46体目 黄ゴリラ
『以上が撮影された、影の使い魔と呼ばれる魔物の映像でした』
「ご主人様。ニュースで影の映像が出ましたよ!」
「やっと提出したのが出たか。顔出さないように頼んだけど、どうだった?」
「影がゲートの周りにいる映像だけでしたね。音声も消されてました」
渡しておいた映像はお願い通り、一般公開に際して俺が関わる部分をカットしているようだ。
しかし結界内部で騒動が起きるなら、一般市民に不安を与えてしまう。
「結界内でも安全じゃないって結構やばいと思うけど、公開したんだな」
「見かけたら接触はせずに、ギルドに連絡をって言ってましたね」
「早くはないから、逃げに徹するわけか」
治安が悪い場所はともかく、安全と思える場所がなくなるのは不味い。
実害が出るより、多少不安がられても事件が起きないようにする道を選んだようだ。
接触回数が他より多く分身なら無傷ということで、俺に多くの依頼がきそうだ。
今ならなんと、ゲートを粉砕できる桜まで付いてくる! とか思われてそうだ。
「おうどん、できたよ~!」
「あーい」
「はい! 手を洗ってきますね!」
そして昼食の最中、1通のメールが届いた。
その内容は、最初に自衛隊を選んでよかったと再認識できるものであった。
「どこからのメール?」
「赤咲さんから。最初にレベルを上げるのは、冒険者登録を新たにする国会議員や、各機関の上層部からって感じだな」
「良い事……なんだよね?」
「長時間の言い合いが増えなきゃいいけどな」
鍛えなければ年齢と共に衰えるし、レベルアップ時の上昇量も少ないだろう。
しかし100越えともなれば別次元の強さだ。
体力の増加により各機関が活発に活動できるようになるのはいいが、衝突が怖い。
仮にどこかの機関……最初に選んだのが国会議員だったとしよう。
その場合、その接触した人や付近の人の発言力が上がるよう行動するはず。
そうなれば取引だの俺の奪い合いだの、カオスなことになっていたに違いない。
「テレビでも時々怒鳴りあったりとか見るけど、あんな感じ?」
「あれは表面に出てるだけマシ。この文面から察するに、どの機関も遅れを取りたくないっていうのがアリアリと伝わってくるな」
「奴隷商からも20人頼まれているんでしたよね。やっぱり高レベルって欲しいものなんですね」
レベル上げの大変さを知らないモモカは軽い認識だ。
しかし俺の6年でレベル53だって、平均よりは高いぐらいなのだ。
1日でレベル120になれるなど、誰だって欲しい。
しかも多くの国会議員が冒険者登録をしていなかった理由は、戦闘による怪我のリスクを避けるため。
トドメだけ刺させてもらうパワーレベリングは不可能ではない。
だが挑戦権を得るためのボス戦という壁が立ちはだかるから、通常は高レベルを目指せない。
そのリスクすらないのだから、冒険者ではない人物がならない理由がない。
「世界を揺るがしてかねないからな。暗殺とかされてもおかしくないレベルで」
「そ、そんなにですか……」
「大丈夫なんだよね……?」
「可能な範囲で情報を遮断してるし、大きな後ろ盾も手に入れた。まあ平気だろ」
俺の素顔と能力の両方を知っている人は、そこまで多くない。
情報漏洩はしてもおかしくないが、敵に回すより先に有益な関係を求める可能性が高いだろう。
暗殺があるとしたら、俺のレベルや国力が手遅れな段階まで進んでからだ。
『レベルが――』
7月16日、金曜日。
錬斗も完治し、関係者各員を誘われた会食に連れ出した。
「ごきげんよう。塔也様方もお楽しみになられてますか?」
「こんばんは。そっちの人は確か、綾野…………黄ゴリラさん」
「≪綾野 理沙≫よ! 渾名で呼ばないで!」
「大分大人っぽくなったな」
綾野理沙とは小学生ぶりだが、大分日本に染まっている様子。
ロシアだかスウェーデンだかは忘れたが、日本人のハーフだったはず。
名前は普通に忘れていた。
「まあ7年ぶり? ならそう感じてもおかしくないわね」
「あら? お知り合い?」
「そうね。小学校低学年からの付き合いだから、幼馴染かしら」
「ただのクラスメイトだろ?」
別に仲良くしていた覚えはないのだが、相手は幼馴染と思っているようだ。
桜とはクラスが違うから、お互い知っているかも怪しい。
「塔也君が毎年何度も起こしてた問題に対応してたのは、誰だったかしら?」
「先生とクラスの男児6人ぐらい」
「それは間違いじゃないけど……。塔也君は全然変わらないわね」
「呼んだか?」
会話の最中に、≪モバイルトウヤ≫で錬斗を呼び寄せた。
絶好のチャンスを逃さないために……。
「ああ。こいつ将来有望株だよ。多分世界有数の実力者になる」
「あら。それは興味深いですわね」
錬斗の背中を押してカレンに向き合わせた。
「お、おい。なんの話だ」
「じゃあ任せる。少し離れて話すか」
「そうね。久しぶりだもの。ゆっくりお喋りしたいわ」
「では、わたくしたちは あちらに参りましょうか」
「え? ちょっと待て俺は……」
「そう言わず!」
「すまないな錬斗よ……」と心の中で思い、意識だけ両手を掲げガッツポーズを取った。
これも妹離れをさせるための処置なのだ。
そして錬斗は、腕を深く抱きこまれカレンに連れてゆかれた。
 




