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現代転生 ~異世界人の俺は妹を護るために現実無双します!~  作者: 紅月白夜
第一章 テロリスト編
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第六章 生徒会長 如月きさら

  『第六章 生徒会長 如月きさら』


「……しッ。隠れて、兄貴」


「隠れてって、お……お前……」


 由美は俺を部屋のロッカーの中へ押し遣ると、兄の許可も取らずにその扉を閉めてしまった。


 中は暗く、わずかに開けた通気孔より外の様子が窺える。


「中に誰かいるの? はやく鍵を開けてちょうだい」


「はい、ただいま」


 由美はさも平然さを装って、部屋のドアを開けに行く。


 この異能力者養成学校にて、男は差別の対象。


 本来「男女平等」を掲げる日本国だが、ことこの学校は違う。


 異能力の発現率をグラフにすればわかることだが、男子の異能力発現率は女子に比べて極めて低い。


 その証拠に、Fランクに在籍する生徒のうち、その約九割九分が男性なのだ。


 Fランク唯一の例外を除いて女子はおらず、全員Sランクで占められる生徒会役員のいずれもが、女子のみで構成されている。


 この事実を知った時、俺はFランククラスに配属された時以上の衝撃を受けた。


 なぜならば、これは明らかに「女尊男卑」――差別を助長しかねない根拠に他ならないからだ。


 ガチャリ……とドアが開けられ、廊下から紺青髪の生徒会長が現れた。


「どうして扉なんて閉めていたのかしら?」


 そうした彼女の質問に我が妹は、


「少し、スカートの裾を直していまして。恥ずかしいので、わずかな時間ながら扉に鍵を……」


 妹がさも恭しそうにそう言うと、生徒会長の如月きさらぎきさらはまるで興味なさそうに空返事をかえす。


「そう」


 その一言により安心したのか、この部屋に男がいることを知られずに済んだとほっと胸を撫で下ろす由美の姿が確認できた。


「では、そこにいる方は誰なのです?」


 けれどもその安心も束の間。


 生徒会長はビシッとまっすぐにこちらを指さし、この部屋三人目の存在を的確に示して見せた。


「バレていましたか……」


「バレバレよ。それに、あなたたちの声が廊下まで聞こえていたわ。少しだけですけれど」


「生徒会長には敵いませんね……」


 とほほ……と、しょんぼりする妹の横を素通りし、生徒会長・如月きさらは何の躊躇いも無く俺のいるロッカーを開け放った。


「あら。これは驚き」


 ばっちりと目と目が合ってしまう俺たち。


 俺はしぶしぶといった調子でロッカーから一歩踏み出すと、きさらの高身長に目を遣った。


 俺よりもわずかに小さいが、女子にしてはかなり高いほうに入るだろう。


 そのディープブルーの髪色もさることながら、エジプトの女神が身に付けているような蛇の耳飾りも美しい。


 可愛いと誇称するよりは綺麗。


 皺一つ無い清潔さが際立つ制服と合わさり、見事に凛然とした立ち姿をここに完成させている。


「やるわね、由美。まさか男を連れ込んでいるなんて」


(お……男の子……!? きゃああああっ! 待ちに待った男の子との会話シチュエーションよ! 身だしなみは大丈夫かしら? 声のトーンは? ちゃんと上履きも綺麗にしてあったかしら? それにちゃんと受け答えできるかしら? ああ……わたくし心配ですわ。何を隠そう、男の子と会話するのは一週間ぶりのことなのですから……!)


 生徒会長がすぐ目の前にまで来たからだろうか。


 この能力の有効射程に入ったのか、急に相手の心の声が聴こえるようになった俺。


 というか、実際に発している言葉と内面の心情とのギャップが凄過ぎないか、この人。


「そ……そんな……! その人はわたしの兄です! わたしをふしだらな女扱いしないでください、きさら先輩!」


「ふんっ……どうだか。まあ、兄というのならば挨拶してあげないこともないでしょう。下賤なオス相手とはいえ、礼儀は必要でしょう。ほら、足でも舐める?」


(ふひひひひひ。お……男の人ってあれよね? 誰でもあれが付いているのよね? わたくしには付いていない、あれが!)


「生徒会長。由美がいつもお世話になっております。由美の兄の東條カイトと申します」


「Fランクが気安くしゃべり掛けないでちょうだい。汚らわしい!」


(今わたくし、おち○ちんと話してしまいましたわ! 間違えました! おち○ちんが付いた男性と話してしまいましたわ!)


 ……おいっ!


 さすがにこれはツッコむぞ!


 生徒会長の内心やっべっぞ!


 なんだこの変態は。


「兄をそんな風に呼ばないでください! 仮にも兄はここの生徒。この異能力者学校にいる限り、誰もが能力という可能性を秘めているのです! たとえ生徒会長相手だとしても、兄を侮辱することはこの東條由美が許しません!」


「あら? あらあらあら。ずいぶんとこの下等生物のことを庇うのね。言葉を返すようだけど、能力を使えない時点で無駄。この学校にいる意味が無いのよ」


(はぁあああああ。わたくし……わたくし孕んじゃいますわ! 男性のお傍にいるだけで、わたくし子どもを妊娠しちゃいそうですわ……!)


