12体目 爆発
「9体でも耐えるのが精一杯だな……。強行突破か耐えるか決めてくれ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……。60階層の方角だと回り込まれるし70は真逆……」
臨時のパーティーリーダーである錬斗に問うも、考え込んでしまった。
仕方ないので、その合間に連絡をしてもらう。
「俺は集中力温存したいから、ムギがギルドに要請出してくれ。90階層レベルの大規模ゲートが発生したって」
「わ、分かりました!」
前回の失敗から学び、温存のため限界数は出さない。
しかし吸収している暇はあまりないから、少しずつ消耗する。
吸収能力を成長させねば耐えきれなくなりそうな絶妙な調整だ。
「おい塔也! 何分耐えられる!?」
「このペースなら……15……20分は耐えて見せる」
「よし! それだけあれば救援がくるには充分だ! 60階層代モンスターは手伝うから、余裕ができた分で吸収しろ!」
「オーケー」
錬斗に俺の吸収能力については話していない。
しかしシステム音を聞き逃さず、戦闘中の様子で能力のレベルを判断したようだ。
学生でありつつこのレベルとなると、思った以上に高い素質を持っていそうだ。
「あ、あたしも何か……!」
「お前は出るな! どのモンスターにも勝てるレベルじゃない!」
「気持ちは解かるけどリーダーの判断には従っとけ。余裕もあるし無茶をする場面じゃない」
会話も終わったと判断し、俺は集中力を戦闘に費やした。
≪加速する世界≫もそれなりには高くなっているからか、敵や自分の動きも遅くなったように感じる。
「くそっ! 救援はまだが!」
「20分前には出たって返事もあったのに……もう30分も……」
俺でも走れば10分で着く距離だ。
まさか高レベル人材が捕まらず、適正レベルの団体で来ているのか。
もしくはわざと遅れるような輩か……。
「塔也は大丈夫か?」
返事はできない。
言葉に思考を回すと、すぐにでも3体ぐらいは分身が消えそうだ。
「お、おい聞いてるのか!?」
「っ! ばか――!?」
中央に待機している本体の肩を掴み、引き寄せるように声を掛けてきた。
触れてはいけないと考えれば分かりそうなことだが、経験不足で焦ってしまったのか。
「ちくしょう3体消えたぞ! すぐ出し直せ!」
「…………出せない! 出せる分の集中力が足りない!」
分身に怒鳴られたが、集中力が足りない。
集中力を乱されたことにより、6体分維持するのに余裕はあっても、もはや追加で生み出すことが不可能になっていた。
体力も栓が抜けたように脱力感が襲ってくる。
3体分の疲労感の経験が襲ってきて、疲れを自覚してしまったのだ。
「す、すまない」
「抜けたぞ! 気を付けろ」
「本体で戦うしかないか……!?」
隙間を通ってきたモンスターと対峙したその時、俺の足を何かが貫通した。
「痛っ――!?」
ギリギリ短剣を振い魔物は屠るが、地面に転んでしまう。
「ど、どうした!?」
「ちくしょう……やっぱそういうことかよ! ムギ……すぐにギルドに電話を……スピーカで! 早く!」
「わ、分かりま――」
今度ははっきり認識した。
ムギの冒険者カードが銃弾に貫かれるのを……。
遅いと思った救援は、予想通り人が死ぬのを何とも思わないような連中であった。
周りに転がる素材や俺たちの所持品を狙っているのだろう。
方角も分かり、距離はあるが小さく人も見える。
再度攻撃を仕掛けてきたようで、次弾が飛んでくるのが分かった。
その瞬間、今まで以上に世界がスローとなり、短剣で銃弾をはじくことに成功する。
「やばい。これ以上敵が増えると間違いなく耐えられない……!」
可能性が低いが、生き残るためには強行突破するしかないと判断した。
しかし判断を改める事態が発生する……。
『エラーを確認しました。難易度を調整します……失敗しました。付近に高レベル者を確認。ゲートを移します……成功しました』
遠くで悲鳴が聞こえるが、俺たちもまだまだピンチだ。
ゲートは消えたが、残る敵の数は100近くいるだろうか。
「残りを倒せば――! 踏ん張りどころだぞ!」
「「「おう!」」」
足に銃弾を受けた際、分身は一瞬2体に減ったが、練斗が反応してカバーに入っていた。
追加で出した分身は合計で4体。
しかしそれも、瞬く間に3体、2体と減ってゆく。
「そんな……。遠くの方から敵がいっぱいきます!」
「向こうから漏れたのか!」
集中力が完全に切れた……。
体力も、もうない。
「塔也も限界か!? でも隙間は空いてる! 逃げるぞ!」
「で、でも塔也さんの足が! 回復アイテムももうないよ!」
「くそっ! 行くぞ……!」
見捨てられるかと頭を過ったが、練斗は武器をしまって真っ先に肩で支えてきた。
しかし移動速度は遅く、敵の方が早い。
すぐに追いつかれ、練斗はムギへと俺を渡した。
「時間を稼ぐ。ムギたちは先に行け!」
「お前じゃムリだろ……。見捨て……――2人が先に行けよ。俺なら1人でも倒しきってやる……!」
色々と想うところがあり、無性にイラついてきた。
苛立ちから、「見捨てないからこうなるんだ」とも呟き掛けるも、言葉を飲み込んだ。
そしてムギを振り払い、先に行くように言葉を投げ掛けた。
「お前こそムリするな。それに見捨てるだって? 誰かを見捨てるぐらいなら一緒に死んだほうがずっとマシだ!」
どうせこれで逃げ出すと思いきや、求めていたのと違う答えが返ってきた。
その言葉を聞いて、俺は久しく感じていないぐらい怒りの感情が湧いてきた。
練斗は格上のはずである魔物すら複数体斬り倒すも、引き換えに敵の鋭い攻撃が急所を貫いた。
トドメを刺そうと近づく魔物に俺は跳び掛かり、核を一突きにして仕留める。
そして武器を鞘に入れ、練斗の傷口を生体具現で塞いだ。
「本当にウザイよお前。そうやって正義面して、最後までやり遂げるところがまたこれ以上ないぐらい嫌いだ」
「塔也さん……?」
俺はどれだけ信じたとしても、人は最後には裏切ると、そう信じている……。
しかし、そうじゃない人も居ると想いたい気持ちと、裏切られるという経験からくる不の感情が心の中でぶつかり合う。
そして湧いてきた全ての感情を……魔力を爆発させる。
「だからお前等全員……消え失せろ――!!」
魔力は奔流となって広がり、周囲に居る魔物の魔素を触れもせず四散さる。
そして周囲人間を除き、1匹残さず消滅させた……。




