59体目 1000
「やばい、気力が……」
体力はまだまだある。
しかしレベルが上がったところで、魔力が回復するわけではない。
感情――心のチカラとでも言えるものは、魔力に密接な関係があり、能力の発動にも影響を与える。
精神力不足で生体具現が解除され、桜の容態が不味い状態にある。
放置すれば間違いなく失血死してしまう。
空っぽになりつつある心のチカラを、早急に充電しなくてはならない。
『≪深淵より出でし絶望≫の達成を確認しました。1991階層から2000階層の挑戦権を獲得しました。転移を開始します』
塔からの声が聞こえると青白い光が俺を包み込み、1003層へと強制的に戻された。
1人ずつ送られるようだ。
俺の次に現れたの、はうつ伏せに倒れたまま動かないモモカ。
「モモカ、大丈夫か」
「…………ぁぃ」
「喋る気力も残ってないか……。まあ平気そうだな」
危険な魔力の使い方をすると、下手をしたら肉体や精神に異常が出てもおかしくない。
見た感じでは、モモカに大きな異常はなさそうだ。
俺も連続して大量の魔力を消費したが、感情が中々湧いてこないぐらいで思ったより平気だ。
続いてムギも現れたのだが、胸を押さえ辛そうに呼吸をしている。
「ごほっ……!」
「……肺がやられてるのか。これ飲んで。ゆっくり、少しずつでいいから」
≪ハイポーション≫を≪ふくろ≫から取り出し少しずつ飲ませる。
「……っ!」
「すぐに救援を呼ぶから、少しだけ耐えてくれ……」
出してから気づいたが、少しずつでも魔力が回復し始めたようだ。
魔力は休むか感情を奮い立たせることで回復すると聞くが、我ながら相当に心が揺さぶられているのだろう。
そして最後の1人――桜が現れない……。
2人が現れた間隔からいっても、もう出てくるはず。
「まだか……!? 繋がりは感じるけど……」
いくら体力が多くなっていても、あの大量出血では長くは持たない。
ギルドカードを使い救護要請を出し終えても転移してこない。
「ちくしょう……早く転移させろよ!!」
思わず感情が高ぶってしまい、周りに突風を起こしてしまう。
だが、生体具現を使うのに充分な精神力は充電できたようだ。
「桜……!?」
しかし時間を掛けて現れた桜は既に――――傷が治っていた……。
意識は失っている。
そして血液が足りず顔色は悪くも、呼吸はしている。
傷が治っている原因を探るべく、冒険者カードで桜のステータスを調べてみる。
「……治癒魔法のレベルが大きく上がったのか」
慣れていない難易度の魔法を発動したために気絶したのだろう。
そして数分もしない内に救援が到着し、俺たちは病院へと運ばれた。
気づいていなかったが、俺も割と重傷だった。
魔法の制御がしきれず、腕に結構な凍傷を受けているのが病院で判明した。
医療に関しては、金や人材が惜しまれることはなく、全員傷も残らずわずかな日数で完治。
治療を受けたあと桜は目を覚ました。
念のため桜は入院となって、その場で充分治癒された俺たちは帰宅する。
泊まろうかとも考えたが、家で待っててと言われたからだ。
塔内にも病院はあるが、桜が入院したのはギルドのすぐ隣にある病院。
これだけ近ければ、もし何かあっても数分で駆けつけられる。
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トウヤ 19歳 男 レベル:1095 超人級
S P:584
体 力:2820(+200)
魔 力:2230(+200)
筋 力:1100(+200)
敏 捷:1770(+200)
知 力:170
器用さ:510
能力
:生体具現:レベル6【増加必要SP30】
:加速する世界:レベル19【増加必要SP10】
:変質吸収:レベル6【増加必要SP10】
:気力操作:レベル19【増加必要SP5】
強化
:生命力強化:レベル2【増加必要SP10】
:精神力強化:レベル2【増加必要SP10】
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モモカと共に自宅に戻ると、さっそくステータスを確認した。
筋力が低いが、これはじっくり鍛えるしかない。
しかし最近やっている魔力操作の訓練が生きたようで、想像以上に≪氷属性魔法≫のレベルが跳ね上がってくれた。
「一気に増えたな……。氷属性魔法がレベル38に跳ね上がってるし……。SPどう振ろう」
「500ポイント以上あるんですよね。わたしだったら凄く悩んじゃいます」
「まずは生体具現10にするか。分身数も増えてくれるはずだし」
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能力:生体具現レベル9【増加必要SP1000】
限界実体数:325体(5+20+60+120+120)
限界模写体数:5体
限界生体数:28体
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現在の残りSP454……。
しかも多少維持が楽になっただけで、他に何も変わった感じがしない。
生体具現の数は体力の増加に合わせて増えただけである。
「………………1000!? 100じゃなくてSP1000必要っておかしいだろ……!?」
「レベルを1000上げないと覚えられないってことですよね……」
「地下2000まで解放されたから、不可能ってほどじゃあないけどな……」
魔物を倒すのも非常に困難になるが、レベルもさぞ上がってくれるはず。
しかし問題は別のところにある。
時間経過によって階層が自動的に開放され、新階層が解放されたことが世間にバレた……。
解放されてからまだ数時間しか経っていないはずなのに、自宅に戻る際のギルドも慌しくなっていた。
解放したのは初めてだから知らなかったが、転移球に触れずとも2時間が経過すると自動で階層への転移が可能となるらしい。
「そういえば、2000階層まで解放されて、一気に280階層分行ける場所が増えたんですよね」
「名前こそ出てないけど、結構なビックニュースになってるっぽいな」
最深部の到達者など、世界中からの注目の的だ。
明日には桜も退院するが、これからは各国からの探りにも警戒せねばならないか。




