48体目 地下へ昇る
≪天地の魔塔≫――地下1階層へ向かう階段の道中。
手すりはあるが、壁や地面が真っ白で階段以外は何も見えない。
その螺旋階を段延々と降りるのは気が滅入るものだ。
「やっぱ時間のムダじゃないか? もう3時間も降りてるぞ」
「雑誌には、「1度は体験すべし!」って載ってましたけど、一般人には辛いでしょうね……」
転移を使わず降りるのを誘ってきたのはムギだが、若干1名を除き気落ちしている。
錬斗が文句を言って、誘った張本人も否定気味だ。
「俺は2度目だけどな。昇るのが面倒で分身解除したけど」
「降りた分昇らないといけないんだよね……」
「でも楽しみです! 降りてるはずが昇ることになるなんて……。どんな魔法が使われているんでしょう」
説は色々とあるが、その中に気に入っているバカげた説がある。
「「地面を突き抜けて地球の裏側に抜けて行くから」なんて説もあるな。実は≪ウントリカ≫に建ってる塔も地下を昇った先だった! ってな」
「だとすると、地上も地下も、両方が天に向かって伸びてることになりますね」
「まあそれだと、地上100階は地面に埋まってることになるけどな……。やっと見えてきた」
話している最中にも、ようやく降りる分の終点が見えてきた。
地下が一般人にも開放されたばかりならまだしも、今は人が居ない。
中間地点は階段ではなく、やや坂になっている。
その100メートルほどを、天井に向かって進むことになる。
「本当に道が横に進んで天井に伸びてますね……。実物で見ると不思議な感じです」
「進めるんだろうな? 落ちたりとか……」
「裏によじ登りたくなるよな。実際にどう落ちるか試してみるか」
よじ登るのを試すわけではない。
そもそも、手すりから外は見えない壁に阻まれている。
俺は"モバイルトウヤ"を出すと、分かりやすいよう中心を通すように投げた。
勢いがなくなり始めた分身は、落ちるのではなく天井に吸い寄せられた。
より分かりやすいよう、着いたあとはサイズを通常のものに戻す。
「おお……」
「天井に吸い付いて……。でも魔力は感じないし……。本当に地面を突き抜けて……?」
考察しているモモカを放置して、全員でゆっくりと進む。
100メートルを掛けてちょっとずつ方向が変わる。
「道に沿って進めば、ちょっとずつ坂を上る感じになって終了」
「思ったよりあっけないですね……」
「あとはまた、降りたのと同じぐらい階段を昇ることになるわけか……」
「ご主人様! もう1回! もう1回だけ行き来していいですか!」
「少し休憩するから、何度でも行って来ていいよ」
俺も1度目は色々と試したから、気持ちは解かる。
2度目の往復からはムギも同伴して、モモカは最終的に7回往復した。
そして本体が来ているが故に、俺も長い階段を昇ることになる。
しかしこのままでは、ただ時間が奪われるだけで体力的には余裕。
俺は肉体を鍛えろと言われているから重りを付け、丁度良い鍛錬とする。
錬斗もそれは知っているから、途中≪ふくろ≫から取り出した重りを手渡した。
その後……。
マー坊が行方を晦ませてから大分日数が経った。
だが俺も、襲撃される可能性があるのに呑気に待ち続けていたわけではない。
"モバイルトウヤ"を駆使して、行きそうな場所をローラー作戦した。
数日を掛けようやく発見し、その後の動向をほとんど把握済みである。
これから何を仕出かそうと考えているのかを……。
そして何をしてきたのかも……。
マー坊にこちらの動きは察知されていないはず。
実体を持っていても、分身はいわばエネルギーの塊だ。
気力操作が上手くなった今となっては、気配を殺せば透明人間染みたことまでできる。
誰かにバレて追及されたら面倒だが、犯罪には使用していないからセーフだと思いたい。
男をストーカーしたことはノーカウントだ。




