第十八章 氷のトラップ
『第十八章 氷のトラップ』
「あなたの能力はたしかに強力無比です。けれども、わたしはあなたの妹と同じ、生徒会に入っているのです」
俺が時を動かした理由。
それはひとえにもっと氷堂先輩の能力の能力を知りたくなったからだ。
「はっ」
脈動する時間の中で、氷堂先輩が俺に向けて手を伸ばす。
すると、さっきまでじわじわと足元から這い寄ってきていた氷が、すさまじいスピードで腰のほうへと迫ってくる。
「今わたしは、瞬時にトラップをいくつも設けさせていただきました。この戦場では、歩くことすらままならない」
腰まで凍り漬けにされた俺は、もう一歩たりとも動くことができなかった。
能力の展開速度といい、時間系能力者に対してトラップを仕掛けるという思考といい、一筋縄ではいかないようだ。
「あとはこの氷の槍で、あなたを貫いて終わりです」
さらに氷堂先輩は、俺に向けた手とは反対の手元より冷気を表出させると、自分の背丈ほどもある氷槍を創り上げた。
氷の槍は先端が三つに分かれており、たとえ氷といえどもその鋭さに貫かれようものなら、ただでは済まないことは明白だった。
「これでわたしの勝ちです。帰ってゆっくりとティータイムといたしましょう」
ダッ、と勢い良く槍の先端を掲げながら突っ込んでくる先輩。
「氷堂先輩、その台詞は負けフラグですよ」
氷の手はすでに俺の胸まで迫り上がって、その冷気によって呼吸までしづらくなるほどだった。
けれども時間系能力の一つの利点として、対象に手で触れていれば効力を発動できるという特徴がある。
「――なっ」
俺は目の前で突進してくる副会長を前に、自分の能力を発動した。
物体の時間を逆行させる使い方だ。
バシャアッ、と水しぶきが踊り、氷は自分が固まる前の状態へと変質した。
本来あるべきかたちへと戻ったというべきか。
空気中の水蒸気から水を創り出し、それを瞬時に氷へと変える――おそらくだが、それが氷堂みなみの「氷結系能力」だろう。
俺は水同士が一つの氷として集まる性質すら捻じ曲げて、現象を過去へと戻した。
「ですが、それも読めています!」
「――なに?」
今度は俺が驚く番だった。
俺は今はっきりと、氷が水へと変わる様子を目にしていた。
だが次の瞬間、俺が凍りの呪縛から解き放たれて動き始めるのを待っていたかのように、床から一斉に氷の山が襲い掛かってきたのだ。
これにはまだ余裕があった俺も、瞬時に次の能力を使わざるを得ない。
――キュィイイイン。
時を止める。
俺はそう念じて自身の能力を使った。
けれどもびっくりすることに、俺に向けて伸びてきていた鋭い氷の塊は、その動きを止めることなく敵のほうへとまっすぐと進んでいる。
「ぐ……ッ!?」
――どういうことだ!?
先ほど受けた足元のトラップの時もそうだったが、どうして俺の能力内にいるにもかかわらず、この氷は動きを止めようとしないんだ?
さらに驚くべきことには、俺の動きがここにきてもまた読まれていたということだ。
俺は自分目掛けて床から向かってきていた六本の氷山をかろうじて避けたが、その外へ転がりながら手を付いた瞬間、またしても床に氷のトラップが仕掛けられていた。
まるで詰め将棋。
自分は「王」一駒しか持たされていないのに、相手は自分の手駒を複数持っているかのような感覚。
どこへ逃げても追ってくる。
どこへ避けても避け切れない。
それがたとえ、時が止まった世界の中だとしてもだ。
「――あがッ」
俺はサークル状に並んだ六つの氷山の脇に転がり込むように外へ逃げたが、手を突いた体育館の床は信じられないくらい冷たかった。
氷を溶かす炎さえあれば楽勝なんだろうが……。
とは考えるものの、あいにく俺はまだ「炎熱系能力」をスナッチしていない。
そういう意味でも、ありとあらゆる人間から能力を奪い、自分のものにしていくべきなのだ。
「まずは氷堂先輩の能力を奪わせてもらう」
俺の能力なら、最悪相手が自分の能力を行使できなくなるくらいまでその力を吸収することができるだろう。
そういった自分の能力に対する特性を俺は感じることができるし、実際そのとおりのことができるだろう。
だがしかし、再び身体が凍りついた今の状態では到底無理そうだ。
相手から離れることが一番の対策のようにも思えるが、きっと氷堂先輩は自分の周りにも見えない氷のトラップを張り巡らせているに違いない。
「認めるぜ。その能力」
こうしてピンチに追い込まれているというのに、どうしてか心はこれ以上なくわくわくしていた。
たぶんだが、これまで何の異能力も持たなかった俺は、これから他人が持っているありとあらゆる能力を使える自分の可能性に喜びを覚えているんだと思う。
――だってそうだろう?
今までFランクと否定され続けていた人間が、いきなり最強の「時間系能力」を使えるようになった。
同じようにSランクの「氷結系能力」を俺も使えるようになったら、俺はもっと人から強さを認めてもらえる。
そうした状況、そうした環境が嬉しいんだ。
今度は手元から凍り漬けにされて痛みだって覚えるのに、俺はどうしてか興奮して笑みを抑えることができなかった。
――俺はもっと強くなれる! なってみせる!
最強を目指す!
誰にも負けない強さを!




