60体目 旧友
「……ここだよな?」
最近は事件も多く万全でもないから、本格的な休暇を取ることにした。
俺は旧友に会うべく、現在働いているという場所に訪れた。
なんでも魔塔に関係する総合研究所に所属していて、現在は≪影≫対策の研究を進めているらしい。
「トッシー!」
遠くから俺を呼ぶ声がした。
周りを確認して見ると、研究所の屋上にそいつは居た。
「何やってんだあのバカ……」
「とうっ!」
竹山ことチクリンは勢いよく飛び降り、体操選手も真っ青な回転をこなして地面に降り立った。
4階建ての15メートル近くあるのだが……。
俺は昔のノリで採点した。
「10点10点1点。合計21点!」
「くっ……! ハートが足りなんだか!」
「つーか大怪我したんじゃなかったのかよ」
あんなところから飛び降りるなど怪我人のやることじゃない。
100階クラスの冒険者なら大丈夫でも、引退後の後遺症はないのだろうか。
「ああ。右の手足を失ったとも。ほれ」
「なんだそれ。今の義手は普通に動かせるレベルになってるのか」
「微弱な電気信号を読み取るタイプもあるが、これは魔力で動かせる仕組みになってる。それなりの冒険者であれば普通に動かせるぞ?」
黒髪の短い天然パーマが白衣を捲り見せてきたのは、金属っぽい義手義足。
使用者のイメージに合わせて簡単な動作をさせられる試作ゲーム機なら最近見た。
それと同じような仕組みなのだろう。
「それより聞いたぞ! トップランカーになったそうじゃないか!」
「階層突破だけな。レベルとかはまだまだ先だ。チクリンこそ研究員になれたんだ? てっきり面接で落とされると思ってたのに」
「俺とて引き締めるところは締めるとも。まあ面接で落とされたから実費で建てたのだが……」
「落とされてんじゃねーか」
昔はチクリンを中心にして俺が乗っかり、マー坊を巻き込んで頻繁にバカをしたものだ。
そして桜が大いに笑っていたのを鮮明に思い出せる。
数ヶ月前までは思い出すのも嫌だったが、最近は大分改善してきたか。
「早速だが我がラボを案内してやろう!」
「ってことはチクリンが社長……? いや所長か?」
「一応そうなるな。研究員は28名居るぞ! ちなみに108号は永久欠番だ!」
「108番か……。懐かしいな」
チクリンは昔から仲間や物などに番号を付ける。
今でも同じようなことをしているのだろう。
その後は研究所内を一通り案内された。
小一時間してから客間で見せられたのは、懐中時計を一回り大きくしたぐらいのレーダー。
「どっかで見たことのあるようなデザインだな……」
「レーダーなど全部同じようなものだ。気にするな」
「魔物を探知するレーダーだよな? 人も映ってんじゃん」
「魔素レーダーだからな。対象を絞らんと生き物だけでなくマジックアイテムも反応するぞ」
魔石で動かしていて、燃費を考えるとあまり一般向けではないらしい。
これで≪影≫の出している魔力的特徴を組み込めば、ピンポイントレーダーが完成するわけか。
「専門じゃないから詳しくは分からんな……。対象を絞ると消費も増えるか?」
「魔力波の質を変える分消費が増えるぞ。基本は軍事向けで、優秀な冒険者にも配るそうだ」
「最近は影も出てこないけど、少しづつ強く成ってるから次は自衛隊でも手に負えなくなったりしてな」
実際に政府は対応に追われている。
保身に走り、優先して自身のレベルを上げさせようとする動きも多くなっているらしい。
国民を守ろうと思うなら、自衛隊や警察のレベルを上げる意外の選択などないだろうに。
そうしない理由は、「我々にもしものことがあれば国が~」といったところか。
「前回ので終息したと見るのは甘いだろうな。チカラを溜めていると見るべきだ」
「昔の魔王がかわいく見えるな……」
「そもそも昔居た魔王は地上に存在していた魔族であり、魔界や天界の者ではないと言うのが有力説だからな」
「……ああ。塔内の魔物のレベルが高い理由ってやつな」
200年前はレベル40や50でトップクラスなのだ。
なのに塔内では、100以上の魔物がうじゃうじゃ居るのはなぜだとなる。
その理由が、塔内高階層にいる魔物は魔界や天界からやってきた魔的生物だからではないかと言われている。
 




