98体目 差異
塔内には、冒険者ギルドが運営している図書館が存在する。
そこには超人やら仙人など、階級の認定を貰うことで観覧できる本も多くある。
この図書館には度々来ているが、俺は≪読むと死ぬ本≫などの観覧も許されている。
「…………ご主人さま。これなんてどうでしょう?」
「≪ポルコの歴史≫か……。読めはするけど和訳めんどいな……。まあそれでいいか」
「はい。次の本探してきますね」
今求めているのは、歴史書だ。
歴史は苦手分野だが、この世界がどういった状態にあるのかを調べている。
それもこれも、前世といっていいか微妙だが、元々の日本やゲームと差異があるからだ。
≪ポルコ≫で言うなら、あそこはゲーム内にあった国であるし、奴隷文化も酷かった。
セレナさんの父親も海関係の商売人であり、リゾート地のホテル経営の社長だだったはず。
世界が混ざったのだと思うが、探すと記憶と違うところが色々と出てくる。
中でも大きく違うのは、やはり魔塔関係だろう。
元となったゲームでは階層が少ない分、最上階でのレベルも桁が1つ変わる。
SPもレベルが上がるほど得る量が増え、最大がレベル1毎に100ポイントだ。
他にもプレイヤーの技術力を補う為なのか、熟練度のシステムもあった。
そして魔物は塔内だけでなく、世界中に存在していた。
最上階である100階層で俺が願う予定だった内容は、世界の移動またはプラスして時間移動。
理由は簡単。
桜にやってくる死ぬ以上に酷い運命を、俺の手で変えたいというものだ。
2つあった前例からしても、確実に叶うはずだった。
しかし結果は、レイナを先にゲームクリアへ行かせ、和樹が追った。
桜と会えこそしたが、予定とは違う会い方であり、さらには死なせてしまった。
言動から考えると、レイナは桜を死なせまいと動いていた節がある。
和樹のほうは俺のためと言いつつも、何かを妥協していたのだと思う。
現在は2人で塔の運営をしていることから判断すると、どちらかが説得したのだろう。
レイナが好き勝手をしているような印象を受けたから、説得されたのは和樹のほうか。
なんにせよ、事情を説明してもらわねばならない。
場合によっては、和樹は何回か殴るつもりだ。
「……ふゆ~。やっぱ慣れない国の文字は読むのも大変だな」
ゆっくり読んでいると、いつのまにかモモカが幾つか本を持って来ていた。
そして自身が読む分も用意していて、熟読している。
いつものように魔術の本かと思いきや、料理関連の本のようだ。
「なんだモモカ。料理に興味あるのか?」
「ひゃぇっ!? す、すいません……」
かなり集中していたようで、驚きの声を上げた。
周りの人が一瞬目を向けてきたから、ハンドサインと会釈で謝っておく。
「えっと……。なんでしょう?」
「料理に興味でもあるのかと思ってな」
「まあ、その……はい」
なにやら言い辛そうだ。
もしや、以前まで作っていたのが桜だから、気を使っているのかもしれない。
「……じゃあ簡単なやつから、一緒に練習するか。俺もできなくはないって程度だから、覚えておきたいし」
「はい……! じゃあ、借りられそうな本を探してきますね!」
そして15時を過ぎ、素材の注文をして帰宅する。
情報に関しては大きな収穫こそなかったものの、前世とのすり合わせが完了した。
そろそろ2000階層の攻略を開始してもいいかもしれない。
誰も到達していないフロアだから、希少品が見つかる可能性もやや高い。
階層毎のフィールドや主柱には、1回限り取れる宝物が複数点在している。
主柱のほうが数が多く、1度取ると、以降はランクが下がった宝がランダムで配置される。
神からの贈り物だとか言われているが、言うほど豪華なものでもない。
端的に言えば宝くじのようなものだ。
ゴミやら消耗品が大半で、極稀に窃盗丸のような魔具が手に入る。
レイナたちが意図的に操作できるというなら、俺が知った今なら期待してもいいのだろうか。
錬斗も階層は上がってきているが、追いつく前に先へゆかせてもらおう。
帰宅後はモモカと料理する。
夜ご飯はクリームシチューだ。
ムギや桜の好物だとは知っていたが、モモカも好きな部類であることが判明した。




