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第十三章 あくまで治療行為です

  『第十三章 あくまで治療行為です』


 由美は毎日、自分の病気の進行を遅らせるため、全身に「時間を操る能力」を掛けていくと言う。


 なるほどそういう使い方もあるのかと納得したのがつい一年ほど前。


 由美がこの病気に罹った時のこと。


 まさか俺がその治療に当たる日がくるとは思わなかった。


「じゃ……じゃあいくぞ……?」


「う、……うん。や……やさしくね……?」


(あわわわわわ……ユミルは恥ずかしさでどうにかなっちゃいそうですぅーっ)


 治療行為なら仕方ない。


 自分にそう言い聞かせながら、俺はまず由美の肩に触れていった。


 肌に触れると、由美の身体はわずかに熱を伴っていた。


 女の子の身体はこうも柔らかいのか。


 すべすべとしたなめらかさを具える肌は、ともすれば俺の指すら弾いてしまいそうだ。


 小さな肩を撫でつつ、俺は自身の能力を発動した。


「――はあッ」


 すると龍のような紋様が放つ光が、だんだんとその輝きを弱めていく。


 俺が「時間を操る能力」を使い、由美の症状が発症する以前の状態に戻したのだ。


 しかしいかんせん、どういうわけか俺の力をもってしても”由美が”病気に罹る以前の状態“には戻せない。


 ――この病気は何か強い力を秘めている。


 そう感じたのは、この時が初めてのことだ。


「ふ……ぅ」


(おにいさま、くすぐったいです……)


 肩から背中にかけて、俺は由美の身体に自分の能力を使っていった。


 さながら塗り薬を塗るかのように。


 俺はこれ以上由美の病気が悪くならないよう、異能力によって症状を食い止める。


 背中には龍のかおとも言うべきひときわ大きな印が浮かび上がっており、それは一つの芸術とも呼べるだろう。


 とはいえ、この模様は病気によるもの。


 おしゃれやファッションと呼称するには、いささか自分を犠牲にし過ぎる。


 俺は由美のピンク色のブラジャーに触れないよう、優しく身体を撫でていく。


「あの……もしかしてここもするのか?」


「あ、当たり前でしょっ! もしもあんたが手を抜いたせいで私の病気が進行したりでもしたらどうしてくれるの?」


(そ……そこはだめですぅー! たとえおにいさまといえども、まだユミルは心の準備が……!)


 おいおい、由美とユミル、どっちの言葉を信じればいいんだ?


 ともかく俺は、肩から背中、お尻へと続いていく青白い軌跡を辿りながら、着々と由美の身体を治療していく。


「あううううぅ……」


(ついに……ついに私の大事な場所におにいさまのお手がぁ……!)


「由美、恥ずかしいならやめるが」


「だから大丈夫だって! 続けなさい!」


(ユミルはもう限界ですぅ……っ)


「だがしかし……」


 ぷりんっとしたお尻に差し掛かる手前で、俺はさすがに手が止まった。


 ブラと同じく桃色の下着はつるつるとした素材でできており、そんなパンツを穿いた妹が俺に身体を許しているという事実に、そこはかとなく罪の香りを感じた。


 そうこうしていると、いきなり由美が俺の右手を掴み、強引に自分のお尻に手を向かわせた。


「べつにこれは治療の一環なんだから、変に恥ずかしがらないでよ! わ……私のほうが変な気分になるでしょーが!」


(やってしまいました……! ユミルったら、なんて大胆なんでしょうっ!)


 いったいどこまで許してくれるのか。


 由美はいったい、こんな駄目な俺に対して、自分の身体をどこまで開示してくれるのだろうか。


 今の下着姿といい、普通の兄妹でもそうそう相手にこんな恥ずかしい姿にはならないはずだ。


 でも由美が「治療」という言葉を使ったことで、俺にも決心がついた。


「わかった。由美の病気を治すため、治療することにするよ」


 俺は手を滑らせていき、背中から桃色のお尻へと手を伸ばした。


「…………っ」


(……っ……っ……っ)


 由美のお尻を撫でていくと、そうでないことは重々承知しているというのに背徳感が芽生えていく。


 かくいう妹はお尻を触られた途端、ものすごい量の汗を流し始めた。


 由美が緊張しいで汗っかきなのは知っているが、こうも急激に変化が表れると心配になるものだ。


 お尻とはいえ、俺は下着の三角ラインに触れないよう気遣った。


 あくまで紋様が走っている箇所のみに触れていく。


 これも由美のため……これも由美のため……と、必死に何度も言い聞かせて。


「あ……っ、うぅ……ぅっ……」


(もうだめですぅーっ! 恥ずかしさでユミル、汗が止まりませんーっ!)


 由美はどうにか漏れ出そうになる声音を抑え、ユミルは自分の状態をこれでもかと主張していた。


 実際、由美のお尻は発汗し、熱を生み出しながら俺の手へと伝わってゆく。


 あっという間に手はびしょびしょとなり、まるで水浴びでもしたかのようだ。


 由美の名誉のために言わないでおくが、おもらししたと言われても信じてしまいそうなほどである。


 妹の体液に触れつつ、俺はぼんやりと光り輝いていた軌跡を手でなぞる。


 すると俺の能力に呼応して、由美の身体のきずも癒えてゆく。


 そのまま細い脚のほうまで向かっていくと、もうほとんど由美の肌は元に戻っていた。


「これでいいか、由美?」


「え、ええ。あ……ありがとう、兄貴。こんなことに付き合ってくれて」


(はうううぅ……っ。おにいさまの手を、ユミルの汗で汚してしまいましたぁーっ)


 俺は反射的にごしごしと自分の服で由美の汗を拭ったが、どうやら由美にとってはご機嫌ななめになるような仕草だったらしい。


 すぐに制服を着た由美に、キッ、と睨まれてしまった。


「……もうっ! とりあえず、明日もお願いね」


(厚かましいでしょうか……)


「明日も!?」


 まさか今したこの行為を明日以降もおこなえと言うのか。


「当たり前でしょ! 一日もすれば、龍の痣はまた光を帯びてくる。そうなれば、血液の中の白血球もその光に反応して、硬直が始まっちゃうのよ。兄貴も知ってるでしょ!?」


(ユミルはこういう言い方しかできない自分を恥じますぅー)


 たしかに、由美はこんな大変なことを毎日一人でやってきたんだよな。


 特に背中なんかは、鏡を見ながらでも手が届きにくい場所だ。


 いつも相当な時間が掛かってしまっているに違いない。


 そう思うと、俺はいつも由美が健康でいて欲しいこともあって、そのお願いに頷いて見せた。


「わかったよ。一人じゃ何かとつらいもんな。俺も明日から、由美の治療を手伝わせてもらうよ」


「……ふ、ふんっ。……あ、ありがとねっ」


(おにいさまに負担をお掛けしてしまい、申し訳ございません……!)


 そうして、妹は自分が持ってきたカレーの容器や食器類などを持って、自分の部屋へと帰って行った。


 できることはこんなことしかないが、どうやらようやく、妹に恩返しできる時がやってきたみたいだな。


 俺は前々世を振り返ると、妹の病気が治る日を夢見て、天井を仰いだ。


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