76体目 砂上ヨット
現在、よりクオリティを上げるため1話から順番に修正しております。
ここからは未修正です。
このあとには修正中が影響して若干矛盾している個所もあると思われますが、目をづぶって頂けると助かります……。
迷いの砂漠とも呼ばれる海に沿ってできた細長い砂丘は、高い位置に昇れば街も見える。
一見すると遭難などしないが、実際は局所的に見れば≪ティファナの森≫以上に複雑だ。
今でこそ観光地となり地図や携帯などを使い脱出は可能だが、地図もなしに入ると命取りとなる名所である。
「砂漠と言っても、楽しそうな場所なのですね」
「でも、甘く見て風景だけを頼りに進むと遭難しますわよ」
「塔也君。その荷物は?」
砂丘の見えるホテルに着くと、信号機をイメージさせる令嬢たちが話し出した。
そして黄ゴリラもとい理沙が、俺の収納していない所持品に興味を持った。
「非常時用のアイテム。ムギや錬斗と遠出すると、いつもトラブルに巻き込まれるからな」
「いや、巻き込まれてるのは俺たちで、お前が引き寄せてるんだろ」
「そっかなぁ。出会う前まではこんな頻繁じゃなかったんだけど」
「それで、中身は?」
「これ」
錬斗は否定するが、2人に出会ってからは問答無用で巻き込まれることが増えた気がする。
理沙には布袋を手渡し中身を見せた。
「これってもしかして……。よく用意できたわね」
「頼んだらくれた」
「それで貰えるのは、日本中探しても貴方だけでしょうね……」
1階層の毎に1個しか入手できない物だから、かなりの希少品には違いない。
しかし280階層分も解放したのだから、1個ぐらい貰っても罰は当たるまい。
「それはそうと、お兄ちゃんだけじゃなくて、あたしまで来てよかったのでしょうか……」
「盾役は欲しいからな。逆にトラブルを引き寄せそうな気もするけど」
「そ、そんなこと……。あれ? 毎月騒動続きなような……」
「大丈夫だよムギちゃん。私も巻き込まれやすいから!」
「桜の場合、巻き込まれに行ってるんだろ」
「それは……うん」
桜やムギと会話中なのだが、モモカが大人しい。
先程から海岸の方ばかり見ている。
砂浜を見て、"メテオシャワー"でも打ち込みたくなったか。
「さあ! 折角の観光ですから遊びつくしますわよ!」
「本日の予定ですが、まずはラクダをレンタルし――」
「――良い天気ですから海で泳ぎましょう!」
「……では、そのように手配を致します」
ヴァイスさんは普段からこのように振り回されているのだろう。
言葉を遮られても柔軟に対応している。
10月序盤としては充分な気温もあり、海水浴には問題ない暑いぐらいの天気だ。
あまり気にしていなかったが、水着になったことで分かったこともある。
黄青赤の順でCDEといったところだ……。
同年代で一番小さいのは桜だが、ギリギリBかC……。
砂の城を作っているお子様2名は判定するまでもない。
俺の本体は砂上の浜辺で休み、分身で砂中を泳いだりしている。
他にも色々と分身を使って同時に遊んでいると、白いビキニを付けた青令嬢がやってきた。
「塔也さんは遊ばないんですか?」
「んや? 分身で色々……素潜りして海中散歩したりとか」
「まあ楽しそう! ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「水中歩けんの?」
「ええ。問題ありませんわ」
俺は分身だから無酸素でも活動は可能だ。
セレナさんは魔法で対処するつもりだろう。
そして初日は、錬斗が女性観光客とのトラブルに3件ほど巻き込まれた。
1人だけ奔走している人物はともかく、他には何事もなく1日が経過。
少々肩透かしではあったが、もう1日あるから油断大敵だ。
「やっと錬斗も来たな。昨日悪質なナンパから助けた人はどうしたんだ?」
「それって、パラグライダーの事故からも助けた人だよね!」
錬斗よりも先に桜が反応してきた。
パラシュートが絡まって墜落してくる事故は俺でもなんとかできたが、錬斗が動いていたからスルーさせてもらった。
人以外だけ斬って助けた技術は、見事の一言に尽きる。
「ん? 夜に会いに来たあいつか。暗殺者を返り討ちにしたあとお礼を言ってきて、迎えにきた護衛と国へ帰ったぞ」
「……トラブル引き寄せてるのって、やっぱ錬斗じゃね?」
「俺……なのか……?」
兄弟揃って巻き込まれ体質だ。
俺は2人に比べればマシなはず。
そして暑いのは苦手だと言っていたモモカが、俺に向かい質問を投げ掛ける。
「今日は何をするんでしたっけ?」
「取り敢えずラクダを――」
「――今日は砂上ヨットを借りて走り回りましょう!」
「すぐ手配致します」
ヴァイスさんの気持ちが少しだけ解かった気がする……。
カレンが所望する砂上ヨットは俺も体験したことがない。
魔石を使った機械で風を起こし、砂の上を最大時速30キロまで加速できる乗り物だったはず。
燃費が悪いので完全な遊び用で、普通の砂漠では車などを使うべきだ。
酔狂な人物が使う可能性は考慮しない。
資格なしでも使えるよう安全を考慮されていて、複数人用が出せる時速は20キロぐらいまで。
だが、マナーを守らず改造したり、風魔法で加速する輩も居るのだとか。
「塔也さん止まって! 止まってくださいいぃぃ!」
「まだまだぁ! 1回転捻りぃ!」
「いやあぁぁ――っ!!」
俺は絶叫マシーンが苦手だと言うムギを後部に乗せ、全速力で砂丘を跳んだ。
安全を考え緊急停止できるよう加減しているが、時速80キロは超えただろうか。
抱き着かれたまま地面に降りると、他のメンバーを引き離さないよう停止する。
昨日から頻繁に起動しているが、待ってる時間でレーダーを使い索敵しておく。
「……おっと。ついに敵性反応が出ちゃったか」
「それって、≪影≫がこんな場所に居るってことですか?」




