表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/108

97体目 千手観音

「そろそろ次に挑まないと、時間制限がくるぞ」

「正直辛いが1戦ぐらいなんとかなるか……」


 ボスを倒すと、クールタイムとして1時間から秒数の減るカウントが始まる。

 時間制限を過ぎると、クエストが強制終了する。


 攻略を急ぐ錬斗からすれば、移動に時間が掛からないのは助かる。

 しかし分身能力でもなければ、おちおち休むこともできない。

 俺が錬斗に付き合いジックリ昇っているのは、和樹やレイナも知っているはず。

 そのことから、さっさと昇れという意思を感じる仕様だ。



 次の階層ボスはGCに比べれるとあっけなかった。

 しかし毒で体力が削られ、汚物による精神的ダメージを受けた錬斗は絶不調。

 とてもではないが、誰にも言えないようなグダグダな死合になった。


 幸いなことに、過剰な手助けでのクエスト失敗はなかった。

 カウントこそ減った状態のままだが、そのまま再挑戦できる。

 危なかったら過剰でも手助けをして、ギリギリ致命傷を避けて突破することができた。



 そして、1120階層のボス戦……。


「よし塔也……っ! やるぞ!」

「集中力が持たないから、これで最後な」


 俺は錬斗の背中に手を当てると、1度に使える最大限の気力を纏わせた。

 模写体の高等応用技術、技名は仮に、"擬似融合"としている。

 仮としている理由は、完成には程遠いからだ。

 完成形は、霊体模写の応用となる予定だ。



 ボスは推定20メートル以上ある巨大な千手観音。

 腕の関節も3つ4つとあり、身長と同等のリーチがありそうだ。

 俺は全エネルギーを錬斗に集中させ紙装甲となっているから、限界まで後方に下がる。


 しばらく様子見の攻防が続き、錬斗が攻撃を喰らう。


「……ぐあっ!?」


 12本ある腕の2本を壊したところで、平手打ちにより壁にめり込んだのだ。

 敵は速度こそ感じさせないが、手数が多い。


 遅く感じるだけで、図体から考えれば十分な速さはある。

 重量と合わさって攻撃力はかなり高い部類だ。

 もし防御を緩めていたら、今の1撃で壁に投げつけたトマトのようになっていたはず。


「現状回復もできないから、むやみに消耗しないでくれよ?」

「この程度痛くも痒くもない!」


 "擬似融合"は未完成だが、肉体はともかく、気力による上昇は錬斗プラス俺の全力分だ。

 聖人には届かずとも、仙人級入りたての倍近い強さには至れる。

 安定さえすれば、1500階層ぐらいまでなら軽く倒せるだろう。


 修行を重ね視覚は共有しているから、能力が低下している俺でも意識だけは戦闘に追いつける。

 しかし、全能力値が倍増した対象を、模写体の応用で追い続けるのは難しい。

 集中力を異常に使う為、俺はこれ以上ないほどに無防備だ。


 今の俺では、低レベル冒険者の攻撃すら回避できずに、致命傷を受ける自信がある。



 錬斗は邪魔な腕を斬り砕き減らしてゆくが、数が減る度に敵の攻撃速度が上がっている。

 2人とも集中しているからか、無言の攻防が続く。

 だがその極限状態も締めくくりだ。

 受け流す剣からは激しく火花が散り、耐久度が限界だと判断する。


「錬斗! 気力も武器の耐久も限界だ! 次で決めろ! 全力で攻撃だ!」

「ああっ!」


 俺は戦況を見極め、指示を飛ばした。

 さながら、育成ゲームのトレーナーになったような気分だ。


 俺たちは限界まで高めた気力で斬撃を飛ばし、千手観音は残った4本の腕で受け止める。

 そして追撃で、体内から余すことなく気力を振り絞り突撃。

 4本の腕は大きくはじかれ、よく見るとヒビ割れて破片が飛び散っている。

 そして錬斗の突撃は胴体に大きな穴を開け、そのまま千手の背中へと通過した。


「やったか!?」

「塔也おまっ!? わざとフラグを立てるな!」


 フラグを立ててみたが、観音の腕や穴の開いた胴体からヒビが全身へ広がる。

 金色に(まばゆ)く光ったと思いきや、ガラスが割れたような音を響かせ爆散した。


「…………終わったか」

「お疲れさん。剣にヒビ入ってるぞ」

「そろそろ買い替え時か……」

「丁度良いから切り上げるか」

「そうだな」


 俺はともかく、錬斗の集中力は危険域に入りそうだ。

 リスクを冒してまで進むこともない。

 そしてクエストを終わらせ、錬斗は1130階層までの挑戦権を得て共に帰宅した。



Q:分身にも気力の上乗せをさせないの?

A:①制御しきれず、対象者の身が爆裂四散します。

  ②仮に制御できても、やや強くはなっても消耗が尋常ではないことになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!

執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