84体目 爆弾
「大分揺れたな」
「大きいエネルギーも感じたし、誰かが地面を割ったのか?」
「アルトゥースさんがまだ戦ってるとか」
「お互いに吸収系と回復系の能力が高ければ、可能性は十分あるな」
少なくともダイダラボッチのリッカは、その能力があるように見えた。
今になってどちらかが強力な技を出したと考えれば、地面が割れたのも納得できる。
「……状況が大分変わったから、次の指示までは地形調査をしてくれってさ」
「悠長だな。時間が経つほど状況が悪化するのに……」
「戦力を世界から集めるだけでも、色々面倒なんだろ」
「手遅れになる前に会議が終わるのを願うしかないな」
地割れが起きて数刻。
手遅れになったかもしれない……。
時間が経つほど空気に魔素が充満してゆき、瘴気と呼べるぐらい有害なものになった。
そして結界も色が変化している。
薄く金色に光っていたのが、今では濃い紫色だ。
「結界の様子が変わったな……。アルトゥースさんは撤退したのか?」
敵が結界を奪ったようで、魔物だけではなく人も外部に出られない。
別働隊は地割れで一時撤退を試みたようで、変化する前に外へ出られたらしい。
「結界が消えないのは、魔物を使って守りを固める為だろうな。瘴気を濃くする目的もあるかも」
「魔力の質的に奪ったのは≪ダイダラボッチ≫か……。本体の居場所はやっぱ辿れない」
「もう帰還していいんだよな。どうする?」
「少しでも数を減らしておこう。やらないよりはマシだろうし」
そして時間がさらに経過した……。
歪みのせいで、通じている道はめちゃくちゃ。
調べ続ければ法則が見つかるかもしれないが、ランダム性が強くマッピングは意味を成さない。
外では爆弾を撃ち込むからと、周りの住民を避難させる動きになっている。
使うのは調整がしやすい水素爆弾らしいから、結界内部だけを狙う算段だろう。
何発撃つかまでは分からないが、敵に結界を奪われた以上仕方ない。
『レベルが1アップしました』
「おっ。またレベル上がった」
分身はまだにリッカを探している。
そして魔物の数が多いから、経験値も大量だ。
爆弾などを使い倒す実験では経験値は入らなかったらしいから、少しもったいない気分になる。
敵の認識できる範囲で倒せば入るらしいが、今回のケースでは誰の経験値にもならないだろう。
「爆弾が降ってくるのに、相変わらずレベル上げかよ」
「なんだマー坊か。リッカの場所に案内でもしてくれるのか?」
「するまでもないな。もう何時間も前から、リッカは結界の中ならどこだろうと存在してるからな」
「瘴気になる能力を有してるのか」
「8割正解だ。これでもまだ勝てると思うか?」
倒す方法は幾つか思いつく。
しかし本当のことを言っているかも分からないし、勝てるかも分からない。
今は敵の情報を少しでも引き出すのを優先するべきだ。
たとえ嘘が混じっていても、情報があるに越したことはない。
「逆に訊くけど、核とか聖人対策はあるのかよ。勝算もなしに寝返るわけもないだろう」
「それを知りたいなら、逃げ道を用意せず本体でくることだ。情報だけ引き抜こうだなんて調子がいいんじゃないか?」
「つまりお前には、俺が本体かどうかの判別ができるわけだ」
「……さて、どうだろうな」
答えないのが答えになっている。
そう思わせる手口かもしれないが、甘くは考えない。
「まあ爆弾の対策は、丁度見せてやれそうだ。アレを見て見ろよ」
顔を向けた先の空中に、謎の穴が空いた。
やがて弱い光が出力され、結界を遠目に見ているような映像が映し出された。
そこには爆弾を乗せた軍隊の戦闘機が2機飛んでいて、爆弾を投下。
しかし結界から黒い触手が飛び出て、爆弾を飲み込んだ……。
「爆発しない……?」
「リッカが爆発前に消化して、エネルギーに変換しちまったのさ。さあリッカ! やれ!」
そして触手は飛行機に伸び、1機が捕まり潰された。




