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日常102 ゲームセンター。天才肌でもできないことはある

「ん? 随分と騒がしい場所があるが……あれはなんだい?」


 二人手を繋いで歩いておると、神が前方にとあるものを見つけ、首を傾げながら疑問を口にする。


 その先にはあるのは……あぁ、なるほど。


「あれはゲームセンターじゃな」

「ゲームセンター……ふむ、あれが……話には聞いていたけど、随分と騒がしい場所らしい」


 興味深い、と感想零す神。


 こやつ、どんだけ娯楽に触れてこんかったんじゃ……普通、現代に生きる者であれば、ゲームセンターへは一度や二度くらいは行くと思うんじゃがのう……。


 しかし、それほどまでの人生だった、ということでもあるか。


 ほんとに寂しいのう……。


「で、行ってみるか?」

「そうだね。せっかくだ、今日は私の知らないものを知る日としよう」

「ん? 儂とのデートではないのか?」


 ニッ、とからかうように笑いかけながら言えば、神は一瞬面食らった顔をするが、すぐにふっと笑う。


「……そうだったね。なら、それも込みで、楽しむとしようか」

「うむうむ、その調子じゃ。というか、もうちょい欲張ってもいいと思うぞ」

「そうかい?」

「うむ」

「欲張る、か……ふふ、そうだね。うん。じゃ、色々と教えてくれるかい?」


 今までは何というか、やや硬めの印象を受ける笑みだったが、今し方神が浮かべた表情は柔らかい女性らしいものであった。


 うむ、いい笑顔になったのう。


「当然。それが今日の儂の役目じゃ。おぬしがしたいこと、なんだってしてやろう。それが約束じゃろ?」

「ははっ、君、素でそう言う事を言えるのはすごいね」

「普通じゃろ」


 爺ちゃん曰く、相手の欲しい言葉を察してこそ、だそうじゃが、儂的には直感的になんとなくで話とるからのう……そう考えれば爺ちゃんはなかなかにすごいことをしておったんじゃな。さすが爺ちゃん……!


「……あー、なるほどね、今までにそう言う情報があった理由に納得。たしかにこれは、危険だねぇ……」

「んん?」


 小声で何かを言っておったが、上手く聞き取ることが出来なかったが、なぜか神の頬は少し赤かった。


 どうしたんじゃろうか?


「まあよいか。では、何からやる?」

「ここにはどんなものがあるんだい?」

「そうじゃのう……数の多さで言えばクレーンゲームじゃな。他で言えば音ゲー、カードゲーム、レースゲーム、メダルゲーム……あとは、プリクラかのう? あ、元がスマホゲームのゲーセン版もあるな。どうじゃ? どれか気になる物はあるか?」

「ふむ、そうだね……個人的には、レースゲームが気にはなるかな?」

「あいわかった。では、まずはそこへ行くとしよう」


 神が気になったのレースゲームということで、メジャーなレースゲーム筐体へ連れて行くと、丁度プレイしとる者はおらず、すぐに遊べる状態であった。


「車の運転の仕方はわかるか?」

「もちろん。これでも、一般的に取得可能な免許は全て取得済みだよ。ちなみに、普通車、バイク、大型二輪、トラックにバス、工事車両……ま、取得可能な物は取得した、と言う感じかな」


