ヒーロー2
あの日から俺は変わった。変わってしまった。
体力測定学年1位。それどころか世界のレコードすら塗り替えかねない身体能力を手に入れた。
「おーい、そろそろ陸上部入ってくれよー!」
「馬鹿、剣道だろ!」
「ってかお前プロからもスカウト掛かってるんだろ? 良いよなー」
学校で俺を知らない奴はいないくらいの有名人となった。
「どっか部活に入る気ないの?」
「悪い、やることあるからさ」
「そんだけ能力あったら勉強なんて必要ないと思うんだけどな」
ハハハ、と笑う。
そう、俺はこの身体能力を部活やスポーツに使っていない。そんなことをしていたら俺自身の活動が出来なくなってしまうからだ。
「おーい、またギャラクシー・ガイの動画が上がってるぜ!」
「おっ、見ようぜ!」
「マジか! 見る見る!」
ギャラクシー・ガイ。現代に出現した凶悪無比な化物、『怪人』に対抗する単独ヒーロー。ニュース番組には連日報道され、SNSでも話題に上る超有名人。
某ライダー物のように仮面とスーツを纏っており、声や体格からして男性ということだけが分かっている謎のヒーロー。
『ハーッハッハッハ! そこまでだ、怪人! ギャラクシー・ガイ、参上!!』
暴れまわっている怪人に指を差し、ポーズを決めてビルの屋上からダイブする。
『ギャラクシーキーック!!』
技名まで口で言って飛び蹴りを怪人にかます。そのまま殴り殴られの戦闘状態に移行し、民衆が見ている中で大暴れを繰り広げる。
終いには渾身のボディーブローで怪人をダウンさせ、爆散させて倒す。
『正義は勝つ! ハーッハッハッハ!!』
奴は高笑いしながら去っていく。
「かーっ! 流石だぜギャラクシー・ガイ!」
「かっけぇよな! 達也!」
「おう!」
俺である。
照れくさすぎてヤバい。思わずニヤけるぐらい調子に乗っているのは分かっているが、顔に出したら不審がられるので何とか堪える。
ヒーロー。世間で俺はそう呼ばれている。
怪人が現れる度に都合よくその場に駆け付けていることからヤラセではないか、という噂もあるがそんなことはない。怪人が現れると俺の脳裏に電撃が奔ったかのように場所が分かるのだ。
ビビビ、そうこんな感じに。
「っと、そろそろ行くわ。また動画上がったら見せてくれよ!」
「おー、塾頑張れよー」
表向きは塾に行くと言ってある。大学に進学とは公私言ってあるし、実際に高校を卒業したら短大に行こうかと考えていた。
「さて!」
学校の昇降口を抜けて一気に駆け出し、愛用のバイクに乗って現場へと急ぐ。人目と通りが少なくなったところで俺は腰に変身ベルトを出現させる。
今日の現場は新百合ヶ丘か。少し遠いな。
現場に到着すると既に人死にが出ており、その中心ではカニの怪人が大きな腕を振り回して暴れていた。警察が取り囲んでいるが警棒やスタンガン、銃器では怪人を倒せない。
怪人の皮膚は鉄より硬く、炎や雷にも強い。生物的にも超常と言えるだろう。
「変身!」
ライダーベルトが光り輝き、俺の身体が光に包まれる。次に見えるのは青いボディースーツに蟲をイメージさせる仮面。武器は己の拳のみ。
このライダースーツはある程度は丈夫だし、俺の身体能力を数倍に引き上げてくれる性質を持つ。そうでもしないと怪人には手も足も出ない。
「ギャラクシー・ガイ、参上!! 覚悟しろ怪人!!」
「グガアアアアアアアアアアア!!」
怪人に理性なんてない。怪人は人を襲い、殺す。
カニの怪人は口元から勢いよく水を噴射して俺の首を跳ねようとする。間一髪でそれを躱し、水鉄砲は背後にあった壁を簡単に貫通した。
食らったらただじゃすまないだろう。奴の周囲が酷く抉れ、殺された警察官も上下真っ二つになっていることから両手の鋏でつかまれてもアウトか。
「た、退避! ここはギャラクシー・ガイに任せるんだ!
