95体目 連戦の始まり
文字を見つめて数秒後、やっと内容を告げてきた。
「……要は上の階のボスと連戦して、ボスを倒したタイミングで選択するか逃げるかしたら終了だな」
「久しぶりに普通の緊急クエストに立ち会った気がする……」
横から覗いて見ると、130階層のボスから順に倒していくクエストのようだ。
倒すと次は140階層、150階層といった具合に1匹ずつ戦う。
そしてボスを倒す毎に出る選択で挑戦をしないを選ぶか、逃亡した段階で突破階層が決まると記してある。
ようは、『早く昇りたいならこれを利用してね』ということか。
「階層は突破したいけど、俺単独じゃあ150階層ぐらいが限度か……?」
「手伝ったとしても、今のままじゃ300階層に行けるかってとこだな」
致命傷を負うリスクは考慮しなくていいだろう。
魂を砕く能力持ちボスでも居なければ、1000階層ぐらいまでなら俺が対応できる。
しかし地下ボスの情報は少ないから、即死持ちが居ないとも限らない。
「……なあ塔也。お前外に分身居るよな?」
「ああうん。今は771から780階層の魔物相手に戦闘経験積んでる」
俺は160から2000階層までの攻略をすっ飛ばしてしまった。
2週間ほど前から経験値そのものではなく、戦ったことのない魔物との戦闘経験を重ねることに決めている。
「なら丁度良いな。お前にとっては微妙な経験値だろ?」
「レベル面ではな」
心技体揃ってこそと言うが、精神力やレベルが心だとするなら体は日々の肉体鍛錬。
そして技は能力の修行やら実戦訓練だと思う。
俺は同じ魔物をひたすら倒してばかりいたから、実戦経験がまだまだ少ない。
未知のボスに挑むなら、戦闘未経験の魔物との交戦は必須だ。
錬斗が欲しいのはレベルアップの為の経験値だろう。
「でだな………………」
「……貸し5つな」
「多い! せめて3つにしてくれ」
「じゃあ、あいだを取って1つでいいよ。貸しの等倍でな」
「減って……! ないのか?」
正直なところ、貸しを相応の返しで貰うのだから数は意味を成さない。
錬斗のやりたいことは解かったので、ひとまず経験値を横流しする。
これまでは半分までしか流せなかったが、≪霊体分身≫になってからはほぼ100%渡すことも可能になった。
これによって錬斗は軽々とレベル4桁まで伸ばし、元々高かった基礎能力と合わせて600階層近くまでのボスを次々と倒す。
間を置かず連戦することもあれば、休憩で1時間休んだりもした。
ボスの中には一瞬で倒せる短期決戦向きのボスも居れば、持久戦になってしまう耐久型も居る。
最速は出てから5秒での討伐……。
そのボスは成人男性ほどの大きさのコボルドが、緑色のマントを羽織っている魔物だ。
小さな槍を持っていて、準備が整うと無限とも言える超速連撃を仕掛けてくる。
敵に攻撃を許すとヤバイからと、追撃に追撃を重ねた錬斗の26発の斬撃で仕留めたのは凄まじかった。
左右に切り裂き、屈むことで敵の攻撃を回避。
そのまま回転するように跳躍し、続けて7連撃。
縦に4回、横に4回と、敵の周りを正方形描くよに回避しながらの連撃は見事だった。
最後に、怯んだところにこれでもかと高速の斬撃を浴びせた。
そして550階層の亀ボスなどは、日を跨いでしまったほどだ。
時折使う回復を妨害せねば永遠に倒せないような硬さを持ち、逆に攻撃力はほぼ皆無。
事前情報はあったから分身を使い、本体たちは1度寝た。
最終的には一定のリズムで攻撃し続けることで、亀ボスの討伐は完全に作業と化していた……。
「さてと……。本格的にボスラッシュ2日目だ。ボス情報は昨日の内に分身で調べておいた。まだ仙人に届いてない錬斗じゃ厳しくなっていくから覚悟しておくことだ」
「ああそれな……。起きた時ステータスを調べたんだが、条件的には仙人級になってそうだぞ」
「錬斗の場合条件にある特別な能力が不足かもな……。≪第六感≫なら満たせるか?」
折角の凄い能力だというのに、錬斗の≪第六感≫はムギ関係での反応がよく伸びている。
もっと戦闘面や危険回避への感を伸ばせるのならいいのだが、俺の分身と同じで詳細に分けて強化することができないらしい。
滅多に居ないような固有能力は、細かい強化ができないことが多いのかもしれない。