 車の運転が可能か不可能かで尋ねたら、まさかの回答が返って来た。


 特殊車両も運転可能とか、マジどうなっとんじゃ、こやつ……。


「なんじゃその無駄なスペック。というか、何に使うんじゃ」

「私は基本、取得できる物は取得する質でね。どうだい? 今度一緒にバイクにでも乗るかい?」

「お、いいのか? 是非頼む」

「冗談のつもりだったんだけど……ふふ、そうやって即答されると言うのは嬉しいものだね。なら、その時は連絡するよ」

「うむ! 楽しみにしとるわい」


 バイクは昔、爺ちゃんに乗せてもらっておったが、それ以来乗れとらんからのう……。


 そう言えば、大型二輪を除けば、バイクの免許は十六から取れたのう……ふむ、どうせじゃ、バイクの免許取得でも頑張ってみようかのう、夏休みなどに。


 しかし、誰かの後ろに乗ると言うのも素晴らしい物である故、是非とも乗りたいものじゃ。


「さて……おお? まひろ君、これはどれを選択すればいいのかな?」

「とりあえずはストーリーでええじゃろ。慣れて来たらオンライン対戦すればよい」

「なるほど。ならまずは軽く走ってみるよ」

「うむ、頑張れ」


 というわけで、神のプレイが始まったわけじゃが……。


「なぬっ!? お、おぬしそのドリフトどうなっとんの!?」

「ちょっ、なんじゃそのハンドル操作!?」

「えぇ、おかしくね……?」


 思わず儂が声に出して驚くくらい、神の運転技術が凄まじかった。


 明らかに一台分の隙間があるかどうかの場所を謎すぎるドリフトで抜けて行ったと思えば、ものすごい速度が出ておるはずじゃと言うのに、巧みなハンドリングで障害物や他の車両を避けまくり、最終的にはコンピューター相手にかなりの大差をつけてゴール。


「ふむ、こんなものか? よし、次はオンライン対戦とやらをしてみよう」


 いや、こんなものて……ま、まあ、さすがにパーツ的なあれこれでさすがに……。


 そう思っておった儂じゃったが。


「お、勝ってしまった。ふぅむ、いささか拍子抜けか?」


 神は勝ってしまった。


 しかも相手、かなり強そうなパーツを積んどった気がするんじゃが……え、何この、怖。


「ん、それなりに楽しめたし、次に行こうか」


 満足したのか、神はプレイを止めて立ち上がり、荷物を持った。


「もうよいのか?」

「まあね。なかなか面白かった。さ、次だ」

「うむ。で、次はどうする?」

「そうだね……クレーンゲームがいいかな」

「ほう! いい目の付け所じゃな!」

「おや、君は好きなのかい?」

「まあのう! 昨日も、秋葉で乱獲してきたところじゃ」

「あぁ、確かの昨日は友人と一緒に遊びに行っていたらしいね」

「うむ。……まあ、その過程で色々あったが」


 ほんのさっきまで、どや顔且つ笑顔で話す儂じゃったが、すぐにその後のことを思い出して笑顔が苦笑いに変わる。


 そんな儂の表情を見てか、神は面白そうという思考が透けて見える笑顔で儂を見詰める。


「……ま、安心するといいよ。君のように、その場でスカウトされてモデルに! なーんてことになった人は少なくない」

「マジか」

「マジだ。容姿が優れている、というのはそれだけで大きなアドバンテージさ。正直、顔が良ければ大抵は人気が出るだろう?」

「否定したいが否定できんのう……」


 実際、どんなに性格が悪かろうが、結局顔が良ければ売れる、みたいな例は少なくない。


 当然、人気はガタ落ちする場合もあるが、んなもんを気にしとるほどそう言った輩のメンタルは妙に強いし、面の皮も厚い。


 酷いもんじゃが、ある意味心理じゃな。


「ま、君は容姿も性格も、個性もいいし、さぞかし人気が出るだろうね? 小鳥遊恋羽ちゃん?」

「ちょっ、今はその名を出すでない!」

「まあまあいいじゃないか。どうせ、この名前を知るのは君と君の友人二人、それから雑誌を発刊している事務所だけさ」

「じゃあなぜ知っとるの!?」

「私だからね」

「くっ、謎の返しであるはずなのに、普通に納得できるのが腹立たしい!」

「ははは! 私にかかればどんなプロテクトも突き破るのだよ、まひろくぅん」

「それ、犯罪じゃね!?」

「大丈夫さ。発症者の情報を調べるのであれば、私の権限でどうとでもなるのでね」

「くっ、おのれマッドサイエンティストめぇ……!」


 こやつめ、もしやハッキング技術を持っているのではあるまいな……?


