24体目 共有と実験
帰りに奴隷を宿泊させるホテルを勧められたが、断った。
なぜなら、基本的に特殊な契約でもしてなければ、生涯奴隷には何をしても構わない。
しかし奴隷が不祥事を起こしたら、主の責任となる。
なので故意に問題を起こされる可能性のある場など預けれるはずもない。
奴隷紋の呪いは、範囲も俺の冒険者カードから決めれる。
嘘をつかせないのは勿論、生殺与奪の権利も持つ。
呪いを起動させることはいつでもできるが、俺が使うことはないだろう。
そして生涯奴隷は、主人が死ねば共に処刑される契約を結んでいる。
だからこそ裏切り行為はしないし、主人を死なせないために尽くすわけだ。
これに関しては奴隷商との契約であり、俺にどうこうできるものではない。
現在は事前に予約したホテルの、ベッドが2個設置されている部屋に来たところ。
エルフを買うつもりだったから、周囲が森の階層で、巨大な樹木をくり抜いて作られた宿泊施設を選んである。
「わあぁ! 凄い景色です! 遠くまで見えますよ!」
「確かに良い景色だな。昇り降りにエレベーターがないのは面倒だけど……」
「でもよかったのでしょうか……。わたしまでこんな良い部屋に」
「別の部屋にするほうが色々面倒だからな。遠くない内に家を借りるか買うよ」
貯金も大半が消え失せてしまったから、最低限稼がねば……。
今も分身4体で目立たないように狩りをさせている。
本体はこれからお勉強の時間だ。
ふたつの国の法律を収めておかねば、不安でおちおち休めなくなる。
まあ、分身に読ませるのだが。
「分身……? でも本を持って……」
「実体があるからな。一応は秘密にしてるから、できるだけバレないようしてくれな」
「読んだことがあります! 勇者の仲間が、実体を持つ分身で凄い活躍をしたって!」
「ああこの本な」
≪ふくろ≫から取り出し、モモカのベッドへと置く。
そして分身には本だけではなく、冒険者カードの検索機能を使わせて法律を調べさせてもいる。
「読みたきゃ読んでいいよ。しばらく暇になるから、したい事とか欲しい物があれば遠慮せず言っていいから」
「は、はい。分かりました……」
部屋に来る最中モモカに、奴隷には奴隷なりの作法があり、破ればマナー的によくないと言われた。
たとえば許可が無ければ、自発的に座ることすらしてはいけない。
しかし面倒だから他に人が居なければ、与えられた領域に座るのは許可を取らないでいいと言ってある。
もしダメならその時言うとも付け足して、やっと納得してくれた。
現在なぜかソワソワしているが、どうかしたのだろうか。
もしかしたら、「宿に2人で入ったのだからやることはひとつ」――だとか思っていたのやも。
確かに可愛いし庇護欲は湧き出てくるが、性欲は感じない。
全くのゼロとまではいかないが、ゼロならゼロで問題だから健全なのだと思いたい。
そういうことにしておく。
モモカは少しのあいだ立っていたが、十秒近く悩んだあとベッドに座り本を読み始めた。
その120に届かない低身長っぷりは、11歳にはとても見えない。
「そういえばさ、エルフって長寿って聞くけど、成長スピードと寿命ってどんなもんなんだ? 諸説あって分からないんだけど」
「ええっと……。それは人によって大分違いますね。寿命が100年もない人や500年の人もいれば、3000年以上生きた例もあるらしいです。成長は20歳前後で一気に身長が伸びて、稀に伸びずにそのままの人もいるらしいです」
あまり期待はしていなかったが、思った以上の回答をくれた。
モモカ用に作られた冒険者カードにあるように、知力は大分高いようだ。
ちなみに奴隷のカードは、俺のカードからアクセスして覗いたり操作もできる。
「そういうことだったのか……。道理で証言がバラバラなわけだ」
「ご主人様は分身を何体まで出せるんですか?」
「本体が出せるのは4体だな。消耗が激しいけど分身が追加で分身を出せる。伝承の人も数自体は多く出せたはずだよ」
「そうなんですか……。初めて知りました」
意外だったのが、奴隷紋が魂の繋がりを持たせるものだからか、今後獲得する経験値を与えることも奪うこともできそうなことだ。
調べても検索に引っかからなかったのは、奴隷に関しての情報が少ないからだろうか。
あるいは俺の、何かしらの能力が関係しているのか。
分身から経験値を受け取り続けていたから、その感覚が解かり覚えられたという説が有力か。
試しに分身を1体解除してみる。
『レベルが1アップしました』
『桃華のレベルが14アップしました』
「え? レベルアップ?」
「ああ……。こういう感じか。実験で分身の得た経験値をモモカに飛ばしてみた。今は気にしないでいいよ」
「は、はい……」
全部渡すことはできなかった。
経験値は俺の魂に引っ張られるようで、頑張っても半分が限度な感覚があった。
それ以上は欠片ではあるが、俺の魂すら持っていかれそうで地味に怖かった。
咄嗟に引っ込めた結果渡したのは 、全体の2割といったところか。




