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67体目 必殺技

前半は三人称です

 雪山の一部には、地面が露出している地帯があった。

 戦闘により発生した熱で、周辺一帯の雪が溶かされたのだ。

 今朝方出発した32名という人数の集団は、長時間の戦いにより四分の一にまで数を減らしていた。

 団体の半数は重傷で、その中には死亡した者も数名いる。


(きり)がありませんわね!」

「カレンお嬢様。あまり踏み込まぬよう……」

「ですがこれ以上は……!」


 戦闘員で立っているのは、優秀な兵士3名とカレンのパーティー4名。

 さらに錬斗を加えた合計8名。

 対するは全長15メートルある氷のゴーレム。

 彼らは負傷者をかばいながら戦うも、全員の限界が近い。


「さっき送信したメールが届いてれば救援がくるはずよ! なんとか(こら)えて!」

「この雪だ! 期待はできないだろ!?」

「くるわよ……。だって彼は……」

「――全力防御!」


 理沙と錬斗の言葉のやり取りがおこなわれるも、敵は待ってくれない。

 巨大な拳による攻撃を、3名の兵士が受け止めた。


「「「ぐわ――っ!」」」


 しかし体力の限界を迎え、耐え切れずに吹き飛ばされる。

 その3名の傷を癒しにセレナが駆け寄った。

 人数が減ってからというもの、時間を稼いで回復しての繰り返しである。



「爺! 治療の時間を稼ぎますわよ!」

「っは!」


 理沙が支援魔法を配り、ヴァイスがゴーレムの足を粉砕し転ばせる。

 そして立ち上がろうとするゴーレムの右腕を、カレンが燃える両手剣で攻撃して妨害する。


 もう片方の腕を狙う錬斗は、進行速度が遅めの飛ぶ斬撃を放つと同時に駆け出す。

 1発目の攻撃に追いつき、2発目を重ねることで威力を増大し、ゴーレムの片腕を斬り裂いた。

 しかし炎を纏うカレンの両手剣は、氷の右腕に食い込み外れなくなってしまう。


「これは……! さっきより硬い……!?」

「お嬢様っ――!? こんな時に……!」


 ヴァイスは最悪なタイミングで体力切れを起こしてしまい、膝を着いた。

 その隙を逃さず、ゴーレムは口から氷塊を吐き出した。


「――っ!?」


 カレンは防御もままならず、衝突した衝撃で大きく打ち上げられ地面へ落ちる。



「くそっ!」

「うぐ……」


 ゴーレムはカレンにトドメを刺そうと、鋭い氷塊に強大なエネルギーを込め打ち放つ。

 ガバーに入った錬斗が剣で受け止め――氷の槍が胴体を貫いた。

 剣は折れ、槍は背中を突き抜けている。

 軌道を変えることには成功し、カレンが貫かれる事はなかった。


「また……貫かれたか…………」

「そんな……。錬斗様!」

「セレナ様! 我々はいいので彼を!」

「ええ!」


 地面に倒れた最年少の剣士からは、おびただしい量の血が流れている。

 多少回復した兵が盾になるが、それも急速に直った氷の腕により払われてしまう。


「なんて深い傷……。これほどの重症では わたくしには……」

「お嬢様!」


 駆け寄ったヴァイスとリサが盾役として前に出ているが、防ぐのは不可能。

 眼前に迫る拳を見遣る女性3名はそれぞれに思った。

 ――錬斗様。死ぬ時は一緒ですわよ。

 ――お願い塔也君。間に合って!

 ――実力が至らぬばかりに、申し訳ありません……。


 そして巨大なゴーレムの拳は――"小さい何か"が腕に衝突し砕かれた。





――――


 間に合った。

 分身は衝突と同時にエネルギーを解放して消滅した。

 ゴーレムは現地に向かう最中に直るが、危うく味方が全滅寸前だ。

 本体は再生中の5秒間に現場に到着した。


 全長15メートルもあるゴーレムは保有エネルギーまで完全に回復している様子。

 俺はもう1度"モバイルトウヤ"を出し、胴体目掛けて投擲。


「全員防げる"障壁"を頼むぞ。"(ふう)()爆裂(ばくれつ)"!」


 氷へ深く突き刺さった分身は――自爆した。

 ゴーレムは粉々になった。


 これが俺の新たな必殺技――分身が必ず殺される技だ。

 魔力はそこそこ多く消費するが、身の安全を無視した魔法は楽に威力が出せる。

 できるだけ範囲を絞るも、それでも多くの破片が高速で迫ってくる。

 しかし"障壁"で防げる威力だから問題ない。


「待たせたな。しかし、『 t 』だけってどうなんだ。もっと位置情報だとか色々あるだろ」

「事情が分かればなんでもいいでしょ! それよりも遅いわよバカ!」


 遅いと言う原因は、錬斗や死亡した人たちのことだろうか。

 とはいえ、タイムアタックばりに来たとしても5分縮めれたかどうかだ。

 それを遅いとは手厳しい。


「さてどうだろうな。遅いかは試してみないと分からない」

「試すって何をよ……」

「……!? 錬斗さんの傷が治って……」


 触れもせず距離がある位置から錬斗の傷を塞いだものだから、セレナさんを驚かせてしまった。


「塞いだだけで治ってないから、桜は一緒に手当てをしてくれ。ムギは全力防御。モモカは足止めしておいて」



 三者三様の返事聞き届け、俺は生命活動を停止している人物へ近づく。

 魔法で治せないレベルの重傷5名に死者3名が集まっている。

 手を当てて念入りに死亡者を確認すると、魔力(たましい)は消えていない。


「うまく蘇生できるといいけど……」


 直り始めているゴーレムは、相性が悪くてもモモカならしばらくは平気だろう。

 俺は遺体に集中し、脳は特に繊細なコントロールで魔力を巡らせ温める。

 人体には詳しい方だが、技術的問題で数週間前まではできなかったであろう難易度だ。


 体温を確保すると同時に生体具現で傷口を塞ぎ、遺体の胸部に手を置いた。

 そして心臓に向け手から電撃を放つ。

 しかし、反応はなかった。


「……さらにもう1発!」


 次はイメージが明瞭になるように腕を掲げ、胸部を叩きつけ、同時に電撃を流し刺激する。


「がはっ!」


 助からないはずだった1人が、今息を吹き返した……。

 出血が止まりやすい環境だったのが幸いだったのだろう。

 体内が完全に凍りきっていなかったのも大きい。


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