14体目 天の試し
「それじゃあ、やっぱりパーティーは……」
「ああ。今のところ誰かと組むつもりはないからな。臨時ならともかく、固定パーティーは簡単に決めるものでもないし」
「そうですよね……。それにあたしじゃ、お役に立てませんし」
「レベルだとかは関係ないよ。ただ単に……。そういえば俺が助けたとか言ってたけど、覚えがないんだけど」
何があったのか気になったのもあるが、事情を話すのが嫌だったので強引に話を切り替えた。
「塔也さんには言ってませんでしたね。冒険者になったばかりの頃、何人かの男の人に付きまとわれてて、そばを通った塔也さんがひと睨みしたら、それ以降こなくなって……。怖い思いもしたので凄く助かったんです」
「冒険者になったの4月だよな……。じゃああれか」
毎年4月になると新人を狙って色んな輩が動く。
カモにしようとする者や出会いを求める者など様々だ。
悪質な奴も多く、以前一悶着あった連中が女の子に声を掛けていたのは覚えている。
同じことをしたら分かってるだろうなという視線を送っただけだというのに、付きまとわなくなったということは悪意があったのだろう。
「首切りトウヤって言われてるんですよね……。凄い怯えてましたよ」
「別に人の首は斬ったことはないんだけどな。二重の意味を含んでそうで好きじゃない異名だし」
俺がパーティーを首になったのは関係ないはずだ。
実際、その以前から呼ばれていた異名なのだから。
「そ、そうですよね! 首を斬るなんてしませんよね」
「ああ。精々手足を飛ばしたりするだけだな。殺人は嫌だし」
「斬りはするんですね……」
「そりゃあ女性相手に一生残る傷を残そうって言うんだから、手足ぐらい安いもんだろ。綺麗に斬ってるから、精神的ダメージは大きくても普通の骨折より簡単に治るし」
弱い俺が悪人に勝てるのかと思われるかもしれないが、レベル50付近でも高い部類なのだ。
4割の冒険者はレベル20以下で、レベル20から40で2割、合計6割が40以下なのだ。
そして人間は、虚像の分身でも十分騙されてくれる。
強くなる人はここ最近俺が体験したように、SPを使い強くなってを繰り返し突き進む。
そういう意味では、この兄妹は将来性も高そうだ。
「治るならいいんでしょうか……? 冒険者のことはまだあまり詳しくないので……」
「警察には正当防衛とはいえやり過ぎなんじゃないかって言われたな。個人的には生ぬるいと思うけどな。次やったら今度は殺すって脅したぐらいだし」
「それで怯えてたんですね」
「トウヤさん、ムギさんお待たせしました。3番受付にお越しください」
受付に呼び出され、給金の明細を受け取る。
最近の稼ぎからしたら少ないが、ムギからすれば大金なはずだ。
「お勧めの店があるんだよな? 寄って行くか?」
「はい! そこのチーズケーキがお勧めなんですよ!」
「知ってる場所かもな。チーズケーキは好物だし」
「本当ですか! あたしも乳製品全般が好きで、チーズケーキは大好物なんです!」
数日後……。
準備万端。
ついに≪天の試し≫に挑む時がきた。
100階層には主柱内に敵の出るフロアは存在しない。
ただ長い螺旋階段を上った先に広めの部屋があって、そこに扉がひとつある。
登り切った先に居る守衛に、俺は冒険者カードを提示した。
「最近は成人もしていない子が到達することが増えたものだ。分かっているとは思うが、危険だと思ったらすぐに出なさい」
「はい」
外国人の守衛さんだ。
魔力を使って思念を混ぜているから、日本語で喋っているように聞こえる。
100階は海外からの注目度も高いからか、他の階層は1人か2人なのに4人も居る。
守衛にもチラホラと見に来ている人も居る。
白い扉の先は、正方形の白い部屋。
中央には黒い石碑があり、そこに両手を付いた。
『100階層への到達を確認しました。天の試しを開始します。戦歴を確認します…………』
いつもより長い。
それだけ深くまで探られているということか。
『資格を確認しました。≪神域にに触れし者≫を作成……失敗しました。≪神域を望む者≫を作成……失敗しました。≪目覚めし魔神≫を作成……失敗しました』
さっきから失敗ばかり。
神という言葉が使われるのは極稀なはずだが、3連続で続いている。
別に俺は神になりたいわけではない。
もしもの時は神だって超えてやろうという気概はあるが……。
『作成不能。理を超える意志を確認しました。ルールの変更を申請…………受理されました。≪限界突破サバイバー≫を起動します』