 ……いや、絶対持っとるなぁこれ、断言できる。


 現に、今も考えがいまいち読み取れん笑顔しとるし。


「ほら、私を楽しませてくれるんだろう? 早く、クレーンゲームとやらをやりに行こう」

「……はぁ、仕方ないのう」


 やれやれ、と肩を竦めながら先へ進んでいく神の後を追う。


 かなり楽しんどるらしい。


「ふむ…………お? これは?」

「ん、それが欲しいのか?」


 神が見ていたのは、デフォルメされた可愛らしい少女たちがわちゃわちゃと、何か祭りのようなことをしている光景がプリントされたクッションであった。


「欲しいか欲しくないか、という天秤が存在するのならば、欲しいに傾くだろうね」

「ははっ、回りくどい言い方じゃのう。では、試してみればよい」

「そうだね。何事も経験経験」


 儂の言葉に賛同した神は、すぐに財布から百円玉を取り出すと、一枚投入口へ入れた。


「やり方は……このボタンを押せばいいのかな?」

「そうじゃな」

「では…………ん? んん? んんん?」


 カチ、と一番のボタンをほんの少しだけ押し、クレーンが止まり、カチ、カチ、カチ、と神が一番のボタンを何度も押し始める。


 その顔は、不思議そうにしており、徐々に首を傾げていく。


 ……くっ、こ、こやつっ、ま、まじかっ……!


「ぷっ、くくっ……」


 まさかの行動に、儂は笑いを堪えるが……


「変だね? 基盤か配線の故障かな?」

「ぶふっ!」


 その直後、儂は思いっきり吹き出す。


 すると、神が突然笑い出した儂を不思議そうに見つめつつ、大丈夫かこいつ、みたいな心配する表情を浮かべると言う、器用なことをしてのけた。


 い、いやこれ、笑わんほうが無理じゃろ……!


「まひろ君、突然笑い出してどうしたんだい? 頭がおかしくなったかい?」

「ん、んなわけなかろうっ、ふふっ、ははははは!」


 さすがに堪えきれなくなった儂は、声を上げて笑う。


 だ、だって、だってぇっ……!


「お、おぬしっ、各ボタンは一度しか押せんのじゃぞっ……? な、なのに、お、おぬしっ、こ、故障て、基盤っ、配線って……ふふっ、くくくくっ……!」


 堪え切れない笑いを漏らしながらも、儂はボタンが一回ずつしか押せないことを告げると、神は、あぁ、とようやく得心したようじゃが、すぐにむっとした顔を浮かべ、


「……あぁ、なるほど、そう言う仕組みだったのか。取扱説明書がないとは、なんとも不親切な設計だろうか」

「と、取扱説明書っ……!」


 取扱説明書と言いだした。


「あっはははははは! ひひっ、ふぅ……はぁっ……んふっ」


 取扱説明書発言にはさすがに堪えきれず、声を上げ、腹を抱えて笑う。


 どうやったらそんな考えに行きつくんじゃっ?


 や、やばい、笑い過ぎて腹が痛い!


「そんなに面白いかい?」

「い、いやだって、ぷくくっ、と、取扱説明書て……! 故障って……! あははははっ! お、おぬし、ほんっとに面白いのうっ……!」


 これが小さな子供ならいざ知らず、大の大人がこの反応はさすがに笑うなと言う方が無理じゃわい!


「……君に面白い、と言われるのは妙に嬉しく思うが、そこまで大笑いされると、それはそれでイラっとする物だね」

「そ、そうは言うてもっ……んふっ、くふふふふっ……」

「君それ、呼吸出来てるかい?」

「む、むりっ……ひぃっ、ひぃっ……!」


 や、やばい、い、息がっ、息が出来ぬっ……!


