1体目 実体
「100匹目……!」
ノルマは終わったが、レベルがまだ上がらない……。
魔物の多くは分身を見破るので通用しない。
だから俺は、分身を見破れない雑魚モンスターの討伐数を日々稼ぐ。
しかし、この日常も後少しでお終いだ。
16歳から3年間――冒険者になってから6年間。
1度使い切ってから溜め続けた魂の経験値であるSPが、目標値にもうすぐ届く。
狩っているのは魔力で感知しているとされる雑魚妖精――≪インプ≫。
1日の狩りも終盤に入り、1度に5匹もの数に囲まれた。
同レベル帯の冒険者であればやや危険だが、今となっては敵ではない。
伊達に6年も冒険者をやってはいないし、こいつらは分身に騙されてくれる。
分身で捨て身を仕掛ければ容易く大きな隙を作れる。
俺は武器として短剣、刀、細長い棍などを使うが、現在は雑魚用の短剣だ。
慣れた手つきで手早く5匹を斬り裂き、用済みの虚像でしかない分身は消す。
『レベルが1アップしました』
魂の声とも呼ばれる内からの声が頭に響き、魂のレベルが上がったことを教えてくれる。
レベルが上がったことで、基本ステータスが上昇する。
全身にチカラが漲ってくる感覚がある。
しかし日頃の鍛錬もステータスに影響が出るから侮ってはいけない。
「終わったあー!」
俺は冒険者用のスマートフォン――≪冒険者カード≫を取り出し確認する。
レベルを持たない一般成人男性の基本ステータスは10。
知力と器用さはレベルで上がらず平均は100だったか。
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トウヤ 19歳 男 レベル:53
S P:5
体 力:128(+10)
魔 力:318(+10)
筋 力:92
敏 捷:181
知 力:140
器用さ:230
能力
:分身:レベル63【増加必要SP1】
:実体具現:--【増加必要SP5】
強化
:魔力強化:レベル1【増加必要SP1】
:体力強化:レベル1【増加必要SP1】
:筋力強化:--【増加必要SP1】
・......... ↕スライド
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レベルが53というやや語呂の悪い数字になったが、大分高くなったものだと改めて思う。
前世紀の魔塔がない時代であれば、これでも別格の強さだったことだろう。
そして俺は≪実体具現≫の項目を選んだ。
能力はSPを使うだけではなく、自力で鍛え上げることも可能だ。
その鍛え上げた分身がレベル50になったその時、伝承にも残る武道家が使っていたという、実体を持つ分身能力が芽生えた。
能力というのは変わった物でもなければ、基本的にはレベル10区切りで大きく成長する。
以前俺が居たパーティーは、分身がレベル20になるまでは見守り協力もしてくれた。
しかしレベル10で覚醒したらしい伝承のようにはならず、俺は見限られてしまった。
俺に実体を作れるほどの才能がなかったということだから、そこは仕方ない。
だがそうだと理解はできても、仲間の大きく変わった態度は怒りを超え悲しくなった。
それからは人付き合いもほとんどしなくなった。
思考を能力の方に戻し、俺は≪実体具現≫のレベルアップをタップする。
確定するかを確認をされ≪はい≫を選択。
能力は実際覚えてからでないと、使い物になるかは分からない。
6年間の努力が報われるかどうかが、今決まる――!
『新たな能力の獲得に際して魂に刻み込まれます……成功しました』
肉体を青白い光が包み、まるで長い月日の修行を一瞬で済ませた感覚が巡る。
冒険者カードにも追加で記載されるが、見なくてもどこまでできるかを理解した。
しかし文字で確認したいから、確認はする。
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能力:実体具現:レベル1【増加必要SP1】
限界分身数:7体
限界距離:183メートル
限界実体数:1体
限界同時操作数:4体
限界オート操作数:1体
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「オート操作?」
分身自身に動いてもらうことが可能だということだろうか……。
「こうすればいいのか」
文字を見て感覚を確かめると、実際にできそうだと解かり生み出してみる。
限界が1体で能力のレべルも1だからか、体調が悪ければ集中力が足らず具現化できなくなりそうだ。
「……あれ? ん? ああ俺が分身か。妙な感じだな」
「自分と話すのは確かに変な気分になるな。服とか増えた武器は実力依存のハリボテか」
「数分もせず消えそう……。エネルギーが枯渇するのが実感できて余計に怖い……。その内慣れるか? 慣れないなら何度も死ぬみたいだし嫌だぞ」
「それは俺も嫌だ。消えたら経験が還元されるっぽいし、なるようになるさ」
現在は意識を共有していないが、消えた時に分身が体験したことが分かるのは理解できた。
そしてその日は実験を繰り返し、目に見えないところで分身を解除した時に嬉しいことが判明した。
「……おお! 見えないとこで倒した魔物の経験値まで入った……」
限界距離を伸ばせばかなり使えそうだ。
冒険者カードで確認すると、次のレベルに到達するまでに必要な経験値の数値が減っていた。
第1部完結済みです。
現在は再構成したものを執筆しています。
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