「住民の避難を最優先にしろ!」
警察の人たちも俺が到着したのを見て一斉に包囲網を解いた。遠目にはここら辺の人と思われる住民の姿もあり、中にはスマホで撮影している姿もあった。
俺とて全て守り切れるわけじゃない。怪人が何時そっちにいくかもわからない。
そして何より――俺の変身には制限時間がある。
「――行くぜ」
5分。カップラーメンもしくはウルトラなあの人が帰る間に奴を倒さなくてはならない。
ただ、5分後に変身が解けるわけではない。この5分という時間は俺の理性が保っていられる時間だ。それ以上は理性を保っていられなくなり、怪人のように暴れてしまうのだ。
奴に接近して右ストレート。左、右、左とラッシュを打ち込む。カニの装甲もあってかかなり固いな。まずは装甲を破壊しなければ!
「ふぅん!!」
殴って破壊ではなく、関節部位の切れ込みに手ぇ突っ込んで引っぺがす。装甲の一部がはじけ飛んだことを確認していったん下がる。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
ブン、ブンと致命傷を与えられそうな大爪が眼前を通り過ぎる。
腕が振り下ろされたのを見越して膝を奴の胴に突き刺す。
「せぇい!!」
「グボロ!?」
腹部の比較的柔らかい装甲が一撃のもとに破壊され、口から泡が噴出される。奴は大きくよろめき、苦しそうに息を吐いた。
「とどめだ!」
助走をつけて大きく跳躍。そのまま飛び蹴りもといライダーキックーーではなくギャラクシーキックを食らわせる。
胴を深く叩く感触が足の裏から伝わってくる。
「う、あ、グアアアアアアアア!!」
奴が断末魔と共に爆散する。
俺はいつも通り人差し指を天高く掲げたヒーローポーズを決め、素早く退散する。
警察に事情聴取とかされても面倒だからな。
俺の日常はあの日を境に大きく変化した。
この力、変身能力を手に入れてから俺は正義のヒーロー、ギャラクシー・ガイとなって悪さをする怪人を倒していた。もちろん、そのことは俺しか知らないし誰にも言っていない。
いつかはバレるかもしれない。その時は潔く観念して正体を明かそうと思う。
それにしても、と俺は思う。
何の変哲もない凡人たる俺が変身能力を手に入れたということは他の誰かもこういう能力に目覚めていてもおかしくはないはずだ。
「仲間欲しいなー」
今のところは一対一で住んでいるが、一対複数になった時は流石に負けるかもしれない。二人ならまだ何とかなるかもしれないけど、三人以上になった時は撤退も視野に入れないとな。
自宅。学校。通学路。友人。
平和な日常だ。少し前までは普通にあった光景。
起きて、学校に行って、友人とくだらないことを話して、帰宅する。そんな平和な日々を俺は守りたい。この風景を俺は壊したくない。
「授業始めるぞー、座れー」
先生が教室に入ってきて今日も授業が始まる。
退屈や暇。そう思えることは実は結構幸せなのかもしれないと最近の俺は思い始めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある場所にて。
そこは病院の地下深く。様々な実験が日夜行われている研究施設であり、表沙汰にはできないことも行われている。
「最近の彼はどうかね、斎藤先生」
「はい。試験体0号は順調に稼働中です」
「ギャラクシー・ガイ、だったかな。随分と活躍しているそうじゃないか」
「ははは、息子にもヒーロー願望があったなんて驚きですよ」
「……して、他の固体はどうかね」
「成功体2号、3号はテスト段階に入ってます。もう少ししたら表でも活動できるでしょう」
「急いでくれたまえよ。――逃げ出した1号が何をするかわからんからな」
「ええ」
秘密裡の会話が終わる。扉が閉められ、後ろを振り返る。
そこで行われているのは――。