表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/108

5体目 緊急クエスト

 これ以上は現在の階層でレベルを上げるのは困難だ。

 41から50階層の挑戦権を得るため、10階毎にいるボスに挑む時がきた。

 誰かしらの冒険者に解放された場なら、100階層までなら移動は自由だ。

 しかし死ぬ危険を減らすための処置か、ボスの討伐経験がない人は安全地帯である結界からは出られない。


「君、まさか1人で挑戦する気かい?」

「ええ。充分なレベルには上げてます」


 40階層に存在する主柱内部を昇り、ほぼ全てがボス部屋のフロア手前まで来た。

 そこを見張っている衛兵に冒険者カードを提示し、挑戦に問題ないレベルであることを示す。


「確かに十分過ぎるレベルだが、1人では危険だ。他に3人集めて4人で挑戦しなさい」

「……大丈夫です。俺が4人分になるので」


 実際に4人になって証明して見せる。


「分身……? 凄いな実体まである。人数もあの伝承と同じか。いいだろう。ただし危険だと思ったらすぐに逃げるんだよ?」

「はい!」



 直径100メートルほどある部屋を10メートル進むと、他の入場者がいないと判断され扉が閉まる。

 外からは開けられないが、内からなら可能だ。


 そしてどこからともなく目に見えるほど濃い魔素が紫色の煙となって集まり、40階層のボスが登場。

 俺は4体目の分身を出し、本体を除き戦闘を開始した。


 結果から言おう。

 圧勝だ。


 本来安全に安全を重ねレベル60が4人でも余裕があるのだ。

 SPの振り分けが微妙とはいえ、80越えが4人で負けるはずもない。

 だが、軽々と終わったのもつかの間――魔塔からのシステム音がフロアに響く。


『階層ボスの単独討伐を確認しました。戦歴を確認します……。100回を超える即死魔法のレジストを確認。適正の2倍のレベルを確認。≪死を恐れ挑む者≫を作成しました』

「緊急クエストか……!」

「条件は?」


 分身に聞かれ、天の声と呼ばれるものが作ったクエストを確認する。

 これは一定の条件を達成した人に極稀に作られるもので、難易度は高いが達成できれば精神的に大きく成長し、能力や報酬としてのアイテムなどを獲得できると言われている。


「50階層のボス、特殊仕様をここで討伐しろってさ」


 目の前に現れた宙へ浮かんでいる光る文字には【このフロアにて50階層特殊仕様ボスを討伐。逃走不可。制限時間3時間。獲得能力予想≪加速する世界≫】と書かれていた。


「特殊仕様ってのが怖いな」

「これに挑まなくたって充分な成長性はあるだろ」

「でも、これに挑めなくて頂点なんて目指せるか?」

「クエストが消去されかねないけど、受注と同時に本体が出るのを試すってのも手だな」


 分身それぞれが俺の思考を代弁してきた。

 分かってはいるが、本体である俺が決めろという意志が伝わってくる。


「……やるか。クリア不可能な難易度にはされないし、意志の強さが問題なら誰にも負ける気はないだろ?」


 分身たちも同意なようで、頷いてフロアの中心を向いた。



 光る文字の≪受注≫を押すと部屋の中央に、ネットで調べた情報通りの般若の女性が出現。

 しかしサイズが情報よりかなり小さい。

 そしてその頭上には、レベル83という文字が数秒間だけ現れた。


「レベル83……。同格のボスを単独で倒せってことか」

「こっちは4人掛かりだ! いつも通りやるぞ!」



 刀を持った和服を着る般若との戦闘が始まった……。


 それは、これまで味わったことがない高速戦闘だった。

 分身は次々に斬られ、修復し、また斬られと繰り返し、どんどんエネルギーを消耗する。

 こちらも捨て身で攻撃を仕掛けるが、同格ともなると硬い。

 やや非力な俺では大きなダメージを与えられない。


「やばっ! これ以上は……!」


 盾を持つ分身が完全に四散した。

 それに連動して、盾持ちが具現させていた刀持ちの分身も消える。


 異常な速度での攻防は俺の集中力を大きく削り、もはや分身2体を維持させるのが限度となった。


「くそっ! せめて本体に接近させるな!」

「分かってる! 体力が尽きる前に仕留める!」


 本体は刀、盾、棍、短剣を所持していて、現在は盾のみと、刀のみを持つ分身で対応させている。

 武具を所持している理由は簡単。

 たとえハリボデでも、現物を持っていたほうが作りやすく性能も地味に上がるからだ。

 形や質感のイメージがしやすいからだろう。


「ああもう盾重い! 短剣2本にしてくれ!」

「オーケー!」


 当然本体も見ているだけでなく、臨機応変に削れた部位や装備部分を具現化させる必要がある。

 (すで)に2体を具現化させていると集中力が足りず、走ることすらできそうにない程に消耗してきた。




 そしてゾンビアタックも5分が過ぎた頃。

 俺の体力が分身を維持できなくなるほどなくなった。


「ちくしょう。もう少しなのに……!」


 単独で戦うなら、攻防を同時におこなえる短剣二刀流がよさそうだ。

 そもそも盾や刀は重くて、相手の剣速についていけない。

 俺は他の装備を投げ捨て、ボロボロの般若に立ち向かう。


 そして極限まで集中された意識に、変化がおきた。


 般若が全力で走っているはずなのに、自身も含めゆっくりとした世界に意識だけが取り残される。

 死が目の前に迫り、走馬灯を見ているかのようだ。

 この時分かった。

 これは、この世界は――精神(たましい)に直接作用し、意識のみが加速した世界なのだと……。



 スローモーションで動く肉体は容易に最低限チカラと動きで刀による攻撃をいなし、ザクザクと般若を斬り刻んでゆく。

 両者の体力が限界に迫る一方、俺は迫る刀による()ぎ払いを軽く跳んで短剣で受ける。

 そして刀を軸にして、払われる勢いで高速回転。


「はああぁ――――っ!」


 2本短剣は凄まじい遠心力を乗せ、般若のお面を着ける女サムライを袈裟斬(けさぎ)りにした……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!

執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