83体目 迷宮
『レベルが1アップしました』
「1体やられたぞ!」
「数が多いのに、強いのも混ざってるな……」
結界に入って少し進むと、そこは魔物の巣窟だった。
高い位置から偵察しようにも、空間が捻れまくっていてダイダラボッチすら認識できない。
雑魚モンスターならともかく、敵が結界を突破しようとしないのも気になる。
攻めより守るほうが戦力面では有利だ。
しかし、その場合ミサイルを大量に落とされるだろう。
あるいは、撃たれても平気だと判断したか。
「敵に知将が居るから、甘く考えないほうがいいか」
「戦争じゃなければ、無双できて楽しいんだけどな……」
「まだ奥に行くんだから、ムダに消耗するなよ?」
「戦いながら吸収してるから問題なし」
分身同士の会話中も、地上や空中から魔物が襲ってくる。
大概は格下なのだが、地下入り冒険者で相手取るような魔物だから油断できない。
中にはレベル4桁でないと手に負えないのも1000匹に1匹ほど混じっていて、他の偵察している人が心配だ。
多くの情報を持ち帰ろうと深入りしたら、命はないだろう。
「なんか昆虫系モンスターが多くないか?」
「ゲートが かがり火の役割をしてるんじゃね」
「魔物にゲートを潜らせる仕組みは作ってそうだよな。じゃないとこの数は異常だ」
そして戦闘を続けている内に、返り血の件は諦めた。
浴びたら分身を出し入れすることで対応している。
「それで、どれぐらい歩いた?」
「合計3キロぐらい。結界外から直線で300メートルってとこじゃないか? それにしても電波悪いな。浅い場所でこれじゃあ、奥に行ったら分身じゃないと外部との連絡はできないな」
マッピングを担当している分身のデータを確認してみると、元々の迷宮とは別物に変わっているのが分かる。
強い磁力でも出ているのか、GPSも頼りにならない。
自力で書きながら進むしかない。
「相当戦略を練ってるっぽいな。地球の戦力を警戒してるってことか?」
「とりあえずギルドの要望通り、マッピングと威力偵察を中心に続行するか」
「だな。戦車ならどれぐらい耐えれると思う?」
「仙人級なら軽く壊せるから、レベル4桁の魔物相手でギリギリじゃないか」
「俺もそろそろ仙人級入りだからな……。"グングニル"なら戦車も壊せるか?」
もうすぐ仙人と呼ばれる条件である、2つのステータスが3000を超える。
能力査定も間違いなく通るから、晴れて仙人級の仲間入りだ。
聖人と呼ばれるには、ステータスのいずれか3つ以上が1万を越す必要があるらしい。
能力的には、俺の分身能力は貢献度が計り知れないから、聖人級と言ってもいいはずだ。
その分攻撃力が弱めなのが気になるところ。
以前よりは威力と範囲もマシにはなったが、もう一押しほしい。
「ここってさっきも通らなかったっけ? ほら、枯れ木に数字が刻まれてる」
「ホントだ。歪みがここにも繋がって……? いや。マップにもここには歪みが1つしかない」
数時間の偵察でそれなりにマッピングは進んだが、同じ地点に出てしまった。
これがただ複数の地点の歪みが偶然近くにあっただけならいい。
しかし先ほど通った際には確認できなかった歪みだった。
「ランダムであちこちに繋がってるのか? 調べるのも時間掛かりそうだなメンドくさい」
「大物が攻めてくる感じはないし、時間稼ぎかも?」
「偶然の可能性もあるけど、分断目的って線もあるな」
「報告はもう少し調べてからにするか。後は上の判断次第だな」
そしてその場でしばらく調べていると、地震が発生。
地面にヒビが入り、やがて地割れを引き起こす。
隙間には固まっていない砂が大量落ちてゆき、崩れ落ちない土や岩部分が多く残される。
亀裂はさらに大きくなって、進軍はより困難になった。
外に居る分身や本体の感じからして、人為的な地震だ。
これも戦闘で発生したものか、敵が仕掛けた作戦の1つだと判断するべきだろう。
 




