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73体目 学習

「塔也さん! これにサインしてください!」

「んーと……。【公認欠席申請書】。そういえばこんなのもあったな」


 資格課程に関わる実習で休む場合、実地期間は学校を出席扱いで休める制度だ。

 ムギの場合本人のレベルが高くレベル4桁に達している師匠と呼べる存在がいるから、申請さえすれば余裕で公欠を取れるだろう。


「はい! 是非お願いします! 先生!」

「懐かしい渾名(あだな)だな……」

「冒険者になって半年ぐらい経ってから言われるようになったんだよね」


 ≪先生≫は≪首切り≫以前に呼ばれていた俺の渾名で、呼び始めたのはチクリン。

 いつ頃からかは忘れていたが、桜は覚えていたようだ。


「あだ名ですか?」

「魔塔について質問すれば全部答えが帰ってくるからって、そう呼ばれてた時期があったんだ」

「ならピッタリですね!」

「義務教育の範囲ぐらい行っておけよ。(あたま)桜になるぞ」

「わ、私は普通よりちょっと低いぐらいだよ!」

「あたしも平均ぐらいです……。塔也さんは知力が高いんでしたよね」


 点数こそ取ってはいなかったが、頭は良いほうだという自負はある。

 実際は、数学以外で1位を取った試しはないが……。


「いって学年3位から5位ぐらいだよ。小学生の頃は下から数えたほうが早いぐらいだったな」

「塔也君の成績が上がったのって、冒険者になってからだったよね」

「へぇ~! そうなんですか!」

「打ち込めるものができると自然とな。ムギは休みたいからって申請しようとしてないか?」


 学校に行きたくないからという理由なら、当然許可はできない。

 向上心があればこその公欠だ。



「そ、そんなことありませんよ……?」

「じゃあ中間か期末テストで3教科1位、学年3位以内になれたら、月水金で師匠やってもいいよ」

「そ、そんなに高い順位はムリですよ!」

「そうか? 進学校じゃなければ努力次第でいけると思うけど。桜的にはどう思う?」


 俺の感覚がずれている可能性もある。

 成績が似たり寄ったりな桜なら、正確なところが分かるだろうか。


「塔也君は勉強せずに学年3位だったもんね……。私なら頑張っても1教科1位、学年10位以内でも厳しいかも。あれでも毎日予習復習はしてたんだよ?」

「毎日やって平均以下か……」

「うう……」


 毎日予習していようが、授業中に居眠りしてしまうのだからマイナスだろうに。

 自分でも眠気が抑えれないと言っていたが、予習することによって知っている内容だったが(ゆえ)の事故だと思う。

 既知(きち)だったりまったく関係のない話を長々とされると、眠くなってしまう現象だ。



「なら、1教科1位と学年10位以内になれたらいいですか……?」

「3教科1位の学年3位以内な。冒険者家業に本気ならできるはずだ」

「……ならせめて、塔也さんが授業をしてくれませんか!」

「なんでそこまで……。いいや、ある意味好都合か」

「やった!」


 中学生時代の復習にもなるし、教えつつのほうが俺の得れる知識的経験も増える。

 それにムギの≪障壁≫は一級品だ。

 このレベルまでくる盾役主体の人物は類を見ない。

 早い内に徹底的に教え込むのは間違ったことでもないはずだ。


「……ムギの部屋を用意するか」

「泊り込みってことですか?」

「面倒だから朝から晩まで勉強漬けな。余裕があれば模写体も使うから覚悟することだ」

「……が、頑張ります」


 俺が教える場合錬斗の時と同じく、まずは精神的に追い詰める。

 限界を超えてこそ成長が早いから、何度も気絶して夜を明かしてもらうことになるだろう。

 しかし追い詰めると言っても本人にやる気がなければ覚えは悪い。

 モチベーションを保たせつつ限界を見極めねばなるまい。



「ね、眠いです……」

「寝たいなら寝てもいいぞ。それで良いと思うならな」

「いいえ! まだまだいけますよ!」


 模写体を部屋の隅にわけ同時に指導。

 これにより4教科を同時に教え込むことが可能だ。


 そして寝ながら分身を維持することができるようになった俺は、24時間体制で寝ているムギの模写体を可能な人数だけ出して教え続ける。

 ムギが朝目覚めてから30分ほど経ってから分身を消し、強制的に知識を叩き込む。


「あ、頭が痛いです……」

「ふむ。流石に限界か。学校休んで寝てていいぞ」

「いいんですか?」

「そのあいだに模写体に指導するから大丈夫。その内慣れて頭痛が消えたら、学校に通いつつ同時に家でも勉強な」

「お兄ちゃんが塔也さんのことを悪魔だって言ってた理由が分かった気がします」


 錬斗はそんなことを言っていたのか。

 最後まで粘り強く向かってきていたが、内心では激しく疲労していたのだろう。


「とりあえず5教科で485点以上は行きたいな」

「…………」

「おっと危ない」


 倒れそうになったムギを支える。

 白目を剥いて気絶してしまった。

 思った以上に精神的負荷が掛かっていたか。

 頭痛を放置して強行するのは危険だ。

 分身に知識を溜めるだけ溜めて、本体は休ませてあげるとしよう。


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