 ひたすら笑う儂を、神はジト目且つむすっとした表情で儂を見る。


 神、そのような表情が出来たんじゃなぁ……。


 新鮮じゃのう。


「はぁ、ふぅ……いやー、笑った笑った」

「……君、そんなに笑うんだね」

「儂とて笑うさ。まあ、ここまでの呵呵大笑はなかなかないがな」

「へぇ、そうなのか。まあたしかに、君の今までの過去のデータから、笑いのツボが浅いかどうかと言われれば、浅くはないだろうね」

「おぬし、しれっと儂のパーソナルデータ、すっぱ抜いとらんか?」

「必要だからね☆」

「うわぁ、なんといういい笑顔」


 殴りたいこの笑顔、とでも言うべき屈託のない綺麗な笑顔じゃなぁ……。


「で? 続きはせんのか?」

「おっと、そうだった。やり方も分かったことだし、早速……」


 気を取り直して、再チャレンジ。


 今度は失敗しないぞと意気込み、しっかりとボタンを長押しする。


 さすがにミスらんか。


 神が操作するクレーンは、かなりいい位置に移動し、クレーンが降下。


 今回プレイしとるのは二本アームで、どんどん右に持っていき、最終的に棒から落とすタイプじゃな。


 まあ、慣れれば大した難しさは無いが、一発取りは基本的には不可能なタイプではあるが……。


「……ん、少しずつではあるが動くのか」

「うむ、片方のアームを上手く使い、徐々にずらして落としていくタイプじゃな。慣れれば大した難しさはないぞ」

「そのようだ。今ので大体把握できたしね」

「ほう! では、お手並み拝見じゃな!」

「まぁ、任せたまえ」


 自信満々にそう話す神は……


「お、本当に獲れた」


 僅か数手で景品を手に入れておった。


「おぬしそこは普通、失敗する流れじゃろうが」

「どうしてだい? 私にかかれば、この程度造作もないことだ」


 やはりハイスペックすぎんかのうこやつ。


 もしこの世界がゲームの中や物語の中であるのならば、こやつナーフした方がよくね? ってくらいなんじゃが? おっそろしいのう……。


「まったく、天才肌め」

「そこは否定しないが……私にもできないことの一つや二つはあるぞ?」

「ほう、全く想像できんが……それは一体何じゃ?」

「休むことと恋愛。あと、家事」

「……お、おう」


 なんとも悲しくなる三つじゃのう……。


「しかし、家事が出来んのか?」

「悲しいことに、これがからっきしでね。とはいえ、あまり家に帰らないからか、家が荒れることはないんだけどね」

「いやそれ、埃が酷くなっとるじゃろ」

「ははっ、正解」

「やはり……今度手伝うから、掃除した方がええぞ」

「おや、手伝ってくれるのかい?」

「ま、その程度はな。いくらなんでも、家が汚い状況と言うのは体に悪影響を及ぼすからのう。特に睡眠の質が下がる。故にこそ、手伝うと言うわけじゃな」

「……なるほど。しかし、私の体調が崩れようと、君には関係ないのでは?」

「なーにを言うとんのじゃ」

「あたっ」


 ふざけたことをぬかす神の脳天にチョップをお見舞いした。


 そこそこの力で打ったことにより、神は頭部を押さえてなんで殴ったの? という目を儂に向けて来る。


「おぬしは日本における責任者じゃろ? ならばこそ、おぬしは体調を万全にせねばならん。しかも、家に帰宅しないそうじゃな」

「ま、まぁ、研究所にも仮眠室はあるし……」

「それはあくまでも、仮眠を取るための場所であって、ちゃんとした寝床ではない。人間、しっかりとまとまった睡眠を取らねばならぬし、健康にはならんぞ」

「……たしかに」

「それに、おぬしが倒れでもすれば心配になるわい」

「そうなのかい?」

「当然じゃろ? おぬしがおらねば儂の能力の調査は誰がするんじゃ? 説明は? 研究は? 他にも色々理由はあるが……まぁ、一番でかい理由で言えば、やはり儂がおぬしを気に入っとる事じゃろうな」

「……っ」

「マッドサイエンティストな部分はあるし、何よりとんでもないタイミングでとんでもない爆弾な情報を投下していくが、それでも助かったことは事実……いや、助かったか?」

「そこは普通断言するところじゃないかい?」


 ジトーっとした目で抗議された。


 いやだって、おぬしのせいで儂、とんでもねぇことになったからな?