「いや、しねえよ!」


 ついつい口を使ってツッコんでしまう俺。


 すると、目を丸くした生徒会長と視線が合ってしまう。


 ……やばい、気づかれたか……!?


 俺が読心系能力者だということに……!


 「ないない」といった感じで生徒会長が片手を振る。


「ふう……っ。ともかくあなた、わたくしの足を舐めるつもりがないのならば早くこの場から立ち去りなさい。あなたの臭い匂いを嗅いでいると、まるで家畜小屋にでも来たみたいで不快ですわ」


(頭がくらくらしてきましたわ……。これがつわり《・・・》というものなのですわね……。ああ、わたくし、出会って五秒で即妊娠してしまいましたわ……!)


「だからしねえって!」


 やはりついつい、堪え切れずにきさらの心の声にツッコミを入れてしまう俺。


 目と目が逢う瞬間。


 瞬く間にして二度目の瞳の邂逅が為されるも、すぐさま「ないない」といった具合に生徒会長が片手を振る。


「さっきから兄貴の会話、全然噛み合ってないけど……」


 さもあらん。


 俺は生徒会長の心の声と会話しているのだ。


 毒舌系お嬢様――そして南条が言うところのトップ・オブ・トップその人との会話に付き合っているわけではない。


「お前にもいつかわかる時がくるさ」


 俺はあたかも意味深な発言をして、お茶を濁した。


「それにしても、まさかあなたにこんなみすぼらしい兄がいたなんてね。最強の時間操作系能力者の兄が、あろうことかFランクだとは。運命って残酷ね」


(あぁぁぁあああああ……っ! つまり! つまり、Fランクおち○ちんってわけですわね……! Fランクの男根に屈するSランクのわたくし……ふふふっ、悪くないですわね)


 いやはや。


 きさら先輩の心の声も暴走が止まらないが、実際に発した彼女の言葉もまた正しい。


 由美の能力は「時間を操る能力」。


 最強だ。


 生徒会長が言うとおり、時間を操ることができる能力者なんていうものは、レア中のレア。


 この世界中を探したって、片手で数えるほどしかいないだろう。


 九〇億分の中から選ばれし、対人系絶対無敵の能力。


 それが俺の妹――由美の能力だ。


 由美はその能力を使うことで、ある秘密を周りの人間に隠しているわけだが、俺はその秘密の存在があまりにも居た堪れないから、いつもは口にしない。


 まさに、高リスク高リターン。


 最強の能力を持っている代わりに、由美は自分の人生においてもっとも大事なものの一つを失った。


 今は明かせない。


 けれどもいつかそれを明らかにする時がくるだろう。


 俺は如月きさら先輩に、言葉を発った。


「残酷っていうのとは、ちょっと違いますかね。俺は、なにも自分の人生に絶望しちゃいませんから」


「あら、言うじゃない。Fランクのくせに」


(Fランクおち○ちん……Fランクおち○ちん……Fランクおち○ちん……)


 ――おい、誰かこの変態生徒会長を止めてくれ。


 まるでこの学園の頂点の発言とは思えない。


「まあでも、俺は妹が幸せならばそれで構いません。由美とはここで、少し内緒話をしていたに過ぎません。俺たち兄妹の、今後の方針をちょっとね」


「ま、わたくしにはどうでもいいことですわ。では、用が済んだのならさっさと出て行ってちょうだい。あなたの臭い息を嗅いでいると、鬱になってしまいそうですから」


(ああんっ。わたくしのばかばかばかっ。どうして素直になれないのかしら。もっと男の子とおしゃべりしていたいのにっ。きさらのばかっ)


 心の声のまましゃべってくれたら、俺としては嬉しいんだがなあ……、とは言わず、俺はきさら先輩に言われたとおり、用も済んだため生徒会室を出て行くことにした。


 何はともあれ現代での妹も、そのあり余る才能のおかげでうまくやっているみたいで兄としては安心した。


 末席である書記の妹、生徒会長の他に副会長と会計の二人が生徒会に在籍していると聞き及んでいるが、おそらく由美なら誰とでも付き合えるだろう。


 これ以上生徒会の仕事を邪魔してしまっても悪い。


 早いところ退散するとしようか。


「兄貴、しっかりね」


 ツンデレ妹が慰めてくれたおかげもあって、俺の落ち込んでいた気分もすっかり元気になった。


 俺は生徒会室の扉を開けようとして、ドアノブに手を掛けた、その時――


「きゃあああああああああああああああああ」


 女の子の叫び声とともに、銃声が聞こえた。


 俺はすぐさまその場で振り返り、きさら先輩と由美と目と目を合わせ、何が起きたのかを確認することにした。

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