったのだ。なので、ほぼ秒読みに近い」
「「「「「「「ええぇぇぇ……」」」」」」」
日程が早くなってしまった原因が、どうやら部下の暴走であると聞き、儂らは思わずマジでぇ? という声を揃って漏らす。
いやもう、えぇ?
「じゃ、じゃあ何か? 招待状もすでに送られとると……?」
「あぁ、君たちの友人や家族に送っているとも」
「ちなみにそれ、いつ頃から招待状を送っていたんですか?」
招待状が友人や家族に送られているという話を聞いた美穂は、それがいつ頃送られたのか尋ねる。
それに関する返答は……
「六月頭ほどだ」
普通に二週間近く前のことじゃった
「いやそれもっと早く儂らに言えたのでは!?」
「すまない。つい、私もテンションが上がってしまい、伝え忘れていた」
「おぬしもなんかいっ!」
部下が部下なら、上司も上司じゃろこれ!
くそぅ、なんか頭痛くなってきたわい……。
「でも、祥子さんの衣装は間に合うんですか~?」
「あぁ、結衣さん、間に合うとも。幸いなことに、既に祥子さんのデータが送られてきていてね、あとはそれを基に作るだけなんだ」
「ふふ、私は常に自身の体を把握しているからね。ま、多少の誤差はあるとは思うがね」
あぁ、そう言えばこやつ、今若返っとるらしいからのう……たしかに、誤差はあるやもしれんな。
ってか、戻さなくてよいのかのう? 体。
「……料理……すごく美味しい?」
「もちろんだとも。むしろ、君たちの中で最も健啖家であると聞いている。なので、質も量も、どちらも満足いくものになっているはずだ!」
「……ありがとうございますっ!」
「あはは、よかったね真白さん!」
「……ん、楽しみ」
おお、おお、ましろんがものすごいいい笑顔を浮かべておるわい。
ってか、こやつが食いつくところが料理なのがらしいと言うかなんと言うか……。
まあ、ましろんじゃからな。
「……あの、お父様?」
「なんだ? 瑞姫」
「一つ、お聞きしたいのですけど……今回の結婚式は、学園の方もお呼びしているのですよね?」
「そうだな」
「通常の結婚式であれば当然、ご祝儀と言うものが存在しておりますが……正直、生徒が出すには重いのでは?」
「「「たしかに」」」
「……みーちゃん鋭い」
「確かにそうね~。いくらバイトをしている生徒でも、お金は自分のために使いたいと思うでしょうし~……」
「そうだね、特に今は遊びたい盛りでもある。どうするんだい? 繫晴殿?」
儂、美穂、アリアは同じ言葉で納得し、瑞姫の指摘が鋭いとましろんは褒め、結衣姉と祥子姉の二人は大人故の価値観でもって、繫晴さんに尋ねた。
繫晴さんはそんな儂らの心配や視線を正面から受け止め、うむと頷き、
「安心するといい。君たちの結婚式はたしかに、一般的に見ればかなりの大金が動いている。しかし、結婚相手の中に、『株式会社サクラGAME’s』の令嬢に、『桜小路カンパニー』の令嬢、それから『O3の日本支部』の責任者がいる時点で……我がグループとしてはかなり大きな縁談でもある。今後、今よりも更なる利益が得られそうでね。特に、まひろちゃんと結衣さんとこの会社とは今後共同経営になる予定だ。この時点で、莫大利益が生まれることは確実。特に……おっと、これは口止めされていたな。いや、なんでもない」
「なんか今、儂を見んかったか?」
「ハハハ! 君の両親はすごい、と思ってね。血筋、かな?」
「???」
何を言っとるのかわからず、首を傾げる。
儂の血筋て……なんじゃ? 儂の家、桜花家には何かあるのか? いやしかし、会社を営んでおることと、なぜか分家がいくつかあることくらいしか知らんのじゃが、儂。
「つまり、だ。今回の結婚式は言わば通過点みたいなものでね」
「通過点?」
「そうだ。この先の先行投資に近い、いや、先行投資をするのに必要なこと、と言えるな。そのため、学生においては祝儀は不要。どのみち、我がグループと繋がりのある会社の役員や、グループ内の社長等を呼ぶのでな。そこからもらう程度だ。……もっとも、かなり抑えてもらうつもりではいるがね」
「抑えるって、何があるんですか? 普通にご祝儀を受け取るだけじゃないんですか?」
うんうんと、美穂の疑問に儂とアリアの二人が頷く。
その他の四名はあぁ、と何かを悟ったのか、苦笑い。
「……今回の結婚式における主役は、瑞姫のように見えて、実は君だからね、まひろちゃん」
「わ、儂か? 何故?」
「それはそうだろう。君が発症者ということで、今回のような異例の結婚が実現しているんだ。ある意味、君のおかげで我がグループや、君の両親が経営する会社に、桜小路家の会社が発展することになわけだ。君が縁を紡いだ結果だ」
「む、むぅ?」
何を言われとるのかいまいち理解できず、眉をへにゃりと曲げて腕を組みながら小首を傾げる。
結局何が言いたいんじゃろうか?
