77体目 風穴
「ああ。予想外じゃないけど最悪だな」
「でも、どうやって侵入したんでしょう?」
最初にゲートが発生した際は、迅速に対応して残党処理もした。
討ち漏らした可能性は低いはず。
誰かが持ち込んだか、悟られずにゲートを開けられるのか……。
未知の方法という可能性もある。
「見間違えでもなさそうだ……。とりあえず報告しとくか」
「じゃあ、あたしがギルドに連絡しておきますね」
「塔也君スピード出し過ぎよ! ……何かあったの?」
地図とレーダーの位置を合わせ、迷路のルート検索で距離を確認。
砂丘は東西に18キロ広がっており、砂漠にしてはやや狭い。
しかし空間の捻じれが移動量を増やし、面倒な道順でしか行けない場所だった。
俺は検索結果を理沙と、同乗しているカレンへ告げる。
「影の反応があった……。 かなり奥、100キロぐらいの距離だな」
「どの国にもしばらく出てなかったのに……。いい予感はしないわね」
「どうやって侵入したのでしょう?」
「時期的に、先週捕まったマー坊……優が持ち込んだ可能性が高いな。場所も近いし」
長らく行方不明だった脱獄犯は、ふたつ隣の県で確保された。
しかし高レベルの超人が、被害も出さず捕まるとは思えない。
2県隣というのもかえって怪しい。
「共犯者が存在するのかは、まだ判明してなかったわね……」
「この際なんでもいいけどな。通報もしたから避難しよう」
「何を言っていますの! 発見したのですから、討伐しなくては!」
「外国の姫を連れて行けるわけないだろ。一応偵察で分身を――! "障壁"!」
突如"ピュウゥゥ"という花火のような音が聞こえ、俺は咄嗟に障壁を出すように指示を出す。
緑色の半透明の壁に覆われたが、攻撃の類ではなかった。
その代わりに、合図に使いそうな音爆弾のような、魔力が乗った音が鳴り響いてきた。
「なんなのこの音!」
「魔力が乗っていますわ。まるで軍が使う信号弾のよう……」
「何かの知らせをどこかに届けたか」
何気に、いつの間にか追いついて居たセレナさんの口から軍事情報が少し漏れた。
信号弾の内容まで喋らなければセーフだろうか……。
「何も起きませんね」
「音が早いって言っても届くまで……数秒から、遠くて5分ってところか? 早い内に逃げた方がいいな」
「お客さんを非難させないと……!」
「わたくしも手伝いますわ!」
桜に続き、セレナさんが危ないことをしようとする。
それで何かあれば、責任の所在は誰になるのだろう。
「なんかあったら国際問題……。いやそもそも、ここじゃ避難誘導なんてムリだ。市に連絡して放送してもらおう」
「なら市長には私が連絡するわ」
人を探すだけでも一苦労だ。
避難誘導は専門職に任せる。
そして理沙が冒険者カードを取り出すと、魔塔かららしき声が響いてきた。
『第1防衛システムを突破させまっ――されました。第2次防衛も失敗。付近の高レベル冒険者へ誘導。誤差0.01。警告。ゲートが発生します』
なんという迅速な誘導だろう。
発言も合わせ、わざとなのではないかと疑いたくなる。
塔の運営? に色々と文句を言いたいが、目の前にゲートが開く。
人が通れそうな程度の大きさで、出てきたのは見知った人物だった……。
「よお久しぶりだな。少し見ない内にまた周りの女が増えてんな……」
マー坊の発言を聞きつつ、刀を持った分身を10体ほど並べる。
「おいおいそんな警戒するなって」
「"烈風無双斬"!!」
俺は一切の躊躇なく、斬れる砂塵の大竜巻を発生させた。
見えはしないが、はじかれるような音が中で連続している。
砂刃の方向を操作し、音の鳴り響く中心へ竜巻の威力を集中させた。
「ちょっと塔也君! やり過ぎ!」
「いいやまだだ!」
分身が敵へ向かい2列に並び、本体が槍を取り出し光の魔力を集中する。
「随分な挨拶じゃねえか。結界にヒビが――!?」
「"グングニル"!」
分身たちが闇と雷の複合魔法である≪磁力≫の道を作り、本体が槍を投擲。
『ギイィィン』という甲高い音と共に槍は加速し、結界へ命中。
打ち砕いてなお高威力を保った槍は、マー坊の胸部に風穴を開けた。
なおも威力を保ち、後方の砂丘に当たり大きな砂煙を上げた。
攻撃の反動で分身は消えるが、エネルギーは回収可能だ。
「殺した……のか?」
「あんな邪悪な気配放ってゲートから出てきたんだ。明らかに人類の敵だろ」
「だからって問答無用でこれか。大分キレてやがんな」
「そんな……。あの傷でなんで」
胸に穴をあけたまま立ち上がり、奴は何事もなかったかのように話し出した。
疑問を呟いたのはモモカだが、この場に居る多くの人物が同じ考えに至ったことだろう。
 




