第二十三章 朝のミーティング
『第二十三章 朝のミーティング』
「お……おはようございます」
「おはよう、東條くん。早速だけど、体育祭の準備について説明させていただきますわ」
朝一番、生徒会室に連行された俺はそこで、如月先輩と由美に出会った。
どうやら昨日の怒りはようやく収まった様子で、俺は一安心した。
「まず、生徒の取り締まり。これは言わずもがな、風紀を守るためにあるわ。もし問題を起こしたり校内で騒いだりしている生徒がいたりした場合、速やかに腕章を見せてその人たちを取り締まって頂戴」
生徒会長は俺の左腕に身に付けられた腕章に目配せした。
生徒会に所属していることを示す腕章とはすなわち、先生方から直せつ《・・》制裁の許可を頂いたということ。
つまりは、生徒の立場に立ちながら生徒を取り締まる権利を与えられている証明でもあるのだ。
俺たちはこれからこの腕章とともに事件が起きたら現場に急行し、ただちに問題を解決しなければならない。
「次に現場監督。体育祭の準備期間は約三週間。その間、生徒たちがおこなう体育の授業は体育祭でおこなう種目の練習に宛てられるわ。騎馬戦や球技、マラソン系の種目は全部異能力を使ったもの。くれぐれも油断しないでね」
――そう、この学校の体育祭はひと味違う。
なぜならそれは、異能力種目を扱うからだ。
通常の騎馬戦も異能力が加われば、その様相はがらりと変わる。
個人こじんによって異なる能力を披露するわけだから、たとえ俺以外の生徒会メンバー全員がSランク能力者だとしても、対処は困難なものとなろう。
たとえばこれから三週間後におこなわれる体育祭にて、「火を操る能力」により現場のタープテントが出火した際、氷堂先輩の「氷結系能力」なら問題は簡単に解決できるかもしれない。
けれどもそれが同時に起きでもしたら?
色々な異能力が飛び交うグラウンドの戦場の中で、火のみならず水や雷といった自然系能力が複数起きたら?
そうした場合は、たとえ氷堂先輩ひとりのちからだけではとても間に合わないだろう。
「まっ、そのためにあなたを喚んだわけだけれど」
生徒会長は俺への説明で忙しいのか、珍しく俺への罵倒はせずに言葉を紡いだ。
「尽力させていただきます」
もしかしたらこの体育祭は、この学校にいる生徒たちの能力を見る点において、非常に好都合なイベントなのかもしれない。
俺は隙あらばこの学校にいる生徒全員の能力を奪うつもりでいるし、もしまた今後由美を襲うような連中がいたら、即刻退治してやらねばなるまい。
そのためにはありとあらゆる能力を知り、この身に吸収していかなければ。
とりあえずはまず、この生徒会メンバーの能力から、欲しいところだ。
「そして最後に、犯罪行為の防止。つい先日もあったように、いつまたこの異能力養成学校がああいったテロリスト集団に狙われるかわからない。能力者狩りは少しずつその数を減らしてきているとはいえ、四悪などの犯罪者がいないわけではありませんものね。重々注意して、もし異常があればすぐに報せなさい。いいですね?」
「了解です」
説明が終わると、俺は生徒会長から小型のインカムを渡された。
これを付けて生徒会メンバーが相互やりとりすることで、問題を共有し、すぐに現場に駆けつけられるようになる。
「それとこちらを」
「これは?」
腕章、インカムと続いて生徒会から支給された物は、かなり物騒な代物だった。
「見ての通り手錠です。そんなこともわからないのですか、あなたは?」
「……ははは」
やっと罵倒された。
なんだか生徒会長が罵倒しないことで据わりが悪かったのだが、ようやく落ち着いた。
……いや、落ち着いちゃだめなのか。
「緊急時に使用してくださいな。もし生徒が暴れているようでしたら、使っても構いませんわ。わたくしたちは、そのためにいるのですから」
「わかりました」
「それと……」
「はい?」
「あなたは相手の能力を奪うことができるのでしたね?」
「ああ……はい」
如月先輩は、今さらになって俺に確認するかのように尋いてきた。
「わたくしの能力も、あなたに差し上げておきますわ」
「えっ、いいんですか?」
俺は彼女のほうから自分の能力をくれると言ってくれたことで、少なからず嬉しさを感じていた。
それと同時に、生徒会長の能力について色々と想像を膨らませていた俺は、ついにその能力を知る機会に恵まれたことをも喜ぶ。
いったい、どんな能力者なんだ。
「とはいえ、わたくしの能力はとても地味なものです」
「地味?」
「ええ。生粋の地味能力と言えるでしょう。まあ、これから使ってみれば自ずから判ずるでしょう」
「はあ」
地味と言うが、生徒会長とはすなわち学校におけるトップの実力者。
由美の「時間を操る能力」以上のものであると考えると、興奮しないわけがなかった。
「強さとは知恵に比例すると思いませんか?」
「え?」
「また知恵とは、時に力すら凌駕し得る。……そんな、能力ですわ」
「…………」
まだ彼女の能力、その正体を知らない俺には生徒会長の言う言葉の意味はわかりかねる。
でもそのうち、その意味がわかる時がくるだろう。
俺はほんの少しだけ頭を垂れた生徒会長の頭に手を起き、この学校トップの人間からその異能力を吸収した。
自分の身体の中にちからが漲ってくるかのようで、俺はさらに進化した。
「それでは、朝のパトロールへと参りましょうか」
生徒会室でのミーティングが終了するとともに、俺にちからを分けてくれた如月先輩は部屋を出ると同時に言った。
「きっとその能力が、これからの役に立つこと間違いなしですわよ」
ぱちんっ、とウインクをした先輩が、とても可愛く思えた。




