18体目 解放
「さて鬼が出るか蛇が出るか」
「出るのは竜だけどな」
分かりきったボケをしつつ9個目のボス部屋に突入。
中心まで進むと、塔からの声が聞こえた。
『到達を確認しました。最終地点に転移を開始します』
「え? ボスは……?」
ドラゴン系のボスとの戦闘を意気込んでいたのに、転移された。
出された場所は遺跡風の壁で囲われ、四方へと道が続く。
『転移の成功を確認しました。カウントを開始します』
「ちょっと待て……! もう少しぐらい説明くれよ!」
右手の甲に光る数字が浮かぶと、経過秒数に合わせて数字が増えてゆく。
1つ目と2つ目はまだ分かりやすかったが、これだけでは目的が分からない。
『…………ッ』
まだ繋がってる感覚があると思ったら、通信回線を切るような音がした。
まさか、意思を持つ何者かが魔塔の運営でもしているのか。
「ああもう……! とりあえず四方に進んでくれ!」
「よしきた!」
数字が減るのではなく増えている形式ということは、ネットでの情報通りならクリアまでのタイムアタックの可能性が高い。
走っていった分身は、さらに数を増やして枝分かれした道を進む。
中には合流したり、行き止まりに当たった者もいる。
「迷宮か……。となると脱出か何かを見つけ出すかだな」
「動くか?」
「いいや。反対に進むと不味いし、分身の大体の位置は分かる。合流もそう難しくないっぽいから様子見だな」
天井があるから上から進むことはできない。
壁も壊せはしそうだがそこそこ苦労しそうだ。
「敵も今のところ居ないから、俺は食べ物でエネルギー補給だな」
「最終地点だって言ってたから出せるもん出し切るか」
変質吸収のレベルもそこそこ上がり、これまでより消化機能も上げられる。
しかし1人では需要に供給が追いつかなくなりそうだ。
分身たちの性能は燃費がいい状態に調整し、激しい運動をしないよう進ませる。
「マッピングどうなってる?」
「かなり広いな……。どの道を進んでも大抵合流はできそうだけど」
「脱出口も、それらしいものも見つからないな。部屋は少し気になるのがあるけど」
「どれ?」
広範囲のマッピングが済んでいる地図を見せてもらう。
確かに端っこに広めのフロアがいくつか存在している。
「3箇所か……。これってもしかしてさ」
「ああ。気付いた時点で他にもありそうな場所に付近の分身を向かわせてる」
その点在しているフロアは、一定間隔である。
だとすると、その場に本体が行けば何かがあるかもしれない。
「4個目あったぞ!」
「こっちも先にそれらしい場所がある! ……到着!」
「やっぱ本体が行かなきゃダメなパターンか?」
思ったことを口に出した時、5体目の分身が地点に到着。
それぞれの部屋が輝き出し、円を描くように伸びた。
それとは別に光った床が、直線で1方向へ進み模様を描く。
「この伸び方……五芒星か!」
線は繋がり、五芒星を描いた……と思う。
そして迷宮全体が光りだし、運営者の声が再び聞こえる。
『条件の達成を確認しました。地下160階までの挑戦権を獲得しました』
「地下150階層のクリア扱いか……」
倒した敵の難易度を考えれば妥当だ。
試練を超えて50階からスタートなども時々聞く。
しかし地下100階オーバーは聞き覚えがない。
『……達成時間を確認しました。≪神速の到達者≫の獲得を申請……失敗しました。能力の一部に強化の上限到達を確認しました。≪生命力強化≫及び≪精神力強化≫の獲得を申請……成功しました』
「うつたあっ――!?」
精神を焼かれるような、はたまた貫かれ刻まれるような痛みが襲ってきた。
いわゆる魂に刻み込む行為だが、唐突にくるのは勘弁してほしい。
心の準備ができていないから凄く痛い。
『獲得に伴い身体機能を確認します。魔力路の不足を確認しました。≪魔力操作≫を作成します……成功しました』
「痛い痛い痛い!!!」
全身にナイフを突き刺し血管に沿って進むような痛みが襲う。
魔力路と呼ばれる自身の魂でできた管が、血管に沿って強引に通された。
時々≪気力操作≫と合わせて練習していたから基板はあったのだろう。
しかしそれでも、こうも即座にやられると痛いものは痛い。
本来は1年近く掛けて作るらしいが、奇妙な感覚だ。
これまで扱いが難しかった魔力が、簡単とまでは言えずとも自分の意思で動かせるのが分かる。
『作成に伴い≪気力操作≫を獲得しました。元の場に転移を開始します』
獲得しましたと言いつつも、生命力を精神力でコントロールする――つまり気力操作を使いこなせる気がしない。
だが≪魔力操作≫を覚えたことで生命力を動かすのは楽になったと思う。
あとは自力で数日もせず≪気力操作≫を修得できそうだ。
天の試しを越えた俺は、転移によって自宅に戻された。
そして解放されたことにより誤魔化していた疲労もやってきて、長時間の睡眠へと入った……。
第一章:試練
終結です!
一章というひとつの区切りということで、
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