85体目 戦闘開始
1機が潰されると、もう1機は仇を討つでもなく逃げ出した。
情報を持ち帰るという意味では正解だ。
そして俺は、映されてた外の光景が消されると同時に短剣で突撃。
腕で受け止められ、どういうわけか金属音が響き火花が散っている。
数瞬接触し続けたが、腕を振り払われ一端距離ができた。
「交渉決裂か……!」
「別に人類の味方ってわけじゃないぞ。善人ではいたいけど、俺はやりたいようにやるだけだ。そしてお前には嫌気が差した。だから帰還命令が出てるけど…………戦闘開始だ!」
一呼吸開け、一度閉じた目を開くと同時に戦闘開始の宣言をした。
それを合図に、分身を運用する上での上限――60体ほどにまで増やす。
半分ほどは外部からの侵入で、結界内に散らばらせる。
結界を多く学んだ俺からすれば、突破は容易いものだった。
敵がどう対応するか、手の内を拝見させてもらおうか。
「そうかよ……。本気で仲直りしようと思ってただけに、残念だぜ」
マー坊が纏う結界は、リッカの助力を得ていないからか消えている。
しかし衝突の際、肉体が金属でできている感じがした。
分裂体なら相手にするだけムダだ。
倒すことで相手への悪影響が出るならいいが、確証もなく相手はしたくない。
試すのはチャンスができた時でいい。
作戦の失敗につき、本体にはギルドや国から帰還命令が出ていた。
しかしこう後手後手に回っていては相手の思う壺だ。
ここまでは威力偵察や地形把握だったが、全てを無視して戦闘モードでひたすらに魔物を狩る。
湧く速さと倒す速さのどちらが上かは分からない。
しかし少しでもマー坊の気を逸らせば、その隙に国も動けるというものだ。
「逃げてばかりじゃ俺には勝てないぞ?」
「それを放置しないってことは、何か不都合なことがあるんだろ。魔物全部を狩りつくしてやるよ」
回りこまれたのか、分身がマー坊に遭遇した。
「ちっ……。待て――!?」
「じゃあな……!」
そして俺は、逃げるフリをさせて、追ってきたところに攻撃を仕掛けた。
簡単に防がれるが、事前に≪ふくろ≫から取り出した自作の爆弾と共に分身が自爆。
"風火爆裂"は爆弾を交えることで数倍の威力となって、爆炎がその場を包む。
その爆発は近くに居た分身が目撃し、消えた分身は魔物から奪ったエネルギーで再度作り直した。
自宅では『レベルが5アップしました』という声が本体に聞こえた。
「やったか……!?」
「分裂体は倒せたんじゃないか」
フラグを立てたというのに、マー坊はどこからも現れない。
まさか倒したのが本体だったということはないだろう。
もしかしたら、追加で倒されることを嫌悪して出てこないのやも。
分裂体と言うぐらいだから、本体のチカラをそぎ落としていることを祈る。
『レベルが3アップしました』
『レベルが2――』
『レベル――』
『レベ――』
『レ――』
格上にぶち当たると分身単独では勝てず、消えてしまう。
しかしそれを差し引いても、レベルが凄い速さで上がった。
どういうわけか、格下と思われる弱い魔物ですら大量の経験値をくれる。
魔界の生物は魂の質が違うから、経験値が蓄積され易いと強引に理由を付けてみる。
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トウヤ 19歳 男 レベル:1550 超人級
S P:900
体 力:3460(+200)
魔 力:2940(+200)
筋 力:1560(+200)
敏 捷:2010(+200)
知 力:170
器用さ:515
能力
:生体具現:レベル9【増加必要SP1000】
:加速する世界:レベル24【増加必要SP8】
:変質吸収:レベル9【増加必要SP90】
:気力操作:レベル29【増加必要SP5】
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12時間ほど狩り続けた結果240近くものレベルが上がった。
とてつもない魔物の数と質だからこそ成し遂げられた産物だ。
途中から魔塔の中で、吸収がしやすい魔物へ分身を送り込んだのもこの結果を生んだ一端か。
あれからマー坊が現れることはなく、代わりに使い魔が複数襲ってきた。
結構厄介だったが、1時間もすると、こちらが止まらないと判断したようだ。
使い間を減らした分、代わりに強力な魔物を多く送り込んでくれた。
わざわざ経験値を供給してくれるとは律儀なものだ。
それらをノーリスクで倒すことによって、あちらの戦力は激減したことだろう。
中には分身が10体いても倒せない、以前戦ったイフリート並みの怪物も居た。
しかし黒色が目立つ≪ウンディーネ≫とでも呼びたくなる魔物も、ゾンビアタック自爆の前では無力。
数十の分身を犠牲にして討伐。
俺に数段跳びのレベルアップをもたらしてくれた。




