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40体目 気候

 地上100階層、最上部にて。


「やっぱ俺は一緒に挑戦できないか……。じゃあ錬斗に指揮を任せるから、モモカは問題があれば指摘してくれ」

「分かりました。けど、SPを振る権利を貰っても本当によかったのでしょうか……」

「構わないよ。自分で決めなきゃ伸びが悪くなるしな」


 以前にも同じようなことを何度か言った気がする。

 それでもモモカは何度も聞いてくるのだ。


 ≪天の試し≫には単独で挑ませてもいいのだが、モモカとムギが一緒に攻略したいと言う。

 多少の不安はあるが、止めることもあるまい。


 逃げ出せる環境ならいいが、俺のように出られなくなるタイプの試練も普通にある。

 そういう場合、長期戦になったら複数人のほうが有利となるだろう。


「塔也さん! モモカちゃんのことは あたしが守りますから、安心してください!」

「ムギも守られる側だからな」

「ええ!? でもでも、盾だって新しいのを用意しましたし、練習だってしましたよ!」


 前衛が錬斗で後衛がモモカ。

 ムギは決して弱いわけではないが、錬斗には大きく劣るから、敵がモモカに向かうのを盾を使って防ぐ役だ。


「魔物を漏らすつもりはない。誰がムギに手を出させるもんか」

「案外、知恵系の試練で錬斗が役立たずになったりしてな」

「……俺の成績は真中(まんなか)より上だ」


 訓練に熱中しつつ真中以上をキープするのは感心だ。

 俺なんて授業を聞くだけで、自主的に勉強など一切していなかった。

 実体を具現化しようと思い、医学や武術で人体構造を学びまくりはしたが……。

 今にして思えば、実体分身から生体分身に覚醒したのはこれが原因だと思う。


「とりあえず頑固にはなるなよ」

「分かってる」

「モモカちゃん、ムギちゃん、頑張ってね! お祝いにケーキ作って待ってるから!」

「あれ。ケーキ作れたっけ?」

「高校で先輩に教わったの。塔也君も楽しみにしててね」


 お菓子を作れるのは知っているが、ケーキは苦手にしていた覚えがある。

 しかもあの専業主夫の父親に教わったのかと思いきや、先輩だった。

 折角なので俺の要望を伝えることにする。


「ベイクトチーズがいいな」

「あたしもです!」

「それなら1日置いたほうが美味しいけど、いいかな?」

「長くなる可能性もあるし、いいんじゃないか」

「じゃあ、わたしもそれで」


 モモカも同じ物でいいようだ。

 意見は出揃った。


「俺――」

「――満場一致だし決定だな。あれ。錬斗なんか言った?」

「いいや、なんも言ってない……」




 地下41階層の広場。

 日本所有のこの階層は、気温が30度を超える日もある外とは違い、秋真っ盛りだ。

 しかも1年中10月並みの気候だ。

 手に入る物を考えれば、開拓を進めるには絶好の場所。

 真っ先に町を作ろうとするのも頷けるというものだ。


「40階層は熱くて嫌になったけど、ここは過ごし易いな」

「昔は気にならなかったけど、階層毎の気候ってなんでこんなに違うのかな」

「人の成長の為に用意されたとか、どこかの土地を切り取って階層にしてるだとか、諸説あるな」

「そうなんだ。塔也君はどう思う?」


 出店で買った団子をベンチに座りながら食べつつ、他の説を思い出す。

 眉唾だが、魔界や天界から切り取ってるという説もあったはずだ。

 地下40階の火山地帯が魔界で、地上37階の花畑が天界といったところか。


「環境も含めて成長を(うなが)してるのはあると思う。気候が変わらない階層の理由は分からないな。フロアの果てを見ようにも、奥に進んだらループして反対側に出るだけだし」


 魔塔には太陽や月の光りが届き、天候の変化もある。

 果てが存在しないこの塔は、まだ解明されていない謎が多い。

 だからこそ探究心を刺激され、上へ上へと昇る人が後を絶たないのだろう。



「あら。トウヤ様じゃありませんか。ご休憩ですか?」

「……カレンさんは何でここに? 様?」

「開拓のお手伝いですわ! 様を付けるのは、貴方(あなた)様が尊敬に値するからです! それはそうと聞きましたわよ。魔塔自衛隊の特別顧問になったとか!」

「入隊を全力で拒否したらそうなりました」


 当然のように入隊を勧められたわけだが、長時間拘束されるなど絶対に嫌だ。

 すると奴隷関係をゴニョゴニョで、一応籍だけ置いてくれと頼まれた。

 はっきりと口にしてはいけない理由も分かるし、これでは断るに断れまい。


「そうだわ! 今度開催する会食(パーティー)に、貴方(あなた)(がた)も参加(いた)しません?」

「堅苦しいのは苦手なんですが……。奴隷が参加するのも不味いんじゃ」

「トウヤ様の奴隷への接し方は十分噂になっていますし、礼儀も最低限あれば気にする人は居ませんわ。爺もそう思うでしょう?」

「……一部の御仁(ごじん)を除けば問題ないかと」

「ではその方はお断りしておいて」


 オーケーを出していないのに、いつの間にか参加する流れになっている。

 こういう誘いが増えるのが嫌で権力や地位は欲しくないのだ。

 もう誘われなくなるよう、一度行って遠慮なしの平常対応をしてやろうか。 

 それでも誘われるなら、ストレスも溜まらないから参加してもいい。


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