 主に、夜のあれこれで。


 ……いやでも、実際にしたのは夜ではなかったし、昼間であったから……うむ、まぁ、別に良いか、夜のあれこれ、と言う風に表現しても。


「ごほんっ。まあ、ともかく、じゃ。おぬしにはなんだかんだ助けられた……うむ、まぁ、助けられたな。実際、おぬしが開発した開示薬のおかげで能力の詳細も知れた。おぬしのおかげで儂の能力の詳細を知れた。この時点で十分助けられていると言えよう」

「いやしかし、それは君だけではないが」

「うむ、そうじゃな。つまり、じゃ。おぬしが倒れようものなら、儂らにも被害が来る。もちろんそれはおぬしに頼りきりになっとることでもあるわけじゃ。故に、おぬしはしっかりと休息を取らねばそれはもう大変なことになるじゃろう」

「……」

「ま、そんなことを抜きにしてもおぬしは面白いからのう。接した時間は少ないが、それでも、いや、だからこそ気に入っとるわけじゃが」


 人間、接した時間が短くともわかることはある。


 そやつがどんな人間かどうか。


 もちろん、ひたすら自信を隠すような演技力がある可能性もあるにはあるが……それでも、気に入るか気に入らないかは判断可能と言うわけじゃな。


 儂的には、色々と教えてもらって助かっとる。


 それに、なんだかんだちょこちょこ連絡したりするしのう。


「……ははっ、そう真正面から言われると、思わず面食らうし、何より気恥ずかしいね」


 顔を赤くしながらぱたぱたと顔の熱を下げるためか、手で顔を扇ぐ。


 んむ? そこまで顔を赤くするようなこと言うたかのう?


「ともかく、じゃ。その内儂はおぬしの家に行き、掃除をしよう。よいか?」

「……まぁ、その申し出はありがたいので、普通にお願いするよ」

「うむ! その時は任せよ!」


 よーし、これで睡眠の質を向上させられるのう!



 クレーンゲームを終え、儂らはなんとなく騒がしくも、高揚感を与える場所を見て歩くと、


「そう言えば、プリクラというのはどのような物なんだい?」

「簡単に言えば、写真を撮る機械、じゃろうか? なんじゃ、気になるか?」


 儂的には、昨日やったばかりじゃが。


 ってか、よくよく考えたら昨日とやっとること、同じじゃね?


 ゲーセン行って、クレーンゲームして、プリクラて。


 なんじゃ、今日は昨日の焼き増しか?


「写真……それは、楽しいのかい?」

「んー、楽しいかどうかで言えば……まあ、楽しいぞ? 昨日初めて親友共とやってみたが、落書きもできるしのう。もとより、女性の友人同士か、カップルでやることが多い筐体じゃな」

「ふむ、思い出作りに近いのかな?」

「そうじゃな。儂も……ほれ、昨日の写真はこうしてスマホのケースに貼っとるわい」

 証拠とばりに、儂はポケットからスマホを取り出し、その裏側に貼ってある昨日のプリクラを見せる。

「ぶふっ、女好きのめんどくさがりっ……」

「あー、そういや健吾の奴がミスったと言っておったのう……」

「ち、ちなみにこれっ、なんて書こうとしたんだいっ?」


 ふふふ、と笑いながら元の文章を訊かれたので、儂は素直に答える。


「女好き、ではなく、嫁好き、と書こうとしたらしい。ま、間違いではないが……実はそれ、あ奴らに見られた時『旦那好きではないのですか?』と詰め寄られたのう……とはいえ、好きであることに間違いではない故、問題にされんかったがな」

