52体目 重力修行
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
モモカは久しぶりに里に戻ったはずなのに、特に騒動にはならなかった。
もっと大騒ぎになると思ったが、やはり国や種族が変われば対応も違うものだ。
人口もこの里には100人ちょっとが居るぐらいで、広大な森には似た規模の里が複数あるらしい。
「ウメさんでしたよね……。お若いですね」
「ふふっ。もう200のおばさんですよ」
「もうすぐ300じゃなかったっけ?」
祖母の年齢をバラすのはやめて差し上げろ……。
しかし、ムギが若いと言うのもムリはない。
祖母の外見が10歳にも満たないぐらい若い。
知らない人が見たら、モモカと姉妹だと錯覚しそうだ。
「おほんっ。とにかくお前だけでも帰ってきてよかった。トウヤさんさえよろしければ、我が家で引き取りたいのですが……」
「ま、待って おじいちゃん! それだとわたしが何かしたら、ご主人様の責任になっちゃう。それに、今の生活も楽しいんだよ……?」
「あたしからもお願いします。モモカちゃんとお別れしたくないので!」
「わたしも、モモカちゃんが帰りたいわけじゃないなら……」
奴隷の権利と契約を譲渡すれば、この祖父母に引き取ってもらうことは可能だ。
桜のほうは譲渡できない。
両親が日本人だからグレーになってしまう。
しかし、俺はたとえ両親が相手でも、桜を渡したくないと内心で想ってしまっている。
「ふむ……。よくしてもらって いるようだし、モモカがそう言うなら問題はないか……。トウヤさんには失礼しまたしな」
「いいえ、お気になさらず」
「そうだ。私も昔は冒険者をやっていたんだ。杖は折ったが石の部分はまだ使えるだろうから持ってこよう」
外見30代の祖父が立ち上がり、別の部屋へ行き来した。
持ってきたのは、精霊石の水バージョンだ。
水の精霊石は画像でしか見たことがないが、これさえあれば俺でも水魔法が使えそうな魔力的圧力を感じる。
「凄い品質ですね……。精霊石は2日前にも見たけど、感じる圧力が全然違う」
「それはそうでしょう。これはまだ魔塔もできてない、人間との交流もほとんどなかった時代の話です――」
とても長い話になり、途中でウトウトして何を聞かされていたのかを思い出せなくなった。
一方、日本にいる本体は……。
「やばっ!? ……分身が消えるとこだった」
「今の重力は10倍ですぞ。もう限界ですかな?」
「まだまだこの程度……!」
森に居る分身が消えぬよう、保険で数体を生み出し全員で森の分身を維持させている。
これなら仮に集中力を切らしても早々消えはしない。
先ほど消えそうになったのも、保険の分身だ。
「ではご要望通り、部屋の重力を上げましょう」
精神や技術は分身によりレベルが向上するが、肉体や魔力炉はそうはいかない。
使うだけでも体力や魔力は伸びる。
しかし細胞そのものを進化させようと思ったら、本体に負荷を掛けて鍛えねばならない。
「それにしても太っ腹ですね。こんな重力室を用意してくれるなんて」
「トウヤ殿が成長すれば国力の増加に繋がりますからな。魔石は大量に消費しますが、十分取り戻せるという判断でしょう」
闇魔法の性質は呪いと吸収――引力と言い替えてもいい。
その重力魔法を科学的に分析し、魔術として魔石を消費して行使しているトレーニングルームに俺は居る。
「しかし超人としてもまだまだ筋肉がなってません。次は15倍の重力で筋肉トレーニングから致しましょう」
「オッス!」
生命活動を維持するだけでも身体機能を強化せねばならぬ程の過酷な環境だ。
そして俺の筋肉が悲鳴をあげ動けなくなると、次は魔力を向上させる修行に移項する。
「魔力炉――オリジンは見えない臓器! ただ魔力を使うのではなく、魔力を心臓の隣から全身に行き渡らせ充満させるのです!」
「こ……こうですか!?」
「いいえなってません。何度も言うように、それでは生命力が混じって気力と化しています」
放出させるだけならば、魔力のコントロールはまだ楽だ。
しかし肉体に巡らせるのは難易度が高い。
支援魔法にも近い部分があるらしいが、俺の魔法へのイメージは捻れ。
下手に魔力のみを肉体を通したり纏おうとすれば――身がちぎれる。
「ぬぅ……痛っ! ……また筋肉切れました」
「魔力のみを通すことが可能となれば、気力も向上し肉体もより強靭になります。仙人以上になるには必須ですぞ」
「心技体揃ってこその仙人ですよね……」
この魔力操作は分身でも経験を積めそうだ。
やり方を学んだ後は分身だけにやらせるとしよう。
「気力――オーラとは生命力と精神力を掛け合わせたものですからな。肉体だけを鍛えたり、魔法だけをという人では高レベルの戦いには付いてゆけなくなります。まず速さが足りなくなりますからな」
「モモカの極大魔法も、使う間を与えなかったり回避されたら意味がないですもんね」
「そういうことです」
仲間たちも最低限は鍛えさせている。
しかしこうなると、もっと念入りに鍛えさせるべきか。
そう考えた時、俺の脳内にひとつの解決方法が浮かび上がった。
 




