72体目 祭り
代理レベル上げのノルマも終わり、いざ本格的なレベル上げ。
なのだが……。
『レベルが3アップしました』
『レベルが4アップしました』
『レベルが3アップしました』
『レベルが1アップしました』
1日頑張って、10体ずつ解除してこれだ。
2桁も上がっているのだが、物足りなく感じてしまう。
どこか効率の良い場所を探すのが賢明だろうか。
そして8月29日、日曜日――夜は祭りだ。
ムギは、モモカと桜も誘っている。
デートと言っておきながら他者を誘ったのは、桜との仲を取り持とうとしているのだろう。
現に祭りも中盤に差し掛かり、2人きりになったのを見計らい、言われてしまった。
「塔也さん。あとはモモカちゃんと楽しむので、桜さんの相手をしてください!」
「嫌だよめんどくさい」
「みんなに優しい塔也さんは、桜さんにも優しくしなきゃダメです!」
「意味が分からない……。どういう理屈だよ」
桜のことは恋敵と認識しているのではないのか。
自分から応援する理由が見えてこない。
「じゃ、じゃあ来週の誕生日プレゼント代わりでいいので、優しくしてあげてください!」
「理由になってない。なんでそこまでするんだよ」
「あたしが好きになったのは、身近な人に意地悪をするような人じゃないですから……」
残すところ1週間で13歳になる子にここまでやらせてしまうとは……。
これではこちらのほうが子どもみたいではないか。
そしてムギは、2人が戻ってくると手早くモモカの手を取った。
「モモカちゃん! あっちにチョコバナナが売ってたよ! 行こ!」
「ま、待ってムギちゃん!」
「2人とも凄い楽しそうだね」
「……ああ。そうだな」
2人は祭りの最中、高い体力にものを言わせて人込みの中をずっと動き回っている。
そして消費エネルギーも多いからか、同年代の5倍以上は食う。
冒険者は一般人より多くの量を摂るケースが多いとはいうが、食い過ぎではなかろうか。
「はぁ……。ホント何もかも嫌になってくる」
「塔也君?」
全てを投げ出して孤独に戻りたくすらある。
しかしきっと、これは人生の分岐点。
ムギがくれたこのチャンスですら拒絶すれば、俺は日の当たる場所には二度と出なくなるだろう。
「こうなったら食い物関係の店を制覇するか……。やけ食いするから付き合って」
「……うん!」
鬱憤を食べることで発散する。
俺は焼きそばを食べ、焼きそばを食べ――焼きそばを食べた……。
1店目の評価。
普通。
「この焼きそばおいしいね」
「普通だな」
2店目。
不味い。
「なんかネチョっとした……。食わずに消化するか」
「ベトベトしててあまり美味しくはないかな……」
3店目。
俺は聞こえない程度の声で評価した。
「んー! おいしい! ねえねえ塔也君も食べてみて! とってもおいしいよ!」
「桜が作ったやつのほうが……」
「あれ? ごめんね。周りの音が大きくて聞き取れなかった」
「まあ、うまいんじゃないか」
祭りの後半、俺は終始余計なことを言うなオーラを出していた。
桜それを感じ取り、ありきたりな会話のみで刺激しないよう言葉を選んでいたと思う。
そして微妙な空気の漂う時間が過ぎ、花火が上がり始めた。
「花火始まったね。でも、ここだとよく見えないや」
「移動するか。2人もすぐそこに居ることだし」
「!? わ、わー。凄い偶然ですね! こんなに人がいるのに、"偶然"! 会えちゃいました!」
「ビックリだよな。こんなタイミングよく、偶然会えるんだから」
「そうですね! 偶然ですよね!」
「んなわけないだろ」
俺は一瞬ムギに乗っかると見せかけて、突き落とした。
そもそも"モバイルトウヤ"を連れたまま尾行するとは、間抜けにもほどがある。
見張っているぞというメッセージかと思ったが、反応からして違う。
だが、お陰で気分が少し楽になったのも事実。
ここは恩に報いるべきか。
「ほら、誕生日の前祝いなんだろ。ムギが1番楽しまないでどうすんだ。回りたい店とかもまだまだあるんだろ? どうする?」
「んー……。皆さんで花火を見ましょう!」
「……それじゃあ実体分身とムギの模写体も1体出すから、好きな場所に連れまわしていいぞ」
「その手がありましたね……。お願いします!」
分身を使えば、倍とまでは行かずともある程度楽しめるはず。
後から襲ってくる心労は考えないものとする。
尾行中、ムギは射的に興味をしめしていたのを確認済みだ。
そしてぬいぐるみが欲しいのかと思いきや、隣の屋台のアイスクリームが目当てだったようだ。
俺が巨大なクマのぬいぐるみを取っている隙に、バニラ味を購入して食べていた。
「人のこと言えないけど、少し食いすぎじゃないか?」
「乳製品は別腹です! それとさっきも言いましたけど、自分で作れるのでぬいぐるみは要らないです」
「じゃあ何であからさまに欲しそうにしてたんだ」
「桜さんが欲しそうにしてたなぁ~って。プレゼントしたらきっと喜びますよ!」
「……謀ったな」
「謀りました」
やってくれるじゃないか。
正直に言ったのに免じて反撃するに留めておこう。
俺は隙を見てアイスクリームを間接キス状態にし、ムギを悶えさせた。
中学生相応の初々しさを見れたので満足だ。
 




