9体目 組んでた人
「分身216体っておかしなことになってるな……。虚像なら50は出せそうだし、実体の奴にも出させればってことか」
実体数の方は俺が3体出してその3体が2体ずつ。
増えた6体が1体ずつ出すのだろう。
これで計算上合計15体になる。
「出せる数はいいとして、模写体……。他人を出す感じか?」
見た目を似せるのは実体を具現化する要領だからできそうだ。
しかし模写というぐらいだから、対象を分身させるということになる。
「……マジックドレインで対象の精神を引っ張り出してそれを使えば、できそうっちゃできそうだな」
「使えるのかそれ?」
「対象の動きに合わせて実体を維持になりそうだから、めっちゃ集中力使いそう」
正直使う機会なんてないと思う。
パーティーを組むのは気疲れするだけだし、使用するのも大変そうだ。
生体となったからもしやと思ったが、やはりボスの挑戦は本体でないとダメだった。
90階層からはボスは他に比べ強いという話もある。
安全適正がレベル130の4人だ。
だがそれを大幅超える俺は、9体の分身で漆黒のドラゴンをリンチにした。
ちなみに窃盗丸は1本なら増やせたが、集中力を生体分身並みに使うから増やしていない。
意思を持つ武器というのは、強いエネルギーを持つから威力は高いが厄介なものだ。
「クエストは発生しない……。単独で倒すとっていうのはやっぱデマだったか。100階は特別だし発生しないか?」
「3日開けて挑むんだよな」
「しっかり休まないと危険だからな」
ネットに乗っている達成できそうな条件をクリアしたが、緊急クエストは発生しなかった。
数年前から常連になっているカフェで休憩中のこと……。
「ようトウヤじゃねえか。まだ30階付近うろちょろしてんのか」
「ああ……。そっちは?」
3年前まで組んでいた人が話し掛けてきた。
名前は忘れた。
「俺はこの前地下130階層に到達したぜ」
「優君早くいこーよ、こんなのと話してないでさ」
そういえばそんな名だったか。
名前が違う気もするが、まあ気にしなくていいだろう。
女性の方には見覚えがない。
見た感じ一般人。
新たに加えた仲間ではなさそうだ。
100階の神の試練とも呼ばれる≪天の試し≫は、緊急クエストよりは楽だが人それぞれに用意される。
そして達成すると、地下に昇れるようになる。
転移で見学も行けないが、四桁を超える階層が確認されているらしい。
「まあそう言うなって。塔也お前、実体が作れるようになったんだってな」
「どっから聞いたんだよそれ」
「うちの親から聞いたのさ。コスパが悪いから一瞬だけ出せて、良い盾になるんだってな! ハハハッ!」
「お陰さまで分身を捨て身特攻させて、最近は効率も上がってるよ」
コスパが悪いのは事実だ。
15体全部出すと、体力が凄い勢いで減る。
しかし思ったより上機嫌だし、なれなれしく話し掛けてくる。
した側は忘れると言うが、俺が味わった屈辱と絶望感など知らぬ存ぜぬなのだろう。
「ほー。で? 次の必要SPは?」
「…………50だよ」
「ぶっ! いや悪い悪い! やっぱオメェ、今からでも魔法職になった方がマシなんじゃねえの?」
6年も費やした分身がダメで魔法職になったところで、SPが足らず役立たずになるのを分かってて言っているのだろうか。
だがあの頃の役立たずっぷりに比べたらマシになるだろうから、本気で言っているのだと思う。
「……まあ、近いうちに魔法を本格的に覚えようとは思ってるよ」
「そりゃあそうだ! 分身に費やしたって次いつ上げられるかも分からねぇもんな!」
「優君、話終わったぁ?」
「おうそうだな。んじゃあな」
座っている俺の頭を強いチカラでがしがし撫でると、以前組んでいた人はその場を去った。
周りにいる人たちの目線が気になる。
しかし俺は、今のやり取りに興味もないから冒険者カードでネットサーフィンを再開した。