「そ、そうかっ……ふふっ、そうかそうか……君はしっかり惚れているんだね」

「そりゃあのう。瑞姫はまあ……あれじゃが、他の面子に関してはそれなりの関係を築いとったからのう。ま、瑞姫もあれはあれで悪い奴では……いや、悪い奴ではない、か? いい奴、と訊かれればいい奴と答えられるが……んー、まぁ、暴走したら問題なだけでそれ以外は普通……うむ、まあ、問題なしじゃな。うむ」

「君それ、自分に言い聞かせてはいないかい?」

「……そうでもせんと、あの変態とは付き合えんよ」


 これでも嫌いではないし、割と行きつくところまで行ったような関係になっとるからのう……ま、責任、と言う奴じゃな。


 ……いやでも、責任を取るのは向こう側で、儂違くね? 処女じゃないし。


 あ、いやでも、体を戻した関係で戻っとるし……なんか、めんどくさいな、儂の体。


 逆に、あやつらって普通に処女じゃよな? あれ、普通逆じゃね? これ、普通に考えれば儂がもらう側のような……何故、数度貰われとるんじゃろうか。


 ……ま、まあよいか。うむ、儂自身もまぁ納得しとるわけじゃから……うん、大丈夫……ちょっと、アレな感じだったけど、問題は無し……うむ。


「どうしてそんなに遠い目をしているんだい?」

「……ちと、色々思い出してのう……なんと言うか、儂って結構異常な生活なんじゃなぁ、と」

「本当に君、どんな生活を送っているんだい?」

「んー、元男なのに、下手な女性よりも女性的なあーれーをされとる感じ?」

「わかるようなわからないような……しかしそう言うと言うことはもしや、例の薬、使ったのかい?」

「……どう見える?」

「あぁ、察したよ。なるほど、そうか……。しかし、感想は?」

「ノーコメントじゃが……これだけは言える」

「ふむ?」

「とりあえず、死ねる」


 儂は真顔で言い放った。


「本当に君、どんな生活をしているんだい?」


 神が同情的な視線と言葉を儂に向けてきた。


 割と面白そうとか言う神が、じゃ。


 そもそもこやつ、割と下ネタとかも平気と言うか、自身のスリーサイズなんかも平気で言おうとするわ、アレなことも平気で言ってくるなと、普通に適応力高い。多分、儂以上。


 じゃと言うに、この反応。


 こやつにも、そういう気持ちはあったのか。


「……ま、まあ、儂の生活の話はいいとして」

「君の場合、生活の生の字が性別の性になっていそうだけどね」

「そういうこと言わんでくれる!?」

「はっはっは! まあまあいいじゃないか。とはいえ、こちらや国としてはありがたいがね、君はまだまだ高校生という青春真っただ中であり、同時に一番楽しい時期であるとも言える。少なくとも――できちゃった婚ならぬ、できちゃっ退学だけはしないようにね?」

「途中までは良かったのに、最後で台無しなんじゃが!?」

「本当のことだろう?」

「ぐぬぬ……」


 確かに一切の比定が出来ぬ……儂としては全くそんなつもりはないし、その辺りの信念としては優弥がそうじゃな。


 あやつもあやつで、過去に色々あったらしいし、彼女と別れる理由がそこにあるらしいしのう。


 つーか、それは置いておくとしても、地味に『できちゃっ退学』が上手いのがムカつく!


