8体目 覚醒
「これまでに比べたら異常な速さなのに、レベルアップはやっぱ待ち遠しいもんだな」
「そう思うなら本体も戦えよ……」
「筋トレはしてるよ」
実体具現がレベル19になってから、早くも4週間近く経っていた。
時期は6月中旬となり、最近は暑く感じる日も増えてきた。
そして実体具現はというと……。
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トウヤ 19歳 男 レベル:155
S P:49
体 力:333(+50)
魔 力:527(+50)
筋 力:226(+50)
敏 捷:349(+70)
知 力:160
器用さ:380
能力
実体具現 レベル19【増加必要SP50】
加速する世界 レベル6【増加必要SP1】
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必要SP50とかふざけるなと言いたい。
魔王が健在し天地の魔塔が存在しなかった時代なら、英雄や勇者が最終的に覚える能力と同等レベル分のSPだ。
基本ステータスもだ……。
レベルが100を超えるとステータスの上がり幅が小さくなるとは噂に聞くが、実際大分下がってきた。
それでも多く上がっているステータスは、通称努力値。
敏捷が多く上昇しているのは、レベル上げのために走り続けているからだと思われる。
とはいえ分身では肉体の経験は積めないので、技術的意味で敏捷が上がったということだろう。
これ以上大きく増やしたいなら、≪気力操作≫を覚え鍛えるしかない。
この1月で80階層ボスも倒し90階層に挑めるようにもした。
クエストが発生しないかと期待し10から30階層ボスも単独撃破した。
そしてひたすらレベルを上げ続け、本体は筋トレをしていた。
精神面や使い続けている体力はともかく、筋力は本体が鍛えねば衰えてしまうからだ。
「どうしたの独り言なんかして」
母親に会話が聞かれていたようだ。
しかし能力を秘密にできる性格でもないし、他者とお喋りをする機会も多いからまだ話さない。
「そりゃあアレだよ。実体を生み出すってことはもう一人の自分を作るってことだから、内なる自分を作り出す的な」
自分で言っといてどうかと思うが、痛い人みたいになってしまった。
だが勝手に喋るから、あながち嘘でもない。
「それで、うまくいきそう?」
「滅茶苦茶限定的だけどね。数も出せないし。けど盾にはなってくれるし、集めた素材を 捨てられそうになって焦ったぐらいには効率も上がってるよ」
目立たない程度にギルドに納品しているが、それでも60万エン分の素材をゴミ袋に溜め込んでいる。
「やっぱ、昔話の英雄みたいに甘くはないわね」
「6年も掛けてショボい能力覚えたとか思われたくないから、誰にも言わないで。成長スピードは上がってんだから、時間を掛ければ強くなるだろうし」
「ムリしない程度にね」
実際、今現在がショボいのは間違いない。
この程度の言い方なら、もし漏らされても噂にはなるまい。
母親との会話が終わりしばらくして、その時が来た。
『レベルが1アップしました』
「さて……。上げるぞ?」
俺の6年分と同じぐらいのSPを注ぎ込むのだ。
これで変わらなかったら、1週間は寝込む自信がある。
伝説上の武道家は、3体を具現化して戦っていたと載っている。
俺の経験上、それは死闘だったからだ。
限界は最低でも5体か6体か生み出せたと推測している。
実際同格との戦闘では、俺は2体が限度だった。
伝承の人は本人も戦えたような感じで伝わっているから、実質4体。
俺は2体を戦わせるのが精一杯だから2倍の差があるわけだ。
だから俺はこのSP50――その武道家がレベル50付近で至った領域に、レベル150を超えてやっと入れるのだと確信を持っている。
そして……能力のレベルを上げた。
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能力:生体具現レベル1【増加必要SP50】
限界分身数:216体
限界実体数:15体
限界模写体数:1体
限界同時操作数:56体
限界オート操作数:108体
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分身と実体具現の表記は消え、俺は生きた肉体そのものを具現化できるようになった……。
それはつまり、どんな致命傷を受けても具現化さえすれば生き残れ、時間を掛ければいずれ細胞が入れ替わり再生するということ。
失った部位すら治すと言われる国宝級アイテムであるフルポーションの代用を、時間さえ掛ければ可能ということだ。