「ははっ、いまいち理解できていない、と言う顔だな?」
「そりゃまぁ……儂、別に経営とか詳しくないしのう。そういうのは、瑞姫や結衣姉、ましろん辺りの担当じゃからのう。儂、美穂、アリアは門外漢じゃ」
結衣姉は仕事内容をある程度理解し、時たま手伝っとったらしいし、瑞姫は言わずもがな。ましろんに関しては、あやつ天才肌じゃからのう、様々な知識がある上に、うちの学園における最も大変な職業、生徒会長に就いとる時点で、何かとそう言う方面に明るいらしい。本人曰く、学生のままごと程度らしいが……瑞姫的が言うには、簡単な応用を教えたらすぐに会社経営が出来そうなくらいのスペック、らしいんで、向こう側である。
なんじゃろうか、儂の旦那共、スペック高くね?
というか、なんだかんだ、結衣姉と祥子姉を除いた学生組の中では、儂が一番成績が下じゃからのう……なんじゃろうか、この敗北感。
「そうねぇ、私も一般家庭だし、アリスに至っては……」
「あはは、あたしは少し前まで貧乏だったからよくわからないかなぁ」
この有様。
儂は今まで両親が会社経営をしとったことを知らなかっただけで、ごくごく普通の一般人。
美穂も一般家庭で、父親はどこかの会社の役職持ちの会社員で、母親はOL。
アリアは、つい最近まではドブラックな会社での営業マン、母親はスーパーや工場でパートを掛け持ち。
故に、ビジネスのことなんざよくわからん。
「そうだな……要約すると、君のように人に好かれ、そして周囲の人間関係の潤滑剤になれるという天性の物は、得難いものでね。まあ、なんだ……君に良い印象を与えることが出来れば、今後得がある、と思われているわけだ」
「……なる、ほど」
「……つまり、まひろんに媚びを売っておけば、芋づる式に羽衣梓グループからの支援が受けられるかもしれないし、太いパイプを得られるかもしれない。じゃあ、何か高価なものを送ろう。ということ」
「おぉ! なるほどそういうことか!」
「君とTSF症候群の話をしている時は頭の回転が早いのに、そう言う部分はポンコツなんだね」
「仕方ないじゃろう、儂は別段人間関係を意識して構築したことも無いしのう。故に、ビジネス的価値観で言われてもわからんよ」
こちとら、三ヶ月前までごくごく平凡な人生を送っとった男子高校生じゃぞ?
んな人間に、興味のない小難しい話をしたところで、すぐ理解できる方がおかしかろう。
……そう考えれば、ましろんはおかしいのでは?
「なので、君には高価な贈り物がされる可能性があってね……現に、既にこういう物を送るつもりなのですがいかがでしょうか? と打診を貰っているが……」
「例を挙げるとすればなんじゃ?」
「……スポーツカーに自家用ジェット……あとはブルーダイヤモンドをあしらったアクセサリーに、ブランド品のアイテムの数々……こんな所だろうか?」
「いや普通にいらんが!? ってか、スポーツカーを貰っても儂運転できんし、自家用ジェットとか何に使うん!? 儂、日本が好きじゃから別に海外に行くつもりなどないぞ!?」
なんか知らん間にとんでもねぇもんが送られようとしとったんじゃが!?
え、金持ち怖!? とりあえず、金持ち相手には高価なものを送ればよい、とか思っとんの!? くそぅ、資本主義めっ!
「まひろちゃん、国内でも使えますよ?」
「そう言う問題ではなく! あと、アクセサリーはよくわからんが……儂、元男じゃぞ!? ブランド品なんぞに興味はないし、いらんから!」
いやまぁ、男でもブランド品が好きな物はおるじゃろうが……あれ、どっちかと言えば、女性向けじゃろ!? 儂、男! んなアクセサリーやバッグなどよりも、ゲームや和菓子、和食の方がいいし! あ、でもいい調理器具は欲しいかもしれぬ!