「ともあれ、だ。折角だし、一緒にどうだい?」

「そうじゃな。ま、おぬしの初の有給であり、デートの記念に良いのではないか?」

「ははっ、そうだね。うん、是非とも記念を残しておこうか」

「うむ」


 と言うわけで、昨日とは別の人間とプリクラを撮ることになった。


 しかし、本当に昨日とやっとることが同じじゃのう……。


 そうと決まれば早速、と言うのが研究者の性なのじゃろうか、儂の手を引いてさっさと筐体の中へ入って行く。


「へぇ、中はかなり狭いんだね。それに……ふふ、こうしてくっつかないと、二人収まるのは難しいかな?」


 いたずらっぽく笑いながら、神は儂に自身の体を押し付けてきた。


 手を繋いでいたはずじゃが、気が付けば腕に抱き着く形となり、何気に神の立派な胸が押し付けられ、正直少しドキドキする。


 瑞姫たちではあまりせんのじゃが……あまり会わず、そして触れ合うことのない人物だからじゃろうか? とはいえ、これはこれで良いのう。


 なんか、青春って感じがする。


 まあ、相手ゴリゴリの大人じゃけど。


 いやでも、その理屈で行けば結衣姉も大人か。


 ……じゃあ青春で!


「そうじゃな」

「おや、君は照れないのかい?」

「ははっ、これしきのこと、この三ヶ月の間に経験してきたことに比べれば……ふっ」

「オーケー、私が悪かった」

「まあ、そんなことはさておき。このまま撮るか? それとも、もう少しポーズを取るか?」

「ふむ、そうだね……折角だ、デートっぽくするかい?」

「ほう、それはどういうポーズじゃ?」

「そうだね、では……こういうのはどうかな?」

「――っ!」


 次の瞬間、神の表情がものすごく色っぽい物に変わったかと思えば、儂の腰に手を回して思いっきり抱き寄せてきた。


 まさかの表情と行動に、儂は思わず不意打ちでドキッとさせられた。


 ……なんか儂、女子にイケメン的行動を取られるとすっごいドキッとする性格に変わっとる気がするんじゃが……。


 美穂や瑞姫、アリア、ましろん、結衣姉と、なぜかこういうシチュには弱い。


 くっ、顔が熱い……!


「おやおやぁ? 随分と顔が真っ赤だが、どうしたんだい? ん? お姉さんに言ってみな?」

「は、辱めるでないわいっ! だ、第一、お、おぬしこそは、はは、恥ずかしいのではなにゃいか!?」


 くそう、噛んだ!


 そんな儂をニマニマとした意地の悪い笑みで見つめて来るのがなんかイラっとするぅ!


「ははっ、君、腕を組むのはセーフで、こういうのはダメなんだね?」

「し、仕方ないじゃろっ? な、なんかドキッとするんじゃもん……」

「おやおや、随分とまぁ乙女なんだね? ふふ、可愛いじゃないか」

「ぐぬぬぬぬ……」


 節操がない儂の心めっ!


 なぜじゃ、既にもう旦那が五人もおると言うのに、何故こやつにもドキッとさせられとんのじゃ儂ぃ!


 あれか!? 儂はこういう者が好みで、惚れっぽいというのかっ!


 くそぅ、このままではまずい……り、理性を……理性を120%で総動員させ、なんとしてでも本能と言う牙城を崩されぬようにせねばぁ!


「なるほど、ギャップ萌えというものでもあったか。君は本当に面白いね。データで見るよりもずっと」

「……まるで、儂の性癖を知っとるような口ぶりじゃのう」

「そりゃあね? というか、知ってるかい? 発症者たちと言うのは、もしも結婚しない、なんてことになれば、国からのお見合い婚があるんだよ?」

「え、マジで!?」

『はい、チーズ!』


 カシャッ! と儂があまりにも衝撃的すぎる情報と言う名の爆弾を投下され、バッ! と横を向いた瞬間にシャッター音が鳴り、フラッシュが焚かれた。


 し、しまった! 変なタイミングの写真が!


