63体目 霧の中のデパート
「この盾とかどうだ?」
「うーん。少し重い気がします。それに持った感じに違和感が……」
壊してしまったムギの盾の代わりを物色中。
多少の違和感ならメンテついでに調整できるが、中々お気に召すものがないようだ。
「高いだけに悩むよな……。少し高いけど高レベルの人は大体オーダーメイドだし、どうする?」
「なら、本店に行ってみたいです!」
「また外国か……。でも命を守るもんだし、ベストを尽くすべきだな」
「ですね!」
後日、2人のみでの小旅行となった。
奴隷は連れてゆけず、錬斗は早く追いつけるよう修行中だ。
時間があるから、俺はムギと一緒に観光を満喫中。
転移門が現れたからか、ギルド付近に一般の観光客も多い。
「塔也さん塔也さん! アレ食べませんか!」
「ん? ああいいよ」
「ほら! 早く早く!」
ムギが指差す場には、出店のソフトクリーム屋があった。
待ちきれないのか、俺の背中を押して急かしてくる。
「それにしても、移動式の出店が多いですね」
「前までは観光地じゃなかったしな……」
元々は冒険者たち御用達の武具店などが並んでいたのが、少々不細工な商店街になってしまっている。
俺たちからすれば、遊びつつも目的の店も近いから大助かりだ。
「塔也さん! 次はここに行きましょう!」
「冒険者向けのデパートか……」
「早く行きましょう! 時間がもったいないですよ!」
「人に当たったら危ないから気を付けろよ」
冗談抜きで、本気の体当たりでもしたら一般人はミンチになる。
日常生活では制御できても、制御を大きく乱す事態が起こらないとも限らない。
あちこち動き回る子だから、危なっかしくて見ていられない。
道中手を取られたのを機にそのまま離さず、うろちょろできないようにする。
これでは園児を見守る保育士だ。
錬斗の気持ちが少しだけ分かった気がした。
「日本では売ってない物も結構ありますね」
「大抵は持ち帰れないけどな。塔内で買ってそのまま使う分には問題ないけど、アイテムボックス系に隠してもギルド出入口で見破られるし」
「あれってどういう仕組みなんですかね?」
「冒険者カードの記録を読み取ってるらしいな。それだけじゃないっぽいけど」
「へぇ~。初めて知りました」
ムギは地下2000階に到達しているというのに、全然物を知らない。
冒険者になって4ヵ月そこそこでは仕方ないのだが、普通の人が聞いたら仰天するに違いない。
「世界的に有名な場所なだけあって、どれもこれも高いな」
「転移門が出る以前から、飛行機に乗ってくる人も居たんですよね? 今なら買えますけど、高くて目が回りそうです」
数ヶ月から数年で壊れる可能性が高いと思うと、高すぎて手を出したくない気分になる。
「消耗品だと思って買わないと、後で痛い目を見るぞ? まあ、命掛けだからケチるのもよくないけど」
「量産品なら替えは利きますけど、オーダーメイドだと難しいですよね……」
「手持ちと維持費、今後の収入の見立て辺りと要相談だ」
しばらく物色していると、大騒ぎしながら大勢の人がデパートに流れ込んできた。
何事かと思い気配を探ってみる。
「……なんか慌ただしいですね」
「なんだろ……。うわっ……。外の気配がやばいことになってる」
緊急要請は入っていない。
しかし外には、全国的にゲートが発生した時以上の気配を感じる。
遠目に窓を見ると、深い霧に包まれ何も見えなかった。




