80体目 出現
「あなたは……」
「話は後にしよう。まずは影の使い魔を倒す!」
言うや早し。
レイピアから目にも止まらぬ速さで光の突撃が放たれる。
しかし打ち抜いた≪影≫が消えることはなかった。
内包されていたエネルギーが増大し、口しかない化け物は笑っているようにも見えた。
そして黒い影の使い間は膨れ上がり、尋常ならざる魔素を噴出した。
「これは魔素か!? 拡散してなお目に見えるほどか! みんなは逃げろ!」
「退避!」
錬斗の合図で1人を残し全員が走る。
記事か何かで見た聖人の人が言うように、魔素が目に見え漂うことは早々ない。
精々が強大な魔物を斬ったり倒して消える時、薄っすらと拡散して透明になるのが見える程度だ。
瘴気とも呼ばれたりするほど危険なもので、一般人が触れればたちまち死に至る。
「わぷ!」
「ったく! こんな時に転ぶやつがあるか!」
「す、すいません……」
紫色の煙となって襲ってくる魔素は、俺たちよりやや早い。
慣れない足場なせいか、モモカが転んだ。
分身で回収し、軽く魔法を使って前方を走るメンバーに追いつく。
「これじゃあ追いつかれちゃう……!」
「待った桜! この距離ならもう十分。全員集まってくれ!」
弓を構えた桜を止め、全員を呼び集める。
光系統の魔法で押し戻そうとしたのだろうが、俺のほうが効率がいい。
思考を加速し、以前ムギに教えるついでに読み漁った結界魔法の術式を展開する。
風で砂を動かし、陣を素早く地面に描く。
取り出した杖を地面に突き刺し、安定させるために魔力を注ぎ込む。
直後にやや薄くなった煙に包まれるが、内部は安全だ。
耐久度に影響もなさそうだから、突破されることもないはず。
「"守護法陣"ね」
「流石委員長。物知りだな」
「それにしても凄い魔素の量ね。どうやって溜めたのかしら」
「魔力が豊富な土地だからな。何かしら条件を決めれば、できなくはない」
ルールを作れば、そこには思考が生まれる。
厳しい条件であればあるほど想いは強くなり、能力や魔法の威力は倍増される。
俺自身半分無意識ではあるが、能力や魔法に枷を掛けている。
「"攻撃をその身で受ける"、とかは条件に入ってそうね」
「この際なんでもいいですわ! これからどうしますの?」
「向こうも気になるけど、セレナさんも魔素が原因で気絶してるからほっとけないしな」
これ以上魔素を浴びさせては不味い。
みんなの意見を聞こうと口を開き掛けたところで、動きがあった。
『警告。システムが停止中につき防衛失敗。ゲートが発生します』
『あーもう! だから言ったじゃないか! まだ時期的に早いのに……』
『まだマイク入ってるよ』
『出す場所だって≪ティファナ――え? あ――』
またしても通信が切られた。
ゲートは魔素の多くを消費し現れ、突風を巻き起こす。
視界は開けたが空は暗くなり、赤い霧が薄っすらと立ち込めてきた。
そしてこれまで謎だった巨影が、姿を現した。
その大きさは予想を遥かに超越し、富士山をも超えそうな長身。
カラダは濁ったような赤色で、全身を這っている模様が薄っすら光っている。
顔らしき場所はあるが、濃い煙せいでいまいち見えない。
赤い霧は肉体から出ているようで、激しく燃やして身を削っているようにも見える。
「なんて大きさだ……」
「ヴオオオォォ――――ッッ!!」
叫び声に乗ってきた衝撃は容易く結界を壊し、全員を吹き飛ばした。
ムギと桜は着地に失敗したが、地面が砂だからダメージはないだろう。
「気を抜くな塔也! 結界を維持しろ!」
「お前こそ呆然として、『なんて大きさだ……』とか言ってたじゃん」
「お2人とも落ち着いて、どうするかの判断を!」
「「逃げる!」」
見事にハモった。
聖人でもなければ戦おうとしても足手まといだ。
桜は納得いかなそうだが、実力不足は明白。
セレナさんを安全な場所まで運ぶのを選んでくれた。
「お嬢様――――!」
「爺! 来てくれましたのね!」
「そういえば来てなかったんだな」
「お前気付いてなかったのか……」
緊急事態だから、真っ先に来てすぐ側に居るとばかり思っていた……。
それどころではなかったから、完全に意識の外だった。
ヴァイス師匠は、全員を乗せられそうな救助用の砂上ヨットに乗っている。
外観からして、燃費が悪いのを無視したタイプ。
乗船者が魔力を注ぐことで、通常の乗り物を超える速さを出せる品だ。
「よし、あれに乗り込むぞ――」
錬斗がそう告げた瞬間、後方からイケメンが飛んできた。
その聖人はレイピアを地面に刺し減速している。
多少ダメージは負っているようだが、五体満足な様子。
「くっ……。救助が来たか……。私が時間を稼ぐ。早く逃げるんだ!」
「私たちも戦えます!」
「……ダメだ! 魔物も大量に湧き出ている! 一度撤退し、君たちはギルドに伝えてくれ! 奴は他の聖人を集結させなければ勝てない!」
「分かりました。ほら行くぞ桜!」
説得に時間を掛ける余裕はない。
俺は結界を張る際に消した分身を今一度出し、有無を言わさず桜を船へと乗せた。
第五章完!
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