「おや、随分と間抜け面になってしまったね。撮り直すかい?」

「……おう」

「そうだね。私もちゃんとした写真が撮りたい。じゃあ、やり直しで」


 気を取り直して写真撮影。


「のう、この体勢はやめんの?」

「? 何を当たり前のことを?」

「そ、そうか……」


 離れるつもりはないようで、神はきょとんとしながらも、綺麗な笑顔を正面に向け、いざ撮影、となった瞬間、


「不意打ち」

「へ? ――ひゃぁ!?」


 神が儂の頬にキスをしてきた。


 ぼんっ! と顔が真っ赤になり、同時にシャッターが焚かれた。


「はっはっは! いやぁ、うん、やはり抵抗がないらしい。ふふ、まあ、口元は今回はしなかったけどね?」

「い、いやおぬし何しとんの!? 急に、き、キスとか!」

「いやいや、君は五人も旦那がいるだろう? キス程度、それはもう濃い~~~のを経験済みなのでは?」

「いやそうじゃけど! なんかこう、普段されとらん者にされるとドキッとするじゃろ!?」


 あと、地味に口じゃないのがポイント高い!


 儂なんて、いきなり直じゃったから、こう、ほっぺちゅーはすんごい気恥ずかしくなる!


 あと、よく見れば神の顔あっか! 耳もあっか!


 恥ずかしいのならばするでないわい!


 ……と、本気で言えたらいいんじゃが、なんか言えんかった。


 ぐぬぬぬ。


「ドキッとした、か。ふふ、この私にドキッとさせられるとは、君と言う人物はどうやら、『ざ~こ♥』と言わざるを得ないね」

「なんでメスガキ風!?」


 ちくしょーめ、なんかちょっとドキッとした!


 おのれぇ、こんな体にした儂の旦那共め!


「はははっ、君がそうやって顔を赤く染めてわたわたするのは何と可愛らしく、なんてゾクゾクさせてくれるんだ」


 そう言う神の顔が少し恍惚とした物へ変わり、なぜか自分の体をかき抱く。


「なんか変態っぽい言い回しやめてくんね?」

「いやいや、この程度はどうってことないさ。しかし……ふふ、聞いていた通り、Mなんだね?」

「ち、ちちちちがわい!?」


 突然Mと言われ、儂はきょどりながら否定する。


 いやもう、なんか最近、否定できないんじゃね? とは思っとるけど! それでも、認めたら負けじゃろこれ!


「隠さなくてもいいさ。色々聞いてるから」


 にんまり、とSっぽい笑みを深めながら神がスマホをちらつかせた。


 それを見て儂は誰が情報を漏らしたのか気付いた。


「あやつらじゃな!? あやつらに言われたんじゃな!? 吐け!」

「下着は穿いてないよ?」

「いやそう言う意味での『はけ』では……って、んんん!? おぬし今なんつった!?」

「いやだから、私、下着穿いてないよ?」


 今日一番の爆弾が投下された。


「なんで今そのカミングアウト!? ねぇ、おかしくない!? 明らかに今するようなものじゃないよな!? え、儂どう反応すりゃええの!?」


 なんかもう、ツッコミどころが多すぎるぅ!


 儂一人でツッコミきれんのじゃけどぉ! ねぇ、こやつなんなんマジで!?


「んー、ツッコめばいいんじゃないか?」

「もう既にツッコんどるわい!」

「ははっ、君は突っ込まれる側だろうに」


 とんでもねぇ発言に儂は吹き出す。


「ぶはっ! マジでどうした!? なぜに突然下の話に転換しとるの!?」

「おや、私としては『君はボケ側なんだから、ツッコまれる側だろう?』と言う意味で言ったんだが……おやおやおやぁ? 君は一体、どういう想像をしたんだい? ん? 恥ずかしがらずにお姉さんに言ってみな?」

「ちくしょーめ! この研究者、すんごい腹立つぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 殴りたいこの笑顔を浮かべながら、そして儂が一体何を考えて先ほどのツッコミを入れたのかを察した顔でほらほらぁ、と煽って来て、儂はプリクラの中で叫ぶのじゃった。

 どうも、九十九一です。

 ささっとデート話は終わらせようと思っているのになかなか終わらぬ。あと一、二話はかかりそうだなぁ……。

 次回も、一応明日投稿したく思いますが、いつも通り期待しない程度でお待ちください。

 では。

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