44体目 過去
「塔也君がそうなったのって、私たちが原因だよね……」
「どうだろうな。桜と冒険者を始めなきゃ、今より悪くなってたかもな」
俺は桜が居たからこそ冒険者になった。
でなければ動物を傷つけるのですら怖かった俺が、冒険者になどなるはずがない。
「それに原因って言うなら、3人に付いて行けなかった俺にもあるし」
「でもそれは分身を鍛えてたからで、塔也君は全然悪くないよ」
確かに魔法に専念していれば、遅れは取らなかったと思う。
そして俺を待たずに進んだのは、マー坊が根回しした為だ。
おおよその見当も付く。
「桜もマー坊……優に吹き込まれたんだろ。今のままじゃ俺が死ぬかもしれないってとこか?」
「塔也君が死んじゃうかもって言われたのは覚えてる。けど、ずっと一緒にって約束したのに破ったんだから、塔也君が怒るのは当然だよね」
「中学2年の頃だったよな。たとえレベル差ができても、ずっと一緒に冒険者を続けようってやつ」
「うん……」
あの時ほど、嬉しく幸福感に満ちていた時期は他にはない。
当時役立たずと言っても過言ではないほど戦力面で弱かったのに、俺を見捨てないと宣言したようなものだ。
だからこそ俺ではなく、他の2人を選んだショックが大きかったのだが。
「それで、塔也君が抜けたあの時は……確か、「せめて実体具現が出るまでか、方向転換で魔法にSPを振らせたいから協力してくれ」って言われたんだったかな……?」
「魔法に? 俺は言われてないな。だからこそヤケクソになって分身にSPを使ったんだし」
カードに実体具現が現れていたらというのは、抜ける前から何度も言われていた。
しかし魔法を使いたいという欲求が出る度に「実体を得るまで頑張るんだろ?」と言って引き止めていたのも≪マー坊≫こと≪優≫だ。
「私たちがもう待てないって言ってから次会った時だけど、強引にSPを使わせておいて、やっぱりパーティーを続けようなんて都合がよすぎるよね……」
「……あれに同意してたのって、そうするよう言われてたのか?」
「うん……。でも、塔也君のためって思ってても、裏切ったのには違いないから」
予想はついていたが、すり合わせが終わった。
3年もの年月を経て、ようやくピースが揃った。
「優手のひらで踊らされてたわけだ」
「いまさら遅いけど、本当にごめんね」
「それは……うん。SPを使ったあと、桜より先に来たあいつに、なんて言われた知ってるか?」
「ううん。なんて言われたの?」
本当なら思い出したくもない。
しかし冷静を保てている今なら大丈夫だろう。
その時のことを一言一句逃さず思い出す。
「「せっかくお膳立てしたのに、40を超えてすら出なかったか。やっぱゴミはゴミだったっな。お陰で何年もムダにせず済んだ。まあお前が選んだ道だ。精々頑張れ」だったか」
「でも、『実体を持たない分身能力なんてゴミだ』って、塔也君と優君は冗談でよく言い合ってたし、それもただの冗談じゃ……」
分身がゴミだと冗談で言われたり、俺自身も言うことはよくあった。
しかし状況が違い過ぎる。
「レベル48でSP0。別の能力もなくて、魔法を覚えるのもどれだけの歳月が掛かるか分からない。この状況で、冗談で済むと思うか?」
「そうだよね……」
SPがなければ魔法への転向も困難。
中途半端にレベルが高く、弱い魔物しか倒せない身ではレベル上げも困難。
どの方向に進むにしても、その先には何年も掛かる地獄しか待っていない。
そんな絶望的な状況で、どん底に進むことになる引き金を引いた桜がやってきたのだ。
パーティーを続けようなどと言ってきても、当時の俺が素直に受け取れるはずはない。
確かに舞台を用意した元凶は優でも、俺に1番の傷を与えたのは桜なのだから。
「私も、最初から追い詰めたりしなければよかったって、何年も、何度も思った。けど、塔也君はもっと辛かったよね」
「別に謝る必要はないよ。昔があるから今があるって思ってるから。実際あれがなければ、パーティーを続けてても実体分身を得てなかっただろうし」
実体を具現化しようとするには、精神疾患に陥るぐらい異常な精神性が必要だった。
それこそ、二重に人格を作って精神的防衛をせねばならないほどに……。
幸せの中に居た俺では、未来永劫得ることのなかった能力だ。
「過去のことはもういいだろ? これ以上は言い合っても不毛だし、ストレスが溜まるだけだから」
「でも……うん。分かった」
何か言いそうになったが、俺がピリ付き始めたのを理解したようだ。
この空気は俺自身望むものでもないから、話を変える。
「お腹も減ったし、ルームサービス頼むか。なんにする?」
「えーと。和風のご飯! 41階層に行ったからか、食べたくなちゃった」




