66体目 まだ飛べない
「おお。よく来てくれた塔也君! 娘を助けに行ってくれ! さあ早く!」
「王様自ら出迎えてくれてあり――」
「――何を悠長な! 間に合わなくなったらどうしてくれる!? 急いで向かうのだ!」
ギルドでは人の目もあるから礼儀正しくしたのに、台無しだ。
事情はなんとなく分かる。
しかし一国の王が、他国からの助っ人を問答無用で背中を押して外に出そうとするのはダメだろう。
「ヒュース王お気を確かに! まだ事情も説明しておりません!」
「異常気象の原因を止めに行った、セレナさんやリサを含む一行の救援に行って欲しいってことですよね」
「ご、ご存知でしたか」
「いや。王の様子を見れば分かりますよ……」
ネットで集めた情報と今にも飛び出しそうな王を見れば一目瞭然。
ギルドにまで赴き俺たちを待つぐらいだ。
娘のことがそれだけ心配なのだろう。
「うおおぉぉ! 離せ! 早くセレーネを! いっそ私が!」
「おやめになってください! 無謀です!」
「……ですな。では詳しい説明しますのであちらへ」
大きなテーブルの上には、地域の地図が置いてある。
そこに移動すると、王も同席して大臣が説明を始めた。
「まず、この異常な大雪には少量の魔力も含まれており、何者かにより起こされたものだと分かります。昨晩から調べ雪山付近に原因があると分かり、今朝解決へ向け出発したセナお嬢様たちとの連絡も取れない次第でして……」
今朝というと、時差が8時間だから日本では昼の14時前後だろうか。
錬斗は昼の修行中にカレンに呼び出された形になるか。
概要は分かった。
そして締めくくりに王が話し出した。
「500レベル前後の精鋭も向かったが、この国にはレベル4桁はおらぬ……。ヴァイス殿も付いておられるが、どうか娘を……この国を救ってくれ!」
「王! そのようなことをされては いけませぬ!」
国のために土下座までするとは……。
親バカではあっても、一国の王になれるだけの器はあるようだ。
「ヒュース王やめでください……。そういう態度を取らせたってだけで報酬が下がりますから」
「塔也君。またそんなこと言って……」
「だって王に土下座させただけでとてつもない名誉? なのかは知らないけど、報酬としての価値があるじゃん」
個人的にはなんの価値も感じないが、国を救えば名声という形での価値はあるかもしれない。
名声や権力を持つ地位は要らないから、権力の行使権限だけが欲しい。
「ふははははっ! 報酬か! いいだろう。セレーネのこと以外なら可能な範囲で答えよう!」
「じゃあセレナさんと……。やっぱ地位関係が面倒なんで違うのにします」
「ふざけるな小童があぁ!! セレーネがいらんというのか!? その口引き裂いてくれるわぁ!」
「落ち着いてください! そこまで言ってません!」
俺は王をからかおうと思ったが、冗談抜きで面倒事になりそうなので違うものにした。
王はまたもや側近の兵に羽交い絞めにされ説得されている。
どうも手馴れている感じがする。
娘が関わるといつもこうなのだろう。
「じゃあ行ってきますね」
「どうかセレナお嬢様をお願いします……」
俺は王を放置して、大臣に告げてギルドを出て行った。
「うう……。外はもっと寒いです」
「これじゃあ全然進めないよ……!」
「ご、ご主人様……! 飛ばされちゃいそうです!」
「……ムギ。障壁頼む」
障壁を出せば吹雪は防げるのではと思い頼んだ。
結果は成功。
「ふぅ。これなら進めそうですね」
「距離があるから跳んで行くぞ。ムギは背負うから障壁に集中してくれ」
「了解です!」
歩きでは雪に足が取られるから、空中を走ることを提案する。
背中にはムギが乗り残す2人を障壁で包み込む。
そこそこ大変だらしいが、障壁ごと人を運べるのは検証済みだ。
分身で特攻したいところだが、戦闘する上での3人同時模写は俺自身の戦闘が厳しくなる。
いっそ全力を出せるよう本体で行くことにした。
それに待てと言われても、残るのはモモカぐらいだろう。
桜は勿論、ムギも待機していて我慢できるような性格には思えない。
俺は浮遊の練習はしているが、まだ飛ぶことはできない。
精々が落下速度を遅くする程度で、人を抱えながらだとそれも弱い。
重量による足の負荷は全然耐えられるから、障壁を足場にしてジャンプする毎に風魔法で加速して進む。
「塔也君! あれって明かりじゃない?」
「味方の気配が弱いし、なんかでかいのが居るな。やばいか……!?」
全力疾走は思ったより魔力を使ったが、判断としては正解だった。
"モバイルトウヤ"を出し全力で投げるぐらいには、現場が切迫した状況だったからだ。




