4体目 誘い
俺は37階層――通称≪フラワーガーデン≫に来ていた。
塔の内には空が存在し、太陽も見える。
階層のどこに行っても花や植物で埋まっていて、気候も春の暖かい日ぐらいで安定。
開拓された直径1キロの円形に広がる街もカフェや花屋などが多く、カップルなどが多く来る階層だ。
「あ、あの……」
「ん? 何?」
『レベルが1アップしました』
転移球付近にある行きつけのカフェで休憩していたら、年下であろう女の子が話し掛けてきた。
不意打ちだったために分身が解け、レベルが上がってしまった。
ぱっと見た感じでは小学生……。
短剣を所持していることから、冒険者になれる中学生以上だと推察できる。
「塔也さんですよね。最近30階層付近で活躍している……。いきなりですが、あたしたちとパーティを組んでもらえませんか!」
「あ~。そういうの遠慮してるから」
「えっと……。どうしてですか?」
「邪魔だから」
この子は今年の春入った新人なのだろう。
素人且つ、かわいい子からの誘いなのだから、以前の俺ならオーケーしていたかもしれない。
まずこの子が、最近俺が稼いでいるのを聞きつけて寄生行為をしようとしているかが判別できない。
しかしそれ以前に、実体具現のゾンビアタック戦法に他人は邪魔だ。
「で、でもわたし、塔也さんのこと尊敬してるんです!」
「……どの辺を?」
「優しくて家族を大切にしていたり、能力を諦めずに鍛え続けるのも凄いなって……」
「なら誘うのが遅すぎるな。もう少し前ならよかったけど手遅れだ」
尊敬だとか憧れると言われるのは素直に嬉しい。
しかしこのタイミングで来られても、寄生目当てにしか思えない。
それに言っている内容も、調べれば誰でも分かるようなことだ。
「そう……ですよね。ならせめて、お食事を一緒にできませんか?」
「……そのぐらいならいいよ」
なにやら本気で落ち込んでいる気がしたので食事は了承した。
これが演技の可能性も十分――いいや、高確率でフリであろうから怖い。
『レベルが1アップしました』
無難に食事を済ませ、名前と連絡先を教えられて帰宅した。
名前はもう忘れてしまったが、冒険者カードを見れば一応分かる。
当然連絡を入れるつもりはないし、俺からは連絡先を教えていない。
「ちょっと目立ち過ぎたか……? あんなのがまた来たら嫌だし、報酬は減るけど経験値重視でいくか」
霊体系モンスターは魂のチカラが強いからか経験値が多い。
代わりに呪い系統の即死技すら持っている種も居て、避ける冒険者も多い。
しかも物や生物が元になっている魔物でもないから、追加素材も落ちない。
魔石にすら落ちないことも多く、トップ争いをするぐらい不人気な魔物だ。
俺も当然嫌いだ。
「ってことでよろしくな」
「おいマジふざけんなよ幽霊退治とか……。ああもう俺が本体になりたい」
わずかな可能性でも、即死するような場所に本体が行くわけがない。
夜中の方が目立たず敵も増え効率がいいから、早めの帰宅後は昼の内に眠った。
『レベルが1アップしました』
『レベルが1アップしました』
『レベルが1アップしました』
即死技だが、分身にも通用した。
その度に本体も肝が冷えるような感覚が襲ってくるが、魂を複製して分けてるだけの分身では致命傷にはならない。
突然背中に冷えたコンニャクを突っ込まれるような感覚だ。
「おかしな勢いでレベルが上がるけどこりゃあきつい。レベル100届く前ぐらいで切り上げるか?」
1日目はレベルを3上げて終了。
少ないのは狩り時間が少なかったからだ。
2日目はレベル4アップ。
上がり辛くなってきたが、これで75になった。
『レベルが1アップしました』
1週間経過……。
「そろそろ限界か……。霊体系でもこんなもんか」
必要な経験値が増えているのもあるが、魔物が遥か格下になり獲得経験値が減った。
________________________
トウヤ 19歳 男 レベル:83
S P:1
体 力:231(+50)
魔 力:440(+50)
筋 力:176(+50)
敏 捷:198
知 力:160
器用さ:370
能力
:分身:レベル71【増加必要SP1】
:実体具現:レベル15【増加必要SP5】
:マジックドレイン:レベル16【増加必要SP3】
:ライフドレイン:レベル19【増加必要SP5】
強化
:魔力強化:レベル5【増加必要SP2】
:体力強化:レベル5【増加必要SP2】
:筋力強化:レベル5【増加必要SP2】
・......... ↕スライド
________________________
虚像の分身はレベル70で1体増えたが、実体具現は15では増えなかった。
2体からの1.5倍だから少しだけ期待していたが、20になれば増えるはずだ。
なお、誘いを掛けた子は100%好意によるものであった……。