50体目 外国
第四章:広がる世界
始まります!
マー坊を警察に引き渡した翌日。
事情聴取ということで、襲われた現場に居たメンバーで県の警察本部へ来ている。
担当は地下入りを果たした次の日にあった男性刑事――高橋さんだ。
「では実刑は望むものの、5年以上の長い懲役は希望しないということで、よろしいでしょうか?」
「はい。個人的には3年ぐらいで執行猶予なしがベストです。次点で無期懲役。他の人にも同意は得てます」
「了解しました。えー……奴隷の使役も確定していますので、実刑は確実かと思われます」
俺も使役しているから、凄く言い辛いことだろう。
奴隷については、殺人になるかどうか微妙なところだ。
肉体は無事だし、魂を壊した証拠もなければ証明も難しい。
いくら奴隷がグレーとは言っても、裁かれることになれば一緒に罰せられる。
俺も気をつけねばならないだろう。
「後は、死刑だと寝覚めが悪いので嫌ってぐらいですかね」
「一応報告書に書いておきます。他には何かご質問はありますか?」
俺は大体調べてあるから訊きたいことはない。
しかし桜は気になったようで、質問を投げた。
「えっと。奴隷の人たちはどうなりますか?」
「通常であれば国へ帰国させることになるかと。ただ意識がないようなので、私にもどうなるか……」
「そうですよね……」
男性1名女性2名の合計3名の奴隷は、現在入院して植物状態だ。
死者の蘇生は、伝承にもいくつか出てくる。
現代では、外傷による傷が原因で、なおかつ新鮮な死体なら蘇生できるという者は数名いるらしい。
しかし砕かれた魂ともなれば、修復は不可能と断じる他ないだろう。
「流石に面倒は見れないからな?」
「うん。だけど、なんとかして あげられないのかなって……」
仮に帰国させても、元々が奴隷であり植物状態では、碌な事にはならない思う。
かといって、日本に残したところで何かできるわけでもない。
「専門家に任せるしかないな。俺も試してみたけど、一切の魔力を感じなかったし」
マー坊は能力を貰うと言っていたが、魂を砕いてしまえば能力も使えなくなる。
俺たちを殺す気は最初からなく、奴隷として使うつもりだったのだろうか。
「最善は尽くします。ご質問が以上でしたら、本日はお終いとなります」
「……以上みたいです」
「はい! 本日はご協力ありがとうございました!」
質問は全員ないようだから、終わらせてもらう。
不安要素は取り除けたから、夏休みは気兼ねなく行動できそうだ。
数日後……。
事前に準備をしており、早速モモカの母国へと足を運んだ。
「ここがモモカの故郷か……。塔内でも似たよう建物を何回か見たな」
「考えてたより普通の国だな。というか寒い……」
錬斗は他のメンバーに比べやや薄着だ。
寒いのもムリはない。
「南半球だから冬真っ盛りだもんな。じゃあモモカ。予定通り案内頼む」
「はい。入れない思いますが、家のあった場所からご案内しますね」
写真でしか見たことがないが、水の都とも呼ばれるだけあって≪ポルコ≫は水場が多い。
こんなにも美しい国なのに、奴隷制度があるのだから恐ろしい。
他には≪ウントリカ≫にも行ってみたいが、モモカの入国が難しそうだ。
桜はまだ日本国籍だから誤魔化しようもある。
しかし≪ウントリカ≫は認知されているほぼ全種族が住んでいるだけあって、奴隷関係が面倒だった。
日本では亜人は珍しいぐらいだから、認識の差も凄そうだ。
モモカを購入したとき調べた数値だと、現在日本に住む亜人の人口比率は2.5%。
300万人ぐらいだったか。
3世代ほど掛けて増えてきたと聞くが、正確な数は知らない。
ちなみに人族は、大半の種との交配も可能らしい。
中でもエルフは、日本ではほとんど見かけない希少種族だ。
数回出歩いた際は、すれ違う皆がモモカに注目していたものだ。
「ここです」
「立派なお家だね! やっぱり入れないのかな?」
ムギが家の扉に近づいて訊ねた。
もし無許可で入ったら、捕まる可能性もあるだろう。
「中に人の気配はない。けど犯罪者にされたら嫌だし入らないほうがいいな」
「……もう1度外から見れただけでも十分です。ここら辺の地域には詳しいので、色々案内できますよ!」
「取り合えずギルドの場所は把握しておきたいな」
「分かりました!」
ギルド支部に近づくにつれ人が増えてきた。
はぐれない為にモモカの手を取ると、逆は桜が握った。
これでは周りから見たら、親子に勘違いされてもおかしくない。
そして錬斗がムギに手を繋ごうと提案すると、大丈夫だと言われ拒否された。
しかも俺の残る腕に絡まってくるのだから、哀れとしか言えない。
しかしこうも横並びになると、もはや通行妨害だ。
「4人並ぶのは通行の邪魔だろ……」
「じゃあじゃあ、もっとくっついて歩きましょう!」
寒い日だから別にいいかと思い、密着したまま歩き、しばらくするとギルドに着いた。