「だろうな。私もそう思って、先手は打っている。贈り物は、男子高校生が貰って喜ぶ物の方がいいと」
「ならばよいが……いやもう、高級品とか貰っても儂、普通に困るから……のう? おぬしら」
「まあね。私だって、今の話はちょっと驚き通り越して恐怖を覚えたわー」
「あたし、まひろ君と結婚したけど……あははー、なんだかすごいことになっちゃった?」
「……ん、まひろん、美味しいものが食べたいから、お願いして」
美穂とアリア、ましろんという、庶民組(儂を庶民に入れるのはどうか、と思わんでもないが……まあ、知らんかったので庶民)に同意を求めれば、美穂は苦笑いの中に恐怖が混じったようななんとも複雑な表情を。
アリアも概ね美穂と似たようなものじゃが、それ以前に儂と結婚したことで自分のたちがとんでもないことになっているのでは? と少し心配そう。
ましろんは……いつも通りと言うか、ぶれないというか……おぬしの頭ん中、飯ばかりじゃな、マジで。
「高価な物だからいい、というわけではありませんよね……」
「わかるわ~。私も小さい頃、誕生日パーティーで車を貰ったけど、困惑したわ~。それよりも、可愛らしいお洋服が欲しかったわね~」
「ははっ、私も好きでもない相手から突然ブランド品なんかを貰ったものさ。ま、興味なかったから、すぐに売りに言ったがね。あぁでも、その中に偽物があったのは、なかなかに面白かった」
なんか、金持ち組が少し気になることを話しとったが……特に、祥子姉の話。
ちなみにじゃが、祥子姉は普通に金持ち組に入る。
聞くところによると、今までの研究成果、開示薬の開発や、薬士創一と共同で開発した薬、その他にもTSF症候群に関する謎の解明やらなんやらででかい功績を出しまくっとるおかげで、下手な大企業の社長よりも金を貰っとるらしい。というか、特許をいくつか持っとるようで、その収入だけでも遊んで暮らせるらしい。なんか、バケモンすぎん……?
「と、そういうわけで、まひろちゃん、何を貰った嬉しいかね? なんでも参考したいんだが」
「貰ったら嬉しい物、のう……」
個人的に、最近気になっとるエロゲを貰っても普通に嬉しいが……さすがに、んなもんを欲するわけにはいかんし……そうじゃのう……やはり、儂の好きな物で絞った方が良いな。
となれば……
「んむぅ、やはり和菓子……」
となるわけじゃが……。
「和菓子? 全然構わんが……」
「あ、いや、やはりそれは問題ない。最近良い物を手に入れたのでな」
「ほう、そうなのかね?」
「うむ」
最近行われた体育祭にて、儂が貰ったMVPの賞品が儂にとってすさまじい物であったからのう……未だ使用できとらんが、何、まだ期限は一年もある上に、何度でも使用可能な代物、ゆっくり、一人で楽しみたいのでな。ふふふ、いつ行こうかのう……。
「まひろちゃん、どうしたのですか? でれでれして?」
おっといかん、顔に出とった。
「いや、なんでもないわい。……しかし、欲しい物……」
改めて欲しい物を考えてみるが……いい感じの案が思い浮かばない。
そんな儂の様子を見て、美穂が小さく笑い出す。
「ふふっ、あんたどっちかと言えば物欲が薄い方だからね」
「まあのう……」
個人的に、儂の小遣いの使い道は好きなブランドのゲームを購入することと、和菓子を買うことで、その他には……まあ、時代小説やクロスワードの本を買うくらいかの?
いや、マジで何もないな。
んー……大好きな睡眠環境に不満はないしのう……うむぅ……。
「すまん、マジで何も思い浮かばん」
「そうか。しかし、困ったな……」
「とりあえず、高価な物でなければ良い。変に高価すぎても持て余すだけじゃ」
「……ふむ、それもそうだな。よしわかった、そう言う事で伝えておこう」
「うむ、頼む」
変な物が届きさえしなければ、儂は何でもよいからのう……。
「……ふぅ、こんな所か。本当はもう少し話した上で、色々と煮詰めたいところなんだが……私も多忙な身でね。すまない、この後すぐに仕事に戻らねばならないんだ」
「仕方ありませんよ、お父様。むしろ、お父様が対応しなければ案件が多いにもかかわらず、こうして直接お話していただくだけでありがたいというものです」
「……そうか。いや、そう言ってもらえると嬉しいよ、瑞姫」
「いえいえ。……というわけですので、そろそろお暇しましょうか」
「じゃなぁ。では、繫晴さんや、儂らは帰るとするわい」
「あぁ、送迎の車は既に手配してある。気をつけて帰りなさい」
「助かる。では、行くとするか」
思いの外結婚式の話はすぐに終わり、儂らは帰宅することにした。
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どうも、九十九一です。
昨日は普通に出せんかった……。理由としては、なんかいまいちやる気が出なかったのと、話が思い浮かばなかったためですね。一日空けたら治ったので、まあ、うん。よかったと思います。
実はこの作品、結婚の話が初期で出た時点でもういっそ、結婚式で話を完結させるか? とか思ったのですが、普通に続けるつもりです。最低でも、一年分の話は書こうかな、くらいに思ってますが……どう終わらせればいいんだろう、この作品。
次回ですが、まあいつも言ってる通りです。